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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

リアクション

 
 
「俺の出る幕が無いぜ」
 付近の木々の中で一番高い木の枝の上から、森のどこからか激しく上がる煙と火の手を見て、『ヒ』はくつくつと笑った。



 イルミンスールの山火事は、3日続いた後にようやく消し止められ、コハクはザンスカールの町に運ばれていた。

「容態はどうだって?」
「今はちょっとショックが大きいけど、すぐ元気になるって言ってたよ〜」
 心配そうな永久に、よかったねぇ、とクロードが答え、元気になる、という言葉に永久はほっとする。今は、森の中でのコハクの言動に激怒したフィルラントが、「説教の前に食って寝ろ!」とつきっきりで面倒を見て、ご飯を食べさせたりしているらしい。
「お見舞いに行ってもいいかなあ?」
「喜ぶと思うよ」
 クロードが言うので、もう少し元気になったら行ってみよう、と永久は思った。

「俺もちょっと様子を見てこようかな」
 レイユウの呟きに、
「またそういう自虐的なことを……」
と匡が苦笑して、
「おま……あのな、だったらいい加減この服を何とか……」
と、レイユウが言いかけた途端、
「トイレ」
と、匡は席を外してしまった。
「くそう、馬鹿匡、覚えてろ――」
 虚しい捨て台詞を吐くレイユウだったが、
 それでも匡の言いなりに純白のドレスを着続けているあたりいい奴よね……でかい図体して(※翠葉談)、
 と仲間からも生暖かい目で見られていることは本人以外は誰もが知っていることだった。

 ちなみにレイユウはその後やっぱり見舞いに行き、やっぱりコハクに動揺されて、軽く落ち込んでいたという。


「訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」
 調査の前にコハクに確認しておきたくて、見舞いがてら、風森 巽(かぜもり・たつみ)はコハクに訊ねた。
「セレスタインでアズライアが倒したという1人、何という名で呼ばれていました?」
「……ごめんなさい、解らない」
 その1人だけでなく、他の者の名も、コハクが知ったのは空京に来てからだ。
「じゃあ、その1人が倒された時、他の4人の反応はどうでした?」
 その問いにもコハクは答えられず、戸惑う。
 特に何かを憶えているような、特殊な反応をしていなかった、と、思うのだが、何か重要なことなかと思うと、ただ必死で逃げて、解らない自分が情けなかった。
「……いえ、変な質問をしてすみません。
 ただ、彼等の命が『魔境化』と繋がっているのでは、という仮説を立てているのです。それで」
 もしも『ヒ』を倒したら、それによって魔境化が成されるのでは。と。
 コハクは目を見開く。つまり、彼が言おうとしているのは。

「アズライアが1人、倒したことで、セレスタインが魔境化した……?」
「……予想ですから」
 イルミンスール大図書館で色々調べてみるつもりです、と言った。

 予測を語ったのは失敗でしたか、と、神話や伝承の類を調べながら、巽は思う。
 コハクは随分動揺していた。
 確証が取れるまでは、言うべきではなかったのかもしれない。
「巽〜〜、ダメだったあ」
 パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が現れて、静かに、と巽は人差し指を上げた。
「ごめんごめん。
 でも、学校では誰もヴァルキリーの隠れ里のこと知ってる人いなかった」
「生徒に聞いても無理でしょう……」
 イルミンスール魔法学校は、パラミタが地球上に現れてから創設された学校なのだ。
 こういう大図書館を抱えていたりはしているが、学校内でそこまでローカルな情報が入手できるとは思えない。
「でも、もしもってことがあるじゃん。だめだったけど〜。
 巽の調べものの方はど?」
 闇や瘴気を浄化した、というような内容の伝承が無いかと、巽は探しているのだが、
「……正直、ありすぎて困っています」
「ありがちなネタだもんね〜」
「聖地、というキーワードで絞ろうかと思ったのですが、それだと今ひとつ食い付きが悪くて……」
 以前誰かがアーデルハイト・ワルプルギスに話を聞いたことがあったらしいが、その時アーデルハイトは”聖地”という言葉を知らなかったという。
 恐らくこれは後々になってから呼ばれるようになった呼び名なのだ。


「セレスタイン。ヒラニプラ。イルミンスール……、か」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)は、判明している”聖地”の場所を並べ上げて、首を傾げた。
「これには、何か関連性とかはないのか……?」
 何らかの法則性などが解れば、例えば『ヒ』以外の者が画策しているはずの、多の聖地を探し出すことも難しくないはずなのだ。
「イルミンスールを魔境化するだなんて……」
 ヴァルキリーであるパートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、故郷がイルミンスールである。
 今回のことは穏やかではいられなかった。
「西洋魔術、東洋の五行思想、風水、全て関係ないようだな」
「シャンバラにはシャンバラの、地球とは違う思想が存在している、ということかしらね」
 アメリアの言葉に、それはそうか、と思う。
 ここは地球ではない。シャンバラなのだ。
「そうすると、どうやって場所の特定をすればいいんだろう」
「とりあえずは、イルミンスールを護ることに専念したらどうです。その後はその後で」「いや、一応そのつもりでいるんだけどな」
 だってイルミンスールの聖地の場所もまだ解ってないじゃないか。と、アメリアの前でぼやくのは、格好悪いのでやめることにした。


 「ザンスカールの町ひさしぶり! あのお店まだあるかな〜ねえ食べに行こうよ!」
 菅野 葉月のパートナー、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)がうきうきと町を見渡して言う。
「そんな場合じゃありませんよ」
「え〜ありますよ!
 森で戦って終わって今はゆっくり休む時じゃん。
 今行かなくていつ行くの?」
 いいよーだ葉月が行くつもりないなら1人で行くし。
 別にいつも1人で行ってるんだから、と出かけようとするミーナに葉月は待ったをかけた。
 何しろ、ミーナは無自覚でひどい方向オンチなのだ。過去、1人で出掛けてまともに1人で帰ってきたことがあったろうか。
「待ちなさい。わかりました。一緒に行きます」
「ほんと? うわーい!」
 何となく、嵌められたような気がしないでもなかったが、ミーナが嬉しそうなので、まあいいか、と思う葉月だった。


 イルミンスールの森にも聖地があり、それが狙われているという。
 森を護りたい! と、何か異変があったらすぐ解るよう、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、森の中の適当なところにキャンプを張り、森に異変があったらすぐに駆け付けられるよう、待機することにした。
「問題ないのか。森にはモンスターもいるはずであろう」
 パートナー同士、何かあれば携帯ですぐに連絡がとれるとはいえ、普通にモンスターがはびこっている中で寝泊まりする、というカレンに、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)はいささか心配そうに言う。
「その時はその時! ボクそんなに弱くないよ、大丈夫!」
どんと請け負って、カレンはテントを担いで箒にまたがり、森の奥へと消えて行った。
 大胆なんだか無鉄砲なんだか解らぬな、と、妙に褪めた目でそれを見送ってしまうジュレである。

 そうして、モンスターの跋扈する森の中で、大胆にも熟睡をかましたその次の日、カレンは不思議なものを見た。
 森の中を、魚が泳いでいる。
 体長は3メートルほどもあろうか、巨大で長い魚が、空気中を水の中のように、木々の間をぬってゆらゆらと泳いでいるのだ。
 青銀色の鱗が、木漏れ日に弾いて輝いている。
「……森海魚だ……図鑑で見たことある……。
 でもあれ、すっごい森の奥地にしか棲息してないって……」


 めいっぱい高度を上げて、イルミンスールの森の上空を小型飛空艇で越えていた時枝 みこと(ときえだ・みこと)とパートナーのフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)は、森の中から立ち上る煙に気付いた。
「山火事?」
 数日前、イルミンスールの森の外れで大規模な山火事があったと聞いていたフレアの声に緊張が走ったが、
「いや、あれは、狼煙だよ、多分」
と、みことが答えた。
「狼煙? 誰かが誰かを呼んでいるのでしょうか……。
 色によって意味が違うとかあるんでしたっけ?」
「詳しいことは知らないけど。行ってみようか?」
 好奇心にかられて、みことは狼煙の方へ向かってみた。

 カレンからだ、と思いながら、着信音が鳴った携帯に出てみると、
『た、たすけてぇ』
と一言聞こえたきり切れてしまってジュレは焦った。
 一体何があったのか、
「とにかく、行かなくては」
 ジュレは箒を抱えて外へ出た。

「……何やなあ、ザンスカールに着いた途端、コハクはん寝込んでもうて、イルミンスール学園へ行ってみたらどうやゆう場合やなくのうてもうたなぁ」
 一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)はやれやれと溜め息をついた。
 正確には、寝込んだコハクをザンスカールに運び込んだ、なのだが、細かいことである。
 自分もイルミンスール学生ではないし、アーデルハイトに会いたいと行ってみたところで簡単に会えるものではないだろうと解ってはいるが、”光珠”を直接見せて、何か意見が貰えないものかと思っていたのだ。
「5,000年も生きとるんやし、サービスをけちけちせんでもええと思うよなぁ」
 うんうん、と頷きながら、ザンスカールの町をてくてくと歩く。
 犬も歩けば棒に当たる〜、などと呟いていたら、目の前を箒が横切った。
「おやぁ?」
 かなり慌てた様子で飛び去って行く箒に興味が沸いて、走って追いかける。
 散歩〜、などと言って小型飛空艇を置いてきたことを後悔したが、体育は得意なのだ。

 みこと達が見たのは、おびただしい森海魚の群れに追いかけられているカレンだった。
「どうしたの、これ!?」
「わっかんない数が多すぎる〜〜〜!!!」
 1匹2匹なら、別に苦戦するモンスターではないのだ。
 だが数が多すぎる上にピラニアみたいに凶暴で、悠長に相手してられないのである。
 町が近くなってきたのか、人影を見付けた。
「ねえ、この群れ引き連れて町に戻るってヤバくない!?」
「だって振り切れないんだもん!」
「何だ!?」
 魚の群れを背負って飛ぶ箒と小型飛空艇を目撃して、振り向いたその人影、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が目を丸くする。
 クルードを見付けた森海魚が数匹、目標を変えて向かってきたので、すぐさま剣を抜き払った。
 パートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が数の多さを見て顔色を変える。
「クルードさん、援護しますっ」
 クルードは剣を一閃して1匹を斬り払ったが、魚は次々向かってくる。
「手伝うぜ!」
 騒ぎを聞き付けて町を飛び出して来た、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に群れに飛び込んだ。
「複数魔法を使う。巻き込まれるでないぞ!」
 言い放ちながら、カナタが魚の群れにアシッドミストを投げ放った。

「1匹だけ、色が違いますね」
 くんずほぐれつ、という感じでひとかたまりの戦闘の様子を窺っていた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、森海魚の中に、1匹だけ真紅の鱗を持ったものがあることに気付いた。
「スイミー?」
「君、地球の絵本なんて知ってたんですね……。
 まあ、じゃあ俺はあれだけ狙ってみようかな」
 クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)の小ボケに突っ込みつつ、剣を抜いて、いかにも何かありそうな真紅の森海魚を狙って斬り捨てた。

 と、ピラニアのように凶暴だった森海魚達の動きがぴたりと止まった。
 ざあっと波が引くように逆戻りしていく。
「カレン」
 ぜえはあと肩で息をするカレンにジュレが走り寄った。
「大丈夫なのか」
「あー、平気……ちょっと怖かった」
 あの大きさの魚に群れで追いかけられた迫力といったら無かった。
 しかしすぐに、はっとカレンは思い出したように箒に飛び乗る。
「追いかける!」
「えっ、何で?」
 話を聞いていたケイがぽかんとするが、
「帰巣本能があんの!
 凶暴だけど、棲処から滅多に出てこないんだよ!
 森の奥で何かあるかも!」
 セリフの終わりの方は、飛び去る箒の上からで殆ど聞こえてこなかったが何を言っているのかは解った。
「乗りかかった船!」
 みことの小型飛空艇がそれに続く。
「……嵐のような奴だな」
 呆気にとられて見送ったカナタが、ぽつりと呟いた。