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リアクション
Scene.10 闇のその影
「ストーンサークルへは、行かない方がいいぜ」
聖地モーリオンに向かうべく、オアシスの町、キマクに立ち寄ったコハク達は、そんな噂を耳にした。
「どうして? あそこで何かあったの?」
結晶を集めるべく、コハクと共にモーリオンに向かうことにした松永亜夢は、パートナーの藍月レイと共に、キマクで情報を集めながら、その噂を聞いて耳を傾けた。
「最近、出る、って噂。
危険なモンスターが棲みついてるって話だぜ」
以前は、そのストーンサークルは、聖地として神聖視されていたのだが、不幸な事件があり、その土地を護る守り人の一族が皆殺しにされてしまった。
「その血のせいで土地が穢れて、モンスターを呼んだってトコ?」
レイが話を聞いて、ふんふんと頷く。
「それにしても、”結晶”とやらの情報は出て来ないわね!
聖地は今無人なんでしょ? どーすんの」
「……とりあえず、モーリオンに行ってみよう。
行って探せば、何か手掛かりが掴めるかも」
コハクがそう提案する。
「ま、ここで情報が手に入らないんだ、それしか無いだろうな」
閃崎静麻も頷いた。
本来の聖地であったキマクのオアシスが、沢山の人の手が入るようになってその効果を失い始めた為、代替として人工的に作られた聖地。
それがモーリオンである。
地脈の力を制御する為に、そこには、巨石が並べられて作られた巨大なストーンサークルがあった。
守り人の一族が全滅した後、半ば放置状態となっているのか、静かで、閑散とした雰囲気を感じる。だが。
「何かこう……ドキドキして落ち付かない気持ちがいたしますわ」
ユーベル・キャリバーンが、注意深く辺りを見渡しながら言った。
「ビリビリ来るな。緊張感が抜けねえ」
ラルク・クローディスもそう言って周囲を警戒する。
「静麻」
レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、パートナーの名を呼んだ。
「この地面……おかしいです。影が落ちている」
「影?」
「上に何も無いのに……黒い影が……」
幅なら3メートルほど。長さの判別はすぐにはできない。
本体が何処にも無いのに、地面にそんな影が落とされている。
「……! ちょっと!? 影が!」
レイが叫んだ。
地面の影が、空気中にじわりと滲み出るようにして、実体化したのだ。
地面から浮かび上がった影の塊は、細長い胴体を持つ何かの生き物、に見える。
「蛇……? 竜?」
亜夢が呟いた。
コハクが、はっとして上を見上げる。
上空には、何も無い。何も見えない。だが。
「…………闇の、龍……?」
「闇龍だと!?」
ラルクが叫んだ。
今、シャンバラ大陸には、世界を滅ぼす闇の龍が巻き付くような形で存在している、とても危うい状態だ。
ただ、それはシャンバラの何処からでも視認できるわけではないし、現在のところは、特に地上の何処かに直接影響を及ぼしたりはしていない。
「……力場、だから?」
リネンが、コハクと同じものを見ようと空を見上げながら言った。
”地脈の溜まり場”である、この場所。
血で穢されてしまった聖地。
それが、歪んだ形で影響を及ぼし、何処かにいる闇龍の影を、邪悪な形で写し取ってしまったのだろうか。
「棲み付いたモンスターってのは、これってわけ!」
薙刀を構えながら、頭と思われる場所を自分達に向ける闇龍の影に向かって、レイが言った。
コハク達と共に、闇龍の影に対して臨戦態勢を取ろうとした静麻を、レイナが呼んだ。
「あそこを!」
見ると、巨石の上に、佇む人影がある。
「……あいつは……!」
じっとこちらを見下ろしている黒ずくめの男。
手には、身長ほどの漆黒の大剣。
「前門の虎、後門の狼、ってヤツかよ?」
ラルクが苦笑しつつ、男を睨みつける。
「その例えは、微妙に間違ってるぜ」
それは挟み撃ちを意味する例えではない。静麻がそう言って、コハクに向いた。
「あいつは俺が引き受ける」
「俺も行くぜ」
ラルクがそれに続く。
リネンと亜夢が、闇龍の影に向かおうとする、コハクの側についた。
コハクは影の塊に、試作型星槍を構え向けた。
「コハクは下がってな?」
前に出ようとするリネンの代わりに、コハクを護るベスティエ・メソニクスが言ったが、コハクは首を横に振った。
「僕だけ、護られているわけには、いかないです」
ここは、コハクが深く敬愛する、聖地セレスタインの守り人、アズライアの最後の場所だった。
この場所がよく見えるところにアズライアは眠っている。
情けない姿など、見せられなかった。
亜夢が闇龍の影に向かって攻撃した。
しかし、アサルトカービンによる攻撃は、闇龍の影に対して効果があるように見えない。
「銃撃は、駄目みたい!」
通り抜けるのではなく、吸い込まれて行くような感じだった。
「これならどう!?」
薙刀を叩き付けたレイに、闇龍の影が身を捩って攻撃する。
「きゃあ!」
影の塊が触れた瞬間、痺れるような激痛が走り、レイは悲鳴を上げて慌てて離れた。
「何、あれ……! 見かけは影なのに、ちゃんと手応えがあるわ!」
痛みに顔を顰めながら、レイが言う。
「……手応えがあるなら、倒せる!」
そこにあるのが、ただの影ではないのなら。
リネンはきっぱりと言い放ち、強化型光条兵器を持って、闇龍の影に立ち向かった。
頭に向かって攻撃を仕掛けるリネンに、闇龍の影は、ぐるりと巻き付いて尾で攻撃しようとする。
「リネン!」
コハクとユーベルが叫んだ。
ユーベルは魔法でリネンをバックアップし、コハクは巻き付く尾に攻撃を仕掛ける。
亜夢は頭に向けて銃を乱射した。
ダメージを与えることができなくても、牽制になってリネンを援護できれば、と。
リネンは、光条兵器を闇龍の影に叩き付けた。
剣は、素通りしないで影の塊に食い込む。
ぎり、と柄を握る手が軋んだ。
影が纏わりついて、鋭い痛みが走る。
鎧が護っていない肌に、幾筋も血線が裂けた。
「……私だって……以前のままじゃない……!」
自分の足で歩き、立ち向かって、乗り越える。
諦観に支配されていた昔とは違う。
違うということを、証明してみせる。
ぐぐ、と、剣を影の塊に押し込む。
コハクは両手で星槍を握り締め、影の塊に突き刺した。
やはり、刃先は影の塊にめり込み、コハクはそのまま槍を影の中に押し込もうとする。
「……くっ!」
尾が巻きついて身体を包み、激痛と共にピシッと頬が裂けるが、構わない。
そんなコハクの様子を、リネンは横目で見る。
「……私は、負けない!」
光が、弾けた。
剣が一気に影の中に呑みこまれ、直後、剣の周りの影が破裂する。
破裂したところから、影が崩れ出した。
コハクの槍も、影を貫いて地面に突き立った。
巻き付いていた尾がボロリと崩れて消滅して行く。
「リネン、コハク、2人とも、無事ですか」
ユーベルが走り寄った。
「……消えたの?」
亜夢が周囲を見渡す。
「いやあ、多分一時的なものだよ」
と、ベスティエが言って、ほら、と、足元を指差した。
そこには、うっすらと例の影がある。
「暫くしたら、また出てくるんじゃない?
きっと、大元を倒さないと駄目なんだよ」
「……今は、当座の目的を優先する方がよさそうですわね」
ユーベルが言った。
闇龍の影が復活する前に”結晶”を探し出して、ここは一旦撤退した方がいいだろう。
でないと延々と戦いを繰り返すこととなる。
「でも、何処にあるのかな」
亜夢が、広々としたストーンサークルを見渡す。
「……多分、あっち」
コハクが、トレジャーセンスを使って周囲を探った。
辿り着いた場所は、ストーンサークルの中心だった。
円を描くように立てられた石の柱の中心に、小さな台座のように石が組んである。
コハクはその下を掘ってみた。
程なくして、剥き出しのままの、水晶のような形の青く透明な、親指大ほどの石が出てくる。
「……それが、”結晶”?」
「うん。多分」
コハクは石に付いた土を拭きとって、リネン達に見せた。
「……では、早めに戻りましょう。ラルクさん達の方は無事でしょうか」
ユーベルが、ラルク達の居場所を探して首を巡らした。
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