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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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第十章 そして、手にしたもの 5

 そんな一連の様子を、物陰からずっと見つめていた者たちがいた。
 久我内 椋(くがうち・りょう)と、彼のパートナーたちである。
(なるほど、剣に変形する機械生物ですか……それ以上の詳細は不明ですが、これは報告する必要がありますね)
 ゲルバッキーの言う「ギフト」の詳細の確認と、あわよくばその確保もしくは奪取を狙っていたのだが、さすがにあんなものを奪取するというのは無理がありすぎる。
「……行きますよ、モードレット殿、聡子殿」
 ともあれ、見るべきものは見た。
 そう考えて、彼らが引き上げようとしたその時だった。

 不意に、弱い酸の霧が辺りを包んだ。
(アシッドミスト……!?)
「そこにおったか、久我内」
 イルの言葉に、椋たちは諦めていったん姿を現した。
「これはそなたらの手には余るものよ。恥を晒す前に帰るがよい」
「ええ、さすがにそれを奪おうなどと大それたことは。今日のところはおとなしく引き上げましょう」
 椋がそう答えて立ち去ろうとしたとき、何かを感知したらしいゲルバッキーが姿を現した。
「あら、お父様……容姿がだいぶ様変わりしているとは思いますが……おわかりになりますか?」
 在川 聡子(ありかわ・さとこ)がそう言うと、ゲルバッキーは大きく頷く。
「当たり前だ。自分の娘のわからない父親がいるものか」
「何だ、聡子も『ゲルバッキーの娘』だったのか?」
 モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)の言葉に、聡子はこくりと首を縦に振り。
「聡子……聡子か」
 彼女の新しい名前を、ゲルバッキーは何度か小さく繰り返した。
「ええ、お父様。いろいろとありましたけど……私、今はとても幸せですわ。他の皆さんたちとは、少し違う道に進みましたけど……それでも」
「そうか」
 そう一言だけ答えて、ゲルバッキーが再度頷く。

 ――「それなら、それでいい」。
 そう言葉を続けることは、きっと、思っていても、できない。
 彼の立場と、この場の空気がそれを許さないことに、ゲルバッキーも気づいていたのだろう。

「ご心配なく、とは言いきれませんが……彼女のことは、俺にお任せください。では、これにて失礼します」
 椋が、ゲルバッキーに一度頭を下げ……次の瞬間、椋の使った煙幕が辺りを包んだ。
 その煙に紛れて、椋たち三人は脱出していったのだが――例えそうしなかったとしても、おそらく、追った者は少なかっただろう。
 どこまで本気かわからないとはいえ、ゲルバッキーのこんな様子を見せられて、どうして彼の「娘」と戦うことができようか。

「……只管、哀れよの」
 ぽつりとイルが呟いた言葉は、誰に向けたものだったのだろうか――。