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リアクション
24. 一日目 発着場 午後三時十七分
僕は、目に入れても痛くないくらいかわいがっている実の弟に、石持って追われて、今度は、姉たちのところへ漂着した。
美沙ちゃんと京子ちゃんは、人気のない物置小屋に、暗黒世界の住人たちと一緒にいる。
この二人なら、ここらへんで悪だくみをしてそうだな、って場所に本当にいたので、びっくりだ。
僕は、小屋の外のガラスの欠けた窓越しに、中の様子を撮影する。
僕のお姉ちゃん二人に、どうみても学生にはみえない、おそらく三メートル近くは身長があって、体重も百キロ以上は確実にある、超巨漢の軍服のおじさんと、背は二メートルくらいで、頭からすっぽり布袋をかぶって顔を隠してる竜の人。彼らは、悪役のタッグチーム?
顔を隠すようにパーカーのフードを深めに被った、たぶん、男の子。
この子は、なんだか雰囲気が不気味だ。得体が知れない、いきなり、人を刺してもおかしくない感じ。
それから、メガネをかけたきれいな女の子が二人いる。素直に言います。同じメガネ少女でも、二人とも外見的には、くるとのあまねちゃんより、ランクがずっと上。
でも、きれいだけど、怖くて、悪そうな人たち。
探偵組が結果として、個々の捜査、推理を補い合って、グループ行動しているように、悪人組も目的や手段が似ていると、こうして鉢合わせるわけだね。
問題は、悪人の場合、同じ志のものでも、手に手を取り合って協力とは、いかなそうなことで、カメラの前にある御意見無用な空気は、もう空気自体が問題をはらんでる緊迫感です。
僕が、突入して姉さんたちを救う展開は、ないよ。絶対ない。沈黙して盗撮に専念するのみ。
「結局な、他人を信用できるような人間は、ここにはいないってことだよな」
巨漢ジャジラッド・ボゴルは、独り言のようにつぶやく。
返事をするものは、いない。
ボゴルは、美沙、京子に親しげに語りかける。
「あんたらは、ヘタしたら、お船や電車に乗る前に、ここでおしまいってわけか」
「ジャジラッド。おしゃべりよりも、戦闘準備はいいか」
パートナーの、布袋をかぶったドラゴニュート、ゲシュタール・ドワルスキーは、袋にあけたのぞき穴から、たくさんの目で、場にいる他の者たちを眺めている。
「あたしは、数の問題だと思うのよ。探偵どもは人数が多いでしょ。だから、あたしらは、誰か彼かに邪魔されて、したいことをさせてもらえない。たくさんいれば、考えなくていい余計なことまで、頭の回るやつもいるからさ」
「菫は、できれば、私たちも手を組めればと思ってるわ」
茅野菫とパートナーのパビェーダ・フィヴラーリの意見にも、やはり誰も答えない。
ずいぶん間をおいてから、ボゴルが口を開けた。
「お互いに信用しないまま、付き合うってのも、悪くねぇな。割り切った関係だぜ」
ボゴルと菫が、人を不安にさせるいやな笑顔をみせあう。
「マッシュっ」
京子が声をあげ、それが合図のごとく、菫は体を丸め、前転の要領で床を転がった。
「依頼主でも、俺の仕事を邪魔するのは、なしだよ。京子。黙っててくれれば、絶対、うまくいってたのになあ」
立ち上がった菫の隣に、パビェーダが寄り添い、さっきまで菫のいたところにいるマッシュ・ザ・ペトリファイアーとむきあった。
「あんた、私を殺す気?」
「俺は京子のために殺るだけなんだよね。細かい話は、めんどくさいんだよ。悪の秘密を知る人間は、少ないほうがいいしさあ」
「はん。そういうことか。この兄ちゃんは、強そうだ。俺らじゃ、束になっても、とてもかなわねぇ。美沙。俺は先にお船に行ってるぜ。適当に手伝うから、期待はするなよ」
ボゴルは、殺気をはらんだ空気とは関係なく普通に言うと、ドワルスキーと小屋をでて行く。
「でっかい男は、石像にしても置き場をとるし、見た目もね、どうでもいいよ。女の子は、二人並べて俺の部屋に飾ってあげるからね」
「ねえ、こういう殺し合いとか、バカらしいと思わない? もっと頭をつかって、人の心を操れば、自分の手を汚さずに」
菫は、さすがに怯えた様子は、みせなかった。しかし、快楽殺人鬼のマッシュとは、まるで話が合わない。
「人なんてさ。自分のやりたいようにやるだけで、言葉なんて聞かないよ。人の心って本当にあるのかな。俺、見たことないんだよね。ヒャハハハハ」
「あんたは、悪じゃなくて、ただの人殺し、ね」
僕は全速力で、逃げだした。
轟音で耳がどうかしてしまっている。
小屋の中が閃光に包まれて、窓が吹っ飛んで、壁や屋根に穴があいた。地面も少し揺れた。
美沙ちゃんも京子ちゃんも、死んだかもしれない。
これって、友達は選ばないと破滅するって寓話だったのかな。