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リアクション
最終章
ジャングルの中で迷子になったセシリアは、木の実を採ろうと高い木にのぼっていた。
「んしょ……んしょ……んしょ……」
と、そのときトツゼン。
「We can fly !!!」
が、服が枝にひっかかってジャンプ回避!
「お、お、おおおーーー。なんじゃー。なんなんじゃー」
改めて木の実を採ろうとがんばった。
「むむ。服がひっかかって……ほっ。これでよしじゃ。んしょ……んしょ……んしょ……」
ずざざざーーーーー。どてん。
ふつうに落ちた。
「なんじゃー!!!」
ジャングルの迷子は、セシリアの他にもいっぱいいた。
真っ暗な夜中のジャングルで、あきらめて仮眠を取る者もいれば、歩いて余計に迷ってる者もいた。
英希も、ヴィナと梓とわんこしいなも、そしてミズノオールスターズも、ダブルエメも、トコロテンになって彷徨っていた唯乃ンカポカも、みんな迷子だった。
ファタ・オルガナもまた、魅世瑠とはぐれて迷子になっていた。
魅世瑠はサバイバル慣れしているので迷うようなミスはしなかったが、だからといってファタの世話を焼くほどの余裕はなかったのだ。
真夜中の見知らぬ島で見知らぬ生物に襲われれば、誰だって自分のことで精一杯になるだろう。
魅世瑠は今、人間と同じくらいの高さまで成長した人食い花のラゴラゴトンマから必死に逃げていた。
「はあはあ。まさか、ラゴラゴトンマがいるなんて……!」
なんとか逃げ切ると、トツゼン――
「きーらきーら。ぐーるぐーる。きーらきーら。ぐーるぐーる」
木にぶら下がって、人間ミラーボールとなってしまった。
ミラーボールに照らされたところにはファタの姿があった。
「むむ? こんなところにミラーボールとは。ここはディスコか?」
目の前では、見たことのない植物がゆらゆらと揺れている。
「これはもしや……ダンシングフラワーじゃな。よーし。わしも一緒に踊っちゃおう」
ファタはこの植物と一緒に踊り出した。
そう。ラゴラゴトンマと。
「ひゃっひゃっひゃ。このフラワー、馴れ馴れしいのう。わしの肩に手を回してくるとは」
そして、ラゴラゴトンマはファタを食わんと花びらを思いっ切り広げ……
食われる!
瞬間、魅世瑠の奇行が終わって、叫んだ。
「バカアホ離れろ気をつけろー! そいつは人食い植物だーーーっ!!!」
「なんじゃって? ……こらあああ!!」
ボッフォオオオオオオオ!!!!
ファタは間一髪、というかほとんど食われながらファイアストームをぶちかました。
「ぶわっかもーーーんっ! わしを食べちゃだめじゃーーーーっ!!!」
ラゴラゴトンマはとっくに燃え尽きていたが、ファタの興奮はさめなかった。
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「バカアホやめろー! 山火事おこすつもりかよー!!!」
魅世瑠は慌てて忠告するが、
「ひゃーっはっはっは!!!」
いっぱい燃えるのが楽しくて、ファタは体力を使い切るまで事の重大さに気がつかなかった。
「はあはあはあ……疲れたのじゃ。ん? あれれ。か、火事じゃああああ!」
しかし、疲れてへろへろで逃げることもできない。
「ったく。冗談じゃねえぞ。この借りはしっかり返してもらうからな」
魅世瑠はファタを担ぐと、風を読みながら炎を避けて逃げた。
「すまんのう。ひゃひゃひゃ……」
まったく世話の焼ける人だ。
魅世瑠は炎の中に別の人影を見たような気もしたが、これ以上助ける余裕はなく、あきらめた。
その人影は、ニコと陽だった。
ニコは、悪魔召喚の儀式に必要な炎と生け贄をあえて用意しなかったのだが……そこは今、炎に包まれていた。
そして……サークルの真ん中に、ボタッ。
逃げ遅れたパラフクロウが丸焦げになって落ちた。
「!」
条件が、揃った。
そのときイキ・ド・マリーの中では、ようやくソークー1が目を醒まして、コトノハも合流していた。
そして、みんなで『山の向こう』という表札の扉をあけようとして、手をかけた。
瞬間――
表札の『山の向こう』という文字が消えた。
波音が気がついて、みんなを止めた。
「なんか、おかしいよ……」
扉の向こうから何かが聞こえてくる。
凄まじい風。そして炎の音。
表札にぼんやりと文字が浮かび上がってきた。
「そ、そんな……おいおい、冗談だろ?」
デゼルが思わずツッコミを入れた文字は……『魔界』だった。
ドバーン!
勝手に扉があいて、みんなは吹っ飛んだ。
異様な風が一気に入ってきて、洞窟から出て行った。
「……な、なんなんだ?」
その頃、悪魔召喚儀式のそばには、記憶喪失のリカインが立っていた。
異常な程に体が小刻みに揺れ、周囲の空気が渦を巻いていた。
岩も木も、ぐるぐると彼女のまわりを回旋し、リカインはその中で声にならない声を叫んでいた。
「グオワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
目が充血し、口は顔のほとんどを占めるほど縦に大きくのびて、風という風を吸い込んでいた。
その恐ろしい姿を、ニコと陽が何もできずに震えて見ていた。
やがて風がおさまり、リカインは2人を見てにたーっと意味深げな笑みを浮かべた。
「オ……レ……ハ……リカ……イン」
リカインが悪魔にのりうつられてしまった。
「ジゴクイキ……ダ……ヨ……」
そして、洞窟の表札は『魔界』から『地獄』に変わった。
ログハウスでは、留美が何度も外を見ていた。
沙幸が朝になっても帰ってこなかったら助けに行くことになっているからだ。
「なかなか夜が明けませんわね……」
弥十郎や料理を待っている子分たちも、お腹を空かして夜が明けるのを待っていた。
ナオランナを回し飲みした面々も、真っ暗なジャングルの中で夜明けを待っていた。
山の向こうでは、ケイと野武が飛空艇に乗って森を抜けていた。
追っ手をまいたことを確認して上空に出ると、ケイは東の空を見て首を傾げた。
「なあ。あんた科学者なんだろ。だったらこの疑問、解けるよな」
「ぬぉわははは。なんでも訊くがいい」
「あのよお、さっきから何度も見てたんだよ。明るくなる前に逃げ切ろうと思ってたからな。だから、絶対見間違いなんかじゃねえんだよ」
「何のことだ」
「あのな……笑うなよ?」
「早く言え」
ケイは大きく息を吐くと、冷たい声で言った。
「いったんのぼりかけた太陽が、また沈んじまった」
「ぬぉわにい……?」
野武は絶句した。
そしてトツゼン――
「空を見ろ!」
空は真っ黒な「夜」が覆っていた。
それは山頂でも同じことだ。
「太陽がのぼらないなんて……」
ザカコと大地も、東の空に沈んだ太陽を見て唖然としていた。
そこに、パラワシがヴァーナーを掴んで湧き続ける溶岩の上を飛んできた。
「た、たすけてくださ〜い。下ろして〜」
ヴァーナーは溶岩を見下ろした。
「わあああ。今のなし〜。やっぱり下ろさないで〜!!」
ザカコと大地に為す術はなく、ただ見守ることしかできなかった。
そして、ヴァーナーは溶岩の中心の小さなとび地の巣に下ろされた。
「たすけて〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ナオランナを抱きしめながら、泣き叫んでいた。
ロウンチ川には、迷子のミズノオールスターズがたくさん集まっていた。
『何も考えないで温泉なんて入るからこうなるんだよな。バカだなー』
くろいだだ漏れは、相変わらずだった。
ログハウスでは、陽太が必死に通信機器の配線をいじっていた。
そこに、ブルー・エンジェル号の操舵室で奇跡の配線修理を指示したあかり隊員がやってきた。
「やっぱりキャンプに無線は付きものだよねぇ。前にも言ったけどぉ、その赤い配線を緑に、緑の配線を赤にした方がいいよ思うなぁ」
「本当ですか? でも、昨日は確かにそれで直りましたよね……」
陽太は試しに配線を入れ替えてみた。
すると、トュルルルルルル……
『こちら蒼空学園、用務員室です』
混線というのか、とにかく不思議なことに電話につながった。
「も、もしもし! 夜遅くにすみません!」
『夜……遅く? こちらは朝の9時ですが……』
世間はもうとっくに朝を迎えていた。
『もしかして……白馬の王子様ですか?』
「ち、違います!! そ、そちらはもしや……トメさんですか!?」
『はい』
「あ、あのですね。えーっと船が沈没しまして、今ロドペンサ島というところに漂着して、それで、えっととにかく大変な目に遭ってまして救助と応援をお願いしたいんですが――」
ピーギガガガガガ。
「もしもし? もしもし!!!」
ピーギガガガガガ。
今度はFAX受信の音が聞こえて、取り憑かれたように白菊珂慧がスケッチを始めた。
そして出来た絵に、みんなが絶句した。
悪魔となったリカインが陽とニコを食い散らす凄惨でまっくろな様子が描かれていた。
そして、どこからともなく声が聞こえた。
『オマエラニ、アサハコナイ……ジゴクイキ……』
ジャングルでリカインがにたにたと笑っていた。
そのとき、浅葱翡翠はトツゼン――
「夜明けの珈琲、どど……夜明けの……よ、よ、よあ……んぱーんぱー」
夜が明けないため、奇行中の脳みそがトコロテンになってしまった。
ログハウスにいたみんなも、ようやく事態を把握しつつあった。朝が来ないという不思議現象が起きているということを。
留美がハッとして立ち上がった。
「さ、沙幸さん!!!」
沙幸は真っ暗な部屋で、両手両足を縛られて天井から吊されていた。
「や、やめて……!」
ユウは、沙幸のお尻のすぐ後ろにいた。異常に姿勢良くイスに座っていた。
そして、ゆっくりやさしく囁いた。
「ノートはどこ?」
「だから何度も言わせないで。ノートは海! 船と一緒に沈んだの!」
「みなさんのところに帰りたくないのですか?」
「……わ、私が無事に帰らないと、留美がンカポカに言うことになってるんだからね! ホントなんだからね!」
「……ノートはどこ?」
「ほんと、しつこいなあ……もう!」
あれからずーーーっと、それだけを訊かれていたのだ。
「何度も同じこと訊かないでよ!」
「仕方ないですね。拷問はあまり好きではないのですが――」
溜め息をひとつついて、立ち上がった。
「得意です。お楽しみにお待ちください」
部屋に1つだけの扉をあけ、出て行った。
「……」
不安で涙がポロリとこぼれ、胸の谷間につーっと落ちると、おかしな声が聞こえてきた。
(わ。お。んごっ。はあはあ。びっくりしたぜー)
沙幸は極限状態に置かれた自分の脳みそがトコロテン気味なのかと思った。
が、声はまだ聞こえる。
(ふあーあ。寝た寝た。やっぱり疲れてたんだな。それに、ここはあったかくて柔らかくて、へへっ。サイコーだぜー)
「その声は……もしかして?」
沙幸は、胸の谷間を見た。
トラミニくんがすっぽりおさまって、あくびをしていた。
「トラミニくん……!」
嬉しくてホッとして涙をボロボロと流した。
(わ。やべ。バレた。ていうか、おいおい。この水ってあれかよ、涙かよ。何泣いてんだ? あー喉乾いた。ちょっと飲んでみっか。ごくごく……。しょ。しょっぺえ!)
無邪気に明るいトラミニくんに救われた気がして、沙幸の涙は止まらなかった。
「もう。バカッ。なんでこんなとこにいるの。スケベなんだから……!」
そして、もう1人の小さな人間は……
ソアの金色の髪の毛にぶらさがって、あっちへこっちへ。ソアに絡まる蜘蛛の糸を小さな武器で必死に切っていた。
しかし、このペースでは蜘蛛の糸を全部切るのに何日かかるかわからない。
「えーんえーん。ミニガチさーん……私まだ死にたくないですー。ひっくひっく」
「ソアちゃーん。きっとみんなが助けにきてくれっから、それまでがんばるんだぜぇ」
マイペースなミニガチくんが、汗だくになって必死で糸を切っていた。
「……ひっくひっく。痛いですー。く、苦しいですー。……えーんえーん」
イキ・ド・マリーの穴からジャンプしたりゃくりゃく団は、謎の通路にいた。そこは洞窟ではなく、人工的にできた通路だ。建物の地下廊下といった雰囲気で、いくつかの扉があった。
風の音なのか、何かが蠢くような得体の知れない音が聞こえていた。
そして、小川では相変わらずセオボルトとルイが夢を見ていた。
幸せな夢は悪夢になって、2人はうなされていた。
夢の中で仲良く芋けんぴを食べていたはずのンカポカは、クルッと首を180度回転させた。
「世界中の芋けんぴを……こうだ!」
ぼわんっ。
芋けんぴが犬のぼっとんになった。
「ぎゃあああ!」
ルイが見ていた夢の中では、仲良くスマイルしていたはずのンカポカの顔がまっくろになった。
さらに自分の笑顔を手でちょいちょい弄っていく。口の形を変え、目を、鼻を……
「世界中のスマイルを……こうだ!」
全てをぐちゃぐちゃにして、ブラックホール化した顔面からぴゅーっと何かを出した。
「うわあっ!」
ルイの顔に、犬のぼっとんがくっついた。
「うおおおおおお!!!」
しかし、夢は醒めなかった。
まだ夜は明けないのだ。
浜辺では、薫が思い出していた。
夕陽に向かって言った自分の言葉を思い出していた。
――みんなで生き残って、明日また太陽を見るでござる。
真っ黒な空を見て、呟いた。
「明日はどこでござるか……?」
【つづく】
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担当マスターより
▼担当マスター
菜畑りえ
▼マスターコメント
みなさん。おつかれさまでした。
みなさんのステキなアクションのおかげで大変なことになってしまいました。
わたしはもう……知りませんっ。
個別コメントで、ボツ理由(時には言い訳)、お節介な助言などをしています。
参考にしていただければ幸いです。
今後の予告や執筆方針など、ここで書けなかったことをブログ「んぱんぱにっき」で発信しています。
よかったらのぞいてみてください。
それでは『ンカポカ計画 第4話』でお会いしましょう。