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リアクション
【◎6―5・西川亜美】
現在時刻はすでに四時。
静香は、ヘタをするとまたループが起きてしまうなと危惧しながら。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)、更に高原瀬蓮、アイリス・ブルーエアリアルによって屋上に追い詰められていた。
一応セレスティアーナと野々が立ち向かってくれたものの、今はあっさり床でのびている。残る可憐とアリスは、どこかへ電話していて頼りにできない。
「さあ、もう逃げられないよ! おとなしく捕まりなさいよ!」
「待って! 僕は西川亜美じゃない。桜井静香なんだ!」
ダメでもともとながら、自分のことを明かしてみる静香。
「なにそれ? そんなの嘘感知で一発なんだから。さあ、もう一度言ってみなさいよ」
すると美羽は調べてくれる姿勢をとってきてくれて。静香は密かに希望を見出した。
「僕が、静香なんだよ。そして今、亜美が僕の姿になってるんだ」
ハッキリそう告げると、美羽はびっくりした顔になった。
「美羽さん? どうしたんですか、もしかして本当に……?」
ざわざわと、四人の間にもしかしたらという考えが生まれ。そう言われてみればしぐさも話し方もなんだか静香っぽいような、ということまで考えはじめていった。
そのうえ瀬蓮がおずおずと手を挙げ、
「あ、あのね? 瀬蓮はもともと、ちゃんとおはなししようと思ってたんだよ! よくわかんないけど、そうしたほうがいいような気がしてて。もしかしたらほんとに静香なのかも」
第2ループの影響から、味方になってくれる方向へと導いてくれて。
「瀬蓮がそう言うなら、僕ももう疑うつもりはないぜ」
アイリスが同意したことで話は意外にあっさりと決まったのだった。
それじゃあこれからどうしようという話に移行しかけたところで、
「さあ静香ちゃん。こっちよ」
「あのさ、本当にこんなところで約束があるの?」
アルメリアによって連れ出された、静香の姿をした亜美が屋上に姿を現した。
むこうは亜美の姿をした静香に気がついた途端、急いで逃げようとしたが。
そこは行動のはやいベアトリーチェとアイリスが屋上の扉へと回り込んで逃げ道を塞ぐ。
可憐とアルメリアは、誘導がうまくいったと微笑みかわし。はめられたことを察した亜美は、諦めたように肩を落としていた。
「えっと。亜美さん、ですよね? どうしてこんなことをしたんですか?」
ベアトリーチェからの問いかけに、
「ちょっと待って。もうすぐ、ここに来るから」
亜美は答えになってない答えをした。
なんのことだか計りかねる一同だったが、いきなり扉が吹き飛び。猿の手が飛来してきたことで意味を把握した。
「どういうつもりだ! この期に及んでまだ悪あがきをするつもりか!?」
「逆だよ。もう降参ってこと、すべては……解決するから」
アイリスは叫ぶが亜美はふるふると、首で否定の意を示す。
やがて猿の手を追いかけてきたラズィーヤたちも駆けつけて。
最後に桜谷鈴子や、崩城亜璃珠、長原淳二もこの場に集合してきた。
「とうとう、役者が一堂に会したわね。といっても、すぐに終幕だけど」
亜美以外の全員が突然の事態になかなかついていけない中。
猿の手はゆっくりと亜美へと近づいていく。
「さっきの質問に答えるわね。ワタシはただ、静香の力になりたかっただけ。そしてそれが叶わないのならせめて……一度静香になって校長先生を体験してみたかったのよ」
猿の手は、まっすぐに亜美の身体を目指している。
まるでなにかを抉り取っていこうとするかのように、黒い爪を動かしながら。
「でも、もうそれも終わり。ワタシの願いは、叶ったから」
亜美は笑った。亜美自身の顔で。
そこで静香はいつの間にか自分の身体が元に戻っていることに気がついたが。そんなこと、今はどうでもよくなっていた。これから何がどうなるか、容易に想像がついたから。
このとき。亜璃珠は、覆面の女に言われたことを思い出した。
誤魔化しのハッピーエンドを迎えさせ、その魂を――――
誰かの叫び声が聞こえた。
猿の手が亜美の胸を貫こうとした。
そして、いきなり白馬が跳躍してきた。
(え? 白馬?)
と、誰もが不審に思ったところで。
白馬はそのまま猿の手を蹴っ飛ばし、安全のための金網に危険な速度でぶつからせてやった。
「ハッハッハ! 亜美くんの危険を感じ颯爽登場!」
緊迫していた状況を、なんとも場違いなセリフと共に乱入してきたのは。
異性装となりきりで麗人に扮した日下部 社(くさかべ・やしろ)だった。社のうしろには、パートナーの日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)も乗馬している。
社は唖然としている亜美を見下ろしながら、
「話は大体聞かせてもろうたで。ま、アンタが静香校長の事が好きやというのは充分わかったわ。しかし、その愛情表現はアカンな。ヤンデレっちゅうんか?」
「わ! ちょ、ちょっとちょっとぉ! あんまりゆっくり話してる暇なさそうだよぉ!」
千尋が焦るとおり、猿の手はめりこんでいた金網から抜け出し。再び亜美に向かっていく。
「それもそうやな。よし、罪を憎んで人を憎まず! さぁ! あげてこうかっ!」
社は白馬の上から勢いよくジャンプし、雷術を展開しながら両手にはめた鉄甲でのパンチを上から猿の手に叩き込み、爆発と共に地面へとめり込ませた。
「静香ちゃんもみんなも、なにぽけっとしてるのっ! めのまえであぶない目にあってる人がいて、なにもしないつもりなの!?」
細かいことを全然考えて無さそうな社と、子供らしい純粋な想いを口にした千尋。
誰もが、自分達も戦いに加わる決意を固めようとして。
「もうやめて! ワタシが死ねば、ぜんぶ終わるんだから!」
しかし亜美は、ただただそんな言葉を繰り返すばかりで。
助けるべきなのかどうなのか、迷いが場に流れかけた。
そのとき、
「そんなのダメですっ!」
亜美にとって、関わりの深い人物の声がした。
先程亜美は役者が一堂に会したと言ったけれど。
最後にもうひとり、亜美のパートナーが揃うことによって、今度こそ本当に一堂に会することになった。