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リアクション
20. 一日目 エーテル館 大ホール 午前十一時六分
通路を歩く一行の前方から、白いリボンの温和そうな少女、橘舞が歩いてきた。
「あまねちゃん。みなさん。ブリジットが呼んでるんです。私ときていただけますか?」
「舞さん。こんなところを一人で歩いてて平気なの」
「え。このすぐ先が大ホールなんです。ブリジットから、捜査メンバーを全員召集って言われたんですけど、どこを探したらいいかわからなくって。みなさんがここにいてくれて、本当によかったです」
「舞さんが迷子にならなくてよかったわ」
「そうですね。迷子は困りますよね。ありがとうございます。じゃ、みなさん。行きましょう」
V:大ホールです。赤絨毯にシャンデリア、ですね。かわい家側は、潔さん。リン太郎さんがいます。捜査陣は、ブリジットさん。舞さん。金さん。千歳さん。イルマさん。蒼也さん。ベルティータさん。春美さん。ディオちゃん。ピクシコラさん。うさぎちゃん。セイさん。煌さん。腕に推理研の腕章をつけた百合園女学院推理研究会のメンバーが、勢ぞろいですね。
ブリジットさんの腕章には、代表、と書いてあります。
あれ。同じ推理研の円さんとオリヴィアさんがいないや。円さんは一匹狼らしいので、いなくてもいいのかな。
蒼也さんとベルティータさんは、潔さんとお話してるみたいですね。
リン太郎さんの横には、PMRのミレイユさんとシェイドさんがいます。
ドライブさんにジョウさん。光学迷彩を解いたレキさんとミアさんもいますね。
女中さん、使用人さんが飲み物を配ってくれて、立食パーティみたいになってます。
ブリジットさんが、集合をかけたってことは、ひょっとして今回の事件は、もう・・・。
ざわついたホールの中をあまねとくるとは、かわい潔、七尾蒼也、ベルディータ・マイナのところへ歩いていった。
潔とベルディータは、ホールの隅で、テーブルを挟んで席に着き、チェスをしている。
蒼也は、二人を立って眺めていた。
「蒼也さん。お邪魔していいですか」
あまねに聞かれ、少し暗い表情で蒼也は頷く。
「きみたちも、彼らの仲間かい。私はオープンに答えるから、質問があれば、なんでも聞けばいいんだよ。蒼也くん。ベルディータちゃん、そうだろ」
痩身の潔は、ポロシャツをラフに着こなし、ぐしゃぐしゃな髪型のせいもあってか、神経質そうな雰囲気を漂わせている。
「嘘は、つかれてないと思います」
「でも、潔さんは、俺たちに核心を話してない気がします」
「きみらにそう言われると悲しいな。感性と表現方法の違いじゃないかな」
潔は、不満げに眉をひそめる。
「私がきみらに聞かれたのは、兄に妹がいたか、麻美の父は誰なのか、麻美の母が何者だったのか、だね。それに私は、自分でできる範囲の精一杯の返事をしたよ」
「二人に、なんて、答えられたんです」
「答えは、エーテル館にあるから、この屋敷を自由に調べなさい」
潔は、あまねをまっすぐに見た。
V:潔さんも、えつ子さんと同じことを言ってる。刻々と形を変えるこの奇妙な館に、いったい、なにが隠されているの?
「潔さん。美人とチェスする気分は、どうですか。いつも、僕の相手ばかりだから、新鮮でいいんじゃないかな」
紺の作務衣、縁なしのメガネをかけたリン太郎が、PMRのミレイユ・グリシャム、シェイド・クレインを連れてこちらにきた。
「あまねちゃん。こんにちはです。シェイドと一緒にリン太郎さんに、話を聞いていたんだけど、ワタシには、チンプンカンプンだよ」
「私たちの聞き方が悪いのかもしれませんが、ミレイユが言う通りの状況です」
「潔さん。リン太郎さん。いきなり、こんなこと言うのはなんですけど、あたし、さっき、阿久先生が部屋で倒れてるのを見つけて、たぶん、死んでるみたいなんです。いま、それをクレアさんやレンさんが、ここにいる他のみんなに伝えてると思います」
あまねの話に反応したのは、潔、リン太郎ではなく、蒼也やベルディータ、ミレイユ、シェイドたちだった。
「潔さん。謎かけしてる場合じゃないんじゃないですか」
「リン太郎さん。素直に話した方が身のためだと、ワタシは思うな」
ベルディータとミレイユが、問いかけても、潔とリン太郎に変化はみられない。
V:心理的なショックを与えれば、口を開いてくれるかと思ったんだけど、違ったみたいです。二人は全然、普通のままでした。
「僕は、ミレイユちゃんにかわい家の血統について聞かれたんですが、とても怖ろしいと答えました。間違ってますか。潔さん」
「正解だな。私も兄の残した遺言の意味についてよく考えたんだ。これは兄さんが私たちに残した試練というか、最後のチャンスだと思う。吉とでるか凶とでるか。阿久さんの不幸は悲しいが、私は、オサム先生の件も、阿久先生の件も、兄のこの遺言騒動に便乗して、家の外から来たものが、ちょっかいをだしてる気がする」
「怖ろしいは、怖ろしいを呼びますか」
「合わさって、もっと怖ろしいになるか、喰い合って無に帰すか、教授。私は、ベルディータちゃんに答えを教えたよ」
「僕は、話していませんでした。そうですね。僕もお教えします。ミレイユくん。エーテル館がかわい家の秘密であり、答えですよ。潔さんの切り札でもある」
「救いと言ってくれ」
二人の男は、周りにいる他の者には意味のわからない会話を、まるで仲間同士が共通に認識している話題のように、みんなの方をむいて話した。
「春美さん。こっちです!」
「刃さん、ちょっと、ちょっと」
ベルディータは、同じ推理研究会所属の霧島春美を、あまねは鬼桜刃を自分たちの側に呼んだ。
春美とパートナーのピクシコラ・ドロセラとディオネア・マスキプラ、鬼桜刃とパートナーの鬼桜月桃と犬塚銀は、それぞれ今朝、到着してからずっと、エーテル館の建物自体の調査をしていたのだ。
春美たちの調査に同行していた影野陽太も、一緒にこちらにきた。
V:エーテル館がすべての謎の答えなのなら、館の調査をお願いしていた刃さんたちが、なにかつかんでいるはずです。推理研の方は、分担して捜査をしてるようで、館の調査を担当していた春美さんたちをベルディータさんが呼びました。
マジカル・ホームズは、なにかを見つけたかしら。陽太さんも、ああ見えて意外にしっかりしてるから、期待大です。
「そう。エーテル館には、やっぱり秘密があるのね」
しかし、現在時点での調査結果を語る春美の表情は、曇っていた。
「隠し部屋や隠し通路は、いくつも発見したわ。けれど」
「ボクでも通れないような細い通路があって、びっくりさ。ひもみたいな生き物でも、屋敷内で飼ってるのかなぁ。調査してて、急にニョロがでてくかと思って、ドキドキしちゃったよ」
ディオは、物問いたげに潔を眺める。
「角の生えたうさぎくん。そんな気味の悪いものは、飼ってないから、安心してくれ」
「ワタシは、手品が趣味で、いままでいろいろなイリュージョンをライブで見たこともあるわ。ずいぶん、仕掛けも知ってるつもり。だから、わかるの」
ピクシコラは、いったん、間をおき、
「この館の造りは、通常の物理公式、建築方法をまるで無視している。常識にとらわれないトリッキーな建築、と言えばきこえもいいけど、無理に無理を重ねて作られている。こんな館、一体、誰が設計したの」
「私だよ」
潔は、平然としている。
「設計者であるあなたは、わかっているはずよ。仮説と偶然と幸運のうえに建っているこの館が、少しずつ壊れていっていることを。ここは、生きてる、秒ごとに形の変わる館ではなくて、計算に従って、少しずつ確実に壊れていっている、死に急ぐ館なの」
「既成の常識の枠内では、それが正しいな」
ぱち。ぱち。ぱち。
潔とリン太郎は、ピクシコラに拍手した。
「刃さん。本当に、そうなの」
あまねは刃に尋ねる。
「俺は建築には、くわしくないが、調査した印象を言わせてもらうと、ここは、家というよりは、俺たち退魔師が術を行う時に作る陣に似ている。奇妙に儀式的な建物だ。こいつら、墨死館のあの男の仲間で、またなにか化け物を呼ぶ気か」
「刃。いまは、まだ、動くには早いわ」
刀の柄に手をやった刃の肩を月桃は、そっとおさえる。
「わかった。いまは、まだ、な。銀、おまえは、この屋敷どう思った」
「刃様と同じで、ここは常人が住む家ではないと思います」
「調査してくれてありがとう。まだまだ秘密がありそうね。陽太さんは、どうでした」
「え、お、俺は、前の事件の時みたいに、危険な罠がなくってよかったです。それに、いまはまだはっきり言えませんが、ピクシコラさんと考えてることがあって、
あまねに聞かれた陽太は、つまりながらも懸命に話していたが、
「あ、会長が、はじめるみたいですよ」
ベルディータの表情が明るくなった。
マイクを手に、ホールの中央に堂々と進みでたブリジットに、ホール中の視線が集まり、
「えーと、しまったあぁ!? 貴重な出番がぁ!?」
「そんなことないよ。また、後でね」
あまねにフォローされて、陽太は口を閉じた。