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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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22. 一日目 エーテル館 大ホール 午前十一時三十五分

 あらわれた五人の麻美を前に、ブリジットも、ホール全体も凍りついたようになっていたその時、また別のドアが開いた。
「お待たせしたな。あなたの街の便利屋さん。ロックスター商会、参上だぜ」
 トライブは、場の空気に関係なく、ブリジットに近づき、その手からマイクを奪った。
「トライブさん。なにをするのですか」
 イルマが、トライブをにらみつけた。
「まあ、待てよ。あんたらの推理は聞かせてもらった。でな、俺の相棒も早くも事件の真相にたどりついたんだ。どっちが正しいか、勝負しようぜ」
「勝負? おもしろいですわね。私も今回のお嬢様の推理には、異論がないわけではないのですが、それは置いておくとして、あなた方の推理が間違っていた場合、どう責任をとってくれるのですか」
「責任か。ここで俺が脱ぐ。あんたらが負けた場合は、推理研の仲間の誰かが脱ぐ。それでどうだ」
 トライブは、自信満々だ。
「あんたの裸なんて、誰も見たくないわよ。そんなバカバカしい勝負、誰が」
 ブリジットは、トライブに殴りかからんばかりだが、イルマがそんなブリジットを押さえ込み、
「金さん。こちらへ」
 推理研のメンバーの金仙姫を呼んだ。
「なんじゃ、わらわは、事件の推理は知らぬぞ。ここで解決してしまったら、最終日の舞も見れないではないか。わらわは、なにをしにきたのじゃろう」
「裸踊りですわ」
「まさかの急展開じゃな。事件の現場とは、そのようなものか」
「推理研のために、一肌脱いでいただきたいのです」
「それならば、しかたがないのう。さて」
 さっそく服を脱ぎだした金をブリジットが止める。
「まだ早いわよ。それにあんた、本気で脱ぐ気?」
「こちらの準備は整いましたわ。トライブさん、男に二言はありませんわね」
「ああ。当然だ」
「あなたは、負けたら俺が脱ぐとおっしゃいました。脱いでいただくのは、衣服とは限りませんことよ」
 イルマの氷の視線に、トライブは体を震わせた。
「こ、これくらいのスリルがないとな。さあ、ジョウ。頼むぜ。ガツーンと推理をかましてやってくれ」
 トライブにふられたパートナーのジョウは、言いにくそうに一言。
「同じ」
「ジョウ。それは、どういう意味だ」
「ボクの推理は、ブリジットさんのとそっくり同じだ!」
「おまえ、なんだよ、それは」
「トライブが、ろくにボクの話を聞かないから」
「しようがねえなあ。同じなら、引き分けだな。とにかく、犯人がわかったんだ。ジョウ、あれをやるぞ」
「・・・・・・」
 恥ずかしげにうつむいているジョウの横で、トライブは、五人の麻美たちを指さした。
「お前のやったことは、全部エブリシングお見通しだ!」

V:複数の名探偵と、複数の同一容疑者! の登場です。ミステリファンとして言わせてもらうと、やっぱり、名探偵には、キャッチフレーズになるような決め台詞が、必要よね。ともかく、みなさん熱いです。

「お集まりのみなさん。茶番は、それくらいでよろしいですか」
 よく通る、訓練された感じのアルト。
 麻美たちと同じドアから、ホールにでてきたインパネスコートを羽織った少女、シャーロット・モリアーティは、ハッカパイプを手に、麻美たちの横に並び、ホールを眺めた。
「ブリジットさんも、ジョウさんも、素晴らしい推理でした。ですが、その容疑者たる麻美さんがここには五人います。君たちは、どの麻美さんを捕まえるんですか?」
 麻美たちの側には、リカイン・フェルマータとパートナーの中原鞆絵、島村幸とパートナーのガートナ・トライストルとアスクレピオス・ケイロン、香住火藍、春日井茜、真口悠希がいる。
「ご承知のように、本物の麻美さんは一人です。残りの四人は、空京稲荷狐樹廊さん、久途侘助さん、早川呼雪さん、高崎悠司さんが扮しています。私たちの作戦は、ここにいる五人の麻美さんを本物、偽物の区別なく、守り抜くこと。もっとも、誰が本物なのかは、私にはわかりませんし、パートナーや守り手の方たちも、わかっていても、わからないという態度で三日間をすごします」
 平穏とも不穏とも言えない奇妙な沈黙の中、再び、ドアが開く。乱暴に音を立てて。
「キミたち、一体、なにやってんの」
 入ってきたのは、ダークグリーンのゴスロリファッションの少女探偵、桐生円とパートナーの吸血鬼オリヴィア・レベンクロンだ。
「話を聞いて見てきたけど、阿久の死体、消えてるよ。彼は、本当に死んでたの」
「それにぃ、麻美さんを守るって話。その人はなにもしなくても、一番、殺されにくいんじゃありませんー」
 円は、オリヴィアに頷きながら、
「いきなりで悪いけど、ボクの推理だと今回の事件の犯人は、かわいみのるくんだ。隠し子の麻美くんを守って、一族を殺し合わせるのが、彼の計画だね。みのるくんの遺志を受け継ぎ、実行するプランを立てたキミは、みのるくんの仲間で、真犯人の一味なんじゃないの?」
 シャーロットを指さした。