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リアクション
*
「――準備は整った。古代カナンに存在したという神官の儀。その最後の仕上げに移るとしよう」
ウォルター教授はそういうと、台座に置かれた書物を静かに閉じた。
「エンヘドゥくん、アンクの前へ」
「……」
その声を聞いたエンヘドゥは踊りを止めて、祭儀場の中央に立つアンクの形をした十字架の前へと進んでいく。
「悪く思わんでくれよ、エンヘドゥくん」
教授はそういうと、そのアンクにエンヘドゥの体を押し付け、両手両脚を拘束した。
まるで磔刑にされた聖人のような姿となったエンヘドゥ。
そんな彼女の目の前で、教授は護身用に持っていたナイフを取り出し、それを振り上げる。
「我はヘカァの力を持って、死せる王を現世に戻さんとする者なり。我はここに、王の血を捧げる!」
教授の重い宣言と共に稲妻が閃き、エンヘドゥの体にナイフが突き刺さる。
「……あっ!?」
その激痛に虚ろだったエンヘドゥの目に光が宿った。
だが、ナイフの突き刺さった彼女の体からは、じわりと赤い血が滲む。
「どうして……!」
「――地球の愚か者どもにパラミタの危険をわからせるには、千年王のようなインパクトのある存在が必要なのだよ。千年王が地球の街で暴れまわればどうなるか……優秀な君なら、わかるだろ?」
教授はそういうと、エンヘドゥに突き刺さっていたナイフを勢いよく引き抜いた。
すると傷口から鮮血が溢れ出る。
「うぅっ……!」
エンヘドゥは傷口から鮮血は止まらない。
刺されたことのショックと失われていく体の力。
エンヘドゥは、ついに気を失ってがくりと頭を垂れた。
そんな彼女の身体から溢れる赤い血が、床に描かれた魔術式にポタポタと流れ落ち、その色を赤く染めていく。
そして、流れ出た鮮血が魔術式を描くために彫られた溝を埋めていくたびに、妖しい輝きが発生する。
それをみた教授がニヤリと笑った。
「王を贄とし王の眠りを覚ます禁忌の儀式――その結果が出るのはもうすぐだ」
「エンヘドゥ!!」
一歩遅れてこのフロアに辿りついた契約者たちは、血を流したエンヘドゥの姿を目にして思わず叫んだ。
そして契約者たちはウォルター教授を睨みつける。
「ウォルター・ヘンリー教授……彼女に何をした!」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が声を荒げていった。
「その質問は愚問だな。見てわからないかね? それでは単位はあげられんぞ?」
「――真司。あたし、あの人キライ」
と、魔鎧として真司に纏われているリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)がいった。
その言葉に真司はうなずいて答える。
「俺も同じだ。あいつを捕まえる。そして、自分の犯した罪を償わせるんだ」
「了解しました、マスター。私が援護します」
「わらわも援護するぞ」
アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)とアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)はそういうと、それぞれ援護の態勢に入る。
そして一斉に教授の元に向かって走り出した。
他の契約者たちもそれに続くように動き出す。
「おおっと、そう簡単にはいかないゼッ!」
と、契約者たちの前に従者を引き連れた大石鍬次郎が立ち塞がる。
その顔をみた真司が足を止めた。
「おまえは確か……怪物事件の時にも!」
「俺のことを知ってんのか? 嬉しいねェ」
「また邪魔をする気か、そこをどけッ!」
「残念だが、これも仕事なんでねェ――そうはいかねぇんだよォッ!!」
大石鍬次郎はそう叫ぶと、地面を蹴って真司との間合いを詰めた。
そして、腰にぶら下げていた大和守安定に手をかけて、素早く鞘から抜き放つ。
「くっ!?」
閃刃が真司の目の前を走る。
歴戦の戦いの中で不意な相手の攻撃にも反応できるようになっていた真司は、相手の攻撃をギリギリのところで避けることができた。
「俺の太刀を避けるたぁ、やるじゃねぇか。なかなか斬りがいがありそ――ムッ!?」
と、鍬次郎の元にアームマシンガンの弾丸とクレイモアミサイルが飛来した。
その殺気を看破した鍬次郎は、地面を蹴って後ろに跳び退った。
「マスターはやらせません」
「アニマか、助かった」
「いえ、当然のことです」
アニマはそういうと、粉塵の向こうで笑う鍬次郎とその従者たちに向き直る。
「マスター、どうしますか?」
「あいつたちの相手は俺たちが引き受けよう――他のみんなは教授やエンヘドゥのことを頼む!」
真司はそういうと、ナイフ型機晶スタンガンを手にした。
そして、試作型ロケットシューズ『シュトゥルムヴィント』を噴かすと、神速の速さで鍬次郎に向かっていく。
そんな真司の後ろ姿に視線を向けていた杜守 三月(ともり・みつき)は、隣にいた契約者杜守 柚(ともり・ゆず)に顔を向けるといった。
「――ここはあの人にまかせて、僕らはエンヘドゥさんを助けよう!」
「うん」
ふたりはそういいあうと、倒れているエンヘドゥの元に向かって走り出す。
「クスクス、そうはさせないの」
と、ふたりの背後から光学迷彩で隠れていた斉藤ハツネが突然現れ、手にしたレーザーマインゴーシュを振り上げる。
「――柚!」
その殺気に気づいた三月は声をあげ、とっさに柚を突き飛ばす。
そして振り下ろされたレーザーマインゴージュの攻撃は、柚の身代わりとなった彼の右腕を切り裂いた。
「三月ちゃん!?」
それを見た柚はすぐに三月の元に駆け寄った。
「だっ、大丈夫だよ」
「でも……!」
心配する柚に笑顔を向け、三月は彼女を守るように前に立つ。
そして、左手で征服英霊のサーベルを抜き放った。
「危ないから、柚は下がってて」
「怪我をしてるからって、ハツネは手加減はしないの」
クスクスと笑いながら、斎藤ハツネは腰につけていた鞭の暗器・黒銀火憐を手にとった。
そして巧みな手さばきで鞭を操り、三月の体へと巻きつけて、彼の動きを封じ込めた。
「くそっ!?」
「今度は逃がさな……えっ!?」
と、ハツネの目の前に、突如としてシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が現れる。
仲間のピンチにアクセルギアを使用して現れた彼女は、その超人的な肉体から目にも止まらぬスピードの右ストレートを繰り出した。
顔面にクリーンヒットしたその強烈な打撃に、ハツネは後ろへと吹き飛んでいく。
「あなたたち、大丈夫!?」
と、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が拘束の解かれた三月の元へ駆け寄ってきた。
三月はそんなリカインにうなずいて答えた。
そんな三月の後ろにいた柚が、彼の傷ついた右腕に自分の手を押し当てる。
「三月ちゃん、いま治してあげる!」
そしてそういうと、柚は歴戦の回復術で三月の傷を治していく。
「ありがとう、柚」
「そんな三月ちゃん、お礼をいうのはこっちの方です」
「あなた、傷が癒せるのね」
柚の力を見たリカインがいった。
「はい、応急的なものですけど治せます」
「わかったわ。それならあなたは早くエンヘドゥ君の元へ行ってあげて、ここは私たちがなんとかするわ」
リカインはそういうと、ゆっくり起き上がったハツネへと鋭い視線を向けた。
「さあ、行って!」
「はっ、はい!」
柚はそういうと、三月と共に倒れているエンヘドゥの元へ向かって駆け出していく。
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