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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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4. 一日目 撮影セット 午前十時三十八分

 僕の横にいて、僕がいやな顔をするのをチラ見しながら、実現する可能性零下の僕との放送禁止な今夜の予定をつぶやき続けているファタちゃんと、自分から、次郎兄の映画にでたいって言ってくれた二人の学生さんと、歩不くんを探しにきて、そのまま、流ちゃんとここでおしゃべりしてる五人(うち一人は竜)が現場にいるので、まずは、インタビューを収録します。
 一人めは、金髪のオールバック、金色の服で、全身キラキラしてる人。
「おはようござます。かわい維新です。今日は、よろしくお願いします」
「おはよう! イルミンスールのエル・ウィンドだ。ね、突然だけど、いま、流水ちゃんとみんなで、ダジャレしりとりをしてたんだけど、まだ、勝負がついてないんで、その様子を撮影しながら、みんなにインタビューってのは、どうだろう?」
「別に異論はないです。僕はいじめられたくないわけでなくて、空前絶後のしりとりの天才なので、流ちゃんの得意の言葉遊びには、加わりませんが」
「よし。決まりだ。ボクの番だったね、こ、こ、こ、この付近にフキンない? なーんちゃって。次は、黒崎さん」
「田舎でいい仲。次は、ブルーズだよ」
「我はダジャレなど知らぬと言っているだろう」
「知らなくてもいいから、考えてね。負けは許さないよ」
 エルさんのダジャレを受けた涼しげな眼差しの少年は、即答してしまうと、微笑を浮かべ、僕に片手をあげた。
「維新君。はじめまして、僕は黒崎天音。君の兄弟の歩不氏と話をしたいんだけど、彼がどこにいるのか知らないかな。この撮影セットに入っていったのは、間違いないんだよね。流水ちゃんと一緒に僕らは、彼を探してるんだよ。歩不氏は、体が弱いらしいね。君は、彼とは話をしたりするのかい?」
「僕は、歩不くんとは、全然、仲良くなくて、もう、物心ついた頃から話したこともなくって、ところで黒崎さん、歩不って誰ですか?」
「ふうん。君もなかなか興味深いな」
 黒崎天音。この人は、危険な感じがする。
「流水ちゃんが、君と歩不氏は、すごく仲がいいって言ってたんだけど、僕の聞き間違いかな」
「きっとそうですよ。阿久先生に耳を診てもらったほうがいい。保険証は持ってますか」
「ブルーズ。あと十秒でダジャレを言えなかったら、寮まで戻って僕の保険証を持ってきてよ」
「まじめに考えているのだから、もう少し待て。か、かか」
 天音さんのパートナーの竜さんは、大変そうだ。
「流水ちゃんも、維新ちゃんもチョコでも食べるかい」
 エルさんが僕と流ちゃんに、高そうなチョコをくれた。こうやって、僕らの年相応に接してくれると、贅沢な望みかもしれないけど、なんだか、ほっとする。
「流水ちゃんは、歩不くんと親友なのかい」
 エルさんは、流ちゃんに興味があるらしい。でも、流ちゃんは、ある意味、歩不くんよりも手強いからなあ。
「俺は歩不とはケンカ友達だぜ。ちっ、ちっ、ちっ」
 舌打ち。
 不良ぽい話し方。
 また、僕のよく知らない流ちゃんが出現した気がする。
「あれ。流水ちゃん。さっきとしゃべり方が違うな」
 エルさんが首をひねっている。チョコももらったことだし、ここは僕がちゅーとりあるしてあげるしかなさそうだ。
「エルさん。嘘か真か知らないけど、流ちゃんには、本人が確認しただけで百八人の探偵が入ってるんだって。みんな、真実を求めてるんだけど、それぞれ性格も推理方法も異なる」
「えー百八人の流水ちゃんですか!」
 エルさんの横にいた女の子。僕やファタちゃんとは種族が違う、リボンとドレスの似合う純情そうな正統派女の子の、はちみつみるく色の髪が一房、ばっとまっすぐに逆立った。
 すぐに収まってきれいに元に戻る。どういう芸なんだ。いまのは。
「私、ホワイト・カラーです。よろしく」
「かわい家のブルー・カラーで、ブラックリストにも載ってる維新です。君のその髪、精神感応型のかつらなの」
「はう!」
 彼女は、僕の一言に顔を真っ赤にして、エルさんに体当たりした。
「うおっ」
「ごめん。エルさん」
 とりあえず、僕はエルさんに謝る。
「ハハハ。別にかまない。ホワイトの髪で驚かして悪かったな。ホワイトは気持ちが素直に髪にでるんだ。びっくりするよね。維新ちゃんは悪くないよ」
「はう!」
 エルさんは、ホワイトちゃんの二撃めで床に倒れた。
「維新ちゃん。流水ちゃんは、いつもこんな感じなのかな」
 エルさん、ホワイトさん、天音さん、竜さんと比べると一番普通そうな、かわいい男子学生のお兄さんにきかれた。
「オレは、鬼院尋人。歩不さんや流水ちゃんに興味があるんだ。維新ちゃんとも話ができてうれしいよ。流水ちゃんは、探偵なんだってね。すごいね」
「犯人見つけるっていうより、UFOを追いかけたり、UMAを探したりするのが得意な超常現象探偵の人格と、僕は主に付き合ってるんで、流ちゃんの命令で王ちゃんと三人、一晩中、屋根にのぼって真冬に空眺めてて、肺炎にかかって死にそうになりました。あの時、壊れかかった姉妹の絆は、まだ直ってないですね」
「そいつは、俺は聞いてないぜ。すまなかったな。キョウダイ」
「流ちゃん。話がややこしくなるから、僕と知り合いの流ちゃんになるまで、声をかけなくていいよ。あの、同じ制服着てるけど、尋人さんは、天音さんのお友達ですか」
 わけのわからないケンカの自慢話を、再現アクションつきではじめた流ちゃんを無視して、僕は尋人さんに話しかける。
「黒崎天音さんは、オレの先輩で、尊敬する人さ。維新ちゃん、歩不さんと麻美さんは、同じ年だってことは凄く仲が良いのかな。それとも悪いのかな」
「みなさんがウチのDV戦争をくい止めにきてくれたのを知ってるんで、恥をしのんで、数秒後にお話しする予定ですけど、麻美くんは、そのう、えっと、ちょっと」
「言いにくそうだね」
「尋人さん、麻美くんに会ったことあります?」
「姿を見ただけで」
「会ったことない人のことを悪く言うと、僕が極悪人みたいだからやめときます。だって、あの人、ひどいんですよ。見た目はともかく、起きてから、寝るまで、お母さん、お母さん、って。僕もこの年にして、何度、彼に母と呼ばれたことか」
「・・・・・・維新ちゃん。きみも、黒崎先輩に、興味深いって、言われるだけのことはあると思うよ」
「誉めてくれて、ありがとう。そこでですね。みなさん。提案なんですけど、歩不くんに会いたいなら、ここで次郎兄の撮影に参加していれば、そのうち、ひょっこり会えると思うな。どうします? 僕は、歩不くんなんて全然知らないけど、すごく、そんな気がするな」
「歩不氏とは、面識のないらしい維新ちゃんがそこまで言うんだ。ありがたく従っておこうかな」
 天音さんの意見にみんなが頷く。
「でもブルーズは、ダジャレを言わないと動いちゃだめだよ」
「か、か、か、カレーライスが辛れぇ! これでどうだ。ふう。我も撮影に加わるぞ」
 律儀な竜さんだ。
 次は、え。恵那はええなぁ。