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リアクション
25. 一日目 発着場 午後三時三十一分
さっきの事件は、記憶の底に封印することにしました。録画した映像も消去したんで、僕は知りません。
なんにも関係ないんだ。
京子ちゃんの電車の周囲には、駅員風の制服を着た使用人さん、女中さんのみんなと、乗客になる、招待客と学生の人たちがいて、にぎわっている。王ちゃん、ケイラさん、マラッタさんもいるのかな。
僕は、気分転換に乗客の人のインタビューを取るとしよう。
「こんには。なんか話してください」
適当に、側にいた人にマイクをむけた。
「警察だ。情報を集めている。こっちこそ事件について聞かせてもらえないか」
「ぼ、僕はなにも知りません。見てません。そんなとこには、いませんでした。なんで爆発したんでしょうね」
「爆発? 君は、なにを言っている」
「・・・・・・」
墓穴を掘った。
僕は、一見、学生に見える若い刑事さんに背をむけ、走りだした。
「待て、君。ロウ、あの子を追うぞ!」
「ワウッ」
走りながら、肩越しに振り返ると、トレンチコートの刑事さんが、追いかけてくる。横には犬もいた。きっと警察犬だ。
長い長いホームを人をかきわけながら、走る。
なんで、僕、逃げてんだろう。
とにかく、走った。。
「イルミンスールのマイト・レストレイド警部だ。誰か、あの女の子を捕まえてくれ!」
刑事さんが叫んでいる。
マイトくん。あの年で、警部とは、エリートすぎる人だ。
僕は止まらずに、駅風の発着場の中を走った。マイトくんより、僕の方がここにはくわしい。人気のないところへゆこう。
関係者用の施設に忍び込んだ。そろそろまけたかな。
今度、彼に会ったら、適当にごまかせばいいや。
「あなた、かわい家の人よね」
「な、な、なんですか、今度は」
普段は、誰もいないはずの場所にいるこの女の子二人組は、なに。
「私は、シャンバラ教導団の一ノ瀬月実。こっちは、パートナーのリズット・モルゲンシュタインよ。あなたが、かわい京子さん?」
「いえいえ。違います。かんべんしてください。京子ちゃんは、もっと年上です」
「あなた、誰」
「維新です。いちおう京子ちゃんの妹です」
「ふうん。妹さんね」
赤い軍服、軍帽の月実ちゃんが、あからさまにじろじろと、僕の体を見回した。
「私たちは、京子さんとお話したくて、探してたんだけど」
「京子ちゃんは・・・」
「ここの電車すごいわあー。なんかかっこいいわー。っていうかお金持ちは違うわー。お屋敷も広かったわね。まったく、びっくりね」
急にハイテンションになった。
「鉄道よ鉄道! どんだけ広いのよ、ここ。早く乗ってみたいわね、一体、どんな景色が眺められるのか楽しみだわ。京子さんと、ぜひ、いろいろお話ししたかったのよ。どんなルートを走ってて、見所はどこなのかしら。トンネルや、湖の全景や、屋敷の景観を見渡せる場所もあるのかしら」
「うん」
「あら。あなた、なんだか疲れてるわね。私、お茶を持ってきたの。飲まない」
月実ちゃんは、水筒からお茶を注ぐと、カップを僕に差しだす。
「ありがとう。走りまわって、のど渇いた」
「いいえ。どうぞ。あ、あああ」
喜んで受けとろうとした僕の顔に、月見ちゃんは、お茶をぶっかけた。
「うわわわわ」
めちゃくちゃ、熱い。
「う、う、う、うえーん!」
無意識のうちに、僕は、泣きだしていた。