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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション

14.閑話休題 〜夜〜

 シャンバラ荒野の地平線に日が沈みゆく。
 そして夜露死苦荘には、静かに夜が訪れるのであった。
 
 では、夜の結果。
 
 ■
 
 夕食の席。
 管理人室には、料理が色々な意味で出来ない学生達が、賄いを求めて訪れる。
 
 だが、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が夕食の席に着いたのは、賄いが目当てではないようだ。
(わわ! ほ、本当かも!?)
 マレーナの傍で、ミネッティは彼女の様子を盗み見た。
 マレーナは向かいに座るゲブーの豪快な食べっぷりを、それはぼんやりと眺めている。
(えぇっ、あの変なモヒカン野郎のことっ!?
 ありえない! マレーナさん何考えてるのよ!)
 ゲブーに熱を上げているという噂は、本当のようだ。
「ま、マレーナさん?」
 ミネッティは口をぱくつかせながら、目を点にさせて。
「何か最近、気になる人がいるー? みたいな事を聞いたんだけど……」
 出来る限り婉曲に尋ねてみる。
「まぁ、私にとっては、皆さんのことが気になってよ」
(そうじゃなくってねっ!)
 意外とボケの才能があるのかもしれない、この人。
 ミネッティはどう攻めようかと考えて。
「噂なんだけど。
 あたし知らなくて……マレーナさん知ってるの?」
「ええ、ゲブーさんのことでしてよ。
 本当のことですわ」
 
 ……解決してしまった、あっさりと。
 
「あの人のっ、何がいいのっ!?」
 ミネッティは驚きのあまり、立ち上がる。
 いやー…そうじゃなくて、と座って。
「あ、あれはちょっと……難しいんじゃないかな?
 他にもいい人きっといるよ?」
「ミネッティさん」
 マレーナは、穏やかな笑みを向ける。
「殿方は皆、どなたも可愛い赤子のようなもの。
 彼が特別、ということではなくてよ」
「あ、そういうこと!」
 
 一件落着!
 
 そうしてのどかな夕食のひとときは、今少し続くのであった

 ■
 
 

 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、家でアホの子呼ばわりされた勢いで、本当に勢いだけで、空大受験を決めたのであった。
 だが、無計画なために、学習できる場所もない。
 一晩の宿さえ……。
「そうだ! そういえば。
 自称パラ実生なら、無料で下宿できるところがあったような気が………夜露死苦荘だっけ?
 もう入居することに決めちゃったもんね!」

 そうしてルクス・ナイフィード(るくす・ないふぃーど)の心配をよそに、2人の下宿生活は始まったのであった。
 マレーナ達に挨拶をすませた2人達は、その足で氷雨の部屋に行く。
 
 さて。
 氷雨は張り切って、勉学に打ち込む。
「えっと、これがこうなって…こうで……。
 うにゃーーっ!!
 わかんないー。わかんないー」
 ゴロゴロと転がる。
「ねぇねぇールクスーコレどうなるのー?
 どうしてこんなに、分からないの?」
「マスター。もう集中力切れたの?」
 ルクスは、あーあ、やっぱりと思いつつも、勉強の進度を図る。
 ついでに、
「マスター。何で自分なの?
 一緒に引っ張ったの?」
「え? 
 そんなの、あの時一番近くに居たからだよー」
「……そんな理由なんだ……へぇ……」
 とてもいい加減な理由に、ルクスのこめかみがヒクつく。
 氷雨は、まぁまぁと宥めて。
「ボクとルクスの仲じゃんー」
 ひたすら営業用スマイル。
 廊下の騒ぎが気になった。
「って。何か廊下騒がしいね……ちょっと見に行ってみよう!」
 だぁ――っと、出て行ってしまった。
「って、マスター!勉強どうするの!」
「え? 勉強? それって面白いの?」
 その言葉を最後に、氷雨は廊下の彼方へと消えてゆく。
「家出の理由忘れてるし……。
 マスターって、やっぱりアホだよね。
 いや、むしろバカなんじゃ……」
 途中で台詞が切れたのは、氷雨が戻ってきて、ねっと腕を引っ張ったから。
「だから! 何で自分も連れてくの!
 行くなら、マスターが一人で行ってよおおおおおおおおおおっ!」
 
 だが、結局憐れなルクスは、氷雨に引っ張られて、下宿中を引きずりまわされるのであった。
 彼等の後を、信長のフラワシがこっそりとつけていることも知らずに。
 
「え? 夜に飲み会あるんだ!
 それまで、色々遊んじゃってもいいよね♪」
 
 氷雨は半日以上受験勉強をサボってしまい、「反省室」で強制的に勉強させられることになるのであった。
 ただし、夜中の飲み会には、望み通り参加できたそうな。
 
 
 ■
 
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)夕条 媛花(せきじょう・ひめか)と(夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)つきだったが)夜露死苦荘で同棲生活をはじめたのは、本当に偶然だった。

「うわっ! マズッ!
 立ち直れねぇよな! この成績……」
 先日の模試の結果を眺めては、ハアッと溜め息をつく。
 
 そこで、「干し首講座」を受けにきた媛花達と出会ったのだった。
「えっ? 私ですか?
 ……まあ、そうですね。
 受けに来たはいいが、確かに宿には困っています……」
 泊まれるところがないか、媛花は思い切って尋ねてみた。
「え……ええっ!?
 じゃ、じゃあ! 俺のところに来れば!!!」
 
 それはハッキリ言って、下心丸出しな誘い文句だったのだが。
 媛花からしてみれば、ここは危険なシャンバラ荒野のただ中。
 しかも、夜露死苦荘とくれば、世に名高い「干し首講座」の会場な訳で。
 つまり、「安全かもしれない」と判断したのだ。
「いいかい、くれぐれも『天学』とは言わないように。
 自称・パラ実生で通すんだ。
 え? 何でかって? 『お約束』だからさ」
 トライブに念を押されて、媛花達は渋々頷く。
 
 そうして、ひょんなことから「同棲生活」が幕を開けるのであった。
 
(いや、俺は……媛花ちゃんに借りを返すために、一緒に住むだけなんだ!
 けっして、下心があってとかじゃないから!
 ……でも、アイオンちゃんも一緒なのね。
 トホホ……じゃないよ! りょ、両手に花なんだからさ!
 俺はパラミタ一の、幸せもんだああああああああっ!)
 
 炊事、掃除、家事、洗濯……総てが終わったところで。
「なぜ、そんなに鼻息が荒いのです? トライブ」
 講座から帰ってきた媛花が、ニヤけきったトライブをのぞき込んだ。
「私は疲れています。
 寝ますよ?!」
 
 だが、媛花にはこだわりがある。
 先ずは家具、寝具の確認をすると、形のいい眉を寄せる。
「私、ベッドじゃないと眠れないのですよね……」
「ベッド、用意するぜ!」
 トライブはバイトでためたなけなしの金で、ベッドを購入する。
 購入先は、町の商店だ。
 レッサーワイバーンで行って帰ってくると、
「くつろぎたいです……。
 一人用のふかふかなソファーも欲しいですね?」
 トライブは再び外へ飛び立つ。
 帰ってきた頃には、ベッドは既に媛花に占領されていた。
「起きたら、夕食を食べますよ?
 ああ、それと、出来合いの物は駄目ですよ。
 絶対に、手づくりじゃなくっちゃ! です」
「う、うん、媛花ちゃん!」
 そして媛花はアイオンを抱き枕にして、幸せそうにベッドに埋もれるのであった。
「うっ、おれ、やっぱ床で1人寝なのね? さぶっ!」
 アイオンが憐みの目を向けている。
(可哀想に、トライブさん……)
 いつもは自分が引き受けている役目を、なぜかこの男は進んで引き受けている。
(物好きですね?
 でも、お姉ちゃんに何かする気かも?
 一応、警戒だけは怠らないようにしませんと……)
 だが、眠気には勝てないのか。
 まもなく目を閉じる。
 
 トライブはふうっと、息を吐く。
 媛花の愛らしい寝顔がある。
 どきどきする胸を押さえて、トライブはハッとする。
 よくよく考えたら、自分は受験生だ。
 こんなことをしている場合でないのではなかろうか、と。
(そ、それに。
 俺、寝てねぇ上に、勉強してねぇぞ!
 これって、マジやばくねェ???)
 だが目の前には、媛花の安心しきった綺麗な寝顔がある
 この寝顔を前には、シャンバラの厳しい神様達だって、許してくれるに違いない。
 トライブも床で添い寝をしつつ、すやすや夢の中。
(シャンバラの神様!
 この幸せが、一生続きますようにっ!)
 
 だがシャンバラの神は甘くとも、オーナーはトライブに甘くなかった。
 ことの一部始終は、すべて、フラワシが見ていたのである……合掌。
 
 ■
 
 その後、反省室行きになったトライブ達は、反省室でもラブラブで、担当者の朔達をあきれさせたとか。
 トライブ達の同棲生活は、まだまだ続くようだ――。