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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ 今日は、雪日和 ■



 パートナーたちと共に買い出しに来ていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は、ふと気が向いてふらりと空京神社の境内に足を踏み入れてみた。
 かなり開発が進んでいる空京の街だけれど、神社には緑が多く残り、そこに雪が一層風情を添えている。
 そんな景色に甚五郎が目を奪われているうちに。
「あれ? こんなところにも道があるよ。スワファル、行って見よ!」
 探検気分でルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)が脇道に入り込み、スワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)もそれについていってしまった。
 脇道は広くはないけれど、きちんと雪かきされているから歩くのに問題はない。
「あ、あれって神社かな?」
 見えてきた小さな神社をルルゥは指さした。
 人の文化に興味のあるスワファルは、ふむふむと神社の佇まいに見入った。
「これが神社と言う建築物であるか。スバライシ文化である」
「ここって宗教の場所なんだよね? でも教会とかと違ってなんだかホンワリした場所だね〜」
 居心地良いねとルルゥは笑った。
「確か我が主の生家もこういった類のものだと聞いているが……ルルゥ殿の言う様に荘厳というよりはホンワリといった雰囲気というか、空気であるな」
 清浄であるけれど厳めしいところのない、まろやかな気の流れ。
「ココを管理するものの人となりなのか、神の力か……興味深い」
「あっちにかまくらがある! ね、もっといろいろ見て回ってみようよ!」
 ルルゥが走り出そうとしたとき、
「む、ルルゥたちはココに居ったか」
 姿が見えなくなったルルゥとスワファルを探しに来た草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が、2人を見付けて声をかけた。
 すぐに甚五郎もやってきて、ほっと安心した顔になった。
「おっと、こんな所に来ていたのか。あまり好き勝手に動くと迷子になるぞ」
「心配かけてごめんなさい〜。道がどこに続いてるかなって来てみたら、ここだったんだよ〜」
 ルルゥの言葉に甚五郎は付近をあらためて見回した。
「神社か。大きな神社ではないがいい場所だなココは」
 羽純は甚五郎の言葉に頷く。
「ほう、そなたもやはり感じるか。これは優しい雰囲気の神社じゃな」
「この場所は人々に愛されて、大事にされている場所だ。ふむ、これも何か縁か。無人でもないようだし、ここでお参りをして、お守りを頂いて行こうかな。今年はいろいろあったから、買いそびれてしまったんだよなぁ」
「ならば妾も参っておこうかの」
 2人の会話を聞いていたルルゥが、羽純に飛びついた。
「ルルゥもお参りする〜!」
「お参り……参拝か。主よ、参拝とはどのような様式で行うものなのか?」
 こういうものは勝手が分からぬと、スワファルは甚五郎に問うた。
「一般的には、二礼二拍手一礼だな。わしがやってみせるから、真似てやってみてくれ」
 見本にと甚五郎が参拝し、パートナーの皆もそれにならってお参りを済ませた。
 さてお守りは……と見やれば、授与所らしき場所は見あたらず、かわりにかまくらが目に入った。
「あ、かまくら〜!」
 走って行くルルゥを追いかけてゆくと、かまくらの入り口付近に立っていた騎沙良詩穂が呼びかけてくる。
「参拝が済みましたら甘酒はいかがですかぁ? 身体が温まりますよー」
「年齢的に大丈夫な方は御神酒も用意していますので、よろしければどうぞ……というか、わたくしが飲みたいくらいで……」
 そう言いかけてセルフィーナは笑いの中に語尾を濁した。
「参拝お疲れさまです。疲れたときには甘いものは良いですよ。甘酒だけでなく、お汁粉もありますので召し上がって下さい」
「お代わり沢山ありますので、遠慮なさらずに」
 神楽坂翡翠と桂もさあどうぞと参拝客らを招き入れている。
「せっかくだからいただいてゆこうかのぅ?」
 羽純の視線を受けて、そうだなと甚五郎はかまくらに入った。
 それぞれが好みのものを貰い、かまくらの中でゆっくりとくつろぐ。
「ここではお守りは頂けないのだろうか?」
 ついでにと聞いてみると、それでしたらと翡翠が社を目で示す。
「福神社には授与所がありませんので、もし必要があれば社で布紅さんに尋ねてみるといいですよ」
 案内します、と翡翠は先に立とうとしたが、それを桂が止めた。
「主殿、昨日、雪の降る外に何時間もいましたよね。ただでさえ、たまに寝込んだりされてますし。俺が案内しますから、主殿はかまくらの中にいて下さい」
「雪には慣れているので平気ですけど……それに何時間もいましたっけ?」
「はい。俺はちゃんと見てましたから」
「雪を見ているのは好きなんですよ。何もかも白く隠してくれそうですし」
「今度からは、家の中で見て下さいね。また倒れたりしないように。――では、ご案内します」
 翡翠に釘をさしておいてから、桂は甚五郎たちを布紅のいる社へと先導していった。
 その桂の背を見送りつつ、翡翠はふと思う。
 甘いもののふるまいが終わったら、帰りに福神社で、
(レイスが落ち込みの、空元気から復活できますように……)
 と願い事をしていこう、と。

 社に向けて呼びかけると、すぐに布紅が姿を現した。
「お守りを8つ程、頂けるだろうか。あれば破魔矢も1つ頼みたい」
「はい。ちょっと待ってて下さいね」
 甚五郎の頼みに布紅は裏に引っ込むと、ほどなくお守り袋と破魔矢を持って戻ってきた。
「ええっと、袋、袋は……」
 確かこの辺りに、と布紅ががさがさと探していると。
「だから布紅さま、私たちがいるときにはそういうことは任せて下さって良いんだよ」
 笑い含みの久世沙幸の声がかけられた。
「ついいつもの癖で……あ!」
 振り返った布紅は沙幸と、沙幸が手を引いている年配の女性の姿に目を見張り……次いでぱっと笑顔を咲かせた。
 毎朝、福神社にお参りに来ている女性は、おっとりと頭を下げる。
「今日はこんな天気だから、随分と遅くなってしまってごめんなさいねぇ」
「いいえ、そんなこと……来て下さって嬉しいです」
「あんまり雪が多いもんだから、ここまで来られないんじゃないかとも思ったけど、雪がきれいにかいてあって助かったわ。この歳になると、ちょっとしたことが身体にこたえてしまってねぇ。でもその分、人がしてくれる色んなことをありがたく思えるようになったと言えば、そうなのかしら。ああ、お嬢さん、ありがとうね」
 ほほ、と女性は笑うと、ここまでエスコートしてきてくれた沙幸に礼を言ってから、いつものように福神社に参拝したのだった。


 雪は空からの贈り物。
 心浮き立つものであり、同時に厄介なものでもあるけれど。
 雪があるからこそ見えるもの、雪が冷たいからこそ分かる温かさがきっとある。
 だから。
 今日は、雪日和――。