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リアクション
52. 三日目 観光船 午後五時五十三分
V:ジャジラッド・ボゴルだ。
俺はそのうち、裏社会を牛耳る男だ。このビデオにゃ俺の栄光への記念映像を残すつもりなんだが、この船には、おかしな点が二つある。
一つめ、前に乗船した時にパーティ会場に、切断殺人用のワイヤーを仕掛けといたんだが、それがなくなってる。
昨日でも船を探索した、探偵の仕業か。
二つめ、オレの愛犬、愛猫たちに爆弾を食わせて、動物爆弾として今日、船の中に放したんだが、まだ、爆発しねぇ。
納得いかねぇぜ。
爆弾がバッタもんだったのかよ。
「鮪。これ、食ってみろ」
三メートル、百五十キロの巨漢にして悪漢のボゴルは、たまたま側にいたモヒカンのバラ実生、南鮪を捕まえ、ムリヤリ口に爆弾入りソーセージを押し込んだ。
「お、うげ、うう。てめぇ、なにしやがるんだ!」
鮪は、ソーセージをすべて飲み込んでから、ボゴルに食ってかかった。
「サービスだぜ。おまえもワルそうな面してるな」
「ヒャッハアー。俺は船は苦手なんだが、京子の手伝いにわざわざきてやったんだぜ。派手にどかーんと、この船が爆発するくらいのでかいことをしてやるぜ」
「へへへ。この船にはな、不和の侯爵って、やべぇ女が乗ってるぜ。探してみな。きっと気があうと思うぜ。兄弟。じゃ、元気でな」
「くうん。くうん」
鮪から離れたボゴルの足もとに、さっき、船内に放した愛犬のうちの一匹が、すりよってきた。
「うおっ。てめえ。こんなところにいるんじゃねぇ。俺から離れろ。ゲシュタール。こいつ捨ててこい。爆発するぞ」
「おまえ、犬コロをくっつけたまま、オレに近寄るな」
ボゴルのパートナーの、布袋で顔を隠したドラゴニュート、ゲシュタール・ドワルスキーは、ボゴルと犬からあわてて身を離す。
V:私、島村幸の医療分野の専門は人間で、趣味は魔改造、実験ですが、航行中の船内で犬、猫十数匹に小型爆弾を嘔吐させるはめになるとは、さすがに予想していませんでしたよ。
単純な爆弾でしたので、処理は簡単でしたが。
船上のパーティということで、夫とドレスアップしてきたのですが、この責任は誰に取ってもらえばいいのでしょうかね。
犬猫のにおい、プラスあれのにおいのついたイブニングドレスとタキシード。たしかに貴重ではありますが、これを喜んで家に取っておくほど、私は寛大ではありません。
「その犬は、あなたのもののようですね。他の犬、猫もまとめてお返ししましょうか」
島村幸の鋭い視線で射抜かれても、それでもボゴルは、しらをきった。
「こんな犬、知らねえよ。俺は動物に好かれるんでな。寺院がこの船に動物爆弾を仕掛けたって話だぜ。なあ、相棒」
「おう。オレもその噂を聞いたぜ。姉さん、寺院のテロを止めてくれて、ありがとな」
話を振られたドワルスキーは、平然とウソをつく。
「あんたらどうでもいいけどさー。動物いじめるのも、たいがいにしろよ。俺と幸がこの船乗ってなかったら、どうなったと思ってるんだよ。爆弾犬、猫を全部、集めたナガンにも感謝しろよー。
古森あまね。ナガンが後であんたに話があるらしいぞ。
犯人が誰でもいいけど、今度、俺が医師として、人生の先輩として、命の重さの特別講義をしてやるから、おまえら全員、出席決定な。
今日のは貸しだからなー」
幸のパートナーの、子供の姿をした伝説の医師、アレクレピオス・ケイロンは、パーティー会場にいる全員に怒りをぶつけた。
「みなさん、パーティーの邪魔をしてすまなかったですな。とりあえず、幸とピオス先生の力で危機はさりました。どなたか、私たちをシャワールームに、案内していただけませんか。簡単な着替えも借りられればありがたい。我々は、すっかり動物になってしまいましたからな」
幸の夫であるガートナ・トライストルの言葉に、パーティ会場のどこからか拍手が起こりはじめ、すぐに拍手は大きくなり、幸たち三人は、互いに顔を見合わせてから、揃って深くお辞儀をした。
「ヒャッハアー」
接客係に案内され、シャワールームにむかっていた幸の尻を後ろから、鮪がタッチし、
「ぐわわあ。あ、あ、あいさつ代わりだぜ」
幸に手首をつかまれ、ねじあげられた。
「あなたは、解剖が必要ですね。一緒にきなさい」
「待てよ。俺は、ついさっき、あのデカイやつにソーセージをムリヤリ食わされたけど、兄弟って呼ばれたし、爆弾なんか腹にはいっちゃいねえ。そんなにバカじゃねぇぜ。だから、解剖は、するなよ」
幸、ガートナ、アレクレピオスは、ほぼ三人同時にため息をついた。
「解剖はしません。あはつ! 必要なのは脳改造ですね」
「幸。爆弾処理、ここでやろー。こいつには手加減いらないよー。お前さあ、まず、勉強って漢字、書けるか?」