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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ 福神社の朝 ■


 積もるだろうとの予報通り、朝起きてみると外はすっかり雪景色になっていた。
「たくさん積もってるね」
 しばし白い風景に見とれていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)だったが、雪を見ているうちにふと気にかかることがあった。
「……布紅さま、どうしてるかな」
 この雪の中、布紅は大変な思いをしていないだろうか。
 そう考えるといてもたってもいられず、沙幸は空京へと出掛けていった。
 いざ着いてみると、空京神社にもやはり雪は真っ白に降り積もっていた。
 けれど、広い境内なのですべてという訳にはいかないが、本殿に向かう参道はきちんと雪が取り除かれ、ふちに寄せられている。雪をかいている巫女さんの姿もそこここで見られた。
 この分なら空京神社の摂末社である福神社も大丈夫かも知れない。ちょっと安心しながら沙幸は空京神社の境内を歩いて、福神社を目指した。
 けれど。
「わ、こっちは雪かきしてないのかぁ」
 主要な道は雪かきされているけれど、福神社に続く道までは手が回っていないのか、雪がそのまま放置されている……どころか、雪かきをして出た雪が寄せられている為、道の入り口には雪が盛り上がっている。
 覚悟を決めてえいやっと沙幸が足を踏み入れれば、ずぼっと足首の上まで雪に埋まった。

「これは凄いな」
 ややあってやってきた樹月 刀真(きづき・とうま)も、どこが通り道なのか分からない雪の量に足を止めた。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と2人、空京に買い物に来たついでに福神社に遊びに行こうとやってきたのだが、これでは神社に到達するのも一苦労だ。
 刀真よりも一足先に雪道に踏み込んだ月夜が、うーっ冷たいと顔をしかめる。
「滑りそうで危ないな。月夜気をつけて」
「うん気をつける。でも、このままだとお年寄りには危ないし、これだけの雪をどけるの布紅1人じゃ大変だよ」
「そうだろうな……」
 普段福神社にいるのは、当の神様の布紅1人だけ。常駐している巫女でもいれば、境内の雪かきもしてもらえるだろうけれど、福神社でそれは望めない。
「だったら刀真、布紅と一緒に雪かきをしようよ!」
 遊びに来たつもりが雪かき作業になってしまうが、皆でやればその分早く終わらせることが出来るだろう。
 月夜の提案に、ああそうだなと刀真も頷いた。



 福神社では{SNL9998738#福の神 布紅}が雪かきに取り組んでいた。
「んー……っ、と……結構重いですね……」
 スノースコップで雪をすくっては、端の方へもそもそと移動させる。
 要領も効率も悪いので、がんばっているわりにはまったく雪かきは進んでいない。
 それでも黙々と雪を運んでいると。
「布紅ちゃーん。遊びに来たわよ!」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が布紅を見付けて呼びかける。
 雪が積もっていては参拝の足も鈍るだろう。普段から参拝客が多いとはいえない福神社だから、人が来ないのを布紅が寂しがっていたりしないだろうか。そう心配して、アルメリアは出掛けてきたのだ。
「あ、おはようございます」
 布紅は雪かきの手を止めて、アルメリアに笑顔を向けた。
「おはよ。あら、布紅ちゃん雪かき中だった? これだけ積もっているとここまで来るのも大変だものね」
「はい。だから通り道だけでも雪をかいておこうかと思って」
 これで、と布紅は雪かき用のプラスコップをちょっと掲げた。
「通り道だけって言っても、布紅ちゃんだけじゃ大変じゃない? 私も手伝うわよ」
「でも申し訳ないですし……」
 大丈夫ですよ、と布紅はスコップで雪をすくってみせる。
 そこに雪を踏みながら沙幸がやってきた。
「布紅さま、これから雪かきするのかな?」
「これからというか……さっきから雪かきしてるんですけど」
 雪に覆われた周囲を見渡し、布紅は情けなさそうな顔になる。もたもたとやっているから、雪かきはほとんど進んでいない。
「それならそうと早く言って下されば、いくらでも手伝いに来るのに。こんなときのために私たちがいるんだよ、布紅さま?」
「そうそう。布紅ちゃんだけに任せておいたら何かおきないか心配だし。ワタシも手伝うから早く終わらせちゃって遊びましょ♪」
 沙幸とアルメリアに言われ、布紅は今度は素直に、よろしくお願いしますと頭を下げた。

 普段使わないものをしまっておく倉庫から雪かき道具を引っ張り出しているうちにも、雪かきを手伝おうという人々が福神社に集まってきた。
「空京に来る用事があったので、ちょっと寄ってみたんですよ。用具が借りられるかどうか心配だったんですけど、ありそうですね」
 倉庫を覗いて関谷 未憂(せきや・みゆう)が言う。
「スコップと……これも雪かき道具よね、きっと」
 アルメリアが出した道具を、ああそれはと未憂が受け取る。
「スノープッシャーですよ。雪があまり多く積もっていないところなら、ガーッと雪かきできるんです」
「あら、詳しいのね」
 感心するアルメリアに、いえ、と未憂は首を振る。
「そんなに詳しくはないですよ。親戚の家の近くは場所によっては身長以上の雪が積もったりするんです。その話を聞いてるくらいですね」
「身長以上、ですか……きっと大変なんでしょうね」
 ここでそれくらい積もったらどうなるのかと、布紅は境内を見渡した。
 そうなったら見えるものは、社の屋根と鳥居ぐらいだろうか。
「雪が降ると、夜のうちに除雪車で車道や歩道の雪をかいたり。かいた雪もそのままにしておくと量が多くて邪魔になるので、トラックに積んで別の場所へ捨てに行ったりするらしいですよ」
 未憂の説明を布紅は目を丸くして聞いた。
「想像も出来ないです……」
「こちらではそこまで積もることはなさそうですからね。これくらいの雪ならどこかに寄せておけばなんとかなりますし。神社までの通り道をきれいにすればいいですか?」
「はい、あの……」
 布紅が言いかけて口ごもると、分かってますよと沙幸が続きを引き取った。
「あとで雪遊びできるように、雪かきをするのは通り道だけにしておきますからね」
「ありがとうございます。せっかくきれいな雪ですから……」
 必要以上に雪を取り除いてしまいたくはないのだと布紅は頼んだ。
「分かりました。では通り道と、あとは参拝の方が立ち寄りそうな場所と……神社の周りで雪に隠れていると不便なところだけにしておきますね」
「はい。ではよろしくお願いします」
 未憂の返事に、布紅はほっとした様子で礼を言った。


 二礼二拍手一礼。
 いつものようにきちんと礼をして、大岡 永谷(おおおか・とと)は福神社を訪れた。
 着ているのは自前の巫女装束。そしてそのままの恰好で雪かきに参加する。
「神社のお手伝いなんだから、ワタシも巫女服とかに着替えたほうがいいかしらね?」
 永谷の巫女姿を見たアルメリアが、どうしようかとコートの裾をつまむ。
「私はこの恰好でやるよ」
 福神社を手伝うときには巫女装束を身に着ける沙幸だが、今日は温かくてかつ動きやすい服装をして、足下は滑りにくい長靴を履いている。
 巫女装束は寒い上、足下が滑りやすく濡れやすい。雪かきには不向きな恰好だ。
「そうだな。俺も本当は防寒着に身を固めてやりたいところだけど、ほら、こういう神社の場合は、実家でもそうだったけど、パフォーマンスが大事だしさ」
 あえて巫女姿を選んだのだと、永谷は説明する。
「布紅ちゃんはどっちがいいと思う?」
 何を着るかを決めかねて、ここは神様の意見をとアルメリアは聞いてみた。
「着るものですか……? 何でもいいと思いますけれど、あの……風邪引かないような恰好なら……」
 言いながら布紅はレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)に目をやった。
「え? 私?」
 視線を感じたレオーナは振り返ると、ひらひらと手を振った。
「あ、雪とか寒いのとかは全然平気。だって私、風邪とかひいたことないもの。春夏秋冬を問わずこれで余裕よ」
 これ、というのは何とビキニの水着。
 見ている方が寒くなってくるが、レオーナは真夏のビーチにいるかのように自然だ。
「いや〜ん、布紅ちゃんったら心配してくれるの? 嬉しい!」
 ビキニ姿でレオーナは布紅をぎゅっと抱きしめた。
「あ、あの……」
「うふふ、まずはステディなお友達からはじめましょ。いいのいいの、私がぜーんぶ教えてあげ……おっとっと」
 すりすりと布紅に頬をすりつけていたレオーナは、はっと気付いて顔を離した。
「神聖な場所で煩悩暴発してちゃあいけないわね。よーし、この私の湧き上がる布紅ちゃんへの愛、お賽銭でもお手伝いでもなんでもやって示しちゃうわ!」
 レオーナはお財布を開けると、それっとばかりに中身すべてを賽銭箱に投入した。
「あああ……そんなことしたら……あ、おつり返します、返しますから」
 布紅が慌てて賽銭箱に手をかけるが、レオーナはいいのいいのと笑顔全開。
 今度はスノープッシャーを手に、力一杯雪をかく。
「そりゃーっ! 届けマントル! 地殻だってなんのそのー!」
 雪かきというより地面かき?
「何だか……怖い音がしてますね……」
 布紅は目を見開いてレオーナの作業を眺めた後、くすっと小さく笑った。