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リアクション
【◎4―3・急展開】
静香が偽者だと知らないミルディアは、今も亜美の護衛を続けているのだが。
現在思わぬ事態に直面し、困惑していた。
「静香校長、しっかりしてください!」
じつはついさきほど調理実習室に行く途中、亜美はいきなり目まいを起こして倒れそうになったのである。
ミルディアはリカバリやヒールをかけてみたものの、顔色は悪いままで肩で息を続け、問いかけにも答えないままなので。ひとまず休ませないといけないとして、今は近くの空き教室に運んで横にさせている。
(ひとりにするのは気がひけるけど、保険医の先生か誰か呼んできたほうがいいかな)
十分くらい休みつづけ。ミルディアがそんな考えを抱いたころ、ようやく亜美は起き上がった。
「静香校長! もうだいじょうぶなんですか!?」
「あ……う、うん。ちょっと、なんかクラッときただけだから。心配しないで」
「でもちゃんと診てもらったほうがいいんじゃ」
「ほんとに、平気……よ。ワタシは、全然……なんでもないから」
このときうっかり元の口調に戻ってしまった亜美に、ミルディアはわずかに雰囲気の違いに気づきかけたが。
(あれ? 何かヘンな感じ……? ま、気のせいか。体調が悪いせいだよね)
身体を心配するほうが先だった。
とりあえず顔色は徐々に赤みが戻ってきているようなので、もう少しここで休んでからどうするか改めて聞こうとミルディアは決めた。が、
そこへ窓からこっそりと本物の静香が、秋月葵、真口悠希、そしてカレイジャスたちと共に侵入してきたので相当に面食らうことになった。
驚いたのは相手側も同じだったらしく、思いもかけない場所で鉢合わせして咄嗟にどうしたらいいかわからず戸惑っていた。
「よ、ようやく見つけたよ。悪の静香校長! この突撃魔法少女リリカルあおいにかかれば、どこに逃げたってすぐ見つけちゃうんだからね!」
とりあえず光る箒を突き出して、勝ち誇ったように決めポーズをとる葵。
(? 何で他の人は静香校長を狙ってるんだろ?)
対しているミルディアにとっては、その点が本当にわからなかったが。
かかってくるつもりなら容赦はしないと、ライトブレードとタワーシールドを構える。
「ま、待って待って! まずはボクたちの話を聞いてください!」
ぶつかりあいそうになる両者を慌てて制したのは悠希。
静香もきちんと話し合おうという姿勢で、声をかけようとするが。
肝心の亜美は、そっぽを向いて静香と顔を合わせようともしない。体調不良があるため、逃げることをしないのが唯一の救いではあるが、これではどうしようもなかった。
そこで悠希が亜美の前へと回り込み、高らかに声をかけていく。
「亜美さま! 貴女の家はお金貸しで……強引なお父さんに反発していたそうですね」
「?? あの、どうして静香校長に向かって『亜美』って呼びかけてるの?」
ミルディアは首をかしげるが、構わずに話を続けていく悠希。
「一方、静香さまの家は借金がありラズィーヤさまが肩代わりする代償に百合園の校長になった……」
いきなりなんの話よ? という表情の亜美にも構わず、悠希は己の推理を披露していく。
「違うかもですが……気付いた事があるんです。お二人の実家は近く……なので、静香さまの借金は貴女の家から借りたものかもしれないって」
その問いに関しては、静香も亜美もなにも言わない。
静香にとっては公言したくないことだし、亜美にしてみても個人情報があるからだ。
「どちらにしても、貴女は借金のカタに静香さまに好き放題をしてる様に見えたラズィーヤさまが許せなかったし、静香さまの境遇に同情し力になりたかった……そうなのではないでしょうか?」
その問いに関しても、亜美はなにも言わない。
「そしてそれは誰にも相談できなかった……あなたは……人を思い遣れる優しい方だと思います。お気持ちも分かる気がします……ボクも時々大好きな人しか目に入らなくなっちゃう事があるから……でも、その方法は間違ってると思います」
「貴女が体を入れ替えて何を望んでるか悠希と考えてみたけど、ちょっと測りかねる所がある……ただ、もしかしたら百合園の権力を利用し実家の金貸しを止めようと考えているのかもしれない」
ここでカレイジャスも言葉を重ねてきた。
静香には、亜美の心に変化をもたらそうという彼女達の想いが目に見えた気がした。
「……ごめんね、これは勝手な想像だから違うかもしれないけど。ただ……亜美、周囲の皆の事をもっと見て欲しい。悠希も、静香も……貴女の事を理解して力になりたい、助けたいって。一生懸命考えてる……そして、きっと他の皆もそう」
それに大きく頷く葵。
「忘れないで……貴女は一人じゃないという事。同じ百合園の仲間だから」
「亜美さま……これからは猿の手なんかじゃなく……ボクや静香さまや皆が……貴女の手になり力になっていきますから……! だから……ボクは戻って欲しい。本来の貴女に」
言って、悠希は静香へと目配せする。
その意図を汲み取って、静香は亜美と目線を合わせに行った。
「亜美。僕と亜美は、友達だよね? できることがあるなら力になるから、僕にちゃんと話してよ。ね?」
子供をあやすように、優しく声をかける静香。
亜美はまだ俯いたまま。しばらくそのまま沈黙の時が流れたが、ついに。
「ありがとう」
亜美は口を開かせた。だが――
「それが聞けて、ワタシは、じゅうぶんだから……だから、あとは……」
このとき、感動的な話に今ひとつ乗っていけなかったミルディアは、あることに気がついた。悠希たちに悪意がないことはわかったものの、護衛として気を張り続けていたおかげでその事実に気づくことができた。
「静香さん! あぶない!」
ミルディアには、ドアから紅い毛の塊のようなものが飛んできたのが見えたのだ。
それは静香と亜美に向かって一直線に飛来してきたため、反射的に間に入って庇うこととなって。直後、意識を失った。
静香には、ミルディアが糸が切れた人形のようになって崩れ落ちたことに、背筋を寒くさせる。どうやら気を失っただけのようだが、それを最後まで確認することは叶わなかった。
なぜなら、相手がただものでないことを察した葵によって、静香は再び窓から逃走させられることになったからである。亜美は悠希たちが連れて逃げたのが視界の端に捉えられたが。
そこまでだった。
いきなり逃げに走ったせいで、足がもつれて静香は地面に強く頭を打ちつけ。そのまま意識を失ってしまい。
一体なにが起きたのか? 亜美は何を言おうとしたのか?
このループでそれらの答えを得ることは、できなかった。
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