リアクション
54. 三日目 レンドルシャム島 午後七時二十一分
「あんた。どこへ行くんです。森の中で迷子になりますよ」
「・・・・・・」
香住火藍が呼びかけても、麻美は立ち止まらない。
「みなさん。あっちこっちで戦ってるみたいですから、あんたは動かずにここにいてください。俺が守りますから」
船が停止すると、混乱がはじまった。
船内には、爆音が、悲鳴が、狂ったような笑いが響きわたる。
火藍は、側にいた麻美を連れ、一般客をふくめた他の乗客たちと、救命ボートでレンドルシャム島へ流れついた。
島全体が、背の高い木々が繁った暗い森で、ボートがいくつか漂着すると、夜の森の中には、殺気と緊張感が満ちた。
「しかし、誰が敵なんだか、さっぱりですねえ。そっちは、だめですよ。何回、言えばいいんですか、だから、そっちは。あ、あんたは・・・」
火藍は、いつのまに自分が守っているのが、パートナーの侘助が扮した麻美ではなくなっているの気づいた。
「失礼しました。あなた、麻美さん、ですか」
「・・・・・・」
麻美は火藍にかまわず、森を進んでいこうとする。
「そんなにそっちに行きたいんですか? 俺は、ここはくわしくないんですがね」
「俺と火藍で、麻美の行きたいほうへいってみようぜ。ここまできたら、俺はもう普通にしててもいいだろ」
木々の間から、麻美に扮した侘助が顔をだした。
「あんた。どこにいたんですか」
「迷ってた。暗いし、どこも同じに見えるしで、火藍の声でここにたどりついたよ」
「・・・・・・母さん」
「麻美は、こっちへ行きたいみたいだぜ」
「麻美さんもあんたも、おとなしくしてる気は、ないんですね。まったく」
侘助、火藍は、麻美と森を歩いてゆく。