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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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 一方で、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達もまた、混乱に乗じてひっそりと蛮族の集落を目指していた。
 こちらは、北都達のように道をこそこそ進んでいるのではなく、全く道のない岩場をロッククライミングよろしく、よじ登って進む、という荒業である。
「エリー、もっと崖の近くを飛ばないと、見つかるわよ!」
 パートナーのエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)に注意を呼びかける。
「えーん、何かもう、疲れた〜。
 こんなに遠いなんて聞いてない〜〜。帰る〜〜〜」
 エリシュカはべそをかきながら進む。
 泣き言すらもへとへとで、本当に疲れているようだった。
「空気も薄い気がする〜〜」
「頑張りなさい」
「でも、わたくしもそろそろ、限界が来そうです」
 上杉 菊(うえすぎ・きく)の足元も覚束無い。
「こんなところで力尽きては、今迄の苦労が水の泡、一気に崖下へ転落するぞ」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が叱咤する。
「そういうライザも、何気に辛そうよね」
「わらわが参っているのだから、かの2人は相当のものであろうよ」
 2人にはしっかりしろと叱咤したが、ローザマリアのその言葉には、苦笑してそう答える。
「やっぱり無謀だったかな……」
「そなたの選択は、評価されるに値するとわらわは思っておる」
「……ありがと」
 仲間達を励ましつつ、ローザマリア達は何とか、崖と岩場を登りきり、蛮族達の集落に辿り着いた。

「さて、それでは、ローザマリア、エリー、万一の脱出路の確保はお願いします」
「見つかるでないぞ、エリー」
「だいじょーぶ! ちゃんと隠れてる!」
 いってらっしゃい、と手を振って隠れるローザマリアとエリシュカを置いて、菊とグロリアーナは交渉相手を探し歩く。
 しかし、隠密活動は長くは続けられなかった。
 どうやら他で暴れている者がいるらしい。
 そのせいでか、あっさりと見つかってしまったのだ。
「こっちにもいやがった! お前等、動くな!」
 2人はとりあえず、言われた通りに立ち止まる。あっという間に囲まれた。
「そっちにもいやがる連中とは、我々はとりあえず別だ。
 そなたらの族長に会わせて貰えぬか?」
 ホールドアップしてみせつつ、自分達を囲む者達にグロリアーナが訊ねる。
 人間も、ドラゴニュートもいる。
 空京のような雑多な種族が集まる町でもないのに、ひとつの集落に別人種が集まっているのを見るのは奇妙なものだ。
「はっ! 族長はお前等ごとき人間になど会わねえよ!」
 嘲るように笑った蛮族の連中に、グロリアーナは訊ねる。
「そなたら、何故『真竜の牙』を奪ったのだ?
 何か理由でもあるのか」
「理由だと!?
 俺たちゃ、ドラゴンの部族だぜ! 真竜の血を引いてるってえ高貴な一族なんだ。
 ゆえに!
 ドラゴンだ竜だって名前のアイテムは、世界中の全て! 俺達のもんだ!
 しかもヒラニプラ遺跡なんて俺達のナワバリから見付けて行きやがって、そりゃあ奪うしかねェだろ?」
 得意げに笑いながら、そう人間の男が語る。
 くら、と、グロリアーナはその主張を聞いて目眩を感じた。
「……そなたら、それは本気で言っているのだな」
 単に竜という名前のアイテムだったから奪った、と。
「パラ実並だぞ、こやつら……」
「そのようですね」
 菊も苦笑する。
「仕方ないわ。逃げましょう」
 そうだな、と、2人は同時に頷いて、突破口を作る為に走り出す。
 離れた場所から隠れて様子を窺っていたローザマリアの、それを援護するスナイパーライフルからの狙撃で、2人の背後でバタバタと倒れる音がした。


 そして今度は、集落内部の方で始まった混乱に乗じて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)達が、遅れて集落に辿り着いた。
「始まっちゃってるよ!」
「遅かったか」
 ルカルカが、喧騒を耳にして叫ぶ。
 パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が眉をひそめた。
 できれば、平和的にことを運びたいと思っていた。
 そう思っていたのは自分達だけではなかったはずなのだが。
「交渉が決裂してしまったのか?」
「……仕方ない。簡単に闘争状態になってしまうということは、好戦的な連中だったのだろう」
 同じドラゴニュートして、彼等の姿勢は感心できないが――。
 そう、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が言う。
「どうする?」
「『真竜の牙』は誰かが手に入れているのか、それを確認しないと。
 保管場所を調べて、まだそこにあるかどうか、だな」
 ヨシュアのところからここに来る際、横のネットワークをあまり構築していない。
 先に辿り着いた者が手に入れる、というアバウトな打ち合わせしかしていないのだ。
 連絡を取り合えない仲間も実はいた。

 手分けしてあちこち探し回っていると、携帯の呼び出しバイブが震えて、ルカルカの声が呼んだ。
「ダリル! カルキ、来て!」
 切羽詰ったような、当惑したような、愕然としたようなその声に、ダリル達はすぐさまルカルカの元へ走る。
 そして驚いた。

 ドラゴンが鎮座している。
 ドラゴニュートではない。かなりの年を経た、立派なドラゴンだ。
 ――だが、そのドラゴンは、生きていなかった。
「ド、ドラゴンのミイラ……!?」
「……これが、この集落の族長、か? いや、むしろこれは、守り神扱いか……」
 一体、この集落の連中は、どんな思いで、これをここに祭り上げているのだろう。
「……行こう、ここはもういい」
 カルキに促され、ルカルカ達もそれに続いた。

 ルカルカの呼び出しは、ダリルにとってもタイミング的に丁度いいところだった。
「どうやら、『真竜の牙』はもうここには無いようだ。
 奪われた、と誰かが言っていた。
 俺達も戻ろう。これ以上の長居は危険だ」
 ダリルがそう言って、そうだな、とカルキも頷く。

「そうだ、ルカルカに呼ばれたので忘れていた。
 どうやら、捕まって監禁されている連中がいるらしい。
 売り飛ばす話をしている奴がいた」
「えっ、助けなきゃ!」
 はたとカルキが言って、ルカルカは驚く。
「向かうところだった。場所は解っている」
 カルキも頷いて、2人をそこへ案内し、朝霧垂と朝霧栞、一ノ瀬月実とリズリットを救出したのだった。

 すまない、と、垂は力なく俯いて礼を言う。
 栞が心配そうに垂の顔を覗き込み、その横で
「ありがとう嬉しいわわたしのドラゴン!」
と、皮袋に入ったまま転がされていてすっかり向こうの世界の住人になっていた月実にカルキが抱き付かれ、ルカルカに引き剥がされたのは余談である。

◇ ◇ ◇


 北都達によって、『真竜の牙』は速やかに、ヨシュアの手に届けられた。
 直ちに作業が始まる。
 こうだったはず、と、作業手順を思い出して書き出したメモを見ながら、ヨシュアを中心に仁科響達も手伝って、作業は進められた。

「俺達の時代は、人が使役するものと言えば、馬などの動物だったものだが……。
 命に似たものを創り出す技術、か。面白えな」
 夏侯 淵(かこう・えん)がフッと笑って、エース・ラグランスは、そうか、と言った。
「どうした? 顔色がすぐれねえな」
「いや――まあちょっとな。もう一体を壊す為だけに作る、っていうのがな。
 良心の呵責を覚えるっていうかさ」
「変なことを言いますね。これは兵器でしょう。戦いの為に造られるものです」
 メシエ・ヒューベリアルが呆れたように言う。
「お前ならそう言うと思ったけどさ。
 一度作り出されたものは、できれば大切にしてあげたい、って思うのが本音なんだよ」
 オリヴィエ博士は、どういう気持ちでゴーレムの制作をしているのだろう。
 ふと、そんなことをエースは思った。
「『矛盾』は、共倒れを意味する故事だが、矛が強ければ、それとも使い手である俺達がグロスとやらより上手くやれば、矛が勝って、盾を取り戻すこともできるかも知れねえぜ。
 希望を捨てずに、やれるだけのことをやってみようぜ」
 淵の言葉に、「そうだな」とエースは頷いた。

「それにしても、このゴーレムが、ちゃんとこういうデザインで良かったなあ。
 オイラ、5メートルの萌え系少女ゴーレム、とかちょっと想像しちゃった」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の、心底ほっとした様子に、「お前な」とエースは呆れた。
 ぱっとヨシュアが振り返る。
「どうです? このゴーレムのデザイン」
「うん、かっこいーね」
 クマラが言うと、ヨシュアは照れたように破顔する。
「実はこれ、僕がデザインしたんですよ。
 博士は一通り色々作って、もうデザインが思い浮かばないとか形はどうでもいいとか、シンプルイズベストとか、あまりこだわらない人で」
「じゃ、グロスに奪われちゃったやつも、全部?」
 クマラの問いに、ちょっと困ったように笑って、「はい」とヨシュアは言った。

「ゴーレム技師って、特別なことをやらないとなれないものなんですか?
 もしかして、僕にもなれないでしょうか」
 ヨシュアの作業を手伝いながら、仁科響に訊ねられて
「どうなんでしょうね」
とヨシュアは苦笑した。
「僕も、なりたいと思って博士に請えば、色々教えて貰えたのかもしれませんが……僕は、手伝うことには興味あっても、自分がゴーレム技師になりたいとは思わなかったので……」
「博士のゴーレムは、魔法のにおいがしませんね」
 ゴーレムというのは、魔法で作るもの、魔法で動かすもの、というイメージがあるのだが。
 響は元々は魔法系だ。
 ゴーレムの精製方法から、何か新しい魔法を発明できないか、という考えも抱いていたのだが。
「そうですね……。確かに、博士は普通とは違うと思います。
 魔法使えませんしね、あの人」

「調子はどうですか〜」
 差し入れでーす、と、すっかりおさんどん係と化した弥十郎が、山盛りのおやつを持ってくる。
 漂う匂いに、わっとクマラ達が群がった。
「うわーい、オイラ働き過ぎでおなかぺっこぺこ〜」
「おまえはヒラニプラから帰ってきた時に既に腹いっぱい食べただろ!」
 その後は働いてないじゃないか! と、エースに突っ込みを入れられる。
「……個人的な収穫は、あまりありませんでしたけどね」
と、響は弥十郎にだけ、そっと答える。
「それは残念だったねえ」
 弥十郎は苦笑した。
 タイミング的にもちょうどよく、作業は終了したところだった。
「これで、完成できたと思います。皆さん、手伝ってくれてありがとう」

 さて、残りは命令者の設定をするのみである。