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【2020春休み】パーティへのお誘い

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【2020春休み】パーティへのお誘い

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間章 ――休憩時間――


・コンサートホール

「さっきのって何だったんだろうな?」
 コンサートホールの客席で、椎堂 紗月が呟いた。彼を含めたIMMのメンバーは、出番までに時間があるために、他の出演者を見ながら時間を潰していた。
「こういう催しですからね、目立ちたかったのでしょう。上手くいけば良かったんでしょうに」
 赤羽 美央が彼の呟きに応じた。機材トラブルさえなければおそらく何事もなく済んでいたいただろう。
「念のため、出番が来る前にもう一度機材を確認した方がいいですね」
 と、ルイ・フリード。今もステージではせわしなくスタッフが動いている。
「しーどうさん!」
 その時、一人の人物が現れた。ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)である。
「わ!? ケイラか、びっくりさせんなよ」
 紗月は一瞬驚いたものの、すぐにほっと息を吐く。
「いやー、いきなりごめん。最近彼女が出来たんだって? 自分にも紹介してほしいな」
 最近紗月に出来たという彼女について気になったために、ケイラは馳せ参じたようだ。
「今日ここに来てるんだけどな……お、いたぜ」
 彼の視線の先には、ちょうど売り子の女の子――遙遠からジュースを買っている鬼崎 朔(きざき・さく)の姿があった。
「朔ー!」
 紗月はケイラを連れて朔の方へと向かった。
「……紗月、それにケイラも」
「あ、彼女って鬼崎さんだったんだね。へぇ〜」
 感心したように二人を交互に見遣るケイラ。
「……どうかしたか?」
 その様子を朔は不思議に思ったようである。
「鬼崎さんの方が椎堂さんより身長が高いなーってね……あれ、もしかして鬼崎さんは自分よりも高い?」
 ふと背筋を伸ばしみる二人。実際は若干ケイラの方が高かった。
「い、いいだろ、そんな事!」
 紗月はどこか悔し恥ずかしそうだ。
「でも、二人とも今いい感じそうで良かったよ。これからも二人のラブラブっぷりに期待してるね」
 と、微笑むケイラ。この言葉には朔も恥ずかしそうにした。
 それからも少し会話をし、紗月はメンバーの元へ戻る。出番までは時間があるため、朔とケイラはこの時間の間に料理を食べに上へと移動した。


            ***


「マイク、これで全部チェック完了だよ」
 コンサートホールも音響周りの調整は終わりかけていた。マイク用のスピーカーケーブルを予備の物と交換したため、ハウリングも、ノイズも起こらなくなった。
「じゃ、嬢ちゃん、ドラムのタムマイクを一つ付け替えてくれ」
 本日二度目のマイクテストを終えると、沙幸は指示通りにステージ上で準備を始める。
「コンサートに和太鼓ってのも新鮮だよね」
 綺人が感心したように口を開いた。目の前には台の上に乗った大和太鼓がある。
「他にも弾き語りもありますし、中盤も楽しんでもらえそうですね」
 太鼓を運び終えたクリスが言った。

 
 間もなくパーティも中盤に突入する。


・ロビーにて


「あれ、どうしたのかな?」
 運営本部も置かれているロビーで、ルミーナと同じ服装をしているアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、困ったように、涙目できょろきょろと周囲を見回っている幼い子供に声を掛けた。どうにも放っておけなかったようだ。
「おにいちゃんとはぐれちゃって……」
「あらら、迷子ちゃんかぁ、泣かないで、お姉さんが一緒に探してあげるから」
 アリアは小学校低学年くらいの子供を連れて、二階へと上がっていった。


「随分盛り上がってんな」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、関谷 未憂(せきや・みゆう)とパーティにやって来ていた。
「そうですね。皆さん楽しんでるみたいですね」
 未憂もまた、どこか楽しげな表情だ。
「そういえば高崎先輩、遺跡で怪我したみたいですけど。もう大丈夫ですか……?」
 悠司の方に顔を向けると、今度は心配そうに彼を見上げる。
「何、あれからもう二ヶ月くらい経つんだ。そんなヤバくねーって……ッ!?」
「これは失礼しました!」
 荷物運びをしているスタッフの一人と肩がぶつかってしまう。
「先輩!?」
 思わず声を上げる未憂。悠司は何かに耐えるような表情だ。
「……ヒール、要りますか?」
「な、何でもねーって、あんま大げさにすんなよー」
 あくまでも平気そうに言う悠司。だが、まだ痛みは引いてなかった。
(ちっとまだ危険だな……あんまり動き回らないようにするか)
 彼は少し前、遺跡調査の折りに重傷を負っていた。床に叩きつけられ、上半身を砕かれていたのだ。それでも、壁にめり込んだ人や、全身を粉砕骨折した人に比べれば軽い方である。
 まずは二人で催しものの確認をする。
「料理コンテストに、コンサートか」
「料理コンテスト用の料理と、来場者向けの料理と分けてる人もいるみたいですね」
 本部で一度現状を確認する二人。未憂は料理コンテストの方に興味があるようだ。
「じゃ、料理コンテストに行ってみるとするか」
 二人は二階へ向かう事にした。
 二人と同じように、どこへ行こうか考えている者は他にもいる。
「料理コンテストもコンサートも気になる……どっち行こうー?」
 佐伯 梓(さえき・あずさ)もまた、どちらに行こうか悩んでいた。一歩、料理コンテスト会場に踏み出そうとしたが、それを彼のパートナーのカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)
が制止した。コンサートホールの方へ押していく。
「はいはい、料理コンテストへ行くとまた甘い物をつまみ食いしようとするでしょう?
この前のパンケーキ作りの時もメープルシロップを……」
「いや、あれはさー……」
 弁解する梓。
「たまたま手に持ってただけ? 言い訳は良いです……甘い物は駄目とはいいませんが。出来れば控えて欲しいです」
呆れ加減で呟くカデシュ。
「今日はこっちですよ。音楽は好きでしょう?」
 梓の背中を押し、コンサートホールの方へ引っ張っていった。

「さて、気晴らしに来たものの、もう結構な人ですわね」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、この春百合園に転校してきた友人の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)とパーティへとやって来た。
「ありすちゃーん、どっち行くー?」
「美味しいものでも食べにいきましょう。コンテストともなれば日頃の疲れも吹き飛ぶようなものも、きっとありますわ」
 日頃白百合団やパラ実神楽崎分校で自分の役職をこなしている彼女は、少しばかりの息抜きとして楽しもうとしていた。
「お疲れなんですかー? 肩もみますよー、必要なら胸でもお尻でも良いですよ」
「じゃ、肩もみお願いしますわ」
 ひとまずベンチに座る二人。アルコリアは彼女の肩をもみしだきながら、亜璃珠の髪の毛を加えた。手の方は隙あらば胸元へ迫ろうとしている。
「ドリル毛っておいひい? はむはむ……」
 さすがにこれには亜璃珠も突っ込む。
「とりあえず髪の毛は食べないの」
 そう言ってアルコリアの頭をぽん、と触る。
「それじゃ、行きますわよ」


            ***

「周君も来たの? あんたの相手なんかしてらんないの! しっしっ!」
 その頃、受付には周が息を切らしながらやってきていた。
「なあ、料理コンテスト会場は二階でいいんだよな!?」
「そうよ。分かってるんなら行った行った!」
 周はそれを聞くと人の間を潜り抜け、二階へと上がっていった。
「頼む、間に合っていてくれ!」
 彼が会場に入るのは、ちょうどパートナーが得体の知れない物体を披露した直後の事だった。