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リアクション
「シャンバラバンバンバン♪
シャンバラバンバンバン♪
シャンバラバンバンバンシャンバラバン♪
シャンバラバンバンバン♪ オーッ!」
陽気な歌声を響かせながら、柱の間に続く廊下を、ダンボールロボット、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)達は突き進む。
「油断はするなよ〜」
緊張感が無いなあ、と思いながら、無駄と知りつつ一応、村雨 焔(むらさめ・ほむら)が声をかけた。
「心に余裕を無くしたらダメ♪
ガーディアン・イエロー只今参上!
王女サマに代わってお仕置きヨ〜」
「女王サマじゃなくてか」
冷静にぽつりとツッコミを入れたのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)である。
「情報が確かなら、居るのは『ツチ』という相手ですか……。
それの写真もあったら良かったんですけどね」
シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)が、空京郊外で撮影された敵の写真に目を通しながら嘯く。
「『ツチ』は来ていなかったらしいから仕方あるまい。
この聖地には機晶姫しかおらぬ。奥にそれ以外の誰かがいたら、そやつが『ツチ』ということ」
パートナーのリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)にそう言われて、それはそうですが、とシャンテは肩を竦めた。
建物の一番奥の部屋には、立ち塞がるように巨大な扉があり、鍵の無いその扉は、気になる壁面をしていた。
「これは……? 小さなブロックを一面に敷き詰めたような……?」
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が首を傾げながら扉に触れた途端、全てのブロックがバラバラと落ちてきて、ウィングは慌てて身を引いた。
落ちたブロックの向こうは、広間だ。
見える柱が、かなり遠い。
その前に誰かが立っていて、何事かと振り返るのが見えた。
「あいつね!」
見える人影は、ひとつ。ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)は叫ぶ。
と、床に落ちたブロックがカチカチと動き始めた。
それは集まって、ひとつの形を造り出す。
「何これ……恐竜!?」
アリシア・ノース(ありしあ・のーす)がぽかんと叫ぶ。
剥き出しの機械で出来た恐竜、というのが、それを見た第一印象だった。
「……ここは私達の見せ場ということですか」
と、ライ・アインロッド(らい・あいんろっど)が進み出て、銃を抜きながら焔達を見た。
「奴さんに気付かれてしまったんです、急がないとまずいでしょう。
ここは私が引き受けます」
「力に自信があるわけでもないけど、ボクにも手伝わせて」
カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)も銃を抜いた。
「ええ、ありがとう。ヨツハ、行きますよ」
「おっけ〜」
パートナーのヨツハ・イーリゥ(よつは・いーりぅ)が戦闘体勢に入る。
「……任せたッ!」
「こっちだッ!」
カーマルが機械の恐竜に銃を連射し、気を引き付ける間で、焔達はその横を走り抜け、柱の、『ツチ』の元へと激走する。
「さて」
セオリーなら、この数多のブロックをまとめて操る、中枢的なブロックがあっていいはずだが、それはどこだろうとライは機械の恐竜を見るが、特に他と違う、と思われるものは見つからない。
「まあ……区別がつくようにしているわけはないですか」
一番外側にあるとも限らない。
振り回される恐竜の尻尾を躱しつつ、カーマルは背後に回ってやはり一瞬狙いに迷い、とりあえず撃ってみて顔をしかめた。
「よっし。じゃあ、行くねー」
ヨツハが狙いを定め、カーマルとライの前後からの攻撃で攻撃対象を定め兼ねているのか、動きを淀めた恐竜にヨツハが突撃する。
恐竜は遅れてヨツハに反応したが、ヨツハは攻撃を受け流してその懐に飛び込んだ。
「爆炎破!」
恐竜の下腹部が燃え上がり、小さな爆音が幾つもあがる。
ライはすかさずヨツハにSPをチャージした。
「ヨツハ! もう一発!」
「あいあいさーっ!」
激しい爆音が上がる。恐竜をかたどっていたブロックがぼろぼろと崩れ、バラバラになって床に落ちた。
「……やった?」
カーマルが呟いた時、再びカタカタとブロックが動いた。
破壊されなかった、無事なブロックだけが再び集まり、今度は、違う形を造り出す。
使われるブロックの数が少ないため、恐竜よりは小さなそれは、
「……ヒョウ?」
「何と……簡単にはいきませんか」
苦笑したライに、ヨツハは笑った。
「だったら、最後の1個まで壊して行けばいいよ!」
「……だな」
カーマルも再び銃を構えた。
――そして、床の上でカタカタと動く、最後の1個に向けて、カーマルが狙いを定める。
銃声と共に、それは動かなくなった。
「さてと、あちらはどうでしょう?」
床は、こちらの戦闘とは関係ないとばっちりで酷いことになっている。
3人は部屋の奥へ視線を向けた。
走り寄って来る焔達に、その男は、誰何の声すらかけなかった。
「……っていうか、でか過ぎだろう!」
アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が叫ぶ。
巨漢の男だとは聞いていた。
しかしその巨躯は、3メートルはゆうにある。
「おおおおッ!」
そして彼の身長と同じ大きさはあるのではという大刀を一気に振り下ろした。
「!!!ッッ」
剣圧が刃となり、躱しきれなかったラルクの、銀色のコートを引き裂いた。
遅れてぶしっ、と手首が引き裂かれ、鮮血が飛ぶ。
「何だあ!?」
床を大きく割った一撃に、ラルクが叫ぶ。
「ソニックブレード×10、って感じ、かしら……?」
笑みを引きつらせて、荒巻 さけ(あらまき・さけ)が呟いた。
「あれで、外の入り口も破壊したんですね」
日野 晶(ひの・あきら)が察して呟く。
「口上くらいさせなさいっての、全く、ノリが悪いわね!」
ダンボールの手足部分に、ばっくりと傷が入っている。
「華野!」
その切り口が赤く染まっているのを見たアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)の叫びに、へーき、と合図した。
「ちっ、こんなところでやられてたまるか!」
恋人の為にも、強くなると決めた。
ラルクはぱっくりと傷の開いた腕を振り払って立ち上がる。
その時、柱から警戒音のような音が鳴り響いた。
機械の球体がしかも2つ、柱の裏側から飛んできて、侵入者を認識するような間を取った後、光線を撃ってくる。
「ちょっ、ここまで来てまたこれ!?」
援護役で後方に控えるテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が叫んだ。
「……というか、どうしてあの機械は、『ツチ』を襲わないんだ?」
パートナーと共に、部屋の隅からそっと成り行きを見届けて、というよりもむしろ観察している、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)に訊ねる。
「……恐らく、あの男が”鍵”を有しているからであろうな」
イーオンは答えた。
一通り調べてみたが、ここは力の溜まり場ではあるが、ここにいるからといって、自分達の力が増幅されたり、といった都合のいい事象はないらしい。
あくまでも、世界を流れる力の流れがここにある、というだけなのだ。
人1人をどうこうというレベルではなく、もっと大きなレベルでの問題なのだろう。
ただ、それを掬い上げて利用する方法は恐らくあるのだろうと考える。
例えば、あそこにある柱。
そして、”鍵”。
飛び交っては光線を放つ球体に、彼等の戦力が分散されてしまっている。
ウィングと焔とロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は球体のひとつ、さけと晶とシャンテ、そして筐子はもうひとつの球体に向かい、テレサやアイリスは後方から彼等の治癒をした。
「こいつ! でけえ図体して素早くて気持ち悪ぃ!」
あんな巨大な大刀を持つというのに、攻撃よりも早く、重圧な剣撃で吹き飛ばされたラルクは、床を転がりつつも素早く起き上がり、舌打ちを飛ばす。
そこへアインとリアンが魔法攻撃を飛ばした。
「!?」
直撃したはずなのに、全くダメージが与えられず、2人はきょとんとする。
「何が起きたのだ?」
「もう一度試してみるぜ!」
リアンは火術を、アインは雷術を撃ってみたが、やはり効かない。
いや、効かないというより。
「吸収されている……?」
「うおおおおおお!」
片手で大刀を振り上げた『ツチ』の手から、火と雷が伝って刃に移る。
それを『ツチ』は床に叩き落した。
バキバキバキッ!! っと、音を上げ、地震が起きたかのように、扉の向こうまで床が砕けてボコボコになり、さけ達は、足場を取られて転倒する。
「あいったあ……」
後衛のテレサ達の足元まで崩れて、受身も取れずに撒き込まれたテレサは、頭をさすりながら起き上がる。
「何これ、もう、瓦礫の山じゃない」
これを足場に戦うのは厳しい、と、戦うのは自分ではなくパートナーだが、思わずロザリンドの様子を窺う。
「ちぇすとおお!」
その時、ついに球体のひとつを捕らえた筐子が、掛け声と共に球体を叩き落した。
待ち構えていたように、さけがそれをまっぷたつに切り裂く。
「あとひとつですわ!」
見れば、丁度焔達も球体を破壊し、ロザリンドとウィングはすぐさま『ツチ』に向かおうとしていた。
「多少素早かろうが、とんだ猪ですね!」
光条兵器を手に、援護を受けながら、ロザリンドは床面すれすれまで屈み込む。
『ツチ』の懐に飛び込んだ瞬間、下から掬い上げるように、大きく、ランスを振り上げた。
光条兵器は、対象物以外を素通りする。
ランスは、正に『ツチ』の足元の地面から突然現れた。
「!!!」
その一撃をまともにくらい、『ツチ』は鮮血を散らしながらぐらりと傾いで、揺らめく体を支えるように、退く。
どん、と、その背中が、柱に当たった。
その衝撃なのか、がこん、と、柱の一部が開くように口をあけた。
「!」
そこか、と呟いた『ツチ』の言葉が、聞こえた気がした。
まずい、と直感で感じた。
『ツチ』は、血まみれの手で、懐から、赤茶色の鉱石を取り出す。
「やめろ!!!」
シャンテやさけ達、全員が走り寄り、『ツチ』に最後の一撃を食らわす。
「ぐっは……ッ!」
『ツチ』は同時攻撃をくらい、血を吐いて倒れた。
がこん。
と、小さな音が響く。
『ツチ』の手にその鉱石は無く、柱の口は閉じて、それがどこだったのかも確認できなかった。
『ツチ』の体が、ボロリと崩れる。
まるで砂のように、ボロボロと崩れ、微風に紛れて無くなって行く。
最後に残った銀色の腕輪も、パリンと割れるように崩れて、そこには、何も無くなった。
――――――――ぞわり。
全身を、悪寒のようなものが駆けぬけて、全員がぞっとした。
「何……」
アルゲオは、こみあげる不快感に、両手で肩を抱きしめる。
「……『魔境化』が、始まろうとしている……?」
生きたまま内蔵を潰されそうな、酷い吐き気に顔を顰めながら、イーオンはアルゲオの腕を引く。
ここは危険だった。
何かに呑み込まれる。
何かが、あの柱を中心にして広がろうとしている。
何か、酷く禍禍しいものが。
それらは自分達を呑み込み、蝕み、腐らせて、黒く圧し潰してしまうだろう。
それには呪文も何も必要としなかった。
ただ力の渦の中に、昏きものを落としこんだだけだった。
そんな簡単なことで、この聖地は魔境化する。
イーオンは目を伏せた。
「あれ、見て……!」
青ざめて、ファティが呟く。
柱が、ざあっと一気に色を変えた。
色だけではなく、材質も変わったように見える。
硬質なものではなく、何処か軟質なものへ。
何か邪悪なものが息づいているようなそれへ。
ごぽり、と嫌な音がして、足元を見ると、瓦礫がズブズブと沈んで、何か別のものが浮かび上がってこようとしている。
「腐ってる?」
芽吹いた瞬間から腐っている、植物、と呼んでいいのか解らないその物体が放つ異臭に鼻を押さえながら
「逃げなくては……」
と焔はがたがた震えて涙ぐんでいるアリシアを抱えあげた。
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