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リアクション
61. 二つのはじまり 一
V:古森あまねです。歩不さんが身柄を拘束されました。くるとくんが歩不さんに会いたがったので、あたしたちは、彼のところへやってきました。
かわい歩不は手錠、足錠をかけられ、椅子に座っていた。憔悴しきった表情の歩不にくるとは、話しかける。
「歩不さん。僕は間違えた。歩不さんを、昔、日本の若い人の間ですごく売れた小説、映画にもなった、世界の危機を察知したら女子高生の人格に自動的に浮き出す死神の物語だと思ってた」
「ボクは、昨日、ボクの中にあったもう一人を麻美に、返したんじゃなかったのか」
「歩不さんは、「真実の行方」。親日家の人気俳優が主演した映画。多重人格のフリをした犯罪者の話」
「キミは、ボクが嘘をついているというのか」
「僕は間違えた。歩不さんの中には、三人がいる。歩不さんと、この危機を乗り越えようと努力する死神と、もう一人、流水さんを天井桟敷に誘いだし、麻美さんを突き落とした、一族に悪意のある人」
「くるとくん。なんで、そう思うの?」
あまねが尋ねる。
「歩不さんは、口調が三つ、ある。それぞれが全然違う。活字であらわしたら、文字色や字体が違うみたいに」
「・・・・・・正解、おめでとう。遅すぎるけどね。(うるせいぞ。ガキ)」
ふいに、歩不の表情の消え、口調が変わった。そして、すぐに、普段の歩不の顔に戻った。
「・・・うん? いま、ボクは」
「三人とも、歩不さんの中にいまもいる」
「昨日、ボクは麻美に心を返したんじゃあ」
「麻美の心なら、やはりあそこにあったようじゃぞ」
部屋に入ってきたのは、昨夜、維新を追って湖中に姿を消したファタ・オルガナだった。ファタの隣には、維新もいる。
「ファタちゃん。無事だったの」
「あまね。ちょっと水遊びをしてきただけなのに、その言われようは心外じゃぞ。もう一度言う、麻美の心はあっちじゃ、おぬしらは早く行くがいい。
わしは、維新や歩不と一緒に、警察の人達とお話しがあるでのう。消えてくれると助かる」
元気そうに話しているが、よく見るとファタも維新もかなりくたびれているのが、あまねにはわかった。
「あなた、くたくたなんじゃ」
「うるさい。さっさと去れ!」
「あまねちゃん。くると、じゃあね」
維新に手を振られ、あまねとくるとは、部屋をでた。
「にゃん」
二人がドアをでると入れ替わりに、黒猫のデュパンが入っていく。
継承式は終り、転落後、再び舞台に戻って、見事、舞を踊り直した麻美を早川呼雪、高崎悠司、空京稲荷狐樹廊、久途侘助ら、三日間、麻美に扮していた者たち、他の捜査メンバーたちが囲んで称えている。
麻美は、ぼんやりとした視線ながらも、それを自分の周囲の人々にむけた。
「・・・・・・みなさん。ありがとう」
オオオオ。
室内に歓喜の声がこだまする。
「さて、新当主も元気になったことだし、ここで一気に「いわい家」への改名をしようじゃないか」
「な、なんだってぇー」
麻美に駆けよろうとするイレブンの着流しをカッテイが引っ張る。
「みんなの活躍が、麻美さんを起こしたのかな」
くるととあまねは、盛り上がるみんなを部屋の隅で眺めていた。くるとたちと同じように、みんなとは離れたところにいた、茅野菫とパビエーダ・フィヴラーリが、こちらへきた。
「くると。行方不明の美沙と京子、殺したでしょ。それとも石化して、どっかに隠してあるとか。まんまとやったわね。次も期待してるわよ。死を呼ぶ自称名探偵くん」
「坊や。みんながあなたの本性に気づく前に、地球に帰りなさい」
にこやかに毒を吐くと、菫とパビエーダは、控え室をでていった。
「ふう。ある意味、にぎやかな人たち。美沙さんと京子さんの件は、これから捜査がすすむのよね。くるとくん。あんた、そのうち空京、歩けなくなるかもよ」
「ふう」
くるともあまねのマネをし、ため息をつく。