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リアクション
■ 雪まみれのデート ■
むき出しの肩に触れる冷気に、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は目を覚ました。
そういえば昨晩はあのまま眠ってしまったんだった……そう思って隣を見ると、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はセレンフィリティと同様に一糸まとわぬ姿で、まだ眠っていた。
こんな恰好だからということもあるのだろうけれど、それを抜きにしても寒い。
そう言えば昨日の天気予報で雪が降るかも知れないと言っていたような……。
もしかしてと思いながらセレンフィリティは起きあがると、切れた暖房のスイッチを入れ直してから窓を開けた。
やっぱり雪が積もっている。
うっすらとではなく、一面銀世界になるほどに。
その風景にしばしセレンフィリティはみとれた……が。
「クシュン」
寒さの刺激ででたくしゃみに、慌てて服を着た。
「さむ……」
開け放しの窓から流れ込む冷気に、セレアナも目を覚ました。
「おはよ、セレアナ。ほら、雪が積もってるよ!」
セレンフィリティは振り返ると、セレアナに窓の外を指さしてみせた。
雪なんて、教導団の冬季訓練の際などでは地獄以外の何物でもない。実際セレンフィリティ自身、冬季のサバイバル訓練に参加したときには、本当に地獄を見たものだ。
雪の寒さは体温を奪い、雪に覆われた大地は移動を妨げ、あるいは思わぬところでその下に隠していた牙をむく。
その怖さと厄介さは身に染みているけれど、今は訓練中ではない。休日に見る雪は何かしら、セレンフィリティの心をときめかせた。
「セレアナ、雪の街にデートとしゃれこまない?」
「はいはい、そう言うと思ったわ」
セレンフィリティの行動パターンなど、恋人のセレアナにはお見通しなのだろう。セレアナはもう既に、外に出られるような厚着に着替え始めていた。
外に出た2人は、どこに行くというあてなく近所をぶらついた。
「雪があるだけで、違う街を歩いてるみたいに思えるね。あ、雪だるまがある!」
子供が作ったのだろうか。道ばたにある少し傾いた雪だるまを見付けると、セレンフィリティは駆け寄った。
「なんかこれ、首かしげてるみたいに見えない?」
「そうね。その隣のはきれいに出来てるけど」
傾いたもの、几帳面に作られたもの、大きいもの、小さいもの。
街のそこかしこに雪だるまや雪うさぎが出来ているのを見て歩くのも、雪の日の楽しみの1つだ。
「あんな所にかまくらがあるよ。誰かいるのかなぁ」
「ちょっとセレン……」
かまくらの中に入っていってしまうセレンフィリティを、セレアナは小走りに追った。
勝手に人のかまくらに入るのはまずいだろうと思ったのだが、セレアナが追いつくより先にセレンフィリティはかまくらから出てきた。その手には焼きたての餅がある。
「もらっちゃった。セレアナにも半分あげるね」
セレンフィリティが半分にした餅を食べながら、セレアナはつい苦笑する。
「もう21歳なんだから、もう少しおとなしくできないものかしら」
そうは言っても、実際におとなしくしているセレンフィリティは想像出来ないし、そもそもセレアナが好きなのはそんな子供のような所のある彼女なのだからしかたがないのだけれど。
からかい混じりのセレアナの言葉に、セレンフィリティは笑って言い返した。
「そんなこと言って、本当はセレアナだって思い切り楽しみたいんでしょ。……えいっ!」
不意打ちに雪玉を投げつけると、弾けた雪玉でセレアナは雪まみれになる。
それを見てセレンフィリティは思いっきり笑ったが、すぐにお返しの雪玉がびしっと飛んできて肩に当たる。
「じゃあお返しのお返しっ!」
「ちょっとセレン、私はそんなに大きな雪玉ぶつけてないわよ」
お返ししあってるうちに段々本気になってきて、2人は次々に雪玉を作っては投げ合った。
散々やりあううちに、どちらのコートも雪まみれ。
相手の恰好を見て、笑って笑って。
気が付いたら、2人とも雪の中に倒れて大声で笑い合っていた。
恋人として、パートナーとして、セレンフィリティとセレアナは一緒にいるけれど、こんな風に過ごせる時は貴重だ。
涙が出るほど笑うと、2人は雪を払って立ち上がる。
「すっかり冷えてしまったわね。なにか温かいものでも飲まない?」
「いいね、行こう!」
しっかりと手を繋ぐと、セレンフィリティとセレアナは雪の街を歩いてゆくのだった。
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