葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【WF】千年王の慟哭・前編

リアクション公開中!

【WF】千年王の慟哭・前編

リアクション

 一方、別の場所でWF側に味方する天神山葛葉の妨害にあっていた御凪真人は苦戦していた。

「くっ、この相手は手強いですね」
「真人ッ!」

 と、彼のパートナーであるセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が声をあげた。
 ふたりは視線を合わせると、アイコンタクトでその心のうちを読み取り、阿吽の呼吸でコンビーネーション攻撃を仕掛ける。

「サンダーブラスト!」

 真人が広範囲魔法を敵に放った。
 葛葉とその従者である下忍はその魔法を避けるために散開する。
 と、敵のボスを標的に駆け出していたセルファは、バーストダッシュを使って一気に葛葉を狙える間合いへと詰め寄った。

「もらったわよ!」

 セルファは手にしていた黎明槍デイブレイクを前へと突き出す。
 強烈なランスバレストが葛葉を貫いたかと思ったが、その姿が霞のように消え去った。

「残念でした」

 疾風迅雷の動きを会得しているマスターニンジャの葛葉は、その素早い動きと分身の術でセルファの攻撃を回避。
 彼女の死角になっている闇から、ぬっとその姿を現した。
 だが、そんな葛葉の元に、どこからか現れた毒虫の群れが襲い掛かってくる。

「なっ、なんですか!?」

 葛葉は顔を歪め、纏わりついてくる虫の群れは払う。
 と、今度はそこへインフィニティ印のついた信号弾が飛んできた。

「うわっ!!」

 強力な光源となった信号弾は周囲を真昼のように明るくし、至近距離でそれを見た葛葉の目を潰す。
 と、信号弾の強烈な光によって光学迷彩が機能しなくなり、毒虫や信号弾を投げ込んだ主――国頭 武尊(くにがみ・たける)がその姿を現した。

「いまだ、やっちまえッ!」

 武尊はそういいながら、手にした血煙爪雷降の照準を葛葉に合わせる。
 そして、召喚獣の呪文を唱えていた真人は、フェニックスを呼び寄せた。

「これで終わりです!」
「うおおおっ!」

 真人と武尊は葛葉に攻撃を仕掛ける。
 目をやられて悶えていた葛葉にそれを避けることは出来ず、銃弾と炎の中に消えた。

「真人、やったわね!」

 セルファが真人の元に駆け戻りながらそういった。
 真人はそれに笑顔で答える。
 と、真人は武尊を振り返った。

「ありがとう、助かりました」
「なに、気にするな。それよりも、俺たちのやるべきことをやろう」
「そうですね」

 3人はそういうと教授やエンヘドゥのいる場所へと駆け出した。

「ぬぅっ、数の上でこちらが不利か……」

 次々と自分の元へ近づいてくる契約者たちを見て、ウォルター教授が呻く。
 そして後ろを振り向き、魔術式を赤く染めているエンヘドゥの血の流れを苦い表情で見つめた。

「すべてが埋まるまではまだ時間がかかるか、なんとかして時間を稼がなくては……なにか無いのか!」

 教授は台座に置いたままの黒の書物をめくり、その中に目を通していく。
 そして何かを見つけ、口元に笑みを浮かべた。

「これだ! 墓守たちよ、目を覚ませッ!!」

 教授がそういって呪文を唱えると、聖堂内の壁に術式が走り、壁が音を立てて動き出した。
 そして壁の中に埋め込まれるようにして眠っていた大量のスケルトンが目を覚ます。
 魔力により復活した王の忠実な僕であったその亡骸たちは、死しても王への忠誠を失わず、像へと近づこうとしている者たちへと襲い掛かる。

「邪魔するな!」

 断罪の覇剣ツュッヒティゲンを構えた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、そんなスケルトンたちを次々と粉砕しいていく。
 友人であるエンヘドゥの窮地を目にしている彼は、一刻も早く彼女の元へ駆けつけるために全力で前に進む。

「フハハハッ! 甘いぞ、ウォルター・ヘンリーよ! この程度で悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデスを止められるものか!」

 と、天才科学者のメガネをキラリと光らせ、ドクター・ハデス(どくたー・はです)がそういった。
 そして側に控えた親衛隊員とアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に指示を出す。

「さあ行け、我が部下たちよ! 千年王の力とサウザンドソードは、世界征服のため我らオリュンポスの物とするのだ!」
「了解しました、ハデス様! 調査隊の方々を全滅させたウォルター教授は許せません! オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」

 ハデスの号令と共に襲い来るスケルトンと戦闘を始める秘密結社オリュンポスの面々。
 優れた指揮官としての能力を持つハデスはそんな彼女らに的確に指示を出し、敵を撃滅していく。

「よし、おまえたちはいまのうちに大砲の用意をするのだ!」

 ハデスのその言葉を聞いた部下の2人は、指揮官の大砲を用意する。
 そして発射の準備が整うと、ハデスは勢いよく手を振り上げた。

「目標、ウォルター・ヘンリー! てぇーッ!!」

 爆音が轟き、砲弾が発射される。
 弧を描いて飛ぶ砲弾は千年王の像の台座に着弾し、爆発した。

「ぬぅッ!?」

 近くで起こった爆発にウォルター教授は顔を腕で覆った。
 と、周囲に立ち込めた砂煙を切り裂いて、アルテミスが教授の目の前に現れた。
 そしてウォルター教授の喉元に手にした大剣・ウルフアヴァターラ・ソードの切っ先を突きつける。

「ウォルター教授。私も騎士として、無抵抗な方を斬りたくはありません。大人しく投降していただけますね?」

 とそこへ、スケルトンたちを振り払い、祭壇へと駆け上ってきたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)たちも現れた。

「教授、彼女のいうとおり大人しくするんだ」
「そうです。観念した方がいいですよ」

 エースのパートナーであるエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も、厳しい口調で教授ににじり寄る。

「んっ、そこにいるのは誰です!」

 と、神の目を持ったメシエ・ヒューヴェリアルが、千年王の像の上に立っている辿楼院刹那の姿に気がついた。
 刹那は像の上から勢いよくへと飛び降りると、アルティマ・トゥーレを使って武器から大量の氷柱を放つ。

「下がってください!」

 エオリアがガードラインで背後にいたメシエとリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)を守り、エースは飛びのいてその攻撃をかわした。
 だが、刹那の攻撃はまだ終わらない。
 着地と同時に地面を蹴り、手にした武器でアルテミスを斬りつける。

「きゃあっ!?」

 不意の攻撃にアルテミスは成すすべもなくやられ、後ろへと倒れた。
 刹那は敵をひとり倒したと見るや、素早く標的を変えて今度はエオリアに斬りかかる。
 相手の殺気に気づいていたエオリアは、なんとか手にした武器でその攻撃を受けたが、バランスを崩して後ろへと後退った。
 攻撃に失敗した刹那は再び地面を蹴って、教授の元へと舞い戻る。

「ここはわらわにまかせて逃げるのじゃ」
「うむっ、頼んだぞ」

 ウォルター教授はそういうと、その場から逃げ出した。

「待て!」
「――行かせぬぞ!」

 エースがその後を追いかけようとするがその行く手を刹那が阻む。
 と、そんな刹那に向かって偽典銃神槍壱式(アウター・ガングニール・アイン)が迫る。
 彼女はそれを飛び上がって避けると、そこには偽典銃神槍弐式(アウター・ガングニール・ツヴァイ)を構えた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の姿があった。

「お主は――」
「またあったな、お嬢ちゃん!」

 イルミンスールの怪物事件で刃を交えたふたりは、再び刃を交える。
 唯斗のアウター・ガング二ールと刹那の柳葉刀がぶつかり、空中で火花を散らす。

「戻って来い、アイン!」

 と、唯斗が左手を突き出した。
 すると地面に突き刺さっていたアウター・ガング二ールの穂先が輝き、主の手の中へと戻ってきた。

「せやぁッ!」

 両手持ちとなった唯斗はパワーで刹那を圧倒する。
 刹那は吹き飛ばされ、地上へ向けて落ちていった。

「今だ、追うぞ!」

 地面へと着地した唯斗はそういうと、ウォルター教授を追って駆け出した。
 それにエースたちも続く。

「くそっ、役に立たない奴め!」

 教授は顔を歪めて、そうつぶやく。
 だがそんな教授の前に、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が立ち塞がった。
 その姿を見て、教授は足を止める。

「ぬっ!?」
「逃がしゃしねぇぜ――空大の汚点はこっちでとりのぞかねぇとな!」

 ラルクは拳を打ち鳴らし、教授の腹部に強烈な一撃をお見舞いする。
 普通の人間である教授はその場にうずくまり、膝をついた。

「ァ……がはぁッ!!」
「苦しいか? でもよぉ、エンヘドゥはもっと苦しかっただろうな……!」

 ラルクは教授の顔を蹴り上げて、無理矢理仰向けにさせた。

「言っておくが俺は人格者でもねぇし、くだらねぇ正義なんざ持ち合わせてねぇんでな――てめぇを殺す」
「くっ、ははっ、私を殺したところでもう遅い! 千年王の復活は止められんぞ!」
「そんなもんどうでもいいんだよ。いいから黙って逝きやがれッ!」

 ラルクが拳を振り上げる。

「――殺してはダメだ!」

 と、振り上げたラルクの腕をザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が既のところで止めた。

「チッ、何しやがる!」
「あなたの気持ちはわかります。ですが、ここは堪えてください。教授には話してもらいたいことがたくさんありますからね」

 ザカコはそういうと教授に鋭い視線を向ける。

「ザカコ! 気をつけろ!」

 と、周囲を警戒していた強盗 ヘル(ごうとう・へる)が機晶ライフルを放ちながら叫ぶ。
 見れば、そこには宙に浮いたMの姿があった。

「……邪魔をするな」

 Mがそういって目を大きく見開いた。
 すると、教授の側にいた3人の体に衝撃が走り、彼らは後ろへと吹き飛んだ。

「M、助かったぞ」

 教授は口から流れる血を拭いながら、Mに向かってそういった。
 Mは無表情のまま教授の側に降り立つと、周囲を取り囲む契約者たちに視線を向ける。

「――まだ助かってはいないわ」