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リアクション
■ 雪の日だって仲良しさん ■
ヴァイシャリーに結構な量の雪が積もったから雪遊びしよう。
そう桐生 円(きりゅう・まどか)に誘われて、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は外に出た。
「わー、真っ白。パラミタは車も少ないから、すごく綺麗に見えるなぁ」
昔はよく雪で遊んだけれど、最近は結構ご無沙汰だった。雪だるまを作りやすそうな雪に笑顔を向けると、長靴に手袋、マフラーも巻いて寒さ対策をした歩は、待ち合わせの場所に向かった。
「歩ー! すごい積もってるね! 雪だるま沢山作れるね!」
やってくる歩に気付いた円が、手袋をした手を大きく振る。
こんにちはと挨拶するロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)も、暖かいコートにマフラー、手袋ときちんと防寒対策している。いつもよりもこもこした皆の恰好は、こんな雪の日に似つかわしい可愛さだ。
「これくらい雪があったら、雪だるまだけじゃなくて、かまくらも作れる?」
「円ちゃんが作りたいのは雪だるまとかまくら? 雪だるまはともかく、かまくらは結構難しいなぁ」
歩からの返事に、円はそうなの? と聞き返す。
「うーん、雪が沢山いるし、しっかり固めないといけないから人手も必要なんだよね」
「人手……ペンギン手でもいいなら、DSペンギンたちがいるけど」
「ふふ、力強い助っ人だね。じゃああとは雪をどう集めるか……そうだ。どうせなら、雪かきしてる人の手伝いをして、その雪を雪遊びできそうな広いところに運ぶってのはどうかなぁ?」
歩の提案に、それは良いですねとロザリンドも同意する。
「街の人のお手伝いも出来ますし、雪もたくさん集まりそうですね」
「なるほどねぇ。じゃあソリも持って行こうか」
ちょっと取ってくる、と走り出した円は、つるんと滑りそうになっておっとっとと両腕を振り回してバランスをとった。
「雪かき、良かったらお手伝いしますよ」
街で雪かきに手こずっている人にそう声をかけて手伝い、集めた雪も回収してゆく。
雪かきで出た雪の処分も大変なものだから、街の人は皆喜んでくれた。
「良かったらこれを持っていっておくれ」
マフィンやチョコレート、あり合わせのお菓子をお礼にくれる人もいて、3人は楽しく雪かき手伝いをしながら広場へと雪を運びこんでいった。
十分雪が集まると、広場で雪遊び。
「雪だるまなら、とりあえず雪を集めて固めて、それをころころ転がしていったら、結構簡単に出来たはずだよ」
歩のアドバイスに、よーしと円は雪の玉を作って転がし始めた。
ころころころころ、ころころごろごろ、ごぉろごぉろ……。
最初は軽い雪玉だけど、転がすうちに大きく重くなってゆく。
胴体部分は転がしたままの状態で置いておけば良いけれど、頭の部分はそうもいかない。
「うんしょ……」
「あ、円ちゃん、頭持ち上げるのは1人でやらない方が良いかも」
結構な重さになるからと歩は注意したが、円は平気平気と頭部分の雪玉を抱え、胴体部分にどさりと載せた。
「うわっ、崩れた!」
思い切り良く載せたのがいけなかったのか、雪だるまの頭が崩れて変形する。
「うむむ、ま、まぁいいや」
細かいことは気にしないようにして、円は雪だるまに穴を2つ空けて目にして、口の部分はカーブを描いて線を引く。
「完成ー! どうかな?」
「……円ちゃん、これちょっとホラーかも」
ひしゃげた頭とぽっかりと空いた空洞のような目。裂けたような口の雪だるまに、歩は引き気味に答える。
「円さんよりもペンギンの方が上手ですね」
ロザリンドが指した所では、DSペンギンたちがぺたぺたとペンギン型の雪像を器用に作っていた。
(がーん! 正直ボクより何倍もうまい!)
円はショックを受けたが、ぐっと拳を握りしめて踏みとどまる。
「負けてない! 負けてないよ! 魂こもってるから!」
「次の雪だるまは、頭を載せるときに言ってくれれば手伝うからね。そしたらきっと恰好良い雪だるまになると思うよ」
「そうだね! 次こそはっ!」
歩に励まされ、円はまた雪玉を転がし始めた。
その円の様子を真似て、ロザリンドも雪玉を作った。といっても雪だるまにするにはかなり大きなサイズにまで雪玉を成長させる。
そして……。
「はあっ!」
気合いを込めて、巨大雪玉を両断する。
「リンさん……?」
何事かと目を丸くする歩を振り返り、ロザリンドは笑顔で言った。
「これでかまくらが2つ作れますね」
ロザリンドのダイナミック勘違いに、歩はしばし言葉を失った後、かまくらの正しい作り方を教えたのだった。
「なるほど、雪を積んでしっかり固めないといけないのですね」
歩の説明を呑み込んで、ロザリンドは頷いた。
任せて下さいとばかりに、今度は大量の雪を山にして。
「私の力、今ここで使うとき!」
契約者フルパワー張り手での雪固め。
「うわー、ろざりん凄いやー」
雪だるま作りを終えた円もやってきて感心する。
「リンさん、あまり固くすると中を掘るとき、ものすごく大変になっちゃうと思うからほどほどにしたほうがいいかも……」
雪というより氷の家になってしまいそうな勢いに、歩は慌ててロザリンドを止めた。
そんな紆余曲折はあったけれど、3人とペンギンたちはかまくらを作り上げた。
頑丈に出来たそれはかまくらというよりも、エスキモーの住むイグルーのようにも見えたけれど……中に入れば風を遮ってくれてちゃんと暖かい。
「鍋材料の買い出しに行ってくるから、かまくらの維持はお願いね」
おみやげにイワシを買ってくるからとDSペンギンに留守番を頼むと、3人は鍋材料の調達に出掛けた。
「何を買えばいいのかなー?」
「好きなものをそれぞれでいいんじゃないかな。色々入ってた方がきっとおいしいよね」
「そうですね。鍋には色々入れるとそれぞれの風味が混ざって美味しくなるのですよねー」
皆同意見、ということで、それぞれが思い思いの材料を選ぶ。
「えーっと、ガスコンロ、土鍋と、水……モツ、ポン酢も欲しいなー」
円は材料だけでなく、鍋をするのに必要なものやかまくらに敷く為のシート、それからDSペンギンたちの為の新鮮なイワシを買った。
あとは皆が買ったものを見てから何鍋にするか考えようと、円はロザリンドの籠をのぞいてみた。
「ろざりんのは……チーズと……青汁? これを鍋に入れるの?」
「あら円さん、いくら私でも青汁を鍋に入れたりはしませんよ」
ロザリンドはにっこりと答える。
「そうなの? 良かったー」
「これは日本のすき焼きをヒントにしたんです。お鍋は熱いでしょう? だから生卵の代わりに小鉢に青汁を入れて、具材に絡めて食べたらどうかと思いまして。冷ますのと栄養とを同時に」
「け、健康に良さそうだね……」
どうやらかなり覚悟が必要そうだと円はごくりと唾を呑み、歩に目をやった。
(歩がきっと、きっと! なんとかしてくれる! うん! 信じてる!)
「今日はお疲れさまー。はいこれ、2匹ずつだよー」
かまくらに戻ると、円はDSペンギンたちにイワシを配ってねぎらった。
人の方はシートを敷いてコンロをセットすると、早速鍋の用意をする。
鍋の材料は、組み合わせを考えないならばとても豪華だった。
「カニにエビにスジ肉に帆立、ウィンナー、ジャガイモに豆腐に豆乳にチーズに牛乳にー」
「あ、待ってリンさん、纏めていれると味が喧嘩しちゃうかも」
勢いよく投入しようとするロザリンドを止めると、歩は材料の味がごちゃごちゃにならないように気をつけて、種類分けして入れていった。
やがて鍋からは湯気が立ち上り、かまくらの中に美味しそうな匂いがたちこめる。
「はい円さん、どうぞ」
ロザリンドは青汁を入れたとんすいを円に笑顔で差し出した。
「う、うん……ろざりんの工夫だもんね………」
「うふふ、美味しい手料理をあの人に食べてもらえるように頑張りませんとー」
美味しいお鍋を差し向かいで、と幸せそうに想像するロザリンドと裏腹に、円は悲壮な顔つきでとんすいに溜まった緑色の液体を眺め……そして思い切って煮えた具材をひたして口に放り込んだ。
すき焼きのような濃い味付けにした鍋ではないから、ただの青汁をつけたら味が薄まるばかりで美味しくない。
「うう……青臭い……味があんまりしない……」
「では何か青汁に味付けしてみましょうか。ケチャップとか?」
「ろざりん、ストーップ!」
手で蓋をして、円はケチャップを入れられるのを阻止する。
「ではマヨネーズにしてみましょうか。青汁はお野菜の仲間みたいなものだから、きっとマヨネーズならあいますよ」
「やーめーてーえー!」
「あ、円ちゃん走ると危ないよー」
逃げ回る円がコンロにぶつからないようにと、歩は慌てて両腕で鍋をカバーするのだった。
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