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決戦、紳撰組!

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決戦、紳撰組!

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■序章





「遺体は才太郎さんじゃなかったようです。これで、勇理さんへの疑いも晴れましたね」
 橘 舞(たちばな・まい)が、黒い髪を揺らしながら安堵したようにそう告げる。するとブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が、青い瞳を揺らしながら腕を組んだ。みんな仲良く平和を良しとする舞とは異なり、ブリジットには思う所がある。優しさと穏和な眼差しがのぞく舞の瞳を一瞥しながら、彼女は嘆息した。
 ――舞には悪いけど、鞘が本物なら鞘を盗み出して現場に置いた犯人はやっぱり都子よ。
 そんな思いで彼女は、百合園女学院に通う同輩や後輩のことを思い浮かべる。
 場所はマホロバ――その世界樹がある、扶桑の都の茶屋での一時だった。
「うーん、土佐弁の首領は=梅谷先生とすると」
 それは、シッショウ――師匠もとい失笑だ。そう思わずには居られずに桐生 円(きりゅう・まどか)が赤い瞳を瞬かせる。
 彼女の緑色の髪を一瞥しながらオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は長い銀髪を指先で撫でた。
 円が悶々としている傍らで、少なくとも紳撰組に裏切り者が居ることは間違いないだろうと考える。
「歩さんが暁津藩の紹介状を手に入れてくれるようなので訪ねてみましょうか」
 彼女達のやりとりを見守っていた伊東 武明(いとう・たけあき)が、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)のことを思い出しながら呟いた。パートナーの歩は先日まで、大奥総取締代理をしていた為、方々に顔がきくのである。
「暁津藩? 暁津は、将軍家に忠実だと聞いていますが」
 舞が訊ねると、武明が俯いた。彼は考えていたのだ。
 ――佐幕の紳撰組と倒幕の朱辺古衆を無理やり巻き込むことで、志士全体の問題とすることを狙ったのでは?
「兎角重要なのは、何故梅谷才太郎の暗殺が偽装されたのかという事よ」
 ブリジットのその声に、一同は顔を上げた。





 今、扶桑の都は争乱の世が平時である。
 紳撰組の周囲は相変わらずの喧噪に包まれ、先日も逢海屋への討ち入りが果たされた。
 紳撰組とは、扶桑守護職である松風堅守が預かっている、治安維持の為の組織である。
 金色の縁取りがなされた黒衣に、『誠』の一文字と桜をあしらった意匠の洋装を纏った隊士達が、二人一組で今も巡回のため街を進んでいく。
 それを見守りながら秦野 菫(はだの・すみれ)は、黒い瞳を瞬かせた。同色のポニーテールが静かに揺れている。
「拙者は、生き急ぐ人たちが多い中、ゆったりと自分らしく生きるのが好きなのでござる」
 呟いた彼女の声を、隣で聞いていた梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)が振り返った。
 気付いているのかいないのか、ごくいつも通りの表情で菫は針槐――アカシアの花の天ぷらを食べている。白く美しい、初夏に咲く花だ。
 ――騒動とは無縁な生き方を選びたい。
 ――騒動を横目に観光を続けたい。
 声にこそ出さなかったが菫のそんな想いが聞こえてくるようで、仁美は穏やかに微笑んだ。
「騒乱多き世の中ですが、ゆるゆると過ごしましょう」
 菫の考えを組むように呟いた彼女は、穏和さが滲む白磁の頬に指をあてがう。
「生き急ぐ人たちが多く見受けられるようですが、あくまでもそれは目立つから多いように感じられていると思いまする」
 驚いて顔を上げた菫の逆となりでは、水菓子――トコロテンを食べながら李 広(り・こう)が瞳を輝かせていた。
「一度行った所でも季節毎に味わいが違う風景があり、その風情を楽しむのも素敵ですね」
 二度目となるこの店への来訪ゆえか、そう述べた広に、仁美が笑ってみせる。
 そんな二人の様子に、細く吐息して、菫もまた頬を持ち上げた。
「新緑を楽しんだ青葉の季節から、そろそろ地球では梅雨に入る時期でござるが、マホロバはどうなのでござろうか」
「長雨も多いようでござりまするね」
「だけど最近は暑い日も多いです。かと思えば、寒い日が戻ってきたり」
 扶桑の樹がまだ噴花を果たしてはいなかったこの頃、イルミンスールから生命力を分けて貰ったことから少しずつ異常気象などの災害は穏やかになりつつあった。だが、それでも地球は日本の常日頃とは多少異なり、気候はいつもより曖昧だった。それだけ世界樹の与える影響は大きいのだろう。
「そろそろ食後のデザートに水ようかんでも食べにまいるでござるか」
 菫はそう言って支払いの準備を始めながら、遠目に見える甘味屋へと視線を向けた。


「なんか、いろいろ大変らしいけど……とりあえずは甘いものを食べよう!」
 扶桑の都の茶屋街に、無邪気な声が響き渡る。
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が、赤い髪を揺らしながら、脳天気さの、のぞく青い瞳で、様々な店を見渡していた。美少女にも美少年にも見える氷雨は、後ろで束ねた髪に手を添えながら、一人決意する。
「ボクに関係あるかないかの話は、甘いものを食べてからだ!」
 自由に生きてみようと決意した氷雨は、一人決意する。
「そうと決まったら、都で『ワクワク食べ歩きツアー』を決行だー」
 ただし甘いもの限定で、と心の中で付け足し、氷雨は都にある茶店を端から端まで食べつくす決意をする。
「まずはココから行ってみようー」
 こうしてニコニコと楽しそうな様子で街を散策した後、氷雨はご機嫌である店へと向かった。そして案内されるままに、暖簾をくぐり二階へと上がっていったのだった。


 その頃、丁度その店には、呼び出された近藤 勇理(こんどう・ゆうり)楠都子の姿があった。
 勇理は、紳撰組の局長をしている。
 都子はそのパートナーで、幕末は日本において活躍した新撰組隊士・楠小十郎の英霊である。
「私は奧の座敷で少し話しをしてから行くから、昼食を楽しんできてくれ」
 微笑した勇理に対し、いささか気後れするように都子が頷きながら、二階へとのぼっていく。それを見送ってから、女将に用件を告げて、勇理は奧の座敷へと向かった。
 そこには、日堂 真宵(にちどう・まよい)土方 歳三(ひじかた・としぞう)の姿がある。
「失礼つかまつります」
 座敷へあがった勇理の声に、二人は揃って顔を上げた。本物の新撰組の英霊であり、名高い歳三の姿に勇理は僅かに頭を垂れた。
「まぁ座れよ。どうだ、一杯」
 石田散薬を勧めながら、それを飲む為の熱燗へと視線を向けた土方に対し、勇理は微苦笑する。
「いえ、まだ見廻りが残っておりますゆえ」
「そうよ。大体昼間っからお酒なんて。それも、こんな美……しょ、少年に!」
 真宵が声を上げると、効くんだけどなぁと独りごちながら、歳三は曖昧に頷いた。
 石田散薬は歳三の生家が生前製造販売していた、熱燗で飲む薬である。
 勇理の実際の性別には気がついていない様子の真宵は、紳撰組局長を年下の可愛い男の子だと思っている様子だ。
「見廻りか。局長自らとは、精が出るな。さぞ活気ある組織なんだろう」
「恐縮です」
「ただ組織ってぇのはな、裏切り者を其の侭にしておけば腐れ落ちる」
 曖昧に続けた歳三に対して、勇理が顔を上げた。
「楠の事、どう思う? 奴の行動は不審だ」
 これまでに得た情報から、歳三はカマをかけてみる事にしたのである。紳撰組内部の浄化を試みようとしたのだ。そこで、勇理に都子の動向が妙な旨をにおわせたのである。
「都子をどうにかしないと、取り返しの付かない事態になるかもしれないわ」
 真宵が真摯に緑色の瞳を向ける。それから、我に返ったように彼女は首を振った。
「ち、ちちち、違うわよっ! 別にあなたの事心配してる訳じゃ無いわよ?」
 どうやら勇理に対して情が移っている様子の彼女は、唇をふるわせる。
「そ、そりゃあんな胸の大きな女なんか消えちゃえとは思うけど。そうなったらあなた辛いでしょう。大切な人なのでしょう?」
 貧乳を気にしている彼女は、少々嫉妬が混じるようにつらつらと続けた後、けれど真面目さを伺わせるように声を潜めていった。その最後には消え入るようになった声をしかと耳にしてから、歳三が勇理に向き直る。
「紳撰組が――新撰組と同じように、寄せ集めなら尚更、頂点は規範となるべく振舞えってこったぜ」
「……ご教示痛み入ります。ただ私は、規範として、組織の模範として、仲間を信じたいのです」
 ――このような考えでは甘いのだろうか?
 応えながら自問自答した勇理に対し、真宵が唇を噛んだ。
「裏切って無くて何かあなたの為に動く思惑があったとしても、こんな危なっかしい事してたら誤解されて消されちゃうわよ」
 彼女は、信用が裏目に出ることを危惧していたのである。
「ま、紳撰組のリーダーはお前だ。奴の契約者もお前だ。お前だけが手遅れにならんように動くことが出来るんだぜ」
 頬杖をついた歳三は、何か思案するように細く息をついたのだった。
「用件はそれだけだ」
 ――基本的には自分たちの組織ではないのだから自浄作用を期待する。
 そんな想いで口にした彼に会釈を返すと、何かを考え込む様子で勇理は部屋を後にした。
 二人のそうした様子を見守っていた真宵が、追いかけてくる。
「ちょっと待ちなさいよ。彼女を本当にどうにかできるのは、あなただけなのよ?」
 都子の動向がおかしいのだから早く動いたほうが良いと小声で諭した真宵に対して、紳撰組の局長は考え込むように腕を組む。
「ぼやぼやしてるうちに大切な人が遠くに消えちゃっても良いのって言ってんのよ!」


「賑やかなお店だなぁ」
 階下から響いてくる声に顔を上げながら、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はメニューを見て悩んでいた。
 そして通りがかった店員に声をかける。
「すみませんー。お団子と、あんみつと、ぜんざいと、抹茶くださいー」
 随分多量だなと思いながら、店員の詩歌が快く注文をメモしていく。
「えへへー、ボク、都にくることあんまりないから楽しみだなー」
 実に楽しげに笑っている氷雨の姿に、詩歌が微笑みを返した。
 去っていく店員のその姿を見送っていると、近隣の席にいた大工の大吉が話しかける。
「都は良い所だろう?」
「あ、こんにちはー」
 朗らかに氷雨が挨拶を返した時、その向こうを楠都子が通り過ぎていった。


 都子が向かった席にいたのは、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)近藤 勇(こんどう・いさみ)、そして井上 源三郎(いのうえ・げんざぶろう)である。その隣の席では、クロス・クロノス(くろす・くろのす)が彼らの光景を見守っていた。
「昼食にお招きいただき、誠に有難うございます」
 豊満な胸と長い睫毛を揺らしながら一礼した都子に、勇が座るように促す。
 勇は、言わずと知れた幕末の日本における新撰組の局長である。
 彼は考えていた。――楠都子の紳撰組や近藤勇理への考え方は認めるべきものではない。
 紳撰組が新撰組を理想としてくれるのは嬉しいが、『新撰組そのもの』にはなってはいけない。動乱の世を生きた彼は、強い志を抱きながら、都子を見据えた。
 大衆食堂といった趣のこの店で、名物のうどんを注文しながら、マイトが嘆息する。パートナーである勇の強い意志を察しながらも、名刑事として名高い彼は世間話から切り出した。
「新撰組の試衛館支部では、今も腕を磨きに来た農民から紳撰組隊士、扶桑見廻組の者達まで精を出しているよ。だから何も心配しないで、たまには昼食ぐらいゆっくり食べると良い」
「有難うございます」
「新撰組といえば、幕末の新撰組は四月二日に隊服を発注したんだっけ」
 そんな四方山話を語りながら、マイトは改めて都子を見た。
「君の好きな食べ物は?」
「あ、えっと、私は――」
「海鮮丼だろ。江戸前寿司を思い出すな」
 そこへ藤堂平助が声をかけた。彼もまた、昼食に声をかけられた一人である。江戸前――当時の東京湾で取れた、ファストフードだった品を思い出しながら、平助は六人掛けの席で、マイトの隣に腰を下ろした。マイトの逆隣には勇が座っており、その正面には源三郎がいる。その髭を蓄えた元新撰組六番隊組長の隣に座っている都子は、平助の声におずおずと頷いた。
「懐かしいな」
 笑って見せた勇は、それから都子に向き直った。
「あの頃も志が高い者は沢山いた。――志高い若者だな、勇理君は」
「ええ。勇理は、『侍』です」
「紳撰組局長として成長し、今後活躍していく事を期待している」
 勇の声に、都子が初めて頬を持ち上げた。幾ばくか緊張がほぐれてきた様子である。
だが、男ばかりの中に一人いるせいか、未だ困惑している様子の彼女を見て取り、クロスが立ち上がった。
「こんにちは、お隣いいですか?」
そう告げた彼女は、ざるうどんとあんみつを注文してから、都子に微笑みかける。
クロス自身は――私が話に加わるのはあまり意味がないので、離れた席に居よう、と考えていたのであるが、都子以外男ばかりの席に見るに見かねたのだ。
 すると安堵するように、都子が吐息した。
「だが、紳撰組局長には新撰組局長の轍をそっくりそのまま踏んで欲しくはない……俺はこうも思う」
 ――自分が局長の道を歩む中で仲間とすれ違って行く、そんな自分の『晩年』を自嘲気味に勇は回想しているようだった。
「そしてそれには……楠君、君が彼の傍に居るべきだと俺は思う」
 その言葉を見守っていた平助は、腕を組みながら思案するように瞳を揺らす。
 それは勇が今でも、勇理の性別に気がついていないことを気にかけてのことだったのかも知れないし、いつか『逃げも隠れもせんさ』と自分に告げて見送ってくれたことがある勇の事を思ってだったのかも知れない。あるいは、全く別の心づもりだったのかもしれない。
「ま、英霊としてこちらに来て……幾分かは取り戻せた気はするがな……」
 源三郎や平助、そして楠を見渡しつつ照れくさそうに、勇は告げる。そうしながら考えていた。
 ――英霊化した後、かつての仲間とも再会できた。だから今度は大切な事を忘れずに過ちを繰り返さない事が出来る……願わくば楠や皆にもそれを願う。
「先に行く」
 勇はそう告げると支払い分を置いて立ち上がった。
 それを見送りってから、源三郎が呟く。
「一つ答えて欲しい事があるんだがいいかな?」
 都子が頷くと、彼は続けた。
「組織の者が敵対勢力との関わりがあると分かったとき、組織のトップはどれだけその人物と親しくても、その人物を処分しなければいけないのは英霊である貴女なら分かっていると思うが、一度は信頼した人間に裏切られたトップの心の傷はどれだけ深いのだろうな?」
 瞠目した都子の前で、補足するように、つらつらとマイトが言う。
「同志達と少しずつ道を違えつつ、『局長』として進んだ末の後悔があったはずだ」
 彼が一瞥すると、静かに平助が双眸を伏せる。
「紳撰組の近藤勇理は同じ轍を踏むべきではない。その為には楠君が最大の理解者として傍にいる事が大切だと考えているんじゃないかと思う」
 マイトの言葉に、都子が俯いた。その様子を、クロスが見守っている。
「あの頃の近藤さんは見ていられないほど荒れていた」
 源三郎は語る。幕末当時の勇の姿を。それはその一時、彼の傍にいた人間だけが知り得る事柄だった。一方のマイトは、平助を見やりつつ、意見の食い違いで喧嘩別れした事、大義の為に粛清した事などを補足してみせる。そして。
「あの人は、漸くそれを、少しだけ取り戻すことが出来たんだ」
 失ったモノを、この新たな場所で。
 黙々と聞いていた都子に対し、源三郎が悟るように柔和な笑みを浮かべた。
「答えにくければ答える必要はない。ただ、今の話を心の片隅に留めて置いてくれ」


「あ、来た来たー」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)の朗らかな声が、店内に響き渡る。
「わーい、いただきますー」
 運んできた店員も、周囲の客達も、その様子を優しげに見据えていた。
「美味しいー、やっぱり甘いもの食べてると幸せだよー」
 あんみつをすくい、口へと運んだ氷雨は、不意に些か乱暴な足音が響いてくることに気がついた。
「なんだろう?」
 驚いて視線を向ける。すると、階段をのぼってくる二つの人影がそこにはあった。


「兄さんが用意してくれっていったのは揃えたけど……刀?」
 階段をのぼってきたのは、椎名 真(しいな・まこと)原田 左之助(はらだ・さのすけ)である。
「その姿、もしかして都子さんを殺したときの……!?」

「……真、わりぃが霊糸の長衣と刀を準備してくれないか。大丈夫、話をするだけだ」

 左之助が、真にそう声をかけたのは、未だ日がのぼったばかりの事だった。
 その言葉に、彼が装束等を用意したのは先程のことである。
 昼食の待ち合わせ場所で、随分と長く厠へ入っていた左之助に驚いて声をかければ、そこには霊糸の長衣を纏ったパートナーの姿があった。
 慌てて階段を追いかけてのぼる。
「楠、都子……手は出さないがな、謎がわかればいいさ。新撰組ではなく紳撰組でケリつける事だろ。この姿見て何も反応無ければそれでいい……否、それがいい。どのみち話は聞かせてもらうぜ」
 呟いた左之助に対し、真が困ったように瞳を揺らした。
 すると真が用意した品の内の一つである刀の柄を握りしめながら、左之助が嘆息する。
「さて、どうなることやら……あまり会いたくはねぇが直接きかねぇと」
 本当に話をするだけであることを祈りながら、真はまた別のことを考えてもいた。
 ――新撰組と同じように鞘を置かれた人が疑われ、結局は身の潔白が証明されて……。
 ――あれ? もしかして『こうしたら新撰組の時はこうなったから、似たような事したら似たような結末になる』っていう事を分かってた人がいる?
 でも紳撰組の行くところに朱辺虎衆の影……筒抜けか? まさか……
 思案しながら着いていった真の正面で、左之助が立ち止まった。
 向かったのは、都子達がいる席である。
「お前がやったのか、楠? 昔みてぇに裏切ったのか?」
 唐突な声に、都子が驚いたように顔を向けた。
「死んだ後の事だが、知らないわけないだろう。このままじゃ、新撰組と同じ道を紳撰組も辿っちまうぞ。その為に、150年かけて上がってきたのか? ぁあ!?」
 呆気にとられた様子の都子ではあったが、とりあえず左之助の装束に反応を見せている様子は無い。それを感じ取りながら、真は考えた。
 ――一番勇理さんの近くにいる人だし何か知ってそうだ。鞘が無くなったのなら一番に気が付きそうだしね。
「私は……私を裏切ることはありません」
 困惑するように都子が応えると、左之助が雰囲気ある格好良い双眸を細めた。
「……誰がきっかけなのか、誰の為なのか、誰に利があるのか……ふむ……」
 後方で思わず呟いた真の声を聞いてから、左之助は刀の柄から手を離した。
「だったら、護りたいもん護りやがれ。お前さんの今一番大切なもんはなんだ?」
 その問いに都子が睫毛を揺らした時、そこへ近藤 勇理(こんどう・ゆうり)がやってきた。
「何の騒ぎですか?」
「……さぁな」
 左之助が嘆息すると、やりとりを見守っていたクロス・クロノス(くろす・くろのす)が立ち上がる。
「さぁあなたもこちらにどうぞ。私は、隣にも席をとっているので」
 近藤 勇(こんどう・いさみ)の呼びかけで集まった彼らは、こうして昼食を共にしたのだった。


「嗚呼、美味しかった。よし、よーし、次はあのお店にレッツゴー」
 店内には、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)の朗らかな声が響き渡ったのだった。