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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション

16.お勉強の時間ですよ 〜夜〜

 受験生達に夜はない。
 まして、信長から「空大絶対合格命令」が下された今である――。
 
 日が暮れようとも、受験戦争いは続くのだ!
 
 ■
 
 ボディーガード兼ボランティア従業員の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、その日なんだか疲れ切っていた。
「とはいえ、マレーナさんに、無理はさせるわけには行かない。
 真面目に受験をするメンツもいることだし。
 頑張ってサポートしないとな!」
 職務に忠実というより、マレーナに優しい彼は、お役目大事とばかりに働きまくった。
 
 建物の修繕。
 内外の掃除。
 手伝える範囲の調理。
 ボディーガード。
 それに、成績不良組のサポート。
 
「マレーナさんの、夜の負担だけは避けないとな!」
 廊下を自習室として解放し、空大組の手伝いも仰いで、受験生達のサポートに力を入れる。
 
 そして、夜中。
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)の「くうだい(食う・大)」間違いを指摘した直後に。
 
(しかし…あれだな)
(最近なんか体がだるいぞ…目がかすんでいるし……)

 などと考えている間に、正悟は倒れた。
「まぁ、正悟さん
 しっかりなさって!」
 マレーナの心配そうな声を聞きながら。
「では、診療所へ!
 え? 管理人室の方がいい?
 何をおっしゃるのです? 正悟さん。
 お医者様に見て頂くのが優先ですわ!」
(や、やっぱり倒れても。
 マレーナさんに一晩中看病してもらう、だなんて夢だよな!)
 ははは……と、気弱な笑いを浮かべてみる。
 
 だが、結局正悟は、マレーナに看病されることとなるのであった。
 本日開院したばかりの、小さな診療室の中で。
 
 
 ■
 
 正悟が倒れる少し前。
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、管理人室で邦彦の夜食を食いつつ、地団駄踏んでいたのだった。
 
「くそっ、モヒカンの友(モヒカンがイカスパラ実生)にクウダイ狙ってるってったら。
 いいとこがあるって、ついて行ったら。
 勉強、勉強で、気がついたら一週間たってたぜ」
 ふん! と怒りにまかせて、マレーナに「空京大学合格通知」を見せる。
 あら、よかったですわね? と微笑む彼女に。
「何が良かっただ! よくねぇぜぇ!」
 よほど口惜しいのか。
 ゲブーは歯ぎしりさせつつ、あいつ、と吐き捨てた。
「最後の試験じゃ、空京大学合格確実とかで良かったな! とか言いやがる。
 ムカつく! 
『喰うだい』と『空京大学』を勘違いしてやがる!」
「は? 勘違い?」
「そうだぜぇ、マレーナ。
 大学なんかいって漢が上がるわけねぇ!
 漢の値打ちは、
 
・勃ちっぷり!(モヒカンずばーん! 股間ぐいぐい!)
・喰いっぷり!(メシをバクバク! 手をモミモミ!)
・腕っぷし!(力こぶパーン! びしびしシャドーボクシング!)

 だろうがっ!」
 
 彼によると、唯一の成果はモヒカンが蛍光ピンクに光るようになったことだけだそうだ。
 
「というわけで、ムダな一週間を取り戻すぜ!
 おっぱい管理人、メシを用意しろ! メシだ!」

 見かねた邦彦が、横合いから正悟の自習室のことを話す。
 
「何? クウダイは『空大』だって?
 ライバル減らしたいからってウソつくなよ、がはは!
 そんなウソツキは、この俺様がシメてやるぜぇ!
 光るモヒカンでなぁ」

 だが、ゲブーがシメる前に、正悟は過労から倒れて診療所行きとなったのであった。
 
「みろ! やっぱり。
 嘘ついて、我慢するから、倒れやがるんだ!
 ん? 勉強ができないやつらが、落ち込んでるだって?
 ……モヒカンにしてやれ!
 漢が勃って気合いが入るってもんだぜ!」
 
 そうして、彼の「喰うだい」修業は、次回も続くのであった。

 ■
 
 師王 アスカ(しおう・あすか)は自室で、本当に落ち込んでいた。
 彼女の場合は、「やる気はあるのだが、落ち込んでいる」真面目なパターンであって、決して「噂」のためではない。
 
 マレーナが心配してやってきたのは、廊下の掃除をしている時、ドアの隙間から見えたから。
「アスカさん、いかがされまして?」
 マレーナはアスカを管理人室に誘う。
 
「マレーナさんは、どこかシスター…お母さんに似てる。
 見た目というより雰囲気かしらね〜」
 コタツに入って、アスカは和んだようだ。
「特に淡く笑う笑顔が似てるのぉ」
「そうかしら?」
 マレーナは淡く笑って見せる。
「私は孤児だった……生まれた時から協会にいて
 そこでシスターに育てられた」
 寂しい笑顔。
「なんかドタバタしそうだから、
 落ち着いたら会いにいきましょ〜」
「それがいいですわね?」
 マレーナは月並みだが、心のこもった感想を送る。
 
「マレーナさん」
 はい、とマレーナが顔を上げる。
 アスカは子供の頃に戻ったような気持ちになった。
 錯覚だったが。
 あのね、と思いは素直に紡ぎ出される。
「ホント落ち込んでいるのはね。
 私じゃなくて、2人の方。
 模試の結果、私の所為だわぁ……
 私の依頼に付き合ってくれたから、まともな勉強ができなかった。
 ちゃんとしてたらいい成績残せたのに〜…」
 一気に話してから、ごめんなさいと頭を下げた。
「頑張って、いい成績出そうとおもってたのにぃ〜。
 マレーナさんの笑顔見たかったのにぃ……」

 時々寂しそうな顔してたから。
 その言葉は飲み込む。
(きっと、それは。
 ドージェさんの事を思い出したりしてるんだと、そう思うから)

「私…頑張るから〜
 絶対空大に合格して、マレーナさんに笑顔を届けてあげるわぁ!
 だから……泣きたくなったら私達に言ってね〜
 皆マレーナさんの事、大好きですものぉ」
 
 そうして次の言葉は、それは恥ずかしそうに切り出すのであった。
「……で、その、マレーナさんにお願いがあるんだけど……
 い、一回だけでいいの〜!
 そしたらホームシックも収まると思うから〜

 一緒に寝てくれるの、駄目?」
 
 マレーナは快諾した。
 ただし、正悟と一緒に診療所のベッドで、という形ではあったが。
 
 ■
 
「あれ? アスカの奴。
 マレーナさんと話し込んでいるみたいだな」
 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)蒼灯 鴉(そうひ・からす)の2名は、管理人室のドアの隙間からのぞいて、離れる。
「まぁ、2人で話したかったみたいだし」

 その時廊下をキヨシが通りかかった。
 
 管理人室で勉強するつもりのようだが、いまは2人の邪魔になる。
 それに元々この3人は、アスカもそうだが、キヨシのことも励まそうと考えていた。

(一石二鳥ではなかろうか?)

 だが鴉の様子がおかしい。
 台所の方へ逃げていくではないか!
 キヨシはキヨシで管理人室に入ろうとして止め、引き返してしまった。
 
 キヨシがいなくなってから、鴉がバツが悪そうに白状する。
「俺さぁ、さっき、
 つい、キヨシにキツイこと、言ったんだ……」
 鴉は、先刻キヨシとあって、廊下で話し込んだことを告げた。
「だってさ。
 流れてる『噂』で、勉強するか分かんねえぞ、あいつ?
 ……ったく、前回ののぞきといいよぉ。
 ああいう自分の意思が弱い奴は、俺……やっぱ好きになれねえな……」
 鴉はやり取りを思い出したのか、ムッとする。
「俺は……生きる為に、全てを学ばなきゃいけなかった

 勉学も、
 修行も、
 暗殺術も……。
 
 選べる道なんて用意されなかった、今は違うがな。
 キヨシは本気で大学行きたいのか?
 だから、悩んでいるなら、やめちまえ! そういったんだ」
 
 あーあ、とルーツは顔面に手を当てる。
「落ち込んでいるという噂だったな……」
 ルーツは廊下の端を眺める。
「あの青年のことだ。
 それはまた落ち込んでいるのではないか?」
「俺は……共に勉強していた、あいつに戻って欲しかった。
 それだけだ……」
 鴉も、困惑した目で廊下の端を追う。
 結局2人とも、キヨシが気になるらしい。
 
 そこへ、管理人に挨拶に来た新入居者のオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がやってきた。

「え? キヨシちゃん?
 ……ふーん、そんなことがあったんだ」
 ベルは悪戯っぽく笑う。
「見た所困ってるみたいね。
 ふふ、せっかく遊びにきたことだし、ベルが一肌脱いであげる♪
 伊達に悪魔やってるわけないのよ?
 そのキヨシちゃん含めて受験生達の為に特別講座をしてあげるわ。
 
 勿論、頑張った子には……ご褒美☆
 そうね……ベルと一夜なんてどう?」
 
 ベル!

 2人の咎めるような声が響く。
 
「あら、鴉ちゃんよりは巧くできると思うけど?」

 ベルは自信満々に、キヨシを誘いに廊下を追いかけていく。
 
(このまま放っておいてよいものだろうか?)
 
 鴉とルーツは顔を見合わせて嘆息した。
 答えは初めから決まっているのだ。
 そうして3人は、結局キヨシを誘って、共に勉学に励むのであった。