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リアクション
OVERTURE「深夜バス」
そして、かわい家へゆくために、あたし、地球の普通の女子高生、古森あまねと、隣の家の探偵小僧、弓月くるとくん、それに各校から来てくれた名探偵! のみなさんは、バスに乗り込んだのでした。
かわい家は、空京の外れの不便な場所にあるので、今夜市内をでても、到着するのは、明日の朝。
そうすると問題の継承式まで、あたしたちに与えられた時間は、ちょうど三日間になります。
みんなが乗るのは、百合園女学院推理研究会代表のブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)さんが、実家の豪商パウエル商会の力を使ってチャーターしてくれた豪華観光バスで、契約者のみんなと深夜バスの旅なんて、捜査の前なのに、なんだかわくわくして楽しい気分になっちゃう。
「そうなんです。百合園で起きた強盗事件を捜査してて、みんなでお猿さんを探してるの」
と、橘 舞(たちばな・まい)さん。おっとりタイプのお嬢様の彼女は、意外におしゃべり好きです。
人見知りのあたしとしては、こういう人は話しやすくてありがたいな。
バスは夜のシャンバラを快調に飛ばしていきます。
あたしは、バスの一番うしろのボックス席に陣取った、百合園女学院推理研究会とその関係者? の人たちとお話ししているところです。
「へえ。みなさん、普段から探偵活動をされてるんですね」
「ええ。パラミタは事件が多くって。でも、パートナーのブリジットが、がんばりすぎて、私、時々、ついていけなくなりそうになるのよ。あまねちゃんも、くるとくんといて大変なのかしら?」
「あたしは、まあ・・・。でも、あたしも地球の高校でミス研(ミステリー小説研究会)にいるんですけど、メンバーの誰もまじめに活動してないし、百合園のみなさんを見てると、うらやましいですよ」
「それは、本当に、さびしいことね」
「しんみり言われると、よけいにつらい気が。しかし、ほんと、このサークルは、彼氏つきの人もいるし、いろんな意味でうらやましいな」
「ぴよっ!! 古森先輩、うさぎとセイくんの方をみて、どうかしたんですかっ?」
「古森。・・・・・・なんだよ。事件のことか?」
いえいえ、魔女っこ探偵、ピンクのツインテールの宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)さんと、横にいるパートナーのセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)さんが、お似合いでいいなあ、と思ってただけですよ。
セイさんが、ちょっと怖そうだから、口にはだしませんが。
「キミは、セイとみらびの仲をうらやましいと思ったんだろう。ボクにはお見通しさ。キミ、物欲しそうな顔をしてるよ」
小学生くらいの女の子の姿をしている、魔道書の、宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)さんに、鋭い指摘を受けました。
「古森さんは、うさぎより年上ですから、先輩って呼びますね」
「ありがとう。じゃ、あたしもうさぎちゃんって呼ぶね」
「はい。よろしくお願いしますっ」
「宇佐木も古森も、おまえら、あんまり危ないことにばっかり首つっこんでんじゃねぇよ」
「あわわわ。セ、セイくんは、心配して言ってくれてるんです。古森先輩、気にしないでくださいねっ」
ええ、ええ。気にしません、気にしませんとも。いや、もう、だから、この二人と話してると、あたしの顔と耳が熱くなってきます。
さて、推理研もう一方のカップル? は、七尾 蒼也(ななお・そうや)さんと、パートナーのペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)さん。
この二人は、うさぎちゃんたちよりは、落ち着いているんだけど、なにげに話をきいていると、蒼也さんがベルディータさんをすごく大事にしている感じです。
「あまねさんは、アルバイトしてるんですか?」
「うん。新聞配達や本屋の店員とか、長いお休みには、いろいろと。あたし、毎月ずいぶん本代がかかるし」
「あたしも、イルミンスールのスーパー銭湯「世界樹の湯」の本館にある「ゐる民」って温泉食堂でバイトしてるんです」
ベルディータさんは、親しみやすい感じの美人さんだから、お客さんウケしそうね。
「ふうん。じゃ、温泉にタダで入れたりするのかな」
「そうですね。けっこう忙しくて、温泉に浸かってる余裕はあまりないんですけど。温泉っていいですよね。推理研のみんなで行きたいなあ」
「そういうの、いいよねえ」
「あのさ、ベルディータは、別に無理にバイトしなくても、いいんだぜ。あまねさんもバイトすると疲れるだろ」
あー、やっぱり蒼也さん。優しいなあ。
「あたしは、楽しんでやってるけど、ベルディータさんは、どう?」
「うん。楽しいから、平気よ」
「そうか。なら、いいけど。あまねさん。今回の事件についてだけど、かわい家の秘密について俺は、考えてみたんだが
ふむふむ。
「かわい家の継承式に、静香様が来るのは本当なんですか?」
あたしと蒼也さんの会話に割り込んできたのは、女の子にしか見えない繊細そうな男の子、真口 悠希(まぐち・ゆき)さんでした。
彼は、男の子だけど、百合園女学院の生徒で、学院の校長、桜井静香さん(静香さんも男の娘さん!)の熱烈な信者として、有名なんですって。
人様の恋愛観に、あたしがあれこれ口だす気は、ないのですが、が、が、あなた、せっかく美形男子なのに、もう、まったくぅ。
「来るらしいですよ。パートナーのラズィーヤ・ヴァイシャリーさんも一緒に」
あたしも、くわしくは知りませんけど。
「ボクは、静香様を危険なめにあわせるやつは、許しません。古森さん、ボクは、どうしたら、もっと・・・大好きな人、助けたい人達の力になれるのかな」
「さあ。体を鍛える? かしら」
どっちかって言うと、「男の娘」のあなた自身が、守ってもらう側に見えるわ。ごめんなさいね。
「静香は、悠希が勝手に守ればいいわ。ツインドリルが来るんなら、いっそ犯人に派手に暴れてもらって、式をメチャクチャにしてやろうかしら」
「お嬢様。ラズィーヤ様のことをそのようにおっしゃられては、いけませんわ」
ブリジットさんの暴言をイルマ・レスト(いるま・れすと)さんが注意します。
ブリジットさんは、いつものようになぜか自信に満ちてて元気いっぱいで、イルマさんもまた、トレードマークみたいに、周囲に冷たい空気(殺気?)を漂わせています。
「今回は、ラズィーヤ様に推理研究会の力をアピールする機会なのですから、お気をつけください」
「なんで、あんなやつにアピールする必要があるのよ。あまね。あんたは、ツインドリルと私たち推理研のどっちの味方なの?」
よくわかんないけどラズィーヤさんと、推理研は、対立項なの?
「どっちよ」
ビシッ。
ブリジットさんに指を突きつけられました。
「ま、まあ、あたしはラズィーヤさんを知らないから」
「じゃ、こっちね。ほら、イルマ。あまねも私と同じ考えなのよ」
え。
「あまねさん。いいですか、ラズィーヤ様はご多忙の中、わざわざ時間をおつくりになられて、私たちに会いに来てくださいますのよ。あなたにも、その価値はわからなくはないでしょう?」
あの、ブリジットさんとイルマさんに同時ににらまれるのは、つらいです。
「かわい家事件の重みをわかっているから、地球に帰らずにここにいるんだろ。古森は」
あたしに助け舟をだしてくれたのは、
夜でもサングラスを外さないレン・オズワルド(れん・おずわるど)さんでした。
「は、はい」
「ならいいじゃないか。イルマ。思いをすべて口にする必要はないだろ。真実はいつでも共に戦った者達が知っている」
「レンさんがそうおっしゃるなら、いいですわ。あまねさん、くれぐれもよろしくお願いしますね」
「あまね。もし裏切ったら、今後、推理研立ち入り禁止よ!」
イルマさんとブリジットさんがお互いにひいてくれて、やれやれです。
レンさんは、イルマさんと知り合いらしくて、推理研の側の席で、さっきまで静かにみんなの会話に耳を傾けていました。
「レンさん。助けてくれて、ありがとうございます」
「気にするな。どうやら、おまえとくるとが巻き込まれてる事件は、どれも冗談ごとじゃなさそうだ。俺も、できる限り手を貸すつもりだ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
とても学生には、見えない渋すぎる雰囲気のレンさんとあたしは、握手を交しました。
「冗談ごとじゃないんだったら、もっと、楽しませなさいよぉ〜。墨死館程度じゃ、おねぃさんは、満足しないわよ」
「マスターとボクがいれば、前回の事件は、もっと早く解決していたんだよ。キミは、白百合推理研でも、協力を求めるメンバーを間違えたね」
銀髪の吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)さんと、そのパートナーで美少女探偵の桐生 円(きりゅう・まどか)さんです。
円さんは、ブリジットさんたちと同じ推理研の所属なのですが、前回は、他の事件に行かれていて、あたしと会うのは、今回がはじめて。
「円。知り合って間もない人間に、そういう口のききかたをするのは、どうかと思うな」
オリヴィアさんの色っぽさと、円さんの鋭い赤い目に、とまどっていたあたしの肩に、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)さんが、そっと手をかけてくれました。
イルマさんのパートナーの千歳さんは、無口ですが、正義感の強い人です。
外見そのものは、従姉妹の舞さんとそっくりなのですが、柔らかオーラの舞さんと、硬質な千歳さんでは、受ける印象がまるで違います。
「千歳と一緒に捜査ってものなかった気がするから、今回、キミらの力を見るのをボクは楽しみにしてるよ」
「円も推理研のメンバーの一人なのだから、もっと仲良くやらないか」
「ボクになりに仲良くしてる。ね。マスター」
「女の子同士の気持ちのやりとりって、見てて楽しいわ。もっと、がんがんやりあっていいわよぉ〜」
円さんは、素直になれないだけのわがままさんに思えるんですが、オリヴィアさんは、タチが悪そうな感じがするなあ。
「とにかく、円、一緒にがんばろう」
「そんなの当たり前だよっ」
千歳さんが差しだした手を円さんは、軽くはたきました。
女の友情にもいろんな形があるから、大丈夫だとは思います。
「おいおい。どれだけ俺の仕事を増やしてくれるんだ。まだ、現場についてもいないのに、捜査を混乱させる種がこんなに・・・だ」
「ワウ・・・ワウッ」
振り向くと、いつの間にやってきたのか、なりきり刑事のマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)さんが、両手の平を上にし、お手上げのポーズを取っています。
レストレイドさんの足の横には、彼の相棒の犬型機晶姫ロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)さんが、低く吠えていました。
ロウさんは、普通に言葉を理解できるのだけど、話すことができないんですよね。文字を書いたり、メールを打ったりはOKだそうです。
「古森くん。君が、我々、警察に協力をあおぐのはわかるが、こうして余分な素人探偵をかき集められては、正直、捜査の迷惑だ」
だから、レストレイドさんも、実際は、普通の学生さんでしょ。なんで、自分とみんなを差別するかなあ、この人は。
「私はロンドンにいた頃も、民間探偵としてずいぶん事件を解決しましたけど、ヤードの知り合いからあなたの名前を聞いたことはありませんわ。レストレイドさん」
インバネスコートを羽織り、ハッカパイプを手にしたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)さんは、十二才でケンブリッジ大学を卒業した天才探偵少女で、レストレイドさん相手に、本物のホームズさながらに、からかうような笑みを浮かべています。
「ああ。古森さん。私のことは、シャルと呼んでくださいね」
「あ、はい。あの、シャルは、パラミタの他の探偵さんたちとは、組まないの」
「それは、どういう意味かしら?」
「ここで、ホームズといえば、あなたの他にもう一人、思い当たる人がいて」
私の言葉にこたえるように、ピンクのポニーテールの名探偵さんは、あらわれました。
「それは私、霧島 春美(きりしま・はるみ)。白百合女学院推理研究会のマジカルホームズよ。よろしくね」
「霧島春美さん。ホームズを名乗るものに恥じない活躍を期待します。こちらこそ、よろしく」
二人の少女は、礼儀正しく挨拶をしました。
「ところで、シャーロットさん。あまねちゃん。レストレイドさん。せっかくだし、あたしのパートナーのマジックを見てもらえますか。彼女は、ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)」
春美さんの隣で、ピクシコラさんは、あたしたちに軽く頭を下げました。
「よく見ていてね」
そして、手に一枚のコインをのせると、それを宙に放り投げます。
ぽん!
「あっ」
コインは、中空で、うさぎさんに変わり、くるりと回転して床におりました。うさぎさんは、二本足で立つと、元気よく、
「やあ、ボクは春美のワトソンのディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)だよ。よろしくね。レストレイドさんも、ロウさんも、シャーロットも、あまねちゃんにも、これ、あげるよ」
ディオちゃんは、みんなに四葉のクローバーを渡してくれました。
「ありがとう。捜査には、時には運も必要だからな」
「ワウン」
「コートのポケットに入れておくわ」
「うん。みんな、春美と推理研のみんなのこと、よろしくね」
さて、ディオちゃんが空気を明るくしてくれたところで、あたしは寝ているはずの探偵小僧の様子を見に、前の方の席へと移動をはじめました。
くるとくんは、あたしと同じ名前の黒崎天音さんのパートナー、ドラゴニュートのブルーズ・アッシュワースさんの隣で大人しく寝てるはずですが、あれっ、竜さんがいませんね。
その代わりにくるとくんの周囲には、なぜか、ぐるりと女性陣がいました。
「じぃーっ」
くるとくんのほうけた寝顔を横から、じっと覗きこんでいるのは、雪だるま王国女王の赤羽 美央(あかばね・みお)さんです。
「美央さん。なにしてるんですか」
「静かにしてください。観察中です」
「え、あ、はい」
「私が事件のことを一生懸命、考えてあげているのに、こんなにスヤスヤ寝ているなんて許せませんっ」
美央さんは、指先でくるとくんの頬をツンツンつつきました。
「そうデス。ミーも同意デス。ああ、眠りたいヨ」
美央さんのパートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)さんがあくびをしています。
美央さんが起きてるから、寝られないのかなあ。なんだか、申しわけないなあ。
「アマネは、事件を解けましたカ」
「ううん。実際、まだなにも起きてないし、あたし、推理は苦手なんですよ」
「私も推理は得意じゃないけど、今回はがんばっちゃうよ〜!」
元気な声が弾けました。ナイスバディの霧雨 透乃(きりさめ・とうの)さんです。くるとくん、よく起きないな。
「あまねさんたちと一緒にいると、残酷な場面によく遭遇しまうから、ゾクゾクします。今度の被害者は、どんな殺され方なんでしょうね。ふふふ」
パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)さんが、不穏なことを言っています。
「陽子さん、なんかいろいろ想像してるみたいですけど、事件に遭遇するのは、あたしやくるとくんの責任ではないですよ」
「あまねちゃん。陽子ちゃんと私は、がんがんやるよ〜。私は、寝つきが悪いから、こんなにガサゴソしてると眠れないんだよね。だから、事件のことを考えてるんだ。次郎ちゃんをマークしようと思うんだ」
「透乃ちゃんと私は、普段は、探偵みたいな活動はしてませんから、なにかあったら、フォローお願いします」
「はい、あたしたちこそ、です」
透乃さんはたくましいし、陽子さんも頭良さそうだし、この二人は、心配なさそうです。
「あまね様、今回はよろしくお願いします。スカサハ、皆さんを護るために頑張るであります!」
「どうも」
軍人さん口調で話しかけてきてくれたのは、メイド服の少女型機晶姫スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)さん。
スカサハさんは、鬼崎 朔(きざき・さく)さんのパートナーです。今回、朔さんは、墨死館にも来ていた“不和の侯爵”アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)さんの他にも、スカノハさんと、剣の花嫁のブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)さんを連れてきてくれて、鬼崎家だけで一グループといった大軍勢です。
「血と不幸の蜜がしたたる場所に、本当に必要なのは、わたくしだけなのだよ。古森。貴様、わかっておるかな?」
「ウチの悪魔くんが、こんな調子だからさ、朔の懐剣のボクがついてないとね」
クールな朔さんの横で、アンドラスさんとカリンさんがにらみ合ってます。
家族というか、一家の中にこうも方向性の違う人同士がいると大変だよね。
「ところで、あまねさんは、スカサハのお友達になってくれるでありますか?」
ふいに聞かれましたが、断る理由は、まったくないので、
「ええ。あたしも、くるとくんもお友達にカウントしてもらえるとうれしいです」
「了解しました。今後は、友達として認識するであります」
敬礼して頂きました。
「スカサハさん。ありがとう」
美央さんと仲のいい人たちは、本当に、みんなバラバラの方向にむかって個性が強いですよね。
「朔さん。今回も助けにきてくださって、ありがとうございます」
「自分にとっては、悪をもって悪を討つ・・・それが正義だ。古森の求めているものとは、たぶん違う。とにかく、自分の邪魔はするな。いいな」
「はい」
クールで、雰囲気ありまくりの朔さんに、大人しく返事をさせていただきました。
「あんた、あたしの邪魔も絶対にするんじゃないよ。わかってるわね」
今度は、茅野 菫(ちの・すみれ)さんからも同様の注意をもらいました。
菫さんは、顔立ちはきれいなんだけど、一言でいうとガラが悪い感じのする怖い人です。
アンティークのメガネの奥の目が、全然、笑ってないの。
うう。
「あんたさあ、ああいう子供が好みなわけ。あれぐらいの年から、餌づけして自分好みに育て上げようなんて、ずいぶんやらしい性格してるわね」
くるとくんのことですか?
「あんたみたいに、一見、無害そうにしてる普通ちゃんが一番、根性が悪いのよ。わたしはよく知ってるから。利用されるだけじゃ終わらないからね。おぼえておいて」
なんて答えればいいんだあ。
「私は、かわいい子やきれいな子が好きなんだけど、あなたは、あんまり好きじゃないわ。しようがないわよね」
菫さんのパートナーのパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)さんも、かわいい顔して毒吐きまくりなんですが、あの、その。
「それだけ言われて、やり返さないのは、私、どうかと思うな。あなたの代わりに、彼女たちを殴ってあげようか?」
耳元でささやかれて、そちらを向くと、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)さんが、にっこりほほ笑んでいました。
セミロングの金髪でモデル並みの美貌のリカインさんが、実はとんでもなく短気で、口より先に手がでるタイプなのは、聞いているので、あたしはぶんぶんと首を横に振りました。
「やめましょう。暴力反対です。口でなにを言われても、気にしなければいいんです。ね。ね」
「そうかしら。私の助けが必要な時は、いつでも言ってね。遠慮はいらないから」
さっきからずっとニコニコしてるリカインさんも、菫さんとは違う意味で怖いです。
「あまねさん。止めてくださって、ありがとうございます。ですが、ウチのお嬢が暴れるのを手前は、見たかった気がしないでもないですね。いや、冗談です」
リカインのパートナーの空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)さんです。
苗字が空京稲荷さんなんです。
和服姿の小柄な男の子ですけど、好物は油揚げなのかな。
「あまねさん。ウチの人たちは、人騒がせだから、ご迷惑をおかけしたらごめんなさいね。あたしは、えっと、あたしの名前は、あれ」
「さっき、うかがいました。中原 鞆絵(なかはら・ともえ)さんですね」
「たしかそうよ。そんな気がするわ」
「・・・・・・」
リカインさんのもう一人のパートナーさんは、杖をついた優しそうなお婆ちゃん、中原鞆絵さんです。
鞆絵さんは、言葉も動きもしっかりされてるんですけど、しかし、お名前は、本当に鞆絵さんでいいのかな、不安です。
「古森あまね。あなたは、休んでおかなくていいのか?」
久しぶりに常識的な質問をされた気がしました。赤いダッフルコートの女性軍人、シャンバラ教導団第一師団少尉のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)さんです。
「寝たほうがいいんですけど、修学旅行っていうか、遠足っていうか、この雰囲気が楽しくって、つい」
「そうか。今回も教団からの参加者は、ほとんどいないな」
「それは、パラミタはあちこちでドンパチやってるみたいですから、軍人さんは、そっちてで忙しいんでしょうし」
「あまね。あなたは、戦争の時ほど、推理小説がよく読まれるという話を聞いたことはあるか? 地球での二度の世界大戦の頃は、実際そうだったらしい。人の命を粗末に扱う現実を前に、人々は、人一人の死の理由、方法を登場人物たちが、えんえんと考える小説に命の重みを求めたというわけだ」
「へえ」
「戦争とはそうしたものとはいえ、生命を数と捉えねばならないとは、難儀なことだな。駅で毒殺されたオサムという男、自身の危険も理解した上であそこまで来たのだろう。
彼の気持ちにこたえるためにも、「かわい家」とやらに行ってみるしかないな。私は、この一団に加わることで、一つ一つの命の重みを確認している気がする。
ああ、そうだ。彼は、教団からの参加者だよ」
「コウモリさん。これ、いかがですか」
クレアさんの紹介を受けて、あたしに、口の開いたお菓子の袋をさしだしてくれたのは、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)さん。顎鬚のにあうオールバックのお兄さんです。
「セオボルトさん。いま、あたしをコウモリさん。って呼びませんでした」
「アダ名です。気にしないでください」
「まあ、なんでもいいですけど、そのお菓子は、なんなんです」
「バットさんは、芋ケンピを知らないのですか!」
セオボルトさんの声が一オクターブ上がりました。
「見たことは、あります。けど、そんなに食べたりはしないですね」
「それはよくない。人生の楽しみの半分を損していると思いますな。しかし、女子高生というのは、みんな、常にお菓子を携帯しているものと思っていたが、超音波さんは、例外的な人なのでは」
「飴とかはみんな持ってますよ。芋ケンピは持ち歩いてる人は、少ない、っていうか。いない気がするんですけど。あ、歯の丈夫なおばあちゃんやお年寄りなら、毎日、しゃぶってるかも」
「おお。それは、嘆かわしい」
悲劇の主人公みたいに頭を抱えたセオボルトさんから、思わず、あたしは、後ずさります。
なんか・・・ごめんなさい。こわいです。
「キミは、芋ケンピを知らないのか。本当に悲しい人間だな」
セオボルトさんをフォローするようにあらわれたのは、犬塚 銀(いぬづか・ぎん)さん。前回も調査に参加して、あたしやくるとくんを守ってくれた鬼桜 刃(きざくら・じん)さん、鬼桜 月桃(きざくら・げっとう)さんの仲間の、凛々しい女の子です。
「古森あまねという名前からして、日本の出身なのですよね。芋ケンピは、サツマイモを原料にした、かりんとうの一種で、日本が世界に誇る文化です。自国の文化をもっと勉強されたほうがいいと思います」
「そんなに重要なお菓子でしたっけ。芋ケンピ、コンビニで売ってます? 今度、買ってみますね」
「あまねちゃん、そんなに気にしなくてもいいのよ。お菓子は、自分の好みで選べばいいわ」
月桃さんが、優しく笑っています。銀さんが月桃さんをすごい目つきでにらみました。ケンピの怨みだけじゃないような感じです。
「銀。手持ちがあれば、少年探偵とあまねにケンピ分けてやれよ。別に少しくらいいいだろ」
「刃様。誠に申しわけありせん。ちょうど手持ちがございません。バスから降りて、買ってまいりましょうか」
ええっ。
銀さんは、月桃さんの時と違い、刃さんが相手だと口調も丁寧、表情もキリッとしています。主従関係、でしょうか。
「あの、わざわざ、いいです」
「あまねさんがどう言われようと、刃様のご命令なら、行ってまいります」
「あまねがいい、って言うからいいよ。あまね。今回は、銀も一緒だ。くるとやおまえの警護、手伝いをしたいと思う。よろしくな」
「はい。ありがとうございます」
銀さんも、なんだか大変そうな人だなあ。
「あまねさん。お菓子なら、こっちにあるよ」
袖を引っ張られて、そちらをむくとパラミタミステリー調査班、PMRのかわいい吸血鬼、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)さんが、なにかを頬張ってました。
「おいしいよ。やみつきになっちゃうね」
「ああ、マカロンだあ。ミレイユさんが持ってきたの? ひょっとして自分で作った、とか」
「ワタシじゃなくてシェイドだよ。パートナーがお菓子作りが趣味なんで、うれしいよねぇ〜。ねえ、ねえ、かわい家の敷地は広いらしいけど、敷地内に森とかもあるのかな。ワタシ、森林浴とか好きだから、もしあれば行きたいな」
「ミレイユさん。森ガールなんだ」
「なに、それ」
「森が好きな女の子。昔、流行したって母が言ってました。でもさ、その黒いローブで一人で森を歩くと誤解されそうだから、気をつけてね」
「そうだよね。森ガールも苦労が多いよね。」
「苦労かなあ」
黒スーツの真面目そうな青年、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)さんが作ったお菓子をPMRと、周りの席の人たちが、みんなで食べて和んでいます。
「シェイドさん。おいしかったです。ありがとうございます」
「いいえ。マカロンは、手間がかかりますが、みなさんに喜んでもらえれば、私こそうれしいですよ。あなたは、お菓子は作りませんか?」
「母がパンを作りますけど、お菓子は、計量が難しくて、あたしは、スポンジケーキを作って、膨らんだことがないんですよ」
そこで男女、数人の大合唱で、
「な・・・なんだってー!!」
PMRといえば、これだとは思いますが、タイミングがよすぎ。
あたし、驚愕されたのか。
あたしの菓子作りの腕に、思いっきり驚いてくれたのは、着流し姿のイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)さん、鮮やかな赤い着物、紫の袴のカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)さん、縁なしメガネにヘッド・フォンの城定 英希(じょうじょう・えいき)さん、ミレイユさんら、お馴染みのメンバーと、金色の騎士エル・ウィンド(える・うぃんど)さん、大きなリボンをつけたお人形さんみたいな女の子ホワイト・カラー(ほわいと・からー)さん、ミュージシャンっぽいカッコイイ男の子クライブ・アイザック(くらいぶ・あいざっく)さん、うさぎのぬいぐるみを抱えた白いドレスのルナ・シルバーバーグ(るな・しるばーばーぐ)さん、さらに、見るからにおとなしそうな影野 陽太(かげの・ようた)さんと、目があった瞬間にニコッ、すでにあたしにハグしてる明るく元気なヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)ちゃんまでいます。
「あまねちゃん。ちょうど、みんなで合いの手の練習をしてたです。あまねちゃんをバカにしたんじゃないです。ケーキは練習すれば、ヘタな人でもうまくなるです」
「俺は、あまねさんのケーキでもきっと食べられると思います。くるとくんは、いつもそれを残さずに食べてるんですか?」
ヴァーナーちゃんと陽太さんのフォローは、人柄のよさがにじみでてて、純粋さゆえにかえってしみます。
「話はきかせてもらったっ」
正直、超推理にはついていけない時もあるけど、とにかく威厳はあるイレブンさんが、すごく真面目な顔で、語りかけてきました。
「古森さん。すなない。実はいま、かわい家について発見した新事実をみんなに話していたんだ。
あまりにも意外な、しかし、核心を突いた私の話に、みんなは驚きの叫びをあげてしまった。
そこにちょうど、きみがケーキ作りの話をしていたのは、偶然だろうか。
いや、そうではない。
古森あまねがケーキをうまく作れないのは、かわい家の呪縛だったんだよっ!」
「な・・・なんだってー!!」
あたしも、つい、みなさんと一緒に叫んじゃいました。衝撃的すぎます。
「いまのよかったよ。キミもPMRにはいって、あたしと一緒に叫ぼうよ」
カッティさんに勧誘されましたが、私はいちおう高校のミス研に所属してて、兼部は校則で禁止されてるんで、それに、イレブンさんの推理についてくのは、くるとくんの映画推理よりハードルが高いです。
「かわい家の呪縛。イレブンさんと俺の推理で、解き放つから、君の料理の腕もあがると思うよ」
どこまで本気かわからない英希さんに、笑われました。
「俺もPMR所属だから、よろしく。イレブンさんに聞いたけど、敵は、世界の滅亡をたくらむ忠臣蔵マニアだったりするんだろ。今度は、どんな敵かな。とにかく俺抜きで面白いことおっぱじめんのなしな!」
「クー兄。無理しちゃだめだよ? あまねちゃんもケガしないでね」
今回から調査に参加してくれるクライブさんとルナさんは、PMRの中では常識人っぽい気がします。これから、イレブンさんの超推理をだんだん学んでいくのかな。
「な・・・なんだってー!!」
今度は小声できこえました。
ミレイユさんとホワイトさんが二人で、並んで、かわいらしく、
「な・・・なんだってー!!」
「なにしてるんですか」
「練習だよ。ちゃんと、やっとかないといざって時に困るからね」
「私、ミレイユ様と、一緒に叫べてうれしいです」
ホワイトちゃんの髪が、頭のうえで輪っかになってて、まるで天使みたい。
この髪の毛、きれいですけど、動くんですね。
「実は、あの髪がホワイトの本体なんだぜ」
「つまり、ホワイトさんは、髪の毛型の機晶姫なんですか」
「はう!」
あたしとエルさんの会話が耳にはいったらしいホワイトさんの髪が、今度は雷マークの形になって、ホワイトさんは、エルさんに体当たりしました。
「あまね様、エル様となんのお話ですか」
「いやなんでもないの。ただの世間話」
「いまのエル様の言葉は、冗談です。わかってますよね」
雷マークのホワイトさんには、とりあえず頷くしかないです。
「はい。わかりました。すいません」
さて、いただいたマカロンを持って、通路を先へ進むとします。
前の方は、比較的静かですね。寝てる人が多いのかな。
空京大学医学部の島村 幸(しまむら・さち)さんが、隣の席の旦那様、ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)さんの肩に、頭を預けて休んでおられます。
幸さんのメガネを外した寝顔を眺めると、女子に人気のでそうな女の子の顔をしてるなあと思います。バレンタインにチョコたくさんもらえそう。
がっしりした大人の男性のガートナさんが、薄目を開け、あたしに優しくほほ笑んでくれました。また、すぐまぶたを閉じます。
「あんたさあー。後のやつらに静かにするように言ってくれよ。読書の邪魔なんだよー」
「先生。本を読んでるんですか」
幸さんのもう一人のパートナー、アスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)さんは、伝説的な名医さんで、ピオス先生って呼ばれてます。
「おもしろい本を読んでると、寝る時間がもったいなんだよー」
「なにを読んでるんです。小説ですか?」
ピオス先生は、あたしに革の装丁の本の表紙をみせてくれました。
「それ、読めません・・・」
「「エスペラントの基礎」だよ。復習したかったんだ。あんた、学生だからエスペラントくらい知ってるだろー」
「知りません」
「俺、読書に集中したいんで、冗談に付き合ってるヒマないんだよ。じゃあなー」
ピオス先生は、本に目を戻されました。
「あまね。さっきから、気になってるんだけど、俺たち尾行されてないか?」
いきなり、水色のカラーグラスをかけた葛葉 翔(くずのは・しょう)さんに尋ねられました。
「あたしは、全然、気にしてなかったけど、どうしてですか」
「このバスと平行して、闇の中を怪しい光が移動している」
「ほんとですか。UFOとか、火の玉じゃあ。パラミタには、そういうの多そうだし」
「窓から外を見ていたうちの小僧が、偶然、気づいたので、我が運転手に頼んで、少しまわり道をしてもらったり、スピードを上げたり、落としたりしてもらったのじゃ」
翔さんのパートナーの少女の姿をした、魔道書、クタート・アクアディンゲン(くたーと・あくあでぃんげん)さんが、教えてくれました。
クタートさんは、外見や行動はかわいいですが、上から目線のしゃべり方をします。
「まだ光はいなくならない。少し離れた斜め上空から、俺たちをずっとついてくる」
「人かどうかはわからぬが、なんらかの意思を持ったものに、尾行されているようじゃな」
光の正体が気になるらしく、クタートさんは、額を窓ガラスにくっつけて、一生懸命、外を眺めています。
「うふふ。謎の飛行物体なんて、宇宙人に襲われるのかしらぁ。そういう展開もおもしろそうねぇ〜。探偵ものって、それもありな気がするしぃ」
翔さんたちの前の席の巫丞 伊月(ふじょう・いつき)さんは、楽しそうです。伊月さんは、すごく色白で、髪が長くって、色っぽい女の子です。
同じ美人さんでも、リカインさんが洋風だと、着物の伊月さんは和風ですね。
「・・・・・・」
そんな伊月さんの隣で、無言でひたすらメモを取っているのが、パートナーのラシェル・グリーズ(らしぇる・ぐりーず)さんです。
ショートヘアーに、スーツにメガネで有能な秘書風の女性です。
「あまね殿。私のメモに興味がおありですか、私の仕事は、今回の事件の全容をメモすることです。事件経過がわからなくなった時など、お聞きくだされば、お答えしますが・・・」
「それは、どうも、よろしくお願いします」
ラシェルさんの、付箋のたくさんついたメモ帳、というか厚い手帳をちょこっと覗き見ましたが、細かい書き込みがびっしりで、あたしには、さっぱりです。
もしかして、エスペラント語か?
「ねえ。ねえ。あまねちゃん、そのお菓子は、どうしたのお」
あたしの持ったマカロンをつつくのは、ノゥン・ネィーム(のぅん・ねぃーむ)ノゥン・ネィームさん。
伊月さんのもう一人のパートナーで、たぶん、くるとくんと同じくらいの年のいたいけな女の子です。見た目は。
和服を着ててかわいいなあ。
墨死館の時よりも、あきらかに和服の人が多いですよね。
パラミタは和服ブームですか?
「これはね。あっちの席でPMRのシェイドさんにもらったの? あなたも欲しいの。あげるよ」
「ううん。ノンちゃん、自分でもらいにいけるよー。ノンちゃんは〜、純で好奇心旺盛な子供だから、みんなと仲良くなるの上手なんあだよ。ふっふーん」
ノゥン・ネィームさんは、PMRさんたちの方へ行ってしまいました。
気のせいか、いま、かすかに黒かった気が。
このバスと並んで動く謎の光。その正体はなんなんでしょう?
いまのところ、それを気にしているのは、翔さんたちと伊月さんたちだけみたいね。
ぐるりとバスの中を見回すと、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)さんとケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)さんが、本を手にしながら、語りあっている様子です。
ファタさんは、意地悪そうだけど知的な感じのする女の子で、ケイラさんは、遊牧民の衣装を着て女装した、優しそうな男の人です。
「なんのお話しですか?」
「おう。あまね。おぬしは、どんな本が好みじゃ。日頃から幼い男の子と、好んで接しておるらしいおぬしが、どのような妄想に身悶えておるのか、気になるところじゃ。んふ」
「・・・・・・普通の推理小説が好きです」
「それは、つまらんのう。わしは本の収集も趣味の一つにしていてな。意外に読者家なケイラと、最近、読んだ本について語りあっていたところじゃ」
訂正です。
ファタさんは意地悪そうではなくて、意地が悪いので、私は、話すのが苦手です。
「遊牧民というのは、旅が日常だから、いろんな文化にふれるんだ。書物に限らず、不思議な話、楽しい話、怖い話、たくさん耳にしたよ」
「あのー、ケイラさんが知っている一番怖い話ってなんですか? あたし、怖い話を聞くの大好きなんです。教えていただけますか」
「一番怖いか。自分のいた遊牧民の部族に伝わる禁じられた物語があるのだけど、それを古森さんに話したら、あなたが大変なことになってしまうし、話した自分も明日の朝を迎えられないかもしれない」
「えー、そんなのがあるんですかあ。語ると最後に魔物がでてきて、みんなを食べちゃう系ですかねえ」
ケイラさんは、穏やかに、だめ、だめと手を振りました。
「危ないからやめておくよ」
「精霊の立場から言わせてもらうと、人間は自分の醜さ、恐ろしさを直視せず、そういったものは、すべて、悪魔や怪物といったものの責任にしてしまう傾向があるな。物語においてもそれは、顕著だ。ひどい悪役は、人間であっても人間でない心を持った怪物、となる」
ケイラさんのパートナーの暗黒の精霊マラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)さんが、つまらならなそうに言いました。
マラッタさんは、銀髪をぐしゃぐしゃにしていて、文系の学者さんみたいです。
「古森あまね。こんなふうに正直に、おまえたちの怖がる怪物の正体を種明かししてしまうと、興ざめか」
まったく興ざめでは、ありません。
親切なケイラさんのパートナーさんが、頭のいいひねくれ者タイプの殿方だと判明して、驚きました。
「深夜のバスで怖い話とは、いかにも学生らしいのう。わらわが、そなたにとっておきを教えてやろうか?」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)さんのパートナーのミア・マハ(みあ・まは)さんが、あたしに笑いかけます。
紫の帽子にマントで、服装からしてそれらしい魔女のミアさんは、小さな女の子のなりはしていますが、経験豊富で知識もありそうです。
「とっておき、ですか」
「そうじゃ、話を聞く代償としてそなたは、なにを払う?」
「マカロンでは、だめですか」
「うぬ。まず、それはもらっておおうか」
ミアさんは、マカロンを受け取り、さっそく口に入れました。
「うまい。手作りか。そなたが作ったのではあるまい。わかっておる」
なんで、そうなる。それがわかるのが、怖いです。
「どうしたの。面白そうだね。ボクも混ぜてよ」
幼児体型のミアさんとは反対に、幼い顔のわりに体の発育のすごくいい、クラスの男子のアイドルになりそうな女の子、レキさんが、ミアさんの食べかけのマカロンを取って、自分の口に放りこみました。
「それは、わらわのじゃ。レキは、もう育っておるから、これ以上、栄養は必要ないのじゃ」
「おいしいね。もう一個ないの」
レキさんは、無邪気にあたしに手をだしました。ミアさんがレキさんの背中をぽこぽこと叩きます。
「ない。ない。ないのじゃ。いまのも返せ」
「それは、ムリ。あまね。ボクのカンだけどね、さっきから窓の外にある光、あれ、生きてるよ」
レキさんは、ガラスのむこうの闇をさしました。
「ほら、小さな光の玉が二つでたり、消えたりするだろ。あれ、呼吸やまばたきじゃないかな」
「レキさん。あれに気づいてたんですか?」
「まあね。退屈だから、敵でもこないかなあって、外を見てたら見つけたんだ。このバスに用があるなら、あっちからくるから別にいいかと思って」
レキさんは、わんぱく小僧のように、ニッと笑いました。
「あれとの距離は、さっきからだんだんと縮まってきている。遭遇は時間の問題だろ。かわい家につく前に御対面だ」
片手で、二つの六面体ダイスを、浮かしては、握りこむを繰り返している、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)さんが冷静にそう言うと、
「私が、せっかく、こうしてかわい家での作戦を立てているというのに、このまま全員、UFOに誘拐されるですって・・・!? 探偵しに行くんじゃなかったの」
ピンクのセミロングの髪の軍服を着た女の子、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)さんがあ然としています。
「なんでいきなりUFOにアブダクトなのよ! その発想はっ。小学生かあんたは!」
パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)さんがツッコミました。大きなリボンをつけ、赤い羽織と黒袴のリズリットさんは、うさぎのぬいぐるみを持ってるんだけど、ルナちゃんのと違って、このうさぎさん、角度によって耳がキランと光ります。
ぬいぐるみ兵器、ですか?
「ダイスの目を見る限り、あれは危険なものではない。誘拐される恐れはないと思います。私もせっかくだし、かわい家まで行きたいですから」
涼介さんは、落ち着いた、あたたかみのある低い声をしていて、ダイスうんぬんは置いておいて、話を聞いていると、安心できます。
涼介さんを信じて、あたしはバスの無事到着を疑いません。
そしてUFOが襲来しなくても、バスの前部の席には、未知なる世界が広がっていました。
鬼院 尋人(きいん・ひろと)さん。清泉 北都(いずみ・ほくと)さん。ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)さん。久途 侘助(くず・わびすけ)さん。香住 火藍(かすみ・からん)さん。早川 呼雪(はやかわ・こゆき)さん。藍澤 黎(あいざわ・れい)さん。クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)さん。クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)さん。高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)さん。ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)さん。黒崎 天音(くろさき・あまね)さん。それと、いる場所が違う気する春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)さんが、エメラルド・グリーンの目の縁をピンクで塗った、派手なメイクのメイド服の女の子、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)さんを囲むように体をむけて座っています。
さすが、黒崎さんは、寝てるみたいですね。
竜さんがくるとくんの側にいなかったのは、こっちの天音さんの寝顔でも、見にきてたからでしょうか?
「百合園は、女ばっかりで刺激がかけてるのよね。きれいな百合も毎日じゃあきるわ。でも、まさか、ここでイケメンハーレムを実現できるなんて、私、ツイてるわね。あなた、そう思わない」
リナリエッタさんは、今回の捜査陣のきれいどころの男子に囲まれてご満悦の様子です。
あたし、ハーレムは知りませんし、行ったことないですが、これが、噂にきくホストクラブなのかな、とは思います。
「あまねちゃん。オレたちが座ってたら、あの子がきて、みんなの体にさわったり、からかったりしてくるんだよ。藍澤先輩やクリストファーや北都も紳士だから、なにも言わないけど、女性が好きでもない男に体をさわられるのって、こういう感じなのかな」
かわいい系男子の尋人さんに聞かれました。
その質問は、前提として、あたしが、そういう行為をされた経験がある、と仮定している気がしますが、すいません。記憶にございません。
「リナリエッタさん、すごく喜んでますよね。尋人さん、ヘンなことされないように、気をつけてね」
「うん。あのさ、事件の話だけど、オレは歩不という人が怪しいと思うんだ。だから流水という子に話を聞いてみることにするよ。
地球のオレの家は、それなりに名誉も財産もある家だったんだ。オレは兄弟の中では出来が一番悪くて、父親の後を継ぐとか問題外だったんだけど、それでも他の兄弟にとっては、いなくなって欲しい存在だったみたいなんだ。血族同士で争う、かわい家の跡目争いは、他人事と思えず辛いよ。被害者がでずに、無事に済むといいな」
「契約者の尋人さんの出来が悪いとか、さぞかし不公平に評価されたんでしょうね。あたしは、そういう争いとは、無縁な平凡な家の子だけど、いろいろな経験をしてる人って、すごいな、と思う。そう言えば、黒崎さんも、歩不さんのところへ行くって言ってた気がするけど」
「じゃあ、黒埼先輩と一緒に捜査できそうだね。あまねちゃんは、どうするの?」
「くるとくん、次第ね」
尋人さんと話しているあたしを、リナリエッタさんが意味ありげに見ました。
「ふふ。あまね。尋人を独占するなら、指名料をいただくわよ。あなたみたいなウブな子には、尋人がお似合いかもね。手編みのマフラーをプレゼントする、とか。私は、そうねえ。まず、かわいいって言うか、まだまだお子様の北都に手ほどきしてあげて」
「僕? 僕はごく普通の人間だし、急にそんなこと言われても、リナさんのこともよく知らないしさ」
名指しされた北都さんは、きょとんとしています。北都さんは、自分でも言うように、普通っぽい、素朴な感じの男の子です。
「北都は、化けるわよ。場数を踏めばそのうち男も女も手玉に取るようになるわ。パパのおファミリーが経営するお店にも、そういう子はいっぱいいるのよ。北都は、ひょっとして私がはじめて?」
「な、なに言っての。僕は、そういうのは、得意じゃなくて」
照れるまくる北都さんに、リナリエッタさんは、投げキッスしました。
「北都を男にしたら、ソーマと侘助にちょっかいをだして、女の良さと怖さをたっぷり思い知らせて、泥沼の刃傷沙汰になったりして」
「それはありえねぇな。俺と侘助は、おまえのたくましい妄想から、外しといてくれ。お互い関係なく生きようぜ」
ソーマさんは素っ気なく言い捨てて、隣の侘助さんに、なっ、と目配せしました。
「自分をネタにされるとおかしな気分だけど、俺は、まあ、雷霆みたいなやつもおもしろいと思うけどな。雷霆。お前、そういう想像の世界をマンガにして喜んだりする人の仲間だろ」
「私が二人の想定外の存在って時点で、そこにすでに未知への誘惑への誘惑があるわけよ。ご両人、わかるかしら」
テンションの落ちないリナエッタさんと、ソーマさん、侘助さんの三人は顔を合わせて笑っています。
理解しあってしまったのでしょうか。
「二人の仲を散々、引っ掻き回した後、侘助の側で部外者の顔してる火藍も引っ張り込んで、自分も一人の男性だって自覚させて、私に貢がせるの。こういう人は、尽くしてくれるわよ」
「俺はリナエッタさんのお話が、さっぱり意味不明なんですがね。あまねさん、聞いてておもしろいんですか?」
本気でわけのわからなそうな顔をしている火藍さんは、あまりにいい人っぽくて、私は、なでてあげたくなりました。
「おもしろいかどうかは、難しいところですよね。火藍さん、かわいいって言われませんか」
「あまねさんまで、なに言ってるんですか、かんべんしてくださいよ」
品定め、というか妄想トークを続けるリナエッタさんは、置いておいて、移動しようとしたあたしは、悠司さんに呼び止めれました。
「俺、パラ実だし、この席にいるの、なんか違う気がしねえか。だるいぜ」
たしかに高崎さんは、見た目はかっこいいけど、薔薇の学舎じゃなくて、ストリートのお兄さんだよね。
「長い間、座ってて膝つまった気がする。あーあ。体、動かしてぇよ。休憩とかないのか」
「わかりました。運転手さんに聞いてみますね」
「頼むわ。かったりぃ」
「はいはい」
こういう自分を飾らないやんちゃタイプの男の人は、話してみると親しみやすいところが、チャームポイントだと思います。
「おい。ちょっと、いいか」
どこにいても人目を引かずにはいられない、常に自い服で、颯爽としている黎さんと、芸術家っぽいオーラのある、はかなげな呼雪さんの間に、挟まれて座っている、マスコットみたいな男の子、真都里さんが、あたしを呼んでいます。
「あまね、俺、双子のとんでもない姉さんと育ったから、男の兄弟に憧れたりするんだ。こうして、男友達に囲まれてると、なんか、仲間で、ブラザーって感じだよな」
どうやら真都里さんは、そういう気分を味わいたくて、ここに座っているらしいです。
真都里さんは、なんていうか見るからに弟っぽい、というか、お姉ちゃんがいじめたくなるオーラがでてるからなあ。
正直、見ていてここのみんなとブラザーな感じはしませんが。
「真都里殿。友でも兄でも、好きに思っていただいて、かまわぬ。こうしてこのバスに共に乗っているだけで、我らの間に絆があるのは、おわかりであろう」
「春夏秋冬。お前がお前らしく自然にしていれば、春夏秋冬にふさわしい仲間があらわれるさ」
「そうだな。みんなの言うとおりだよな。姉さんに関係なく俺は、俺らしく生きるんだ」
黎さんと呼雪さんに、ほほ笑みかけられて素直に喜んでる真都里さんは、けなげすぎて心配になります。
「ところで古森。かわい家だが、俺は麻美さんの力になりたい。
彼のことはまだ知らないが、俺の母も良い家の出で、身寄りのない父と一緒になるのを反対されて駆け落ちしたんだ。
俺は両親が死んだ後、母方の親戚をたらい回しにされたり色々と酷い目に遭った。
養父母に引き取られてからは平穏だったが、俺が契約者になった途端、それまで知らん顔をしていた親戚どもが、嗅ぎ付けてきて、利用されそうになった。
麻美さんには、自分自身のこれまでを重ねてしまうんだ」
呼雪さんの話に、あたしも黎さんも真都里さんも、つい聞き入ってしまいました。
「呼雪、いや呼雪さん。あんた、スゲー男だな。俺、あんたみたいなタフな人生を生きてる人を尊敬するよ」
ストレートすぎる真都里さんに、呼雪さんも黎さんも苦笑してます。
あたし、悠司さんのリクエストの休憩を運転手さんに伝えにいかないと。
かれこれ四時間近く走ってるから、トイレに行きたい人もいるでしょうし。
通路を歩くあたしの前で、今度は、男の人同士が立って、抱き合って、顔を近づけてて、
!
「おっと、君、なにを見ているんだい?」
カップルの片方、シルクハットにスーツの紳士然とした服装のベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)さんが、いたずらっぽく笑いかけてきました。
「古森くん。邪魔しなくてもいいだろ。ひどいなあ」
カップルのもう一人は、バラの似合いそうな金髪の美少年のクリストファー・モーガンさん。
「リナくんにいじられてるのも、楽しいんだけどさ。せっかくだから二人で遊んでたんだ。よね」
「君、これは大切な予行練習ですよ。成果は、かわい家でお見せします」
「そんなあ。まだ練習にもなってないって」
「そうですな。レッスンを再開しますか」
「バスが着くまで、どこまでできるか試してみようか。うふふ」
「なにをどこまで試すか、言葉にして言わないと、なにもしてあげません」
「声をださずに口だけ動かすよ。・・・ほら、わかったかい」
なんつぅかもう。
あたしに関係なく、相手の体に手をまわして、ささやきあっている二人の脇を抜けて、前へ行きますね。
「ブルーズさんは、黒崎さんの、護衛ですか?」
「ここでも安心はできんからな」
もっともですね。
「しかし、こうして、見ていても、あきぬものだな。な、なんでもないぞ。深い意味などはない」
ドラゴニュートのブルーズさんが、隣で眠っている、パートナーの黒崎さんの顔に見入っています。
ブルーズさんの場合は、なにかするってわけではないと思いますが、寝起きに、目の前に、竜さんのアップがあるのは、なれてないとつらいかも。
「なに、着いたの? エンジンが止まったよね」
黒崎さんが目を覚まして、ブルーズさんが急いで顔をどけました。
「そう言えば、止まっているな」
「ブルーズ。どうしたの? くるとくんのところにいたんじゃないの」
「くるとはすぐに寝ついてしまったのでな、おまえの身を」
「寝てただけだから、護衛は必要ないと思うよ」
「しかし、油断するわけには。おい。なにを笑っているのだ」
「ありがとう」
寝起きでも、ばっちり涼しげな黒崎さんと、いつでもお母さんしてるブルーズさんです。
完全にエンジンが停止してるので、信号待ちじゃなさそう。
様子を聞くために、運転席へ。
ところが通路に、大きな袋がどかんと二つ置いてあって通れません。
へたしたらあたしくらいの大きさがある麻の袋で、音はしませんが、中身がごそごそ動いてます。
「悪いな。気にせず、踏んでってくれ」
あたしの二倍は身長がある超巨漢のジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)さんが、気軽に言います。
「踏めませんよ。動いてますよ、これ。なんなんですか、いったい」
「へへ。秘密兵器だ。中が見たいなら、入れてやるぜ」
「い、入れてくれなくていいです。うわ。うわ」
ボゴルさんの横にいた、頭にすっぽり布袋をかぶったドラゴニュートのゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)さんがひょいっと、あたしを抱えあげて、向こう側へ渡してくれました。
「せっかく持ってきたのに、おまえに殺されたら、もったいないのでな」
「殺す? なにをですか。それ、やばくないですか」
「いいからいけ」
ドワルスキーさんに背中を押されて、あたしは転びそうになりました。
捜査に行く探偵の持ち物では、ないですよね。あれは。
「まだ、かわい家じゃないよね。あんたの顔って、怖がってても、あんまりきれいじゃないよな」
まるで、背後を取るように、運転席の真後の席に一人でいるマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)さんが、にやにやしています。
「仕事前に、余計な力を使いたくないからさあ。トラブルならさっさと解決して、車、動かして欲しいんだよね〜」
マッシュさんは、失礼だけど、正体の知れないところがあって普通にしてても怖いです。
パーカー姿の、あたしより背の小さい男の子なんですけど。
あたしが運転席に行くと、ドライバーさんがぼう然とフロントガラスのむこうを眺めていました。
「古森さん。あれはなんですか・・・」
「あれって」
思いあたるフシがあります。
ドアを開けてもらい、あたしはバスを降りました。
バスの正面には、おそらく全長二十メートル近くある巨大な熊が道路にあぐらをかいて、青白く光る目をこちらにむけています。
熊。
どうみても、どでかい熊です。
しんどそうに大きく口を開け、肩で息をしています。
「UMAかい。ボクは、こういうミステリーも嫌いじゃないんだ」
あたしに続いてバスをおりてきた、どこか女の子っぽい男の子、クリスティー・モーガンさんが、巨熊さんに感心しています。
「ボクは今回の事件を後日、手紙に書いて、ペンフレンドの桜井静香校長に、送ろうと思ってるんだ。熊の写真を撮っておこうかな。あれ。あまねさんは、あんまり驚いてないね」
「ええ。今回の捜査参加者に、巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)さんと、変熊 仮面(へんくま・かめん)さんがいるはずなんですけど、バスに乗ってないんで、どうかしたかと思ってたんです。こちらが、イオマンテさんですね」
「古森君。これは、敵か? どうする」
日本刀を携えたメイド服の少女剣士、春日井 茜(かすがい・あかね)さんも、あたしの隣へきました。
「敵じゃないです。捜査メンバーです。大きすぎてバスに乗れないから、走って追いかけてきて、疲れてへたりこんでるんだと思います」
「それは、お疲れ様だな。あれだけ体が大きいと、なにかと苦労も多いだろう」
茜さんは、真剣にイオマンテさんの身を案じてあげているようです。
怪しい格好の人が、あたしによってきました。
「古森あまね。かわい家につく前に話をしようぜ。弓月くるとをナガンが売りだすぜ」
「結構です。ごめんなさい。間に合ってます」
赤と緑の道化師服で、白塗りのピエロメイクをしたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)さんの申し出をあたしは、反射的に断ってしまいました。
片手が石で、片足が木で。目と髪が真っ白。
ビュジュアルインパクトありすぎですよ。
「ナガンは傷つく。古森あまね。ナガンが弓月くるとと仲良くなったら、弓月くるとの伝記を書いて、売って、ビラまいて儲けるぜ。飴でもやって、仲良くしてくる。じゃあな」
止める間もなく、勝手に行ってしまいました。くるとくんが心配だわ。
けど、イオマンテさんがこのままだと、バスが動かないし。
「毎度。あなたの街の便利屋さん。ロックスター商会、参上だぜ」
途方に暮れているあたしのところへ、エレキ・ギターを背負ったトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)さんと、パートナーの機水姫の少女ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)さんがきてくれました。
「今回は、特別に無料でサービスするぜ。麻美を守って、事件を解決して、お礼をがっぽりと頂く予定だからな。あんたの悩みをあっさり解決だ。あの熊をどかしてやる」
「トライブ。キミは本気であの作戦を決行するのか」
ジョウさんは、首をひねってます。
「成功するかよりも、そもそも意味があるのか」
「任せとけ。ショウ。配るぞ」
トライブさんとジョウさんは、便利屋業として常に持っているのか、野球のバットや、ゴルフのクラブをバスから降りて様子を見にきた人たちに配っています。
「一人五球までは、サービスだ。それ以上は、料金をいただくぜ」
トライブさんが言い終わらないうちに、すでに、バットをフルスイングしてる人もいます。
「なんじゃ、踊りでもして、巨熊を惑わそうかと思ったのに、これでは、野球部にも入っておるブリの見せ場ではないか」
舞さんのもう一人のパートナー、歌や踊りが得意な女仙の金仙姫(きむ・そに)さんが、つまらなそうにあたしに苦情を言いにきました。
ごめんなさい。苦情は、ロックスター商会までお願いします。
みなさんが景気よくカッ飛ばすスポンジボールが、イオマンテさんのお腹や頭にポコポコ当たっています。
イオマンテさんが、うるさそうに手を振りました。
「おんどれ! 目に玉当てた奴はどいつじゃ!」
ボールは当ててますが、だって、道路にでんと座ってるし。
「わしは、おんしゃらのバスをずっと追いかけてきて、疲れとるんじゃ。ちっとは休ませい」
誰かがよじ登ったのか、イオマンテさんの肩に人影が。
「フハハハハ・・・」
全裸に、仮面とマントの人が立ってます。あれが、変熊仮面さんですか?
すいません。直視できません。
「かわい家では、俺様のかっこいい推理を披露してやる! 俺様はとにかく目立ちたいの!」
別にいいのではないかと思います。逮捕されないようにやってください。
「待て。俺様にボールを当てるな。ああっ。玉に玉があたるぞ。おおっ。その角度は。だしてる、お前が悪いって? ご名答・・・。さすが、あけちん君! って、どっちが開けチン君だ」
なんか・・・・・・場が、盛り上がってる。
この人も男の子らしい男の子だなあ、目隠ししたまま、思っていたら、
「ヒャッハァ〜。今度こそ俺とお楽しみと行こうぜ」
「きゃ」
背後からあたしのお尻をさわって、スパイクバイクで、あさっての方向に走り去ってしまったのは、モヒカン刈りの南 鮪(みなみ・まぐろ)さん。
なんであの人またいるんだろう? あ、ごめんなさい。きっと今回は、捜査に協力してくれるんですよね。
どこかへ走っていったけど、無事に、かわい家にたどりつけるかな。
さて、参加メンバーが全員、出揃ったところで、「かわい家事件」はじまります。
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