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リアクション
1. 一日目 撮影セット 午前九時三分
「人数確認したら、お弁当、注文して」
「飲み物もね」
「衣装についたシミ、とってやって」
はい。はい。はい。
僕、かわい維新は、言われたことはなんでもしますよ。手先は器用だから、使える女子だと思います。
大人にくらべて人件費もかからないし、コスト・パフォーマンス最高! かな。
次郎兄の映画の手伝いをするのは、なぜか僕の義務みたいになってて、撮影がはじまると小学校を休んで現場投入されてしまう。
なぜなのだろう?
僕の人権はどこなのだろう、探したことないけど。この家にはなさそうだ。
「いっくん?」
「はい、僕ですけど。僕に僕かと聞く、キミは、歩不くん」
「ちょっと、いいかな」
「いま、僕は、雑用のための生物に変化してて、自分の意思だけで動いているとは言えない状態だから、ここでは、歩不くんをシカトする権利もないような気が…」
「いいから、こっちこい」
耳たぶを引っ張られて、スタジオの隅っこに連れ込まれた。
「なに、なに、なに。腹違いの妹をこんなところで虐待するのは、なしだよ。しかも、朝九時に職場で耳からスタートってのは、マニアックすぎて、被害者の僕自身が引くよ。思いっきり」
「キミなんか、虐待しないよ。いいかい、維新。キミに、宣言しておくけど、ボクは、たぶん、今日から親族をみんな殺すから、キミも巻き込まれたくなかったら、逃げるんだ。いいね」
「は」
「もう一人のボクが本気なんだ。いいかい、我が妹よ。キミは、生き残れよ(心配しなくていい。おまえも他の連中も一緒さ)」
「歩不くん。でもさ、急にそんなこと言われても、即時対応はしかねるんだけど、僕ら一族は、いろいろ連帯責任で、泣いても笑っても生きても死んでも、とにもかくにもとして、あの名探偵くんと物騒な御一行は、どうするの?」
歩不くんは、片手に持っていた某メーカーのスポーツバックを下ろして、両手で僕をヒシっと抱きしめた。
彼は、いつもこうして、僕のリズムを狂わせてしまう気がする。
「オサム先生が呼び込んだあの人たちのことは、知らない。ボク自身もどうなるかわからない。けど、キミは生きろ!」
そんな泣きそうな顔をされてしまったら、
「妹としては、正しい発言をさせてもらおう。歩不くん。僕と逃げない?」
歩不くんは、迷いなく、僕が気分を害するくらいに、無表情になって、きっぱりと首を横に振った。そして、すごく悲しそうな顔に戻ると、唇を寄せてきて。
いまは、いけないと知っていても、僕は、今回も、受け入れた。
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