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リアクション
2.学校・保健室
保健室では、不調の鹿島シイナが、ベッドから身を起こそうとして養護教諭に止められていた。
「じゃあ、先生はナナが……ナナがどうなってもいい、とでも言うのかっ!?」
「そうは言ってないでしょう? 鹿島さん」
樹月 刀真(きづき・とうま)はよろけるシイナの体を、片手で受け止める。
「第一、その体で何が出来るというのですか?」
「だが!」
「……大人しくしてなさい」
シイナをベッドに戻して、諭すように。
「ナナの分も『解呪薬』を手に入れてきますから」
「刀真の言う通りだな」
言葉をかぶせたのは日比谷 皐月(ひびや・さつき)。
「俺達に任せて、おまえは少し休んでろよ」
「皐月……」
皐月に駄目だしされてしまっては、さすがのシイナも大人しくなってしまう。
「大丈夫だ。事件は、オレ達が何とかするから……な?」
(だがこの言葉こそが「偽善」ではないのか?)
自分の考えに皐月はかぶりを振る。
(今は、過去の事に拘ってる場合じゃない!)
「贖罪」なんかじゃないのだ、と考えをつなげる。
(そう、オレの事なんて二の次でいいんだ)
今は、ただ、シイナの為に――。
「ナナも皆も、何とかなるって! 大丈夫さ、信じろって」
そう言って皐月は手を差し伸べ、ナーシングでシイナの体調改善に努めるのだった。
■
風祭 隼人(かざまつり・はやと)は保健室の片隅にいた。
パートナーを蝋人形化された学生達は、作戦への同行を一様に拒まれている。
体調不良著しく、体力が持たないと思われたためだ。
それでも他の者達は頷かなかったのだが、性根の優しい彼は引き下がった。
自分を気遣う仲間達の思いを察してのことである。
「とはいえここで引き下がっては、何のためにここへ来たのか分からないじゃないかっ!」
何があろうとも、必ずアイナもルミーナさんも救ってみせる!
優しいが現実的でもある彼は、そんなことを心に誓っている。
「という訳で、ここは時を待つしかない、か」
そろそろとベッドを抜け出し、窓から脱出する。
身支度を整えると、一向に気づかれぬよう尾行の体勢に入った。
「まずは、町へ行って。情報を仕入れて来なければ!」
■
七尾 蒼也(ななお・そうや)は分校長室の前で、橘 舞(たちばな・まい)、金 仙姫(きむ・そに)とバッタリ出くわしていた。
「え? それじゃあ、ブリジットは分校長室へ?」
真っ先にブリジット・パウエルと情報交換をしたい、と考えていた蒼也は落胆する。
「イルマが大変なことになったって、聞いたから。様子見も兼ねて、情報交換したかったんだがなあ……」
「そのことなんだけど」
舞は声を潜めて。
「分校長さんに事態を伝えて、オルフェウスさんと意思疎通してもらって、情報を聞き出そうって」
「え? でも分校長さんって、危篤状態で絶対安静なんじゃ……」
「うん。でも入院されているって程ではない訳だし、口くらい聞けるだろうって」
「事が事だけに、さすがにブリジットにも余裕がないようじゃな」
仙姫が横合いから口をはさむ。
「まあ、わらわとしても、今回ばかりはあの迷探偵に賛成じゃな。というか、この状況でとぼけおったら、張り倒しておるところじゃが」
3人は、「分校長室」とプレートの付いた木のドアを見上げる。
「そうでなくとも『呪いの森』だの『鏖殺寺院の廃墟』だのと、わらわ達の手には余るからのぉ」
「えー! 『面会謝絶』!?」
「はい」
ブリジットの声に、校医は冷静に頷いた。
「何でよ! ことは急を要するのよ! 分校長に会わせなさーい!」
「お会いしてもよろしいが、この状態ですよ」
シャ――ッ。
カーテンを開ける。
ベッドには、体中のあちこちに点滴の管を通された老婆の姿がある。
心拍計は微妙な動きで「かろうじて生きている」事を示していた。
「『病院に行っても打つ手なしだろうから、ここで』というのが、分校長の御意志ですよ。それでも無理を通されますか?」
ブリジットは引き下がるよりほかはなかった。
「ええーい! こうなったら、カンナよ! 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)からルミーナさんの情報を引き出してやるわ!」
邪魔されないよう空き教室を捜し、携帯電話で蒼空学園に連絡しようとする。
「取りあえず、代表番号に連絡すればいいのかしら?」
でも蒼空学園の代表番号って、何番だったかしら?
首を傾げていた矢先、「あ、蒼空学園ですか?」という声が耳に入った。
振り向くと、窓際に紳士なドラゴニュートのデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)の姿があった。
「あっ、……理事長殿は……そうか、では……」
プチッ。電話を切る。
彼が環菜と連絡を取っていたことは明白だった。
「ねえねえ、あなた今、環菜と連絡取ってたんでしょ? で、何て言ってたのよ! 何て!」
ブンブン胸倉を掴んで揺さぶる。
「早く言いなさい! イルマの……私の大事な幼馴染の命が掛かってんのよ!」
「わあ、言うから言うから! その手を放すのだ、お嬢さん」
デーゲンハルト曰く、環菜は電話には出なかった。
「ルミーナがいない分、1人でこなす仕事が増えて大変らしい」という回答が事務員からもたらされたそうだ。
「そう言うことなのだよ、お嬢さん」
デーゲンハルトは衣服を整えて、そそくさと立ち去る。
そうした次第で、ブリジットの「でもそれは嘘かもね……」という台詞は誰にも聞かれなかった。
「こうなったら、館で決着付けるのが先決みたいね。行きましょう! 舞、仙姫」
■
舞達が決起していた、同じ頃。
別の教室では、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が前回同様窓際で1人静かに茶を飲んでいた。
そこへ。
「ハッ! リカインさん。あなたは行かなくてよろしいの?」
これまた前回同様、養護教諭が慌ただしく教室へ入ってくる。
「私は今回、忙しくてお茶を飲んでいる暇はないのだけれど」
「いいのよ先生、お気遣いなく」
優雅に茶を飲み干してリカインは振り向いた。
「フェルマータ組は今回も『LC冒険記』。だから私は、こうして彼らの朗報を待つだけなのだわ」
そして急須に湯を注ぎに席を立つのであった。
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