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激闘、紳撰組!

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激闘、紳撰組!

リアクション

 その頃、喧噪の渦中にある逢海屋には、十二単を纏った緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)の姿があった。十四歳前後の中性的な肢体の遙遠は、ハルカと渾名される事が多い。ハルカはその時、スキルのちぎのたくらみ使用して幼児化した上に女装していたのである。元々は接客業の関係で『接客するなら可愛くないと』とパートナーに言われた事がきっかけで、この姿をとるようになったのだった。
 遙遠の目的は、暗殺にまつわる事件に関する両陣営の情報を独自に調査する事だったが、知り合いも多い為、今回は『ハルカ』の姿で通す事にしたのである。身元が割れては困るのだ。
 既に日は落ち、夜が訪れている。
 そんな中、可愛すぎる彼は、女装に加えて天狗の面で顔を隠していた。
 加えて武装したベルフラマントで気配を消しつつ行動している。
 ショートの黒い髪は兎も角、その愛らしい青い瞳は面の奥だ。


 遙遠がそのようにして情報収集をしていると、その逢海屋へ草薙 武尊(くさなぎ・たける)が丁度やってきた。
 ――近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の様々な負担を減らす為に事件の真相を暴き、解決をはかろう。
 そう考えていた武尊は、遙遠とすれ違いながら廊下を進んでいく。目指すのは、梅谷才太郎の暗殺現場だ。
 ――このままでは近藤 勇理(こんどう・ゆうり)への疑いで彼女自身や紳撰組も不都合が多くなろう。そもそも梅谷は本当にくたばったのか?
 ――装身具で判別してる程度なのであろう?
 ――あの御仁にしてはあっさりしすぎておるな。もしかすると、偽物では?
「ここは吾が事件の真相を暴き、此度の事態の収拾を図るとしよう。ローグには良い役回りだな」
 思案の末そう呟いた彼の声は、闇の中の逢海屋の廊下の奥へと、静かに消えていった。


 その数分後。
 逢海屋には、新たな来訪者があった。
 ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)、そして山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)である。
「死亡したのは近江屋ならぬ逢海屋とのこと」
 ユーナが呟く。
 ――先日お会いしたばかりの才谷梅太郎氏……もとい、梅谷才太郎氏が死んだと聞きました。死亡したのは近江屋ならぬ逢海屋とのこと。英霊となった彼はまた奇しくも地球人として生きていた時代に死んだ場所と同じ発音をする場所でまた死ぬという。言霊の呪縛からは逃れられなかったというべきなのでしょうか。
 梅谷が、才谷梅太郎即ち坂本龍馬だと考えている彼女は、内心そんな風に考えていた。
「前世、即ち、史実においては彼の死には各勢力にそれぞれ思惑の元に手を下した説がとなえられているけど、今回の場合、どの勢力が殺したというべきなのかな」
 ユーナ同様その死に疑念を抱いているシンシアは、歩きながら腕を組んだ。
「自分も不審に思いますが、こちらが調べていることに関しては気づかれると、妨害されることもありえます。調査の段階で扶桑見廻組や紳撰組にも気をつけないと」
 朝右衛門がそう言うと、ユーナが大きく頷いた。


 丁度その時逢海屋へ、新たな来訪者があった。
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)、そして中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)である。
「正直、事件に関与せず外から観て楽しもうかと思っていましたが、お兄様がどうしてもと言うので……そうですね、体の方はお兄様にお任せして、私はその出来事を傍観させて頂きますわ」
 曖昧な意識の状態で、綾瀬がそう口にした。
 するとドレスが、身体を風にはためかせる。彼女は綾瀬に纏われている状態だ。
「梅谷才太郎、マホロバの改革を唱えていた人物で一目置かれていた……死体の首は切り取り・持ち去られ、白い革の腕輪で身元判明、かぁ……でもこれって、実際の所本人かどうかわからないよねぇ?」
 綾瀬に憑依している状態の飛鳥は、思案するように周囲を見渡した。彼は綾瀬の意識を完全に奪う事はせず、いつでも意識を入れ替われる様に半々の状態に保っている。
 このようにして、逢海屋にも続々と人々は集まっていった。


 その頃、逢海屋の正面では、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)鯉之堀灰路が不逞浪士を庇って紳撰組隊士と剣を交えていた。さざれ石の短刀で相手をあっさりと追い払った光一郎は、浅黒い肌の中で笑む唇を撫でながら、灰路へと振り返る。
 逃がせた事、及び追い払えた事に安堵しながら、光一郎は、パートナーの町医者を一瞥した。灰路は、主に逃走の補助をしていた。荒事は光一郎の隠れ身やブラインドナイブスを頼りにしている。
「国を憂う壮士があたら命を散らすのを防ぐべく。人呼んでくら……」
 その声に、光一郎が首を傾げる。
「グラバー邸だっけ?」
「メイソンの一員にして竜馬暗殺の黒幕と異聞のある、幕末に活躍した武器商……違う! 鳩摩羅天狗である」
 彼らのそんな姿を見ている、黒装束の者が一人いた。朱辺虎衆は四天王の一人、玄武である。
「主ら――……誠に攘夷を助けるならば、我らと共に在らんか」
 その声に、言葉をかけられた光一郎達は、顔を見合わせたのだった。


 丁度時同じくして逢海屋の暖簾をくぐったところでは、一人の女性と八神 誠一(やがみ・せいいち)が対面していた。彼女は、先の寺崎屋事件の折、浪士達に紳撰組の討ち入りを知らせてくれた女性で、詩歌と言う。
「先日は有難うねぇ」
 誠一の礼に、詩歌は頬を赤らめたのだった。後ろ髪が僅かばかりに乱れている。


 その様子を二階の部屋から、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)が見おろしていた。
「俺が辻斬りしてる間にまた面白い事になってるじゃねえかよ。攘夷とかそういうのには興味なんざ無ぇが、紳撰組には借りを返すためにも一つ乗らせてもらおうか」
 朱辺虎衆の一人と不逞浪士と呼ばれる暁津藩の脱藩浪士と宴の杯を交わし合いながら、竜造が唇を舐める。その傍らで、アユナは穏和そうで儚げな瞳を揺らしていた。
「攘夷運動とか、そういう事情はわかりませんが、私の探してる子がいるかもしれないので、ものすごく怖いけどついていこうと、思います……」
彼女は、『トモちゃん』という人を探しているのである。


 そこには、テルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)と装備された魔鎧のディアー ツバキ(でぃあー・つばき)もいる。ディアーは魔鎧だ。
 尤も彼らは、教導団の生徒が表立って協力するのもまずいと考えていた。その為、テルミはディアーで武装し素性を隠しているのである。
 彼らの本当の目的は、朱辺虎衆について探る事である。その為、話を聴きながらテルミは、もう一人のパートナーである、九頭 屍(くがしら・かばね)の事を思い出していた。

 ――あ、九頭さんは結構ですよ。学校いってませんし。

 そう告げ、屍を置いてきたのはテルミ本人である。


 その隣の部屋では、朱辺虎衆四天王の一人、白虎が焼酎を煽っていた。
 対峙しているのは、三道 六黒(みどう・むくろ)戦ヶ原 無弦(いくさがはら・むげん)、そして両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)である。
「マホロバを真に想う者。その言に偽りなくば力を貸そう」
 六黒のしゃがれた声音に、白虎が杯を煽った。
「未だ信用できぬ。青龍が命をとして庇った者とはいえ」
「信用などいらぬ。畏怖と崇拝があれば良い」
 言い切った六黒は、考えていた。
 ――わしの代わりに散った青竜。姿隠す為に死を偽る者。その想いと悪名、全てわしが貰うてやる。
 不逞浪士を通じ、前回からの寺崎屋での繋がりで不逞浪士と通じていた六黒は、青竜から遺志を託されたとして朱辺虎衆の白虎と対面を果たしたのである。
「わしが黒龍となり、朱辺虎衆を守ろう」
 そう告げ不逞浪士達を守る事を、六黒は宣言したのだった。
 彼は、朱辺虎衆の者からの信頼と畏怖、そして崇拝を受けるべく力と意志をみせつけようと試みていたのだった。
 ――不逞浪士と呼ばれる者達を守り、彼らが真に彼らの言葉で語れるよう、その道を切り拓こう。
 そう考えた彼は続ける。
「わしはここにおる。貴様らの信念をぶつけにくるが良い!」
 ――あとは互いの信念を力にのせ証明するのみ。
 そんな事を考えながら彼には、虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)が取り憑いている。だが波旬は表には出てこない。
 六黒の声に、無弦と悪路が顔を見合わせる。
 実は彼の信念を果たす為に、彼らは近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の刀の鞘を奪う予定で居たのだったが――……それは叶わなかった。

「誰が剣の鞘を置いたのでしょうか?」

 二人の視線を確認しながら、久我内 椋(くがうち・りょう)がそう呟いた。
 計画では、無弦と悪路が、紳撰組局長の近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の刀の鞘を奪う予定だったのだが――……事は昨晩へと遡る。


「……鍬次郎はあのお姉ちゃん達に対して、思う事があるみたいなの……。でも……ハツネは……あのお姉ちゃん達……お仕事邪魔したから嫌いなの。……でも、別のお仕事で褒められたから……今はちょっと機嫌がいいの♪」
 場所は逢海屋、梅谷才太郎達がいた居室での出来事である。
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が、既に息絶えた遺体を見おろしながら笑っていた。
 その傍らでは、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が呟いた。
「……チッ、楠の野郎……殺し損ねたが……土方さんに言われちゃあしょうがねぇ。近藤の嬢ちゃんには恨みはねぇしな。……まあ、必要とあれば斬るが。殺すのはまた今度だ……が、餌だけは撒いておこう。奴の本性を垣間見る為の……な」
 彼は先日、土方 歳三(ひじかた・としぞう)に、『甘えかも知れねえが一遍死んでるんだ、巻き添え出してまで今直ぐする事は無いだろうさ』と諭されて楠都子の暗殺を止められたのである。
「それによっちゃあ、逢海屋のゴタゴタに紛れて――殺す……葛葉を使ってな」


 そうして手を下した二人は、さる遺体を用意した椋とモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)と共に逢海屋で夜を過ごしたのである。
 遺体の用意をしたのは久我屋である。


 更に数刻前の事だ。
「何だ椋、俺に用があるだと?」
 その声に頷いた椋は、マホロバの事を強く想いながら、酷な依頼をパートナーにしたのである。椋は心底マホロバのことを考えており、これが、この扶桑の都をより良いものにすると信じていた。
「ふん、死体の偽装か……相も変わらずたいした事を思いつくなぁ? 構わん、その男の背格好に近い奴を連れてそいつに見せかけて殺すだけなら問題ない。俺も身体を動かしたい所だった」
 快く引き受けて見せたモードレットの手により、一つの遺体が逢海屋へと運び込まれたのはその日の夜だった。


 事務的に言うならば、その亡骸を加工したのがハツネ達である。
 計画では悪路達がそこへ近藤から奪取した鞘を置くはずだったのであるが、それは叶わなかった。ちぎのたくらみを駆使して近寄ったにもかかわらず、彼らが訪れたときにはすでに近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の部屋に鞘は無かったのである。
 しかし翌朝――見つかった梅谷才太郎の遺体の傍には、確かに鞘が落ちていたのである。

「……正直、あの外道が楠都子に……執着する理由なぞ、どうでもいい。だが……お嬢を不機嫌にさせた……報いは受けてもらう……パートナー共々……」

 東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)のその声で、一同は我に返った。天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)もまた、頷いている。葛葉は、赤い瞳で思案に耽っていた。
 ――本当は人殺しなんてやめてほしいけど……でも……
 そんな胸中の彼は、現在、鍬次郎の命令で逢海屋の手伝いとして働きながら悪人商会との連絡係に徹しているのである。
 このようにして逢海屋にたむろする人々の夜もまた、更けていったのであった。


 その頃、『扶桑』の樹の傍では。
「俺の力が必要なのか? しかたねぇなあとでしっかり礼は身体で支払ってもらうからな、覚悟しとけよ?」
 蝕装帯 バイアセート(しょくそうたい・ばいあせーと)が、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)に対して笑いかけていた。