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そんな、一日。

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そんな、一日。

リアクション



4


 朝、起きたらとても綺麗な青空だった。
 それだけで、誘う理由は十分だ。
「外……気持ちいい、ね」
 繋いだ手の先で、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が微笑んだ。でしょ、と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)も笑い返す。
「すごくいい天気なんだよ。太陽の光を受けて、色んなものがきらきら光ってる。花も元気に咲いてるよ」
「うん……千百合ちゃんの、楽しそうな雰囲気……私にも、伝わってくる」
「ほんと?」
「うん。見えないけど……わかる、よ」
「良かった」
 見えない彼女に、自分が見た世界を伝えることができるのは嬉しかった。そのご機嫌も伝わったのか、日奈々がまた、ふんわりと笑う。返事の代わりに、手をきゅっと握る。
「どこ行こっか?」
 あてのない散歩の最中、ゆるりと会話を切り出した。ん、と日奈々が考える素振りを見せる。
「前に、話した……あの、紅茶が美味しいって噂の……」
「ああ! ケーキ屋さん!」
「そこ……行きたい、な」
「うん、行こうっ」
 日奈々が行きたそうにしていたから、店の地図は覚えている。千百合は日奈々の手を引いて、店までの道を歩きだした。


 評判に偽りなく、訪れたスイーツショップのケーキはとても美味しかった。一口食べるたび、幸せな気持ちが弾ける。
「美味しいねっ」
「うん。私のも、美味しい……食べて?」
 日奈々が、苺のタルトをフォークに刺して千百合へ向けて差し出した。いただきます、と咥えると、甘酸っぱい苺の味と香りが広がる。フィリングは甘く、反対にタルト生地は控えめで絶妙だ。
「こっちも美味しいよ。口開けて、あーん」
「あー、……美味しい」
「でしょ」
 食べさせ合って、幸せなひとときに、笑う。
 皿の上のケーキがなくなり、紅茶を飲んで幸福感に浸っている時、日奈々がそっと呟いた。
「千百合ちゃんと、こうしているの……久しぶり、だね」
「ああ……そうだね。デート、しばらくしてなかったもんね」
「やっぱり、私……千百合ちゃんとこうしてるの、すごく好き……」
 ぽつり、ぽつりと静かに零れる言葉を、千百合はとても愛しい思いで聞いていた。やがて、日奈々が全て気持ちを伝え終え、恥ずかしそうに俯く。千百合は笑って日奈々の手を取った。
「あたしもだよ」
 あなたといることが、何よりの幸せ。