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リアクション
・十分前
「自分の出演順の前になったらスタンバイお願いします」
ステージ裏のから通じている控え室で、リリエが簡潔に説明する。遊びにきたつもりが、せっかくの機会ということで手伝っているようだった。
「それまでは自由時間なので、他の催しを楽しんできても大丈夫ですよ」
なお、他のスタッフ陣は主に最初に準備した場所をそのまま継続して担当していたが、開演に合わせてこちらを増強していた。
「そこのドラゴンのあんちゃん、ちっと照明の操作してくれ。さすがに音響調整しながら全部やるのは大変でな」
ジェラルドはステージの照明を担当する事になった。PA卓には担当者と彼がおり、ステージ付近のマイク周りの調整を沙幸が行っている。
客席中央にドラゴニュートと、ペンギンが並んでいるのはシュールな光景だ。PA担当者はモヒカンでグラサンなイワトビペンギンだったのだ。造形がリアルなため、ゆる族か獣人かよく分からない。
「おーい、MCどこ行った?」
ちょうどそこへルースが戻って来た。
「はい、戻りましたよ」
「あと十分で始まるから、そろそろ客席への誘導とかやってくれ」
コンサート会場にはちらほらと人が入り始めていた。最初がバンド形態で始まるという事をステージの機材から見てとったのか、前方アリーナの方へ集まっていく。
・コンサート、開演
コンサートホールが暗転し、ステージの上に三つの人影が現れると歓声が上がる。
「さあ、パーティの始まりよ!」
ベースボーカルのミレーヌの声と共に、ドラムがハイハットでのフォーカウントから楽曲に入る。そして、ステージの照明が光り、一気に会場はヒートアップした。
ようこそ 軽快なパーティ会場へ!
今日は すべてのボルテージをここへ オンステージ!
ボーイズ&ガールズ楽しんでる?
今 確かにある一体感を 思いっきり楽しんじゃおうよ!
音楽を前に クールだなんてナンセンス!
リズムに合わせて 心を開けば
ほら ノリの悪いあの子も 一緒にジャンプ!
素敵な 春のフィスティバル・ステージへようこそ!
入りはアップテンポな曲であり、アリーナはライブハウスさながらの盛り上がりだ。
「ドラムス、アルフレッド・テイラー!」
間奏ではメンバー紹介に入る。名前を呼ばれると、アルフレッドはワンフレーズ分のドラムソロを披露した。
「ギター、アーサー・カーディフ!」
今度はアーサーがアドリブでギターソロに入った。ステージ前方まで出ていき、軽快に弾いく。
「ベースボーカル、ミレーヌ・ハーバート!」
最後に自分の紹介をし、ベースソロだ。
続く二曲目では今度はアルフレッドがドラムボーカルを務めた。若干走り気味だったのか、「おい、アル。お前は少しテンポが早いからゆっくりいけよ」などとアーサーから目配せされていた。会場はコンサート、もといライブに夢中だったので気付いてはいなかったが、むしろテンポが早いくらいの方がノリやすいというものだろう。
「みんな、最後まで楽しんでいってねー!」
その後彼女達はもう二曲を披露し、演奏を終えた。
「スリーピースの力強いサウンドは伝わりましたか? さあ、いよいよパーティも本格的に始まりました!」
ルースのMCが始まり、この間に他のスタッフが機材を一時撤収する。しばらくはソロが続くためである。
「MCはルース・メルビンがお送りします。この春の宴を精一杯楽しんでいきましょう!」
恋人のナナに会えた事もあってか、かなりテンションが上がってる様子のルース。MCも、流れを切らないように、DJ風だ。
「では、この興奮冷めやらぬ中、休憩までノンストップでいきますよ。ここからは三人連続でかわいい女の子の歌声に癒されましょう!」
ピアノとストリングスの前奏とともに、二番手のネージュがステージ出てきた。すると客席がざわついた。オーケストラの伴奏で、歌い手が小学校低学年くらいの女の子である事に少なからず驚いているみたいだ。
「In my mind――」
歌い始まると、それはさらに大きくなった。ソプラノの高音とハスキーボイスは澄んだ旋律となり、ホールに響いていく。幼い外見とは裏腹に洗練されたその歌声は、純粋に会場を沸かせるほどの力を持っていた。
なお曲は、その昔アカデミー賞を取ったある映画の劇中曲だったものであり、今では多くのアーティストにカバーされているものだ。
客席は、アリーナも含めて聞きいっている。中には一緒になってく口ずさんでいる人もいるくらいだ。
***
「綺麗な……歌声ですね」
客席でコンサートを聞きに来ていた鬼桜 月桃(きざくら・げっとう)が呟いた。
「そうだな。来てよかっただろ?」
鬼桜 刃(きざくら・じん)が傍らで彼女に言った。
「……ええ」
ぎこちなく答える月桃。彼女は昔からの度重なる契約による後遺症のせいで、うまく感情を表現する事が出来ない。
そのため、刃がこのパーティに誘った時も、最初は「私はいいから……刃……楽しんできて……」と断っていたのだ。
それでも、「ふざけたこと言うなよ、月桃。大体よォ、俺一人で行っても楽しくねぇよ……月桃と一緒だから、楽しめるんだぜ、俺は」と説得されてやって来ていたのだった。それは刃が彼女を大切に思っているからこそだった。
「どうだ、もう少し前で聞かないか? さすがにアリーナまで行くのは気が引けるけどな」
コンサートを楽しんでおり、もっとステージの近くで聞かせたいと刃は彼女に薦める。
「それでは……どのような方が歌ってるのか、もっとよく……見たいですから」
刃は月桃の手を取り、前方へ移動する。
***
歌い終わると、盛大な拍手が彼女に送られた。それほどまでに心に伝わるものがあったのだろう。
すると、今度はポップでテンポのいい曲が流れ始めた。オケは打ち込みの音らしい。テンポに合わせて拍手は手拍子に変わっていった。
「お疲れ、とっても良かったよ!」
歌い手が入れ変わる際に、葵とネージュは顔を合わせ、パン、と右手でハイタッチをする。
「いっくよぉ~みんな~! あたしの歌を聞けぇ☆」
その声と共にステージ前方のスモークが噴出される。煙が晴れてくる頃にちょうどAメロを歌い出すタイミングだった。
照明は彼女の動きに合わせて、カラフルに点灯する。フリルとリボンの一杯ついた水色のドレスで、ステージを動き回りながら歌う様は、アイドルさながらだ。
そのため、アリーナ前方、特に男性陣は大盛り上がりである。
たとえどんなに辛くても
新しい明日がきっと待ってるから
笑って一歩、踏み出そうよ
キラッ! っとポーズをとったりもしている。その時は光精の指輪で本当に光らせたりと、パフォーマンスにも抜かりがない。むしろ完全にノって楽しんでいる。
客席もサビでは手を前後に振ったり、手拍子でリズムを取ったりと、完全に一体となっていた。
「みんなありがとー!」
最後の曲を歌い、手を振りながらステージを後にする。
「お疲れ様です。すごい盛り上がりですね」
「うん、みんなが一緒になってる感じで良かったよ。歌うのって楽しいね~♪」
と、軽く言葉を交わし、ロザリンドとバトンタッチである。
「では、歌ってきます」
ロザリンドがステージに立ち、歌い始める。
風に混ざるため息一つ
あなたの笑顔があるだけで幸せが満ちるのに
一緒にいるだけで世界の全てが輝くのに
どうしても言えない一つの言葉
風に混ざるため息一つ
あなたのためなら怖い物は無いはずなのに
共に進むよう何でもできるはずなのに
どうしても言えない一つの言葉
風に混ざるため息一つ
どうしても言えない「愛しています」
この思いと言葉風に乗って届けばいいのに
想いを込めて、精一杯歌う。切ない歌詞は共感を呼ぶものがあったのか、歌い終わった後、「感動したッ!」という言葉が混ざって飛んできたりもした。
「皆さん、盛り上がってますね。こちらまで伝わってきましたよ。そのような中ですが、これから十五分の休憩となります」
四組が終了し、最初の休憩となる。
「ちなみにオレに興味抱いたり、連絡先が聞きたい、デートに誘いたい!!! と思ったそこの美女たち。いつでもオレは待ってますよ~。いつでも誘ってくださいね」
ちょうど休憩になるのと、MCとしてマイクを握っている事に託けてちゃっかりアピールするルース。恋人持ちなのにも関わらずである。
と、その時ホールが唐突に暗転する。
「何だ? 僕は何もいじってないぜ?」
照明操作のジェラルドが驚く。一時的に電源が落とされたようだ。
すぐに明かりは戻った。すると、ステージの上には二人の人影があった。
「まだまだ、休憩になんてならないよ!」
松永 亜夢(まつなが・あむ)とパートナーの藍月 レイ(あおつき・れい)の二人だった。
「あれ、こんなの予定にないよね?」
その様子を見ていた運営スタッフのセシリアはステージを注視する。その場からスタッフ全員に配布された無線を使ってエミカに確認を取る。返ってきた答えは、『面白かったらそのまま放置でいいよー』というものだった。
「まあ、とりあえず様子見で大丈夫じゃないかな?」
同じようにコンサートホールを担当していた正悟が言う。
ステージ上では、亜夢とレイがマイクを握っていた。
「ミュージック、スタート!」
すると、打ち込みの音がホールに響いた。サプライズなのになぜ音源があるのか疑問である。もしかしたらPAが自己判断で流しただけなのかもしれない。
「歌うだけか。なら、別に問題はないか」
ホールの後ろの方で、黒服に身を包んだ橘 恭司(たちばな・きょうじ)はその様子を静観していた。彼はスタッフではないが、その姿はさながらSPのようだ。
ステージ上で、レイがマイクに向けて口を発しようとする。しかし、
フューン、ガガガガガガガ!!
酷いハウリングの後、ノイズ混じりの音が会場に響き渡る。どうやら一度電源が落ちたせいで、マイクの一つが異常をきたしたようだ。それでも、ステージ上の返しの音には問題はないようで、歌い続けている。いかれてしまったのは、外音の方だけらしい。
「これは止めないと……」
セシリアと正悟、それから恭司はノイズの中ステージへと歩み寄っていく。PAの方は、マイクの電源を落としたようだが、どうやら配線そのものがおかしくなったらしく、すぐには音が止まらない。
その時、再び会場が暗くなった。それと同時に雑音は消える。その間、「え、誰? ちょっと、やめ……」などという声が聞こえたが、何が起こったのかは定かではない。
「あれ……いない?」
明るくなった後、ステージを見るともう誰もいなかった。おそらく、暗転してる間に何らかの処置があったのだろう。
「えー、少々想定外の事が起きたので、休憩時間を十分延長します」
機材を再調整しなければいけなくなったため、休憩時間を引き延ばす事になってしまった。
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