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リアクション
第二章 ――開演に先立ちまして――
・コンサートホール
コンサート出演者が揃い、一日の流れについての説明がなされた。十三時から始まり、途中に大きな機材転換があるからということで、二回の休憩を挟むという。
出演順もこの時発表された。順番は次のようになった。
1.ミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)、アルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)、アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)
2.ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)
3.秋月 葵(あきづき・あおい)
4.ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
休憩1
5.赤城 長門(あかぎ・ながと)
6.ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)
7.リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)
8.皇祁家でゅお{皇祁璃宇(皇祁 黎(すめらぎ・れい))、皇祁 万太郎(すめらぎ・かつたろう)}
9.フェアリー・チアリング{ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)、サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)}
10.シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)
休憩2
11.OUTRUN{前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)、天 叢雲(あまの・むらくも)、五条 武(ごじょう・たける)、テッド・ヴォルテール(てっど・う゛ぉるてーる)
12.JAZZ BAND{レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)、ガルム アルハ(がるむ・あるは)}
13.IMM―イルミンマジカルミュージック―{ルイ・フリード(るい・ふりーど)、椎堂 紗月(しどう・さつき)、赤羽 美央(あかばね・みお)}
14.Fairy ring{島村 幸(しまむら・さち)、遠野 歌菜(とおの・かな)、椎名 真(しいな・まこと)、七枷 陣(ななかせ・じん)、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)}
そのあとは機材の使い方とか、それぞれの音量調整と軽いリハーサルが始まる。運営側もこの時に、本番での機材転換やステージ周りの動き方を確認した。
「なあ、出演順ってのは観客も分かるようになってるのか?」
巨漢の男、ジャジラッドがエミカに尋ねる。
「もちろん。受付のところに張り出すよ」
「オレが出る事は伏せて欲しいんだが……何、知り合いへのちょっとしたサプライズにしたいんでな」
エミカを威圧するかのように迫った。
「あー、それも面白いかもね。じゃ、ミスターXとでも書いておくよ」
彼女はあっさり承諾する。演出として、単に面白いとでも考えているようだった。
「あと、リハーサルはいらねえ。オレの美声は今聞かせるのも勿体ないからな」
同じ出演者にも手の内は見せたくない、ということだろう。
「最初は女の子が続くんですね」
ロザリンドがふと呟いた。おそらく偶然だろうが、ネージュからソロで歌うのは三人とも百合園女学院だったりもする。
「出番早いと緊張するなぁ~」
と、葵がステージの奥に見える客席を覗きながら言う。
「大丈夫ですよ、楽しみましょう」
まだ開始まで時間はあるが、序盤組はステージ裏で談話している。一番手であるミレーヌ達は、今からちょうど音出しのため、この場にはいなかった。
「パラミタに来て、もうこんな大舞台で歌えるなんて……よし頑張ろう!」
まだパラミタに来て日の浅いネージュは、強い想いを抱いてるようで、意気込んでいる。
「あれ、もしかしてここに来たのて、つい最近なの?」
葵が反応した。
「うん、学校は百合園なんだ」
「私達もですよ。よろくお願いしますね」
同じ学校という事もあり、三人の会話はそれからも弾んだのであった。
・パーティ会場
冷蔵庫や食材の搬入でせわしなくスタッフが動いていたが、説明開始の時間にはなんとか間に合っていた。
主催者であるエミカは十時きっかりに説明を始めた。
なお、説明の内容は「食材も器具も自由に使っていいから、好きな料理作ってちょうだい。ちなみに、厨房よりのテーブル十卓分がコンテスト用料理置き場だからー」というものだった。
それだけ言うと、彼女はすぐにコンサート会場に行ってしまった。ただ、彼女が行った後に、参加者にネームプレートのようなものが配られた。
「これに名前を書いて、料理のお皿の手前に置いてとのことですぅ。誰の料理か、お客さんが分かるようにって」
メイベルが出場者に対して丁寧に手渡していく。
現時点での出場者は、次のようになっていた。
1.曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)
2.マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)
3.佐々木 小次郎(ささき・こじろう)
4.レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)
5.レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)
6.本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)
7.ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
8.ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)、デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)
9.七瀬 歩(ななせ・あゆむ)
10.遠鳴 真希(とおなり・まき)、ケテル・マルクト(けてる・まるくと)
11.神代 明日香(かみしろ・あすか)
12.万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)
13.アクセル・ストークス(あくせる・すとーくす)
当初は十五組ほど見込んでいたらしく、厨房には空きがあった。この時スタッフとしていた涼がそれをエミカに伝えると、「開場した後、希望があったら使わせればいいんじゃないかなー? 料理コンテスト出たいんなら飛び入ればいいし、そうじゃなくても食材は余るほどあるんだから、好き勝手作っても大丈夫だって」と、特に気にはしてない様子だった。
「一時間もしないでお客さん来ちゃいますよ。早く作っちゃいましょう」
マティエの行動は早かった。すぐに目当ての食材を探しに冷蔵庫へと向かっていた。
「せっかく別々にエントリーしたんだから、りゅーきも、ちゃんと何か作ってくださいね!」
「うん、まぁ一応作るよ」
瑠樹も急かされ、冷蔵庫の中身へと手を伸ばした。パートナーとは気が合うのか、二人は同時にウインナーを手に取った。
それ以外にも、各々必要な食材を手にし持ち場に戻ると、マティエの方は早速仕込みに入った。
キャベツはざく切りにし、にんじんとピーマンは細切り、ウィンナーは斜め切りにして、にしている。切ったものはボウルに入れた。
次に、卵をよく溶いておく。調理時間はそれほどかからないようで、出来たてを食べてもらうために時間を調整してもいるようだ。
「えーっと、ご飯はないのかねぇ」
対する瑠樹はご飯を探していた。だが、複数ある業務用炊飯器は、まだいずれも炊飯中になっていた。炊き上がるのは開場十分前と、ギリギリの時間だった。
「それじゃ、始めるぜ、ナナ」
「はい、レイディス様」
レイディスとナナの二人も行動に移った。
「みんな優勝目指してすごいやる気だけど、俺達は俺達だ。焦らず確実にやろうぜ。作るのは、定番料理、日本人のお袋の味、肉じゃがだ」
二人は必要な食材を手に入れると、仕込みに取りかかった。
「肝心なのは出汁だ。鰹や昆布を入れて、しっかりと取る」
「鰹と昆布……」
そのまま鍋に水を張り、それらを入れようとするナナ。
「おっと、昆布はしばらく浸しておかないといい出汁は出ないぜ」
ただし、上等な一番出汁を取るためには一時間程度つけておく必要がある。その間に他の作業に当たることにした。
「よし、今のうちに材料だ」
野菜はちゃんと皮を剥いた上で、牛肉、玉ねぎ、人参、じゃがいもを切っていく。レイディスがナナに教えているわけだが、包丁捌きはナナも手慣れているようである。出汁から教わったあたり、おそらく味付けが苦手なのだろう。
「ミレイユ、デューイはパイ生地の方をお願します。レシピはこれです」
シェイドはミレイユ、デューイにレシピを手渡した。
「こ、今度は変なもの入れたり、ごちゃまぜにしないようにするからっ」
と、ミレイユは彼に言った。彼女とデューイは以前、シェイドの料理を台無しにしてしまった事があるらしく、それを気にしているようだ。
「頼みますよ」
一言だけ彼は告げ、仕込みに取りかかった。
「ミレイユ、生地の材料をそこのボウルで混ぜてくれ」
調理用の薄手袋とエプロンを身に付け、準備は万端である。
バターは冷蔵庫で冷やされたものがあったため、それを細かくしてボウルに入れる。溶けてしまうと、小麦粉がだまになってしまうので手早く作業をする。
生地がそぼろ上になったら、冷水を入れ、大きくかき混ぜる。その後のこねる作業はデューイにバトンタッチ、うまく分担して生地を作っていく。
一方のシェイドは春キャベツ、菜の花、ソラマメ、グリーンアスパラを一口大に切り、下ゆでをしていた。その間にベーコンを千切りにし、ゆで終わった野菜と混ぜる。
次に、牛乳、生クリーム、卵黄、塩、ナツメグ、白コショウをボールに入れて混ぜ合わせてアパレイユを作る。彼らが作るのはどうやら春野菜をふんだんに使ったキッシュのようだ。
その様子は真剣そのもので、誰も寄せ付けないほどの雰囲気を醸し出していた。
(デューイ……なんか怖いよ)
ぼそりとミレイユが呟く。それほどまでに、彼は意気込んでいるということだろう。
「作るんなら、みんなでわいわい楽しく食べられるものがいいよね」
真希とケテルの二人が作っているのは何かの生地だ。打ち粉をしながらそれを伸ばしている様子から、餃子の皮のようである。
皮が出来あがると、今度は具材を包む作業に入る。多めのねぎ、おもち、チーズ、えび、うずらの卵などバリエーションは豊かだ。揚げてしまえば中身は分からないので、さしずめ「おみくじ餃子」と言ったところだろう。
「じゃあ、あたしはどんどん揚げてくから、テルちゃんは具をいろいろ包んでくれる?」
「はい、大丈夫ですよぉ」
真希が餃子を揚げていく。油からは目が離せないため、パートナーがちゃんと具材を包んでいるかは確認出来ない。
それをいいことに、ケテルは納豆、キムチ、ハバネロ、油引き用の肉の脂身、大粒のいちご、プチトマト、テロルチョコなどなど、罰ゲームとしか思えないようなものを包んでいく。無論、真希は知る由もない。
「ん、これ、今動いたような……」
揚げながらふと違和感を覚えた一つを開く真希。
「ゆったん!?」
包まれていたのはゆったん――ゆるスターであった。危うく油の中にダイブさせてしまうところだった。
「他に変なもの入れて……ないよね?」
「まさかー、あとのはちゃんと包んでますよぉ。ほらー」
一つの餃子を手に取り、中身を見せて確認を取る。ちゃんと、まともなものだ。
それでも、言い知れぬ不安を感じずにはいられない真希であった。
個人参加の人達も、それぞれ腕の見せ所だと、気合を入れて調理をしているように見受けられた。
涼介はたまねぎ、ピーマン、人参を細かく切り、ひき肉と合わせて炒めていた。それから水を加えてひと煮立ちさせている。調理場にはスパイス類が置かれている事から、ドライカレー、あるいはキーマカレーを作っているようである。
ミルディアはパン類、ご飯類、パスタ類と一人でバリエーションに富んだ料理を作ろうとしていた。薄力粉、強力粉、卵、オリーブオイルを混ぜ合わせ、パスタの生地を作る。その間に今度は食パンの生地を作り、発酵させる。
これらは開場後すぐに出せないため、この空いてる時間のうちにパスタ用のクリームソースの仕込みも済ませておく。その上で、生米を調理場に持ってきて次の作業に移った。どうやらリゾットを作るらしい。
歩は、玉ねぎをみじん切りにして、炒めていた。じっくり弱火で炒めることで甘みを引き出している。加えて、小さく切ったピーマンやすった人参も炒めて、塩コショウで少々の下味をつけておく。
それが終わると、合挽き肉と卵、パン粉をボウルに入れ、さらに炒めた野菜を混ぜ合わせてタネを作る――ハンバーグだ。
あとは焼くだけなので、先にソース作りに着手する。一からデミグラスソースを作るという手もあるが、それだと丸一日かかってしまうため、厨房スペースにあった缶のものと赤ワイン、ケチャップを合わせておく。あとは焼いた時に出る肉汁と合わせることで完成だ。
パン屋【猫華】を経営している万願は、やはり自慢のパン、それもメロンパンで勝負するようだ。パン生地を練り、寝かせている間に生クリーム、バニラクリーム、メロンジャムも作っている。生地やクリームの分量は相当なものだった。しかも、コンテスト用と宣伝用(普通に出す分)でちゃんと分けている。しばらくして生地が出来あがると、それを形にして業務用の巨大オーブンで焼き上げた。
また、他にはケーキ類を作ってる人もいる。
小次郎はスポンジケーキを作っていた。他に用意している材料は、チョコレート、ブランデー、苺、ラズベリー。
スポンジを焼いてる間に生クリームの中にチョコレートを溶かし、エッセンス程度にブランデーを加える。それを泡立ててチョコクリームにしておく。
明日香もまた、ケーキを作るようだった。こちらは天板に、グラニュー糖を通常の倍ほど入れて作った生地を流しこんでいた。ホールケーキではないようである。
オーブンで焼き上がったスポンジを底紙の上に乗せ、その上側に浅い切れ目を入れ、ガムシロップを塗りたくる。それからコンデンスミルクを網目状にし、その上から生クリームを塗っていく。その上に、四分の一の大きさにカットした苺を並べ、底紙ごと丸めた。彼女が作るのはロールケーキのようだ。
崩れてしまわないように厚紙で補強し、出場者用の冷蔵庫で冷やす。出来あがるまでに一時間ほど必要なため、その間に次の分の仕込みを始める。
多くの参加者が腕によりをかけて調理している中、ある一角は異なる様相を呈していた。
レミである。彼女は大振りの鍋で何かを煮込んでいるようだが、既にその臭いは異臭と呼べるほどだった。他の参加者が何も言わないのは、単に自分が調理するのに必死だからである。
どうすればそうなるのかはおそらく誰にも分からないだろうが、中身もまた悲惨な状態だった。なぜか野菜と肉が一体化している。このまま作り続けると、一体どのような物体になるというのだろうか。
そしてただ一人、いざ他の者が調理に取りかかっているというのに、何もせず佇んでいる者がいた。アクセルだ。
(趣味で始めた料理の実力を知るのも悪くないってことで料理コンテストに申し込んでみたが……何で今日来れなくなんだよ!)
もともとはパートナーと出るつもりだったらしいのだが、来れなくなってしまったらしい。
(参った。包丁も使えねーんじゃ料理なんて出来ないぜ)
彼は尖端恐怖症であった。そのため、調理器具の類が扱えなかったのだ。
(どうする、俺?)
既に時刻は十一時――開場時間を回ろうとしていた。
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