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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション

12.歩さんと一緒♪

 夜露死苦荘の隠れヒロイン(?)と言えば、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だ。
 彼女の日常をのぞいてみよう。
 
 ■
 
 その日、歩は伊東 武明(いとう・たけあき)の部屋を尋ねて、模試の結果を聞くついでに、キヨシのことについて尋ねていた。
「キヨシ殿ですか?
 結果が少し堪えていたように見えましたな」
 武明はうーむと天井を見上げる。
 ちなみに冷静な彼の結果は、当然キヨシよりは良い。
「試験が終わった後?
 おぼつかない足取りで、会場を後にしておりましたような……。
 探しに行かれるのでしたら、あまり今回の試験の件には触れない方が良いかもしれませぬな」
「うん、わかったわ!
 ありがとう、武明くん」
 
 歩は廊下にでる。
 やや離れた所にキヨシが見える。
 
(わわ、どうしよう!)
 前回ののぞきの件がある。
(あんなことがあったんで、チョット気まずいよね……無視しちゃったし)
 えい、ととっさに光学迷彩で姿を隠した。
 ぼんやりとしたキヨシは、当然気づかない。
 ボウッとしたまま通り過ぎてゆく。
 
 が――。
 
 ズデンッ!
 
(何もない所でコケちゃったですよ、キヨシさん)
 これは、とてつもなく重症ではなかろうか?
 その時歩の携帯電話に、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)からのメールが入った。
 歩はメールを確認してから、意を決して光学迷彩を解除する。
(ありがとう、ロザリンドさん。
 そうしたらあたしは、遠慮なくキヨシさんを慰めますね?)
 携帯電話をポケットに突っ込む。
 両手を後ろに組んで、落ち込んだキヨシの顔を心配そうにのぞき込んだ。
「キヨシさん……少しお話してもいいですか?」
「あ、歩さん!!」

 ■
 
 2人は外に出て、地図を頼りにプリントシール機に行った。
「ぼ、僕!
 埼玉にいた時だって!!
 女の子と撮ったこと、ないっす!」
 キヨシは感激のあまり、ハイテンションである。
 ふつうは呆れるところであるが、そこは歩。
(よかった!
 キヨシさんが、元気になってくれて……)
 気になるのは、隣りのメイド喫茶のメイド達が、やたら筋肉質でゴツイことだが。
 しかも、客が涙目で金を支払っていることもだが。
「ありがとう、歩さん。
 聞いたんだね? 模試の結果……その、悪かったこと……」
 キヨシはバツが悪そうに鼻っ柱をかく。
 さすがに感づいていたようだ。
 わわ、どうしよう!
 歩はサッと頬を赤らめる。
「うーんと、逆に考えてみたら良いんですよ」
 歩は爽やかな笑みで、思いつくままにキヨシを励まし始めた。
「悪い結果を模試で出しちゃったんだとしたら、次の本番はきっと!
 そう、良い結果が出ますよ。
 ……諦めたらそこで試合終了だって、昔の偉人さんも言ってますし」
「え? あ、うん。そ、そうかな?」
 あははは――っ。
 照れ臭そうに笑って、キヨシは歩の言葉を受け入れる。
 気になる女の子から、誠心誠意励まされて、元気が戻ったようだ。
 
 キヨシが元に戻ったところで、歩は携帯電話を確認する。
 帰り道、先輩がこの度夜露死苦荘に入居したことを告げた上で。
「あ、でも今の内緒です。
 何だか今は正体隠してるみたいなので」
 キヨシを食事に誘った。
「彼女が料理作ってくれてるんですよー。
 あんまり器用な方じゃないけど、いかがです?」
「うん、いくいく!」
 キヨシはあまり深く考えないで、歩にしっぽを振ってついて行くのであった。
 
 ■
 
 
 ちょうど同じ頃。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は龍騎士の仮面をつけたままで、管理人室を訪れていた。
 管理人への挨拶の為に。
「はぁ『マスク・ザ・受験生』さん、ですね?」
「ええ、そうです」
 ロザリンドの態度は堂々たるものだ。
「あの、マスクさん。本当にあなた、パラ実生ですの?」
「ええ、この見てくれからも分かります通り。
 どこからどう見ても、立派なパラ実生。
 白百合女学院の【東シャンバラ・ロイヤルガード】なんてことは、絶対にありません!」
「はぁ……」
 言ったきり、マレーナは困惑した目を窓の外に向けた。
 そこには、このシャンバラ荒野では絶対に見かけない程上質な椅子、ベッド、巨大なクローゼット等……が、置かれてある。
「あの、お部屋は四畳半なのですが……」
「うーん……拡張工事が必要でしょうか? 管理人さん」
 しかし、いきなり一晩で拡張工事というのも無理がある。
 一先ず入りきらないものは、そのまま野ざらしでおくこととなった。
「雨が降らないことを祈るばかりですわね?」

 ロザリンド……もとい、マスクは部屋に案内され、支度をした後、台所を拝借する。
 四苦八苦した末に、なんとかその料理は完成した。
「できました!
 『ニンニク・生姜たっぷりのスタミナ丼』!」
「まぁ、お上手に出来ましたこと」
 一緒に手伝ったマレーナも、ニッコリと満面の笑み。
 指先の絆創膏が気にはなるが。
「では、七瀬さん達に知らせなければ! ですね?」
 携帯電話で、早速送信する。
 
 歩達が夜露死苦荘に戻ってきたのは、間もなくしてからのことだった。
 
 ■
 
「はい、どうぞ♪」
 マスクは謎の丼をキヨシ達に進める。
 管理人室。
 マレーナも、何となく気になって、その場にとどまっている。
「ま、見た目は悪くないですね……」
 武明は怪訝そうだが、マスクは上機嫌で答えた。
「『ニンニク・生姜たっぷりのスタミナ丼』ですよ!
 元気が出ます!」
 へぇ、と目を輝かせたのはキヨシ。
 彼は取りあえず、「女の子がつくってくれたものは、喜ばなくてはいけない」と思いこんでいる。
 それがたとえ、仮面をかぶった、どうみてもパラ実生っぽくない少女であったにせよ。
「ところで、七瀬さん達はどこまで進んでおりますの?」
 ブッと吹いたのは、キヨシ。
「あ、あの私……その。
 今日初めて入居した物ですから、その色々とよく分からなくて……」
 マスクは空気を察して、あたふたと取り繕う
「百合園女学院……ではなくて、パラ実生の女学生たちが大丈夫であるか。
 身も心も含めて……その、何か問題が無いか。
 それを調査するのはロイヤルガードたる……ではなく、先輩として立派なお仕事です!!
 ええ、これは重要な『仕事』ですから。
 決してキヨシさんがどんな人なのか、
 どんな甘い展開が起きているのか、見てみたいとか。
 そんな邪念で動いているのでは、無いはずです!!」
(……て、全部本音言ってますって! ロザリンドさん)
 
 気まずい雰囲気。
 
 武明は丼に手をつけて、ぐぐっと両手を口で押さえる。
「ま、ますく殿?
 こ、これは……っ!?」
「ん? どうした? 武明?
 うまそうな丼じゃねぇか!」
 キヨシは気まずさも手伝って、一気にかき込む。
 
 次の瞬間、卒倒して診療所送りとなった。
 
「あ! 皆さん食べないで下さいね?
 あたしが、その、そう! 手を加えますから!」
 歩の言葉に、マスクはうろたえて。
「そ、そんなに不味かったですか? キヨシさん。
 一生懸命に作ったのですけど……」
「ち、違いますよ。マスクさん……あ、あまりに美味し過ぎて、感激しちゃってね……」
 その言葉を最後に、キヨシの意識は途切れた。
 美味しんだぁ、美味しいんだぁ、うわごとのように呟きつつ。
 
(そう、私の料理って。
 卒倒するくらいに、美味しかったのですね? キヨシさん)
 でも普通の人は、美味し過ぎて卒倒するらしい。
(では、普通の方の口に合うまで、レベルを下げなくては!)

 マスクの料理修行は、まだまだ続く――。

 ■
 
 ともあれ、キヨシと歩の仲は、今回は少し深まったようだ。
 ほんの少し、なのだが。