リアクション
* * * 異形の姿を視界に捉えるのは、難しいことではなかった。 「なんて大きさなの……」 確かに、出撃前にその姿をモニターでは見ている。しかし、機体のカメラ越しとはいえ、実際にその姿を知ったときの驚きは大きい。 これまでに戦ったイコンとは比べ物にならないほどの巨体だ。 『こちらアルファ1。ブラボー小隊へ。これより、作戦行動に移るわ』 【ネレイド】の中から、鈴蘭が通信を送る。 巨大イコンまではまだ距離がある。だが、その前には何十機ものイコンが立ちはだかっている。そいつらを突破しなければならない。 『アルファ4、援護を行います』 コームラント、【メテオライト】の大型ビームキャノンが火を噴いた。 発射に合わせ、イーグリットが急加速し、前進する。 海上には波が立ち、風が巻き起こっているようだった。 「ハエや蝶々はこちらで引き受けます。あれは、任せましたよ」 ビームキャノンのチャージを開始する。 マウントされた砲身がスライドし、即実弾式の機関銃へと切り換えを行う。そして弾幕援護だ。 道を作る。それが【メテオライト】の役目だ。 「さあ、行くぞ」 アルファ3、【ゲイ・ボルグ】は他のイーグリットより上方を飛ぶ。 武器はスナイパーライフル。敵の機体編成、およびここからの行動予測を行い、 「そこだ!」 シャープシューターとスナイプによる精密射撃で、関節部を撃ち抜く。 イーグリットによる長距離射程攻撃は、敵の想定外だったらしく、アルファ小隊が先手を打つことには成功した。 それぞれのパイロットは実感する。一ヶ月前から格段に成長したと。 以前なら、シュメッターリング一機倒すのにさえ、複数機の連携が不可欠だっただろう。連携する必要がなくなった、というわけではない。 正面からの「一機」打ちを挑めるようになったということだ。 (紫音、シュバルツ・フリーゲが接近してますぇ) 敵の実力者が動いた。 機関銃による掃射が来る。【ゲイ・ボルグ】が距離をとり、射程から離れる。 頼るのはセンサーだけではない。相手の駆動音から、どの程度まで迫っているか、そこから何をしてくるのか思考をめぐらせる。 (当ててやる!) 座標予測を行い、そこへ射撃を行う。 放たれた弾丸は、シュバルツ・フリーゲに命中した。無論、相手は小隊長だ。それ一発で仕留められるほど甘くはない。 他のシュメッターリングがカバーに入ってくる。 「対応が早いな」 だが、距離はある。狙いをシュメッターリングに変更。 イコン部隊の対処は必要だが、おそらく敵の本命はあの巨体。弾数を無駄にしないためにも、一発ずつ慎重に狙っていく。 イーグリットの方が機動力は上だ。常に敵の動きを読み、先手を取ることで確実に墜とす。 「さあ、仲間の道を拓こう」 アルファ5、【アイビス】は仲間のため、イコン部隊と相対している。 ビームライフルで牽制し、イコンの注意を向けた。 『俺達だって負けられない――来い!』 敵がこちらに気を取られれば、それだけ仲間が攻めるチャンスが増える。あえて通信を敵に向けた。 『それはお互い様よ。全力で、あなた達を倒す!』 その声に、智宏は聞き覚えがあった。眼前には一機のシュバルツ・フリーゲが迫っている。 あの小隊長の少女と、再び対峙する。 『それでいい。お前の相手は俺だ!』 迷いは捨てた。 ――この前の借りは返す。 二つの銃口が向かい合う。 (防御射撃と……) (……姿勢制御を) ((息を合わせて!!)) 精神感応で智宏と凛がすかさず連携、機関銃からの被弾を防ぐため、敵の射線に足を向ける形で【アイビス】を倒す。 その瞬間に、引鉄が引かれる。 相手もそれを読んでおり、それをかわそうとする。 そこへ、【アイビス】がワイヤーを射出した。狙いは機関銃だ。 『く……!』 シュバルツ・フリーゲの武器に、ワイヤーが巻きつく。その一瞬に、ワイヤーごと撃ち抜いた。 (これで、武器を失――) 否、これで終わりではなかった。 敵機は収納していた実体剣を引き抜き、構えを取る。 (二刀の構えか!!) 剣は一本ではなかった。 『一ヶ月、こちらもただ何もせずに過ごしていたわけじゃない。誰もが常に、前へ進もうとしている』 即座に二度目のワイヤーを放つが、斬られてしまう。 だが、敵はリーチが短い。射撃武器を持つこちらからすれば、まだ分がある。 (智宏さん、十時の方角から強力なエネルギー反応!) 【アイビス】はそれを見た。 巨大な機体から放たれた破壊の光を。 「――――ッ!!」 まだ海京までは届かない。だが、その余波による衝撃は、イーグリットを揺さぶるほどだった。 * * * マリーエンケーファーの主砲、大型プラズマキャノンから放たれた砲撃は、天御柱学院のイコン部隊を飲み込んだ。 その威力はすさまじく、光に飲み込まれたイコンは完全に消失した。 パイロットが脱出出来たのかは確認が取れない。 『パラミタを独占する者達に告ぐ』 エドワードは通信を送った。 『これは粛清だ。目先の利益だけに走り、パラミタ、地球の双方を害した貴様ら愚民どもへの』 モニターには天御柱学院のイコン部隊が映っている。 「アイザック、チャージにはあとどれくらいかかる?」 「100%にするには、あと二十分ほど。しかし、それだけあれば海上都市海京が射程圏内に入ります」 エドワードは微笑を浮かべ、再び天学勢へと告げる。 『先ほどのは「裁きの光」だ。このマリーエンケーファーの主砲が海京を射程圏内に捉えるまで、あと二十分。 このイコンは、機晶技術と現代科学の粋を集めた最強の機体だ。その程度の戦力では傷一つ付けられないだろう。せいぜい足掻くがいい』 すでに、シャンバラで運用されているイコンのデータは解析済みだ。 フル出力のコームラントの大型ビームキャノンすら弾くマルチエネルギーシールド、接近したイコンを拘束するためのワイヤーとバルカン砲。さらには天学のコームラントの四倍の威力を誇るビームキャノン。そして、複合誘導ミサイル。 『王』足るに相応しい、この機体に勝てるものなど存在しないはずだ。あの青いイコンも、総帥の機体も、おそらくは及ぶまい。 エドワードは自らの勝利を確信していた。 |
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