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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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第五章 廃墟にて〜騒乱〜

「マスター、お願いします!」
「わかってるぜ!」
 廃墟の北に位置する出入り口付近で、芽衣子とフィオナが一緒に戦っていた。
 フィオナの銃弾の雨を抜けてきた敵を芽衣子が打ち取る。
「くっそ、肩が重いぜ」
「先ほど……あれだけ暴れればそうもなります」
「うるせぇ!」
 囮を引き受けた生徒達は突如現れた≪首なし兵≫の対処に追われていた。
 発端は全員が感じた悪寒だった。そのすぐ後、外で待機していたシュバルツヴァルドが廃墟の周辺に≪首なし兵≫が現れたことを知らせたのである。
 ≪首なしの豪傑騎士≫を引き付ける役を残して、後の生徒達は廃墟の四方を分担して守っていた。
 芽衣子は襲いかかる≪首なし兵≫をブージで叩き潰しながら、東側で戦うシュバルツヴァルドに声を張り上げた。
「おい、でかいの! 周辺の状況を報告しろ!」
「了解であります。……今だ雑兵が多数、廃墟に進行中であります」
「ちぃ、こっちはどうにかなってるが、他が心配だな」

 一方、南側を担当していた朱鷺とルビーはお互いをカバーしながら確実に≪首なし兵≫を倒していく。
「なかなかやりますね」
「これくらい当然でしょう」
「先ほどまではサボっていたにね」
「本当に必要な時に活躍できた方がいいでしょう」
 朱鷺の言葉にルビーは冷静に返す。
「そうね。肝心な時に何もできないよりましよね。……向こうは大丈夫かしら?」
 朱鷺は西側に視線を向けた。そこではブランガーネ・ダゴン(ぶらんがーね・だごん)が一人で戦っているのだった。
「大丈夫でしょう。あっちは川が流れているから……」
 ルビーは朱鷺を安心させ、自分たちの役目に集中するように、言った。

 ――廃墟の西側。
 そこには幅の広い川が流れていた。
「私にかかれば、お茶の子さいさい」
 ブランガーネは川を渡ろうとした≪首なし兵≫の足を取り、至近距離でデリンジャーを撃ちつけた。
「まったく人手が足らないからって何も一人にすることないのに、ねっ!!」
 ブランガーネは続けてやってくた≪首なし兵≫を掴んで滝の下へと投げ込んだ。
 一向に数の減らない≪首なし兵≫。長引けば厳しい戦いになることは明らかだった。

 廃墟の外で戦う生徒達以外の四人の囮役の生徒達は≪首なしの豪傑騎士≫に苦戦していた。
「くっ!」
 永太は続けざまに襲いかかる≪首なしの豪傑騎士≫の重い剣戟に体制を崩された。
 その僅かな隙を見逃さず≪首なしの豪傑騎士≫は永太に斬りかかる。
「ファイアーストォォォム!!」
 永太の目の前でレイチェル・スターリング(れいちぇる・すたーりんぐ)の放った炎の柱が燃え上がり、≪首なしの豪傑騎士≫の身体を包み込んだ。
「ぼけっとしないで! ほら、体制を立て直すわよ」
 クリアンサの指示で永太は≪首なしの豪傑騎士≫から距離を開け、体制を立て直す。
「わたくしの盾になるのはいいですが、勝手に無茶をして死なれては目覚めが悪いですわ!」
「す、すいません」
「わかればいいのですわ。レイチェルさん、援護を!」
「わかってるもん!」
 炎が消え、≪首なしの豪傑騎士≫に斬りかかるクリアンサの援護のためにレイチェルは【ファイアストーム】を唱え始める。
「何か……何か弱点はないのか……」
 トマスは仲間に合わせて銃弾を撃ちつけながら、この厳しい状況を打開する術を探っていた。
 レイチェルが再び【ファイアストーム】を放つ。
 すると赤い垂れ幕に火の粉が飛び散り、千切れて床に落下した。そして、その上の何もない空間を≪首なしの豪傑騎士≫が何度も斬りかかった。
 ≪首なしの豪傑騎士≫の不思議な行動に永太とクリアンサは顔を見合わせる。
「なんなのかしら?」
「見えてないのではないですか?」
「……そうか!」
 トマスが声を上げ、皆が彼を見た。
「君達、少しそのままでいてくれ!」
 トマスの指示に戸惑う生徒達だったが、彼の真剣な表情を信じて、武器を構えたまま様子を見守った。
 すると、≪首なしの豪傑騎士≫の動きが止まる。
「なぁ、君はなんで戦うんだ?」
 トマスの問いかけに≪首なしの豪傑騎士≫が答える気配はない。
 代わりに≪首なしの豪傑騎士≫は剣を構えたまま、周囲を伺うように少しずつ角度を変えて身体を動かした。
 ――緊張を含む沈黙。≪首なしの豪傑騎士≫の鎧の音だけが響く。
 トマスが【サイコキネシス】で落ちていた石を浮かし、≪首なしの豪傑騎士≫の傍に投げた。
 すると≪首なしの豪傑騎士≫は石が床に接触すると同時に、その上の何もない空間を切り裂いた。
「やっぱり……」
 わけがわからない周囲を無視して、トマスは≪首なしの豪傑騎士≫に話しかけながら、その近くに数回石を投げた。
 ≪首なしの豪傑騎士≫は同じように何もない空間を切り裂いた。
「あいつは床から伝わる振動で相手の位置を理解しているんだ!」
 確信したトマスは声を高ぶらせながら言う。
「僕があいつを攪乱させる。君たちは隙をついて攻撃してくれ!」
 足で床を叩くことで向かってきた≪首なしの豪傑騎士≫をトマスは石を投げ、攪乱した。
 三人は顔を見合わせ、肯いた。
「任せてくれ!」
「丸焼きにしてあげるんだからっ!」
「いいですわ。今ここで、この剣の錆として差し上げますわ!」
 三人が攻撃を再開する。
 その時――廃墟のどこかでガラスの割れる音が聞こえてきた。