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リアクション
第八章 猫耳メイドの喫茶店
東園寺達が小屋を改造して作った喫茶店で、今からあゆむの完成披露会を兼ねた食事会が行われようとしていた。
それに伴い、騨が自身の過去について明かした。
「自慢じゃないですが、僕の家はそこそこ裕福で、親は厳しい人間でした。親は僕を自分の会社を継がせようとしていました。だけど、僕は親の敷いた人生を進むのが嫌で、十三歳の時に大ゲンカして家を飛び出しました。その時、一緒に出て行ってくれたのがあゆむでした」
幼い騨と写真に写っていた獣人の女性は実家で働いていたメイドさんで、小さい時から優しい姉として接してくれたのだという。
「僕は彼女に心を惹かれていました。僕はちょっとませた子供で親には内緒でしたが、僕らは将来を誓い合った仲でした」
騨の手にはおもちゃの指輪が握られていた。あゆむはそれをハニカミながら受け取ってくれたという。
そこまで話して、騨は急に顔を抑えてボロボロと泣き始めた。
「なのに……なのに……僕は……」
それまで自分からは何もやったことなんてなかった騨は、家を飛び出してもあゆむに頼りっぱなしだった。
日に日にやつれていくあゆむ。騨はあゆむが過労で倒れるまで、そんなことも気づけなかった。
後悔しても遅かった。そのままの生活を続けようとした騨のせいで二人にお金はなかった。両親は助けてくれないし、騨には頼る人がいなかった。
……騨は吐血を吐くあゆむを傍で見守っているしかなかった。
それなのにあゆむは最後まで騨を心配して、強く自由に生きて欲しいと願った。
最後の最後になってあゆむは隠していた少ない金の場所を伝え、静かに息を引き取った。
騨はあゆむの冷たい身体に自分だけでも大丈夫だと誓った。あゆむに誇れる人間になると誓った。
それから数年が経ったある日、あゆむそっくりのボロボロの機晶姫が放置されていると人伝いに聞かされ……後は無我夢中だった。
自分の不甲斐なさを悔やむ騨の肩に七尾 正光(ななお・まさみつ)がそっと手を置いた。騨が顔を上げると、生徒達が笑いかけていた。
「君と同じように誰かを失い、その支えを求めてパートナーと契約した人は少なからずここにもいるんだ。だから、大切な人を失った時の気持ちはわかるし、君がどんな気持ちで彼女を起動させたのかもわかる。後悔するなとはいわない。だけど、いつまでもクヨクヨしているのは彼女も望んでないんじゃないか」
正光の言葉に騨は納得して袖で涙をふき取る。
「そうだ。そんな情けない涙なんか流してる場合じゃないぜ。ほら……」
健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の指さし方向を見ると、そこにはうっすら頬を染めた≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむの姿があった。
恥ずかしそうに上目づかいに見つめたあゆむ。コバルトブルーの耳と尻尾が困ったように垂れている。
騨はよろよろと近づくと、ビクリと目を閉じるあゆむの頬に触れ、離さぬように強く抱きしめた。
嗚咽を漏らす騨。
「ごめん。ごめんなさい。今度は僕が絶対君を支えるから、だから……」
謝罪する騨に驚きつつも、あゆむはそっと――抱きしめ返した。
「ヒューヒュー、よっ、熱いねっ」
「やめとけ、空気を読めよ」
口笛を吹いて茶化すドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)の脇腹を白砂 司(しらすな・つかさ)が小突いた。
そこへメイド服に身に着けた水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)達が食事と飲み物を運んできた。
「皆様、お疲れ様です。さぁ、楽しいパーティーにしますよ」
全員に飲み物が渡り、乾杯の掛け声が響くわたる。
本日の喫茶店は、貸切の宴会場である。