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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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第三章 四方ヶ原の合戦3

 鬼州軍中央の陣――
「鬼州軍は押されているのか!?」
 この時代では『銀鼓』をいう名で通している透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)は、鬼鎧稲桜に乗り込んでいた。
 鬼鎧の操作は正直いってあまり得意ではないという透玻を、璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は「私がお助けします」と言った。
 彼は『金鎖(きんさ)』と名乗っている。
「しかし……さすが戦国最強の騎馬隊といわれるだけあります。動きに隙がない。私たちは未来から来て最新鋭の武器や鬼鎧はもっていても、彼らのように戦慣れしているわけではありませんからね。うかうかしてると、こちらがやられかねません!」
 透玻は、璃央の心配はもっともだと思った。
 現に武菱軍は戦術、魚鱗の陣(ぎょりんのじん)を敷き、旗色が悪くなるとすぐに退く。 次に、後ろにいた新手が向かってくるのだ。
 彼らの経験と勘、戦闘能力を最大限に発揮する術を武菱 大虎(たけひし・おおとら)は心得ていた。
「仕方ない、威嚇射撃を行う。敵を驚かし散らせる事ができれば、それでいい!」
 この時代に鬼鎧はまだないようだ。
 少なくとも、この合戦場における武菱軍には鬼鎧の姿はない。
 迷っている暇はなかった。
 そうしている間にも、鬼州軍の武将は次々と倒され首をはねられている。
 中央の陣形はいともたやすく突き破られようとしていた。
 璃央はレーダーを頼りに、味方を避けて威嚇射撃を行った。
「驚いてくれるといいのですが」
 ライフル音が響き渡る。
 驚いた軍馬が飛び上がった。
「鉄の鬼……!? 鬼城の新手か!」
 武菱兵ははじめて見る鬼の前にひるんだ。
 鉄の鬼――鬼鎧は、人馬に対して圧倒的な力を見せ付けようとしている。
 しかし、武菱軍も幾度なく修羅場を潜り抜けてきたもののふどもである。
 その思いはひとつ。
 扶桑の都で、大虎を天下人とすること。
 この戦国乱世を収めるのは、大虎をおいて他にないと考えられていた。
「お館様のために……!」
「天下を武菱に……!」
「お館様! お館様!」
 鬼鎧を前にみせた動揺でさえも彼らはたちまち押さえ、逆に、鬼を倒すべしと奮起した。

「あらら、思ったより苦戦していますね。この時代の人は、死を怖れないんですね」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は余裕の表情であったが、鬼州軍の状況は極めて悪化している。
 武菱の騎馬隊は深く進撃しており、本陣に迫る勢いである。
 一方の鬼州軍は陣形も崩れ、武菱の本陣までたどり着くことはおろか、その前に次々と武将が立ちはだかり倒されたいった。
「ホント、この世は地獄だね。今も昔も変わらず、殺し合いばかりしてるんだからさ! 本当にロクデモないところだよ……あんたたちもね」
 魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は大声で若いながら、アルコリアに纏わり付いた。
 敵将は誰もが武菱二十四将として称えられたうちの生き残りである。
 相手にとって不足はない。
「まさにラズンの居場所って感じだよ……きゃはははっ!!」
 アルコリアはラズンの力を得て、地獄犬たちともに突っ込んでいく。
 魔道書ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)は彼女たちを援護するように魔法を唱えた。
「わざわざイコン試験機『バンダースナッチ』を未来から運んできたというのに『オモチャだから使わないで置いておく』とは……マイ・ロード。楽しい晩餐をお望みですのね」
 アルコリアたちの乗ってきたイコンは、草むらの中に隠されている。
 せっかくの武将戦を素手で楽しみたいというのであろうか。
「ご命令とあれば従いますわ。イコンの変わりに、わたくしの召還獣で薙ぎ払って差し上げましょう!」
 ナコトの雷鳥が空を舞うのを見て、機昌姫シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は多少呆れながら、後方の動きを気にかけていた。
「アルコリアは千人斬りでもやるつもりか。こっちは付き合ってられん。一人でも多く、鬼州の兵を生かす。それが百合園のやり方だ」
 シーマは鬼州軍の士気を落とさぬよう、激を飛ばしている。
「鬼州の兵よ、戦う気概の在る者は従え! 貞康公を守れ! 死すときは冥府で、祖先に、戦友に、主君を守る為に戦ったのだと報告すればよい!!」
 中央での小競り合いは続いたが、アルコリアはふと動きを止めた。
「どうしました、マイ・ロード?」
 と、ナコトはアルコリアを見遣る。
「んー、これって勝たなくていい戦なんですよね。貞康さんが生き残ればいいんだし……じゃあ、少し遊んでもらいましょうか」
 アルコリアはわざと身を翻し、武菱軍を挑発した。
 中央の布陣は……がら空きである。
 そこを敵が見逃すはずはない。
 いっきに武菱軍騎馬隊はなだれ込んできた。
「そうそう、こっちですよ。ちゃんと追ってきてください。私を……ね!」


 夕刻から始まった戦は、数時間もたたぬうちに鬼州軍の総崩れとなった。
 中央の陣形は突破され、武菱軍は騎馬隊を先頭に、鬼城の本陣へ迫っていたのである。