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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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 そこで探知機を使わず、己のカンで探り出すのが、ローグの腕の見せ所というやつである。
 奥の塔は、一際大きな建物の天井から突き抜けて伸び、町の天井に突き当たっている、という感じだった。
 それよりも、塔を囲むようにしてその建物を造った、という方が正しいのだろう。
 鍵はかかっていなかったので、その建物内には簡単に入ることができて、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)はお宝を探して内部を探索していた。

「あっ、京達の他にも人を発見したのだわ! お仲間なのだわ!
 そこの巨乳姉妹さーん、京も一緒に行くのだわ!」
 けたたましい声にガートルードと、パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が振り返ると、九条院 京(くじょういん・みやこ)文月 唯(ふみづき・ゆい)が歩いて来る。
「……どなた?」
「水臭いこと言わない! お仲間じゃん。
 旅は道連れジンカイセンジュツなのだわ!
 1人より2人より3人より4人でしょ!」
「悪い、こいつ対人スキルがゼロで……」
 図々しいまでの自己中っぷりに、後ろで唯がこっそりガートルード達に謝っている。
 ああ、つまり空気が読めない可哀想な子ってこと……と2人は納得した。
「連れは要らないけえ……」
 シルヴェスターが言いかけて、視線をずらす。

 廊下を曲がった向こうから、何かが転がってきた。
 大人が1人入れるほどの箱だ。
 タイヤの付いた4本のタコ足を付けた箱が、4人の近くまで来て制止する。
「何?」
と京が振り向くと同時、唯が叫んだ。
「京、逃げろ!」
 『禁猟区』が発動したのだ。
 カチカチカチ、と赤い光を点滅させいてた箱が、唯の声と同時に、バラリ、と分解するように開いて、中からおびただしい数の銃弾が顔を出す。
「何これえ!」
 ばら撒かれた銃弾を、京と唯は辛うじて躱した。
「侵入者迎撃システムか。ごついモン置いちょるのう」
 ガートルードと共に、しっかりと廊下を曲がったこちら側に避難済のシルヴェスターが、様子を窺って舌打ちする。

「そこの人、大丈夫ッ!?」
 声は箱の向こう側から響いた。
 叫びを聞き付けた椎名 真(しいな・まこと)が、別ルートからここへ来たのだ。
 真は箱の存在に気付くと、離れた場所から光条兵器の弓矢を撃ち込む。
 ダメージを負いながらも箱がそれに反応し、ぐるりと向きを変えた瞬間、
「よっしゃあ!」
 今がチャンスとシルヴェスターが飛び出し、箱の後ろから鋭い剣撃を叩き付けた。
 ガタガタガタ、と箱は動こうとして、ガクン、と崩れ、停止する。
 5人はほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫?」
 声をかける真に唯が
「ああ」
と頷き、京が
「あーびっくりした!」
と息を吐く。
「一筋縄ではいかないみたいだね、ここは」
 下手に突き進んでも危険かも、と真が言うが、ガートルードは
「ふん、面白いじゃない」
と笑い飛ばす。
「『下手』に進まにゃええんじゃろ」
 颯爽と歩き出すガートルードに続きながら、シルヴェスターが笑った。

 言葉通り、幾つかあった扉を無視して突き進み、ガートルードはやがて飾り気のまるで無い、大きな扉の前に立った。
 ローグのカンが、トレジャーセンスが、ここに何かがあると告げている。
 鍵がかかっていたが、そこはピッキングで外し、扉を開けた。

 中は広大といっていい空間だった。
「ドック……!?」
 真が唖然とする。
 そこは格納庫で、そしてそこには、飛空艇があったのだ。
「すっごい!」
 京も叫ぶ。
 確かにものすごいお宝だ。きっと売れば一生遊んで過ごせる。
 だが、ガートルードは渋い顔をした。
「……私のポケットにはちょっと大き過ぎますね……」
 運び出す方法が無いのだ。
 ここは地下にある施設で、更に建物の中だ。一体どうしろというのだろう。
「とりあえず調べてみるけえ」
 記録に残そうとあちこちからデジカメで撮影する真を置いて、シルヴェスターが入り口を探した。


 陽神 光(ひのかみ・ひかる)が、その建物内を調べながら、ここだと当たりを付け、鍵を開けた中の部屋には、檻があり、中には捕らわれている少女がいた。
「あなた、大丈夫ですか? 今助けてあげます」
 驚いて、うつ伏せに横たわっているその機晶姫の少女に、レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が声をかける。
 よろよろと身を起こした少女は、光達を見て、驚いた顔をした。
「だ、れ……」
「大丈夫、敵じゃないよ」
 全体的に薄い水色、という印象の少女は、髪も、髪と同じように伸びるコードも、腕より数倍も太い袖のチュニックも、チュニックから伸びる幾本ものコードも、全て同じ色をしている。
 はっと体を起こした少女は、檻の格子に張り付いた。
「……お願い……私より、柱を、柱を護ってください……!
 ”鍵”を奪われてしまったのです……!」
「落ち着いて。ここに来たのは私達だけじゃありません。
この聖地の魔境化を止めに来たのよ」
 少女の傍らに膝を付き、レティナが優しく、言い含めるように諭す。
「今頃、きっと誰かが止めているわ」
 だから話を聞かせて? と。

「俺がやるよ」
と、背後にいた犬神 疾風(いぬがみ・はやて)が進み出て、
「ちょっと下がってて」
と機晶姫の少女に言うと、剣を抜き払い、力技で檻を破壊した。
「だいじょぶ!?」
 疾風のパートナーの月守 遥(つくもり・はるか)がすかさず駆け込み、少女を檻から引っ張り出して、容態を見る。
 少女は外傷は無いようだったが、激しく疲労しているように見えた。
 肉体的にではなくむしろ、精神的に辛いことがあったような感じだ。
 
 少女は、ヘリオドールと名乗った。
「私は、この聖地の”守り人”です……。
 多分、それで捕らわれたのだと思います。
 あの男の目的は解りませんが、目的を達する迄は、保険として生かしておくのだと、そう言っていました……」
 あの男がこの聖地を襲撃した時、私以外の皆は聖地と私を護る為に皆死んでしまいました、と、ヘリオドールは涙を浮かべた。
「”鍵”って何?」
 同情はするが、一刻を争う時でもある。
 光が、先刻のヘリオドールの言葉で気になった言葉を訊ねてみた。
「”鍵”、とは……」
 ヘリオドールは言い淀む。
 それは、代々の守り人にしか伝えないことだったからだ。
「……この聖地は、力場という、地脈を流れる力の溜まり場です。
 それが暴走しないよう、護るのが、私達一族の役目です。
 柱は、力の流れを調節するもので、”鍵”は、その柱を……言うなれば、聖地の力を括る為のものなのです」
 ヘリオドールは、そう言ってうなだれた。
 柱、というのは、あの、町の天井まで伸びる塔のようなもののことだろう。
 この聖地の力はあの塔に集中し、それを括り、安定させているものが”鍵”なのだ。
「……”鍵”は、それ自体が力の結晶です。
 アトラスの力を抽出し、結晶化させたものだと言われています。
 清き者が持てば清き力に、昏き者が持てば昏き力になると言われているのです」
 だから、通常、”鍵”は守り人以外の者が手にすることは許されない。
「……それで、”鍵”を使って、『魔境化』……」
 レティアが納得して頷く。
 奴等は「昏き者」による”鍵”の使用で、昏き力を溢れさそうというのだ。
「…………あの男は何者なのですか」
 うなだれたまま、ヘリオドールは力無く訊ねる。
「それが、俺達にもよく解ってないんだけど」
 疾風が困ったように言った。
 自分達もまた、それを知る為に来たのだ。
「…………行かなくては……」
 ふらりとヘリオドールは立ち上がった。
「少し休んでからの方がいいよ?」
 機晶姫の顔色というのは良く解らないが、それでも、酷く顔色が悪く見える。
 遥は心配そうに言ったが、
「ここを護ることが、私の役目なのです」
と、ヘリオドールは哀しそうに答えた。
「それに……村の皆は死に絶えてしまったけれど、ここのガーディアンシステムはまだ動いています。
 貴方達の仲間も危険に晒してしまう」
 助けてくれてありがとうございました、と、ヘリオドールは深々と頭を下げる。
「待って待って。
 だからって1人で行くとか無いから」
 光がその細い腕を掴む。
「そうだよ。一緒に行こうぜ」
 うろたえるヘリオドールに、疾風が笑った。