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リアクション
・コンサート、再開
「さて、ここから中盤戦へと突入です! まずは熱く派手なパフォーマンスをお楽しみ下さい!」
一回目の休憩時間が終わり、演奏が始まる。
ステージの上に大和太鼓に対し、何かが始まるのかと興味を持つ観客もいた。
純和風なSEと共に登場したのは、赤城 長門だ。ドレッドヘアーに赤フンドシ、筋肉隆々な出で立ちは、前半の女の子達とは別の意味で、会場を沸かせた。インパクトは大である。
ばちを構え、大和太鼓に向き直ると、SEが止まる。それが合図のようだ。
「ハッ!!」
気合の入った一声、そして豪快に叩いていく。日本の伝統的な祭囃子の如き音色を出す様は、圧巻であった。コンサートの趣旨とは異なるものの、これはこれでパフォーマンスとしては十分過ぎるほどだ。
続いて、入れ替わりで現れたのはジャジラッド・ボゴルである。なぜか会場の一部がざわついた。彼のたっての希望で、ここでようやく観客は彼が出演するのを知ったのである。そしてその理由はすぐに分かる事になる。
ピアノのゆっくりとした前奏が流れてくる。曲はバラードだ。マイクを口元に近付け、第一声を発する。
「み、耳が……くそ、こういう事なら無理にでもリハで声出しさせとくんだったぜ!」
PA席の担当者は自分の耳を押さえ、頭を伏せている。だが、それでも、言い知れぬ振動は脳を直接揺らした。
(おお、みんなオレの歌に酔いしれてやがるぜ)
間奏になり、おとなしくしている観客を見て、自分の歌声の素晴らしさを感じるジャジラッド。だが、それは単なる勘違いである。
「さっきのステージよりも質が悪いぞ、これは……」
だが、スタッフではない恭司はなかなか止めに入る事が出来ない。それ以前にスタッフも動けないのは、彼が一応出演者だからだ。
どうしようもないかと思われたその時、次第に彼の声がフェードアウトしていく。マイクの音量をPAがなんとかいじったらしい。ついでに、別のデモ音源が会場には流される。さらに、それまで使ってなかった幕が一時的に下ろされた。
「おい、まだ曲の途中だぞ!?」
いきなり強制終了になり、怒りをスタッフにぶつける。
「このままコンサート台無しにしたくないんだよねー」
そこに主催者がやってくる。なぜか笑顔で。
「ってなわけで、えい!」
その場で高く跳び、勢いをつけてジャジラットの延髄に回し蹴りを食らわす。ほとんど不意打ちだったために彼は反応出来ず、そのまま前のめりに倒れて気を失った。
「じゃ、さっきの子達のところに運んどいてー。面白い分なら何やっても構わないんだけど、ネタにすらならないのはちょっとね。さーて、後でどうやってお仕置きしよっかな〜♪」
エミカはジャジラットの始末だけ任せると、またもやどこかへ行ってしまう。
「なんか、あの人……怖いですね」
瀬織が軽快に去っていく主催者の背を見ながら呟いた。
「……何を考えてるのか良く分からないあたり、厄介だ」
ユーリがそれに応じた。
***
「この流れの後にオレですか。少々やりにくいですね。また男か、って思われそうですし……」
リュース・ティアーレは不安そうにしていた。
「だいじょうぶですよ、がんばってください!」
ステージ袖に控えていたヴァーナー・ヴォネガットが彼を励ます。次のリュースはピアノの弾き語りなので、おそらく問題はないだろうと思われた。ちょうど幕も下りており、その間に転換作業は終わっていた。
「さて、ここからはコンサートらしい流れに戻りますよ」
MCによる紹介とともに、幕が上がっていく。客席が見渡せるようになると、リュースは一礼した。前髪をあげ、赤スカーフの蒼タキシードを着ている姿は紳士的である。
ピアノに座り、演奏を始めた。
「君と生きる世界」
時を重ねて生きよう
共に歩き続ける為に
違う世界を互いに生きていた僕達
けれども僕達は出会った
そして、世界は交わった
共に笑おう
世界が輝くように
桜が舞う時も
雪が舞う時も
生きる世界を一つにして
一つの世界に共に生きる僕達
だから、歩ける
蒼い空の下
共に歌おう
世界に響くように
太陽の下
月光の下
生きる世界を一つにして
時を重ねて生きよう
共に歩き続ける為に
奏でられた綺麗な旋律は、会場内の空気を確実に癒やした。弾き終わると再び一礼し、ステージ袖へと去っていく。その際、大きな拍手が送られた。
「ついに俺達の番か、やっぱりこの格好は恥ずかしいな」
「黎、ここまで来たら上手くやってやろうではないか」
続いて、リュースと入れ替わりで皇祁 黎と皇祁 万太郎の二人がステージへ出る。すると、今度は前半の女の子達のステージの時のような反応が起こる。
それもそのはず、二人とも女装、しかも完全に女性にしか見えない出で立ちとなっているのだ。さらに衣装はゴスロリワンピース、黎の方は黒いヘッドホンを身に付けてもいる。さらに、二人とも猫耳である。
シンセサウンドが聞いた、軽快なガールズポップ調のイントロが流れ始める。
「恋するネコ耳」 作詞作曲:皇祁璃宇
ぴっこぴこぴこ
ぴっこぴこぴこ
アナタの電波を
しっかりキャッチ
そんな便利なお耳
それがネコ耳な・の・よっ☆
歌に合わせて、黎の耳がピコピコと動く。
今度は、万太郎のパートになる。
ぴっこぴこぴこ
ぴっこぴこぴこ
アナタのハートの
鼓動をキャッチ
あらあら可愛いお耳
それがネコ耳な・の・さっ☆
黎以上ノリノリであった。前方の方では、歓声に紛れて「萌えー!」だとか、「俺だー、結婚してくれー!」だという声が上がっている。どうやら二人が男だと気付いてる者は少ないようだ。
無事に歌い終え、次の出番のヴァーナーと、サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)
が出てくる。衣装は、ヴァーナーはピンクのポンチョを、サリスはレモンイレローのポンチョをそれぞれ百合園の制服の上から着ている。
「おつかれさまです。とってもかわいかったですよ!」
言葉を交わし、入れ替わる。
(楽しかったけど、やっぱり恥ずかしかったな……)
(良かったぞ、黎。大成功だ!)
二人は小さい声で囁き合いながら、ステージを去った。
ヴァーナーはキーボードを、サリスはリュートの音色を奏で、そのまま歌に入る。
作詞:サリス、作曲:ヴァーナー
あたしは 消えてく雲を 追いかけた
どこまでも続く 草原のむこうまで
みんなは 下をむいたまま 動かない
かなしい顔を 下にむけたまま
優しい音色 あなたの歌が 聞こえてくる
追いかけたら あなたの笑顔 そこにある
あれ? みんなには聞こえないの?
なぜ? 悲しい事がいっぱいなの?
あたしの歌は みんなに届くかな
ムリだなんて 思いたくない
あたしの歌で 振り向かせたい
かなしい事は 忘れさせたい
落ち着いた雰囲気の出だしから、曲が後半になるにつれてどんどん明るくなっていき、曲は段々と盛り上がっていく。メインボーカルはサリス、ヴァーナーはコーラスをしていたが、最後の大サビは二人で綺麗なハーモニーを奏でる。
コンサートの中盤は、少しだれてしまうものだが、そうなる事もなく、二人の歌声を観客は聞き入っていた。
「楽しかったね、おねえちゃん」
歌い終わると、二人仲良く微笑み合い、ステージを後にした。
「よっしゃ、パラミタデビュー第一発、派手に決めてやるか!」
次の出演者であるシリウス・ヴァイナリスタが気合い入れて出てくる。
「どうした、リーブラ? まだ気にしてんのか?」
「……わたくしが出たら、きっと騒ぎになりますわ」
彼女のパートナー、リーブラ・オルタナティヴはフードを被って顔を隠している。
「別に誰かに似ててもいいじゃねーか。お前はお前だってきっぱり言ってやれよ! もし騒ぐ奴がいたらオレが拳で違いを教えてやる。見た目で差別する野郎は大嫌いでな!」
強引にリーブラを引っ張ってステージに上がるシリウス。その際にフードが取れてしまう。
ロック調のSEをバックに二人がステージに登場すると、一回目の休憩時のハプニング以上に会場がざわめいた。
「行くぜー! さぁ、俺のビートを聞け!!」
ギターをかき鳴らすシリウス。彼女の弾くリフに合わせ、リーブラがキーボードを弾く。
(やっぱり皆さんこの姿に……)
(良く見ろ、大丈夫だ)
一瞬ざわめいた理由は、リーブラの容姿が十二星華のティセラにそっくりだったからだ。シリウスの方も、女王候補ミルザムに似ていた。もし、このパーティの場でなかったら、本当の騒ぎに発展していただろう。
歪みの効いたディスト―ションサウンドによるハードロックを奏でる彼女達が別人であるのは、その様子を見れば分かることだった。それ以前に、このパーティの誘いにはこんな一文もある。
・服装:自分らしい服装(コスプレ大歓迎!)
つまり、二人はパフォーマンスのために扮装しているものと捉えられたのだ。とはいえ、おそらく後で二人は観客からも声を掛けられそうである。
演奏終了後、一部からはなぜか「ニセラ」などという歓声も飛んできた。リーブラは複雑な気持ちを抱きつつも、ステージを後にした。なお、他の出演者には予め説明はしていたので、控え室はそれほど騒ぎにはならなかった。
「いやー、びっくりしました! 本物も彼女達のように仲良くすればいいと思うんですけどね。それでは、これから二度目の休憩時間となります」
軽い冗談、というか皮肉の言葉が流れつつ、またもや休憩時間に入った。
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