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第1章 子供達が笑って過ごせる年へ

 2024年1月1日。
 空京神社は、深夜から沢山の参拝客で賑わっていた。

「いい朝だ」
 早朝。武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、銀色のツインオートバイを駐車場に止めて、初日の出の光に目を細めながら鳥居の方へと歩いていく。
 鳥居の近くの杉の木の下で、恋人のセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)と待ち合わせていた。
 かなり早い時間だったが、既に混雑していて、杉の木の下にも沢山の人が集まっている。
 待ち合わせの時間まで、まだちょっとあるがセイニィは先に到着をしていて、さほど目立たない場所に立ち、ちらちらと訪れる人達を見ていた。
「新年、あけましておめでとう。セイニィ」
 牙竜は直ぐに彼女を見つけて、駆け寄った。
「おめでとう、牙竜」
 セイニィは牙竜に気付くと、ぱっと笑顔を浮かべた。
「今年も色々あると思うけど、子供達が笑って過ごせるようないい年になるといいな」
 牙竜の言葉に、セイニィは穏やかな顔で首を縦に振った。
「しかし、かなり人が多いな……離れて迷わないように手を繋いでいこうぜ」
「……そうね」
 仕方ないからというように、セイニィは片手を牙竜に預け、牙竜はセイニィの手をとると一緒に歩き出した。
 早朝だったが、子供を連れた大人の姿も多くみられた。
「子供が迷子になってないといいけどな……」
 並びながら退屈そうにしている子供や、親と手を繋いでいない子供に、つい牙竜は視線をむけてしまう。
「……あ、すまん」
 手は繋いでいるものの、セイニィを軽く放置してしまったと彼女に目を向けて謝罪をする。
「どうにも人が多いところだと子供が迷子になってないかと頭によぎる。俺も良く迷子になってたからな……育ての親に怒られたものだ」
「子供は大人しく並んでいるのが苦手だし、色々なものに興味を示すからね。牙竜は、落ち着きのない子供だったのかしら? 育ての親に叱られている姿、なんだか想像できる」
 くすっとセイニィは笑みを浮かべた。

 数十分して、ようやく拝殿の前に2人はたどり着いた。
 賽銭を入れて、鈴を鳴らして礼をして、2人はそれぞれ願い事を思い浮かべた。
 牙竜の願いは『子供達の夢が守れますように』だ。
 子供が夢を見られない世界は、結局大人も不幸な世界だから。
「全く同じじゃないけど、似たような願いをしたんじゃないかな、あたしたち」
 再び手を繋いで歩きながらセイニィが言った。
「そうだな」
 多分、セイニィも自分個人の事ではなく、世界の事だろうと牙竜は思う。
「……ん?」
 授与所へと歩いていた牙竜はやたらうごきがきびきびした巫女に目をとめた。
「あの巫女さん、どっかで見た気がするバイトかな?」
「…………………………さあ」
 セイニィは目を逸らした。
 ロイヤルガードの隊長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)だと気づいたが、見なかった事にした方がいい気がした。
 代われと言われても困る!
「ん……」
 勿論牙竜は脳内で、巫女装束のセイニィを思い浮かべようとしたが……なんだか浮かんだのは少し違う姿のセイニィだった。
「神前式って知ってるか?」
「ん? なによ突然」
「神社で行なう結婚式なんだが……セイニィの白無垢姿を想像しました」
「はあ?」
 セイニィは少し赤くなる。
「まだ、早いとは思うけど頭のどこかに結婚して家庭を持つ未来ってどんなのだろうって考えがあるんだ」
「ちょっと……! あのね、嫌なわけんじゃないけど、あたしたち、ええっと……」
 動揺しているセイニィに微笑みながら牙竜は言う。
「まだ付き合いだしたばかりで、恋人らしいことあまりしてないしな」
 その言葉に、セイニィは大きく頷いた。
「正式なプロポーズは機会を見てするが、今は始まったばかりの関係を大切にしていこうぜ」
「気が早すぎ」
 セイニィは頬を赤らめ、ぷいっと顔をそむけた。
「おみくじ引いて、甘酒飲んで、少し空京神社を見ていこう」
 牙竜は繋いでいる手をグイッと引っ張った。
「さぁ、行こうぜ」
「……うん」
 牙竜に引っ張られて、セイニィは歩き出す。
「なんか……安心した」
「ん?」
「関係は変わったけど、そんなに変わらなくて。……変なこととか、沢山求められても応じられないし、ね!」
 牙竜と繋いでいるセイニィの手に少し力が込められた。
「今年もよろしく、牙竜」
「ああ、今年も、来年もその先もよろしく、セイニィ!」
 微笑み合い、2人はおみくじを引きにいく。
 境内にいる子供達の様子を気にしながら、訪れている人達の安全に気を配りながら。
 2人で、元旦の境内の散策を楽しんだのだった。