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リアクション
SCENE 13
ベースキャンプからの情報を元に、ようやく清泉 北都(いずみ・ほくと)と白銀 昶(しろがね・あきら)は神殿に到達した。
「アーデルハイト様の記憶を頼りに探したら……随分かかってしまったねぇ」
北都は苦笑する。そもそもこの神殿、アーデルハイトの記憶とは、まるで別の方角に立っていたのである。
「な? だからアーデルハイトの記憶なんてアテになんないんだよ。まー、アーデルハイトらしいといえばらしいわけだが」
アーデルハイト自身が『あやふやな記憶ゆえアテにするな』と言っていた通りの展開となったわけだ。なので別に、昶も腹を立てているわけではない。
恐らく、これまで発見された中で最大規模の神殿ではないか。巧妙に生えた大樹に覆われ隠されていた一帯が、すべてこのピラミッドであると知ったときの驚きは大きかった。偉容と表現するに足る規模である。
同道のフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が述べる。
「アーデルハイト様のご指示のおかげで確かに時間はかかったかもしれませんが、ここまでの道中、ほとんど敵に遭遇せず来ることができたのは幸運でした。……もしかしたらこれこそが、アーデルハイト様のお導きだったのかもしれませんわね」
「まっさかー」
セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、一笑に付そうとするも、いや待てよ、と顎に手を当てて考え込む。
「そういえばあの人って、妙に幸運だったりするところもあるから……ひょっとすると……」
事実、一行はその全員が、アイアンゴーレムはもちろん、襲いかかってくるような植物とも一度も戦闘にならなかった。せいぜい、気配を感じたので迂回路を取った程度である。
「まあ、そんなことは戻ってから考えようよ。メイベル、全員揃ってる?」
「ええ、大丈夫のようですぅ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が穏やかに頷いた。
「仮にこの遺跡が『緑の心臓』だとすれば、他の探検隊が遭遇した以上の困難が待ち受けているはず……そうでなくてもこの大きさです。はぐれたりしないよう、気を引き締めて参りましょう」
育ちの良さか生来の才能か、メイベルが口を開くと、困難が予想されようと清涼なそよ風が吹いているような雰囲気がひろがる。
「どうやらここからが本番のようだな。改めて、よろしく頼む」
神崎 優(かんざき・ゆう)が手を差し出すと、メイベルはそれをしっかりと握った。
「よろしくお願いしますぅ」
まぶしい――二人の握手にシャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)は思わず眼を細めた。
メイベルと優、そこにいるだけで調和を生み出すメイベルと、高いカリスマ性で仲間を統率する優はタイプが異なるが、いずれも英雄の資質があるとシャーロットは思う。メイベルの連れはフィリッパにセシリア、それにシャーロットの三人、一方で雄の連れは神代 聖夜(かみしろ・せいや)、水無月 零(みなずき・れい)と陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)の三人だ。いずれも、マスターのためであれば迷わず命を差し出すであろうし、逆にメイベルも優も、彼らのためならば一命を賭すことをためらうまい。メイベルらは東シャンバラの所属、一方で優たちは西シャンバラ……東西は今のところ対立関係にはないが、火種がまったくないとは言えないのが現状だ。今日この日のように、東西を越えた共同作戦のできる日が、いつまでも続くことをシャーロットは心中ひそかに願った。
入口そばに身を伏せた昶が、鼻を寄せ、狼の耳をしきりと揺らしている。
「静かに流る〜、りゅうみゃくは〜……か」
無意識のうちに昶は、あるメロディを口ずさんでいた。北都は不思議そうな顔をして、
「それ、何の歌?」
「あ、いや、ジャタの森に伝わる昔の伝承歌だぜ。なんでこんな歌思い出したのかな……もしかしたらこれ、『緑の心臓』について歌っていたのかも?」
「龍脈、かぁ……関係あるかもしれないね」
だが今は、その意味を考えている暇はなさそうだ。昶は改めて正面を見据えた。
「……鉄臭いな……どうも、嫌な匂いがするぜ」
北都も超感覚を発動して同様の体となり、神殿奥の闇に目を凝らす。彼は一同に向かって告げた。
「あきらかに違和感があるね。中にはアイアンゴーレムがいると思うよ。それも、たくさん」
「やはり事件の背後には塵殺寺院があったと見て良さそうですね」
刹那は、皆の考えを代表するかのよう口を開いた。
「塵殺寺院の行動は世界のバランスを崩し、カタストロフを招こうとするものです。食い止めなければ」
「同感。古代遺跡も自然の森も、めっちゃくちゃにして平気な塵殺寺院って、テロリストであることを除外しても許せないな、私は」
零はそう言って、恋人の優に目を向ける。
「じゃあ、そろそろ作戦開始かな?」
「そうしよう」
優は腰の刀を揺らし先頭に立った。
「思ったより道は広い。道中確認した通り、慣れたグループ編成のまま進むとしよう。先行は我々に務めさせてほしい。あなたがたには」
とメイベルに向き直って、
「後方をお願いする」
「つつしんでお受けしますぅ」
メイベルは一礼した。
銃型HGの具合をチェックしつつ、北都が片手を上げる。
「つまり僕らが中央、ってことだよねぇ。任せてよ」
必然的に緊張した空気が流れはじめた。
優、彼に寄り添うようにして零、さらに刹那と聖夜が神殿に進入した。
「おっと、いきなり段差があるな。後の人、注意してくれよ」
聖夜の声が聞こえてくる。
「ちょっと緊張してきたよ。やっぱ、シルミット姉妹は連れてこなくて正解だったかも……」
セシリアは、まずは身体の緊張をとるべくしきりと柔軟体操し、北都と昶を見送った。
「過剰にならない緊張感は必要かもしれません」
フィリッパが言う。
「殺気看破は、アイアンゴーレムを操る人間はともかく、生命体と言えないそれらには通用しないのでその点を気をつけないとなりませんし……」
「ちょっとちょっと、そんなこと言われると過剰に緊張しちゃうじゃない!」
「みんないますから、怖がらないで大丈夫ですよぅ」
お互いに助け合って切り抜けましょうね、とメイベルは笑みを見せた。
かくて最後尾、メイベルグループも神殿の入口をくぐったのである。
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