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リアクション
58. 三日目 レンドルシャム島 午後七時五十二分
V:百合園女学院推理研究会のペルディータ・マイナです。
昨日、パートナーの蒼也とみのるさんの部屋を捜索して、みのるさんの日記を見つけました。
そこには、歩不さんと一緒に生まれてきた不幸な子のことが書かれていました。
その子と歩不さんは、ちょっと普通ではない形で生まれたそうです。
手術によって二人は別々の人間になりましたが、その後遺症か歩不さんは体が弱く、もう片方の人は、心を歩不さんに奪われてしまった、とみのるさんは、書いています。
妻を裏切り、また自分は人としても、してはいけないことをしてしまったのではと、日記の中で繰り返し、みのるさんは後悔していました。
名前は、書いてありませんでしたが、歩不さんと一緒に生まれたのは、やはり・・・。
V:朔の中途半端な考えに足を引っ張られましたが、今回、わたくしの計画は、ある程度の成功をおさめたかと思われますな。
クク・・・。私、不和の公爵アンドラス・アルス・ゴエティアとしては、同好の士の方のお手伝いをできたのを非常にうれしく思いますぞ。
船を爆破したかいがありましたな。
マッシュ殿。美沙、京子。二体の石像を今回の記念に大事にお飾りください。
あの空から射す光が、破滅をもたらす業火であれば、どれほどよいことか。
しかし、そうもゆかぬようですな。さて、わたくしも平和で幸福で、それゆえに汚らわしい日常に、帰るとしましょうぞ。
「どいてくれないか」
「君が麻美くんの味方と言えない以上、どくわけにはいかないな」
春日井茜は、藍色の帽子、マントの死神に剣をむけている。
島の中央の丘、半ば掘り起こされた、かわいみのるの墓を背にし、茜は立っていた。
墓のまわりには、伊月、ノゥン、ラシェル。侘助、火藍。そして麻美がいる。
丘は明るい。空からの光に照らされ、真昼のようだ。上空には、なにもあらわれていないが、気配はあった。
風が強くなりはじめている。
死神は、麻美へ近づこうとする。
茜は、切りかかった。死神は避けない。剣は、死神の肩を切り裂いた。
血しぶきが飛ぶ。
「敵でないとわかったかい」
表情を変えずに、死神は足を進めた。
肩口からの出血は激しく、地面に血がしたたり落ちている。
「・・・・・・」
麻美も、死神に近づていく。
「は? 麻美くん。あ。そういうことか。イテ。どうなってんの。ボクはよくわからないけど、彼が君に、心を返しにきたのかも」
死神は、さっきまではまるで違う、普通の抑制のある声、苦痛にみちた表情で麻美に話しかけた。
声、顔に感情が宿ると、死神と麻美それほど似た感じはしない。
「そうか。あの日がきたんだね。母さん、くるのかな。君は、母さんと行ってしまうの?」
「・・・・・・兄さん」
いまは歩不の顔をしている死神と、麻美は揃って、空を眺めた。
丘に吹く風が急にひどく強くなり、光は目を開けてられないほどになった。
「麻美く
「あらあ
「あんた、動いち
そこにいる者たちの声をかき消し、ごうごうと渦巻く風の音だけが場を支配する。
V:七尾蒼也だ。推理研のみんなと空から光が射してる場所を目指して、歩いてきたんだけど、すごい風が、突然、吹いて、嵐が起こって、とても歩いてられなくなったんだ。
俺は、地面に伏せて、おさまるのを待った。
風はすぐにやんだが、あたりの木が倒れてて。
「ペルディータ。大丈夫か」
蒼也は、側にいるパートナーや仲間たちの安否をたしかめた。みんな、ケガはないようだ。
そして。
「光が消えてる。元に戻ったな」
風はやみ、空からの光もなくなった普通の、静かな夜がそこにあった。
蒼也は、つぶやく。
「星が、さっきまでより輝きをました気がするぜ」