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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

リアクション



【◎6―2・再度前進】

 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は昨日と同じく、変装して百合園にきていた。
 メガネやツインテールにも慣れてきたが、ループには慣れたくなさそうで。
(2度あることはなんとやらっていうから確認しに来てみたけれど、やっぱりまたループしちゃってるみたいねぇ……)
 やれやれと肩を落としながらも、とりあえず状況把握も兼ねて静香のところへとやってきたのだが。
 校長室は扉の前に大勢の生徒が押しかけていて、かすかに首をかしげる。
(なんだか人がいっぱいいるわねぇ、何かあったのかしら?)
 変装しているとはいえ自分は蒼空の生徒なので、あまり目立たないよう後ろのほうから中がどうしたのかと伺ってみると。
 校長と話している七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の姿が見えた。ちなみに今ラズィーヤの姿はここにはなかった。
「それで静香さん。今回のループについては、これまでみたいに何か心当たりが無いんですか?」
「ははは。それがわかれば苦労はないよ」
「あ、それから西川亜美さんとは話したんですか?」
「うん。登校してすぐにね。今は、捕まえて別室に閉じ込めてるけど」
「私の予想としては今までの流れからして、どちらかが原因な気がするんですけど……。あれ? でも今亜美さんは普通に部屋にいるんですか? ……なら関係ないかなぁ」
 自分で言っていて気がついた歩は、うーんと考えをまとめなおしていき。その間に別の生徒がなにやら質問攻めにしていった。
 そうしたやりとりを傍から見ながら、アルメリアは心に驚きと不審さを抱かせる。
 亜美が囚われた事もあるが。静香の、生徒と接する様子がなんだか刺々しく映ったのだ。
 あまり静香と話したことはないアルメリアだが。昨日会った時と明らかに様子が違っていて、さすがにおかしさには感づいた。
 一旦校長室から離れ、どうするかを頭の中で整理し、
(そうだ。可憐ちゃんなら何か知ってるかしら、連絡して……あれ?)
 今はもっと情報と仲間を集めるべきだと考えたところで、
「アルメリアさーん!」「よかったぁ。やっぱり来ていたんだねぇ」
 同様のことを考え、アルメリアを捜しまわっていたらしい葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が走ってくるのが見えた。
「ふたりとも! よかった会えて。ちょうど連絡しようと思ってたのよ」
「そうなんですか? なにか急ぎの用事でもあるんですか?」
「あ、うん。それが今日静香ちゃんがヘンなの! 亜美ちゃんが捕まったとかって話も聞いたし……なにか知らない?」
 事情をまだ把握していないのを察し、可憐たちはついさっき耳にした亜美の犯行や猿の手のことを説明していった。
「そんな。亜美ちゃんが……やっぱり何か隠していたのね」
 あらかたのことを聞き終えると、さすがにアルメリアはショックだったようで、数歩後ろによろめいて。
「亜美さん……大丈夫でしょうか? 百合園のみんなは、静香校長たちを傷つけたことでかなり怒っているみたいですけど。でも私には亜美さんってそんなに悪い子に見えないんですよね。アルメリアさんには、どう見えます?」
 アルメリアはとっさに答えが返せず、わずかに唇が動いただけで止まった。
「私には……亜美さんは不器用なだけで性根は優しい方、に見えるんです。だから……捕まっている場所を探し、確認に行きたいと思いますっ」
「可憐は前向きだねぇ。でも、私も静香校長と亜美さんがこのまま離れたままなのはどうかと思うしぃ。探しに行くのは賛成だけど」
 可憐とアリスは、せめて気持ちだけでも盛り上げようと声をわずかに張っていて。
 そんなふたりにアルメリアは苦笑し、そうして今の率直な思いを口にできた。
「ワタシも悪い子だとは思わないけれど今回のは少しやりすぎね、ちゃんと静香ちゃんに謝らせないと、そうしたらちゃんと仲直り出来るわよね♪ もちろんワタシも協力するわよ」
「よかった! それじゃあ、私たちは亜美さんを探しに行きますけど。アルメリアさんはどうしますか? 一緒にいきますか?」
「ううん。せっかくだから手分けしたほうがいいし、ワタシはワタシで手伝うやり方を考えてみるわ。なにかあったら、連絡するから」
 言って互いに頷きあい、一旦可憐たちと分かれたアルメリア。
 さてそうはいってもどうしようと足を進めようとして、ある会話が飛び込んできた。
「つまり、静香校長と亜美が入れ代わっているということですわ」
 今の声は冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)のもので、パートナーのエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)と共に、崩城亜璃珠と長原淳二に対し話をしているようだった。
「ついさきほど、騒乱の原因であった西川亜美の様子をみてきたんですが、どうも様子が変でしたの。そして校長室に寄ってみれば、あの静香校長もいつもの静香校長ではありませんでしたわ」
「それで、小夜子様は互いが入れ替わっていると考え、原因を探していて。今は猿の手を持つラズィーヤ様がどこにいるか捜索しているわけなんです」
 そのあとも色々と話を続ける四人だったが。
 アルメリアは今の話を反芻し、これからの行動について考えをまとめるのに忙しくそれ以上は聞いていなかった。
(今の話が本当だとしたら……静香ちゃんと亜美ちゃんに、お話してもらう機会を持ってもらわないと。そのためには、まず亜美ちゃんを一人にしないといけないわよねぇ)
 うーん、と悩むこと約数十秒。
「そうだわ、静香ちゃんに相談に乗ってもらう約束をしてたってことにすれば連れだせないかしら」
 静香のふりをしているのなら、生徒からの相談事はそうそう断れない筈だという作戦。
 うまくいくかどうか不安要素は多いけれど、とにかく行動しないことには始まらないとばかりにアルメリアは再び校長室へと戻っていった。

 いっぽうの可憐たちは。
 あれからほんの十五分足らずで、亜美が捕まっているという格子戸の部屋に辿り着いていた。
 やはりこれまでのループの成果が大きく。生徒の話を十人ほど巡れば、ひとりくらいは居場所を既に知っているようだった。
 おかげで難なくこうして対面することができた可憐たちなのだが。
「あの、どうしたんですか?」
 肝心の彼女はびくびくと身体を震わせている。
 その様子に、なんとなくあの人物とかぶるものがあった。
「このおどおどした感じ……もしかして、静香校長です?」
「う、うん。そうだよ」
「えぇ? どういうことですかぁ?? それに、なんだか怯えてるみたいでしたけどぉ」
「さっきちょっと、色々あってね。でももう大丈夫。だいぶ落ち着いたから」
 そう言うと軽く屈伸運動したり腕をふったりして元気さをアピールしていく静香だったが、そのさいに化粧台に小指をぶつけて悶絶していた。
(あは、なんだか亜美さんとお話をしたいって気を張っていたのに、何だか静香校長を見ていたら和んじゃいました)
 可憐はおもわず笑みをこぼしながら、
「本当は私から亜美さんに一言物申したかったんですが……その役は、静香校長にお任せします。私達に、そこへ辿り着くまでのサポートをさせて下さい」
「そ、そう。ありがとう、助かるよ(痛みで涙目)」
「ただ、一つだけ……これだけは、覚えておいて下さい」
「ん?」
 わずかに表情に深刻さを持たせて、
 可憐が告げたのは猿の手についてだった。
 所有者の意に添わぬ形で叶えるというその手。
 今はきっと亜美の願いを望まぬ形で叶えているはず。
 静香校長の為に使った2つの願い。そして自らの為に使った1つの願い。
 それが意味するところについて語る可憐に、静香は不安を感じて恐怖がまた込み上げてきたが。もう一度軽く小指をぶつけてどうにか気を紛らわせた。
「静香校長に拒否された亜美さんは、静香校長の為ではなく、自らの為に静香校長を助ける事を望んだ。それを猿の手に望んだ結果、意に添わぬ形として自らが静香校長に成り代わった。……多分、今回の事件はそういう事なんだと思います」
「…………」
「だから亜美さんの事、嫌わないであげてくださいね?」
「……可憐の憶測が正しいのかどうかはわかりませんけどぉ、でも多分、静香校長はもう一度、亜美さんと会う必要があると思いますよぉ。ね?」
 ふたりからのアドバイスに、静香は恐怖をなんとか払拭し。改めて立ち上がる。
 可憐はピッキングで鍵を開け、
「さぁ、静香校長……行きますよっ♪」
 出発だ、というところで。
「こら。我を無視して行こうとするとは、いい度胸ではないか」
 現在ここの警備を担っていたらしいセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が、いきなり立ちはだかってきた。
 わずかに怯む静香だが、可憐は庇うようにして一歩前に立ち、アリスはむしろ二歩くらい前に歩み出た。
「どうか静香校長と亜美さんに、話し合いの場を設けてはいただけませんでしょうかぁ。どうせなら、あなたにも立会いを一緒にして欲しいくらいですしぃ」
「なに? 我にそのような役を頼んでくるとは貴様。なかなか面白いのだよ」
 説得にわずかにゆらぐセレスティアーナ。
「私たちだけでは、どうにもできないんです!」
「互いが危害を加えずに、想いの丈を思い切りぶつけあうには、あなたの協力が必要なんですぅ。お願いしますっ!」
 ほんのすこし意図的に持ち上げながら、可憐とアリスは必死の説得を試み続けた。
 静香は、はらはらしながら見守り。いつでも動けるように心構えだけは決めておく。
 そして。セレスティアーナは、
「なんて健気な子たちであろうか!! わかったのだよ、我でよければ力を貸そう! 安心していい。このセレスティアーナ・アジュアがついていれば、ことはうまくいったも同然であろうからな! はーっはっはっは!!!」
 元がおばかで純情なので、あっさり仲間となるのを承諾したのだった。
 ほっと息をつく静香たち。意外と簡単に話がついたので、逆に頼りになるのか不安になったりもしたが。力になってくれる人間が増えるのはありがたかった。
「誰も居ないなら勝手に入ってお掃除しちゃいますよ! ていうか、こんなところに誰か居るはずないですよねーははは!」
 そこへ、どこかで聞いたセリフが響いてきた。
 警戒しそうになる可憐たちを制し、静香は歩み寄っていくと。
 予想通り高務野々がデッキブラシ片手に掃除をしていた。行動がほぼ同じなので、どうやらループを知らないのだとわかる。その証拠に、
「て、あれ? えーと。西川亜美さん。静香様のご友人ですね」
 さっきとまったく同じ反応をしていた。
「違うよ。僕は、桜井静香だってば」
「……え? 亜美さんが静香様ご本人ですって? またまた、ご冗談を」
 さっきみたいに恥ずかしいことを言おうかとなと思案しているうちに、
「冗談なんかですよ! 彼女は静香校長なんですから!」
「そうなんだよぉ。あのねぇ……」
 可憐たちがまたも説得モードに移行し。
 止めるのもなんなのでしばらく見守っていると、
「そうだったんですね。なんだか言われるうちに、そのことは信じないといけない気がしてきました。わかりました、私も同行させていただきます!」
 なぜか彼女も仲間に加わることになったのだった。