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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

リアクション


・トラップハンター

 第三層、図書館三階の外側にも通路があった。ちょうど外周を囲むように通路、そしてフロアとは反対側に扉はなく、閲覧室のようになっている。
「中の本とかも気になるけど、怪しいのはやっぱりこの廊下だよなぁ。絶対この辺に隠し通路あるって。あの壁の魔法陣、あれは絶対目印に違いない!」
「危ないですわよ、リシト。そんな無闇にやたらに調べたら」
 永式 リシト(ながしき・りしと)は剣で壁や魔法陣などの模様を突きながら歩き、パートナーの山時 雫(やまとき・しずく)がその軽率な行動を止めようとしている。
「大丈夫だって。こういう怪しいものはきっとお宝へのヒントなんだって、よく言うじゃないかぁ」
 パートナーの制止を聞かず、彼は先を行く。
 その時、何かが揺れるような物音が聞こえてきた。
「え、な、なんだ? オレ何かしたかぁ?」
 しかし、状況が飲み込めない。なお、今彼がいる場所は、先程カガチ達が押したり引っ張ったりしていた本があった本棚のちょうど裏側なのだが、そんな事は知る由もない。
「危ない!」
「え?」
 咄嗟に駆けつけてきた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とパートナーの猫型ゆる族、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)の二人に、背中を押される。
 その時、天井から何かが勢いよく落ちてきた。
「うわっ、何だ何が起こったんだ?」
 倒れたまま事態が把握できないリシトと雫。
「こいつだよ。これが今、落ちてきたんだ」
 瑠樹がそれを手で叩く。さっきまで無かった壁である。
「まさか……トラップ?」
「だろうねぇ。どうして作動したのか、心当たりはあるかい?」
「いや、ないなぁ。ほんとに突然だった」
 リシトは壁とか魔法陣を突いてはいたが、これといってトラップが発動するような気配は感じていなかった。
「そうか。何の前触れもなく作動する罠もあるんなら、ちっと厄介だなぁ」
 瑠樹は自分のぼさぼさの髪をくしゃっと掴む。
「ここはメモしといた方がいいですね。この壁の模様も」
 と、マティエも口を挟む。
「今の音、一体何!?」
 壁が落ちてきた衝撃音を聞きつけ、近くにいた守山 彩(もりやま・あや)がパートナーのオハン・クルフーア(おはん・くるふーあ)と共にやってきた。
「何事ですか!?」
 壁から最も近い閲覧室のような場所にもその音は聞こえていたようである。そこにいた(いくさべ こじろう)戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)グスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)の四人も駆け付けた。
「実は……」
 リシトと瑠樹はありのままに起こった事を説明する。その事実に、皆驚きを隠せないようであった。
「いきなりトラップが作動したってわけね。でも、何でここを塞ぐ必要があるのかしら?」
 彩は疑問を口にする。
「ただの足止め、には思えませんね。ここより上の階にはそれほど怪しい場所はありませんでした。あるのは、正体不明の幾何学模様と、同じような魔法陣が複数くらいです。今は何の効力も持ってないようでしたが」
 それまでの遺跡探索の情報を共有しようとする。
「やっぱり気になるよなあ、これ。何の意味もなくこんなもの残すはずはないと思うんだよなぁ。この遺跡、この通路の内側は図書館になってるし、やっぱ魔術絡みなのかねぇ?」
 瑠樹は思う所を声に出す。
「この階にほとんど砂がないのも気になります。上の階にはちらほらとあったのに、ここに降りてきたら一切ないんですよ」
 マティエも便乗する。
「それには我も引っかかりました。こちらも分担していろいろと調べてきたんですが……」
 小次郎はパートナーの方をちらっと見た。
「禁猟区をずっと張っておりましたが、これといって不審な気配はありませんでしたわ。魔力も、これまで一切感じてませんわ」
 リースがまず答える。
「閲覧室のような所にはこんな紙切れしか見つからんかったわい」
「隠し通路、トラップがあると思われる怪しげな箇所もこの階層までは見当たらなかったわ」
 グスタフ、アンジェラが口々に言葉を発した。
「でも、ここでは初めて罠らしきものが作動した。もしかしたら、近くに隠し扉か何かあるのかも」
 彩が目を輝かせている。
「そうだねぇ。これまで罠なんてなかったんだから、それがあるってだけで十分怪しいもんなぁ」
「よし、探すとするか」
 この場に集まった人間は、しきりに付近を調べ始めた。ただ行き止まりにするメリットがあるとはとても思えなかったのだ。
 彩は壁を叩きながら、音で他との違いを確かめている。が、無闇に叩いているともいえる様に傍らのパートナーは顔をしかめるばかりだ。
(うぅむ、彩殿の無用心さは何とかならないものであろうか……隠し通路や扉ならばいいが、トラップだったら。いや、それでも忠誠を誓った身、必ず守り通して見せましょう)
「ん、ちょっと、みんな。ここ、音がちょっと違うかも」
 図書館側の壁の一部が他と異なる音を出していることに彩は気付いた。
「ここかぁ。でも、これどうなってるんだろう?」
 リシトは剣でその壁を叩くが、反応はない。
「近くにスイッチか何かはないのでしょうか?」
 壁周辺をチェックする小次郎。彼のパートナー達も手分けして手掛かりを探している。
「ん、よく見ると細い隙間があるなぁ。ほら、ここ」
 瑠樹が手に持った銃の先でその場をつついた。
「何か細くて硬いものがあればなぞる事も出来そうだけど……」
「よし、任せてくれよ」
 リシトが剣をその微妙な隙間に突き刺した。そのまま剣を奥に出そうとするが、上手くいかない。
「これ、もしかして……」
 彩が何かに気づいたようだ。
「そのまま、剣を振り切ってみて!」
 それはすなわち、隙間に挟んだ剣を薙ぐということだ。普通に考えれば、剣は折れてしまうだろう。
「なるほど、その可能性もあるねぇ。あんた、無茶な頼みかもしれんがやってみてくれ」
 瑠樹もまた仕掛けの意味に気づいたらしい。
「ええい、ままよ!」
 リシトが剣を横に薙ぐ。すると、その勢いに合わせて壁が勢いよくスライドしていく。
「まさか襖みたいに開くとはなぁ。これはなかなか気付かないな」
 扉は開いた。そこはちょうど図書館と通路の間の微妙なスペースへと続いているようだった。
「はは、ようやく面白くなってきたねぇ」
 瑠樹は微笑を浮かべた。それを見たパートナーのマティエはやや呆れ気味である。
(この中、危険かもしれないのにりゅーきは……ほんと危なっかしいですよ)
 ここに来て初めて隠し扉らしきものが見つかった。しかし、彼らの中にトランシーバーを遺跡に入る前に受け取っている人がいなかったため、連絡することは出来なかった。
(この奥には重要な何かが隠されているのだろうか。あるいはただの図書館側への非常用の通用口か……)
 小次郎はこの扉が重要なものか判断しかねていたが、中に入る事にした。

             ***

「美海ねーさま、さっき大きな音聞こえなかった?」
「ええ、沙幸さん。聞き間違いじゃありませんわ。それも、かなり近くですわ」
 塞がってしまった壁の、リシト達とは反対側に久世 沙幸(くぜ・さゆき)
とパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)はいた。しかし、それを聞いたのは彼女達だけではない。
「君たちにも聞こえましたか」
 この場には不相応にも見える白いスーツの男だった。エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)である。彼はパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)とともに隠し扉を重点的に探しているみたいであった。
「どうやらこの通路の先のようですね。危ないかもしれませんが、エメ様、様子を見に行ってみましょう」
 蒼が提案する。
「私達も行くよ。やっぱり気になるからね」
 四人は音のした方向へと歩きだしていった。

「行き止まり……ですわ」
「あれ、おかしいですね」
 その壁を見て、エメは首を傾げた。
「蒼、ここまでメモしてきた地図をいいですか? ここ、先程通った気がするんですが……」
 そう言って地図を確認する。ちょうど壁で塞がってる場所を通り、沙幸達の近くまで来ていたはずだったのだ。
「ちょっと見せて」
 沙幸も地図を覗きこむ。そこには確かに一本の道が記されていた。
「さっき通れたところが通れない。ってことはこの壁は罠が作動したものかな?」
「そうみたいだぜ」
 突如、背後から新たな声が聞こえてくる。
「その魔法陣みたいな模様、それが例の隠し扉の目印かと思ったんだけど……ぴくりとも動かない。しかも結構新しい足跡が両方向ともあるんだ。さっきまで人が通ってたってことだろ?」
 現れたのは痩身の男だった。藤原 和人(ふじわら・かずと)である。
「本当ですわ。魔法の残滓もないようですから、物理的な罠ですわね」
「だったら、どっかに解除する仕掛けがあるんじゃないかな?」
 美海、沙幸が壁を分析する。
「いや、それがダメだったぜ。近くにロープを引っ掛けられそうな場所もないし、動かせそうにない。近くに取っ手でもあれば扉かもしれないって思えるのに」
 和人はお手上げだ、という様子だ。
「参りましたね……おや?」
「どうなさいました、エメ様?」
「もう一回だけ地図いいですか? 先程こんな所に小部屋は無かったはずですが……」
 エメと蒼が再び地図を確認する。ちょうど壁のある位置を見るが、特に部屋があるとは書かれていない。
「仕掛けが作動した代わりに開いたってこと?」
 沙幸が問う。明かりを照らさなければ分かり難いが、確かに部屋への入口がある。
「だろうな。さっきまで塞がってたって事は、不用意に入ると危険かもしれないぜ」
 和人はかなり警戒しているようだ。下手をしたら記憶を失くすかもしれない。用心はし過ぎるに越した事はないのである。
「うーん、罠があるような感じはしないよ。中も他の閲覧室みたいな場所と何ら変わらないし」
「魔法的な力もかかってないようですわ。まだちゃんと調べてはいませんが、他の小部屋と中は変わりませんわね」
 外側から部屋を見渡す。不用意に足を踏み入れて、床が抜けないとは限らないのだ。
「それでも先程までは隠されていた部屋です。何かこの遺跡の手掛かりがある事でしょう」
 エメはこの場所に何らかの手掛かりがあると考えている。
「もしかたら、この部屋の中にさらに隠し扉があるのかもな。それがリヴァルトってヤツが見つけた封印の扉に通じてるかもしれないぜ」
 慎重に危険がないかを確かめながら、一行は小部屋へと足を踏み入れた。

「これ、何だろう?」
 沙幸は閲覧用の机らしきものの上に広げられているものを見つけた。
「何かの設計図のようですわね……あら、これは」
 美海は足元に何かが当たったのに気づき、それを拾い上げる。
「本ではないようですね。写真……いや、絵でしょうか。スクラップブックのようなものみたいです」
 それを覗きこんだエメが答える。
「ぼやけていてはっきりとは分からないけど……ここに広げられているものに形が似てるよね。飛空艦、かな。あとこの絵は何かの武器みたい。それと……人?」
 そのスクラップブックにあったものを形状から判断していく。この遺跡の書物は意図したかのように肝心な部分が読めなくなっているようだが、このスクラップブックのようなものや、設計図は何かある程度判別がつくくらいにはっきりとしていた。
「古王国の兵器に関するもの、でしょうか? どれも見た事のないものばかりです。ん、何か書いてありますね」
 蒼がそれに気付いた。絵か写真の脇に、メモ書きがある。
「古代の暦ですが、日付のようですわね。それに、その下にも何かありますわ。これは――識別番号?」
 日付は五千年前であるようだった。西暦表記ではないため、厳密な年代までは特定出来ない。ただ、シャンバラ古王国の使っていた暦であることに間違いはないようである。
「女王器やそれに準ずる兵器の試作品を記録したものでしょうか? だとすれば、これは大発見ですよ」
  エメが静かに告げる。
「でも、これだけじゃ遺跡の正体は分からないぜ? ただこれがこんな隠し部屋にあるって事は、単なる図書館でないのは明らかだ」
 ただの図書館なら、設計図や兵器のサンプル情報を隠しておくわけが無い。これがあるという事は、もしかしたら建物のどこかにそれらの現物が隠されているかもしれないのだ。
「隠し扉は絶対にあるはずだ。探そうぜ」
 そう意気込んで、和人は部屋の探索を再開する。
「ノーツさんや他のフロアの人達にこの事を教えたいのですが……連絡手段がないのは厄介ですね」
「携帯電話もパートナー間でしか出来ないもんね。ちょっと前にトランシーバーを持ってる人を見かけたけど、あんなものここで使えるのかな?」
 沙幸は図書館三階への入口付近で見かけた男の事を思い出す。パートナーを連れて図書館フロアを巡回しているようだが、腰元にトランシーバーを差していたのだ。
「そういえば、ベースキャンプに何か送信機のようなものがありました。もしかしたら、調査用に誰かがセッティングしたんじゃないでしょうか」
 エメは砂漠の調査団の待機場所にあった設備の事を思い出した。一人の教師がしきりに調整していたような気がする。
「せっかくだからケータイを使えるようにしてもらいたかったぜ」
 和人が口にした事は、この場の誰もがそうあって欲しいと願う事だった。ただ、ケータイ用の簡易的な基地局を設けるのはそう容易い事ではないようである。それが出来れば、とっくに七都市以外でも携帯電話は使えているはずである。
「この先遺跡を調べているうちに、誰かに会うこともあるよ。その時に教えてあげればいいんじゃない? もしかしたら、私達が知らない事を相手は知ってるかもしれないしね」
 それでもまずはこの部屋を調べよう、と思い沙幸は辺りを調べ始めた。