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リアクション
第四章 ――中盤――
・中間発表
「よし、できたー。うん、我ながらいい出来だ!」
アクセル、リース組はちらし寿司をコンテスト用プレートの上まで運んだ。大量に作ったので、補充用の分は冷蔵庫に全投入した。
「嬢ちゃんもありがとな! 手伝ってくれたし、取り分けといた分やるよ」
小皿に盛ったちらし寿司をリースに手渡す。
「どうもありがとうございます。あ、美味しい……」
彼女は一口食べてみた。
「お、良かったぜ。味付けには自信があるんだ」
要である酢飯を作ったのは彼である。
「ま、お客さん用のはあるんだ。パーティ終了までもつだろ。ま、他の催しや料理も楽しんできな」
「はい。そういえば……不良さんの名前なんていうんですか?」
アクセルの手伝いを終えパーティに戻る前に、リースは相手の名前を聞く。知らずに手伝っていたのだ。
「アクセル・ストークスだ。また何かあったらよろしくな! 嬢ちゃんは?」
「リース・アルフィンです。それでは、またお会いしましょう」
ここで二人は別れた。
「さぁ見よ!! 最高傑作、ビッグメロンケーキ!!!」
万願は、ついに完成したコンテスト用料理を披露した。
メロンパンを半分に切ってウェディングケーキの様に何個も重ねている。一段目は生クリーム、二段目はバニラクリーム、三段目はメロンジャムとなっている。他の焼いたパン
は、コンテスト用と混同しないようにテーブルに並べた。
「さぁさぁ、皆たくさん食べてくれ!!! こっちには普段店で作ってるヤツもある。おかわりは山というほどある!! 食べて美味しいと思ってくれた方は、ぜひジャタの森内、猫華へ!! 通信販売も可!!」
営業モードである。だが、メロンケーキのインパクトが強く、どちらにも人は集まっている。
「お、こいつはすごいな」
中原 一徒(なかはら・かずと)はそれに感心していた。同時に、味がどんなものか気になった。
それを万願が自ら切り分け、手渡す。
「おお、甘い! どうだ、グレース」
一徒はパートナーのグレース・スタインベック(ぐれーす・すたいんべっく)を見遣る。
「そうですわね……よくメロンパンにはパサついたりもさもさするものがありますけど、一切それがありませんわ。クリームとの相性もよく、砂糖の甘さと混ざってさらに美味しさを引き立てています。特に、このメロンクリームのものは、素晴らしいですわ」
長々と解説するが、要約すれば美味しい、の一言に収まる。だろう。二人は、他にも端から順に料理を食べて行ってるようだった。
「ユリウス、どれも美味しいぞ」
天城 一輝(あまぎ・いっき)もまた、料理を一つ一つ堪能しながら見て回っていた。
「我はそのようなものなどいらん」
糸の長衣をトーガのように体に巻いているパートナーのユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は、そんな中でも特に何かを食べようとはしない。彼は偏食家なのである。
「せっかくの機会だってのに……まあ俺は十分食べたからいいんだけどな。そろそろコンサートでも観にいこうか」
さすがにパーティ会場にいるのに、何も口にせず見てるだけというのもと思い、ユリウスを連れて二階を後にした。
***
「凄い人だねー、料理コンテストだけあって、みんな美味しそうだね」
ピンクの布地に花模様のスリットの入ったチャイナドレス着た、榊 花梨(さかき・かりん)
が目を輝かせながら料理を見て回っていた。
「食べ過ぎたら、駄目ですよ?」
彼女と契約を交わしている神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、冷蔵庫から取った食材を持ち、花梨を見遣った。
「どれも、皆さん上手ですねえ……簡単な物しか作れない自分って」
苦笑しつつ、翡翠は呟いた。
「せっかく厨房を運営さんに言って使わせてもらったのに……いいの?」
「コンテストですか? 出ないですよ……見ての通り、上手い人ばかりですから、自分の趣味の段階の下手な料理は、出せませんねえ。それに、別に評価なんて意識しないで作った方が楽しいですから」
微笑みながらパートナーに対して答える。
「分かった。翡翠ちゃんも出場すれば、よかったのに……料理上手だと思うんだけど」
後半の方はほとんど聞こえないくらいの声で呟いた。
翡翠が作っていたのは、筍、ふき、うどなどの春の山菜とみょうがと焼きアナゴの混ぜた錦糸卵のちらし寿司だった。具材は異なるものの、ちらし寿司はコンテストに出ているものもある。こちらも、十分に通用する一品だろう。
「あれ、こちらにも料理がありますわね」
その翡翠の所へ二人ほどやってきた。メイヴ・セルリアン(めいう゛・せるりあん)とジェニファー・サックス(じぇにふぁー・さっくす)だ。
「宜しければどうぞ」
翡翠は取り皿に分け、料理を手渡す。
「……それでは頂きますわ」
少し緊張気味な面持ちで、メイヴは受け取る。続いてジェニファーも。メイヴはどうにも男性と接する事に慣れてないようだ。
「美味しいよ、メイヴ!」
「ですわね。他の料理もいくつか頂きましたが、これはかなりのものですわね……あれ、なぜあちらのテーブルには料理を出してないん……ですの?」
「自分はコンテストには出してないんですよ」
てっきりここで料理を出してる人は全員コンテスト参加者だと彼女は思い込んでいた。
「出ればいいのに、って言ったんだけどね」
花梨が声をかける。今度は女性だったので、名部の緊張は若干解ける。
「なんか勿体ないよ。こんなに美味しいのに。メイヴもこのくらい作れればね」
「ちょっと苦手なだけですわ。もう少し練習すればきっと……」
反論するものの、パートナーの表情から察するに、ちょっとどころではないらしい。特訓する機会でもなければ改善は難しい、とでも言いたげだ。
「自分ももっと精進したいですよ。あ、デザートもありますよ」
底にビスケットを引き、上に苺やべリーを乗せたレアチ−ズケ−キを差しだす翡翠。
「こっちも美味しいね」
ジェニファーが先に一口食べる。
「自分の料理を美味しく食べてもらえるのは嬉しいですね。せっかくなので他の人の料理も、少し頂いてみましょうか」
談笑しつつ、食材を取りにいきつつも翡翠らはコンテストの料理がどんなものか、少し食べてみることにした。
「みんな食べちゃうよ! 銀河の果てまでーー!!」
翔太は、コンテストのプレートにある料理をがっつりと食べていた。それはストックの分の食材を運営が頻繁に補充しなければいけなくなってしまう要因を作ってるかのようなものだった。
「翔太さん、出来ましたよ」
パートナーの小次郎が持ってきたのは、チョコレートファウンテンのようにも見える、チョコケーキだった。ケーキの部分は何段にも重なり、周囲は苺やラズベリーで彩られている。
「うわー、すごーい!」
翔太は目を見開いていた。
「改めまして、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、小次郎!」
翔太は大喜びだった。これが出るまでの間も多くの料理を堪能していたが、早速自分のパートナーが心を込めて作った料理を口に運ぶ。
「いただきまーす! うん、とっても美味しいよ」
大満足である。その翔太の様子を、微笑ましげに小次郎は眺めていた。
***
「何だ……これは?」
虚雲は戦慄していた。原因は、目の前にある物体だ。
「見た目はちょっと悪いけど、ちゃんと具材は用意されたもの使ってるから大丈夫だよ」
それは、調理者曰くビーフシチューらしい。色が青で、トリモチ状の物質になっている時点でもはや違う気がするのだが、どう突っ込んでいいのか虚雲ですら判断に困った。ただ、笑顔で食べてと、女の子に言われると断れない。
「じゃ、じゃあ一口……」
口に含んだ瞬間、目を見開いて無言になった。そのまま硬直してしまった。
「……はい、珠輝。あーん」
リアがそれをすくい、珠輝の口に運ぶ。なお、彼は虚雲の前に試食済みだ。
「珍しくデレてくださったと思ったら……!でもそんなリアさんも愛おしいです。愛……!」
意図を組みつつも、それを普通に食べる珠輝。
「ふふ、なんということでしょう!? 舌がしびれます。もうまるで胃がとろけそうな、ああ、むしろその感覚が心地よくもあります、ふふ、ふふふふ!」
顔には出さないが、珠輝の意識は半分別世界に入ってるようだった。
「あ、あれ? 何だろう、この空気。そうだ、少し冷めてたんだね」
と、今度はその物体を温める。「もったいない……」「たべて、たべて」と鍋から怨嗟の声が聞こえるのはおそらく気のせいだろう。
「改めて、召し上がれ」
が、空気は怪しい方向へ。
「ちょっとだけ失敗しちゃったかな……えーと」
「レミ!」
その時、ちょうど周が会場へ入って来た。
(くそ、一足遅かったか!?)
空気を感じ取る周。
「そう、あそこの周くんがこういう味付けにしろって言ったんです!」
責任転嫁をするレミ。
「待て、俺は今来たところで……」
「なぜ……出させたし……」
虚雲がふらふらとしながら声を漏らす。次第に付近の人は周を責めるようにじっと視線を送る。
「待て、話せば分かる!ってそれはまさか……俺はまだ死にたくねぇぇえええ!!」
そして彼の体内に謎の物体が流し込まれた。
***
「ちゅーかんはっぴょーう!」
コンテスト会場内に声が響き渡る。
「料理コンテストの投票締切まで、あと三十分。ってことで現時点の結果を見てみよーう!」
エミカが指をぱちんと鳴らすと、投票箱の上にスクリーンが下りてきて、そこにグラフが表示された。数字だけ見ると、
エントリーナンバー1.28票
2.37票
3.27票
4.−20票
5.32票
6.27票
7.45票
8.33票
9.40票
10.27票
11.50票
12.52票
13.32票
となっていた。
「現在トップはパン屋さんだよー!」
すると、万願の頭上が光術でキラキラと照らされる。注目を集めた彼は声を張り、さらに自分の店を宣伝する。
「まだ中間だから、この位でいいかな?」
魔法を使ってちょっとした演出をしていたのは五月葉 終夏(さつきば・おりが)だ。コンサート会場とは異なり、舞台装置がないために魔法で場を盛り上げようということだ。
(ここは任せて!)
(じゃ、本番はもっと派手にやっちゃって)
マイクを持って発表をしているエミカに目配せをする終夏。
「でもでも、まだ最後まで結果は分からないよ! 投票まだの人、ちゃんと一番美味しいと感じたものに投票してってねー」
エミカが去ると、その結果を受けて、それぞれの料理に人が集まり始めた。それぞれ興味を持ったという事だろう。
調理を大体済ませている人は、最後のアピールに入った。
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