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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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第十六曲 〜Reason〜


(・出撃1)


 天沼矛内のイコンハンガー。
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は、五月田教官の姿を発見した。
『教官にベトナムでのお礼をしたら? 彼の言葉が、貴女が変わるきっかけになったんだし。24日は日本ではお祭りだからお誘いしなさいな』
 出撃要請が出る前、エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)からそのような言葉を貰っていた。
 ベトナムでの一件を通し、彼女の気持ちは前へと進んだ。自分に足りないものを自問し、一つの答えを導き出す。
 仲間、教官――自分を取り巻く人達が「すき」
 だから誰にも死んで欲しくない。
 だから――
「五月田教官。私は絶対に誰一人死なないように戦います」
 敬礼し、教官に宣言する。
「気負い過ぎるなよ」
 それは彼女への言葉というよりは、彼自身に向けられたもののような気がした。
 オリガは五月田へと近づき、
「無事に戻ってきたら24日にお食事に行きませんか?」
 と誘おうとする。12月に入ったばかりの今からすれば先のことではあるが、約束は早めにしておくにこしたことはない。
 日本ではクリスマスイブ。とはいえ、オリガ自身はそれを特別意識していたわけではない。
「そうだな。ここ一ヶ月、休まる暇もなかったことだし。いいぞ」
「約束、ですよ」
 指きりげんまん。
 そうして彼女はブラボー小隊と合流し、イコンへと搭乗した。
「……約束、か」
 誰にも聞こえない声で、五月田が呟いた。

「五月田教官」
「今度は桐生か。お前も早く出撃準備をしろ」
 景勝は、五月田の顔を見た。
 たった今、生徒と約束を交わしていた。だが、その顔にはまだ、「生徒を護るためなら自分の身を投げ出すことも必要」だという覚悟が残っていた。
 例え、残される生徒達が悲しむとしても、彼ら、あるいは彼女らが死ぬよりはマシだと。
 だから、景勝は五月田に言う。
「知ってるかー? 俺達が帰らなかった日、あの女教官泣いてたってさ」
「……そうか。変わってないな、あいつは」
 昔を懐かしむように、現教官長は遠くを見つめた。
「あの教官を、また泣かすのはいい男のやることじゃねぇと思うぜぇ? 生きてまた戻ろうぜぇ、単位取得も重要だしよぉ」
 その言葉に、五月田が破顔した。
「当然だ。お前のような問題児達の面倒、他の教官連中に押し付けるのは酷だからな」
 死ぬつもりはない、と口ではそう言って見せた。
「教官、俺は馬鹿だからよぉ、死にに行くなら何度でも助けようとするぜー」
「だったら、そうしなくて済むような戦い方をしないといけないな。お前も、ちゃんと単位取って卒業する前に死んだら承知しないぞ」
 そこへ、他のパイロット達がやってきた。
 五月田教官率いる第一部隊は、教官と生徒が混在したチームだ。本来ならば教官だけの3機編成だが、無理を言ってきた景勝のような生徒がいたために、そうなったのである。
 今回は最前線で迎撃を行う第三部隊、生徒達が主体の中間点であり、第二部隊。そして海京の最終防衛ラインを守備する第一部隊となっている。
「五月田教官、足手まといにならないように頑張りますね」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が言葉を発した。
「まあ、桐生が無理しないよう、パートナーとして気を配ってやってくれ」
 五月田教官はそう残し、機体――コームラントへ乗るために、二人に背を向けた。そして、件の女教官と言葉を交わす。
「死ぬなよ、五月田」
「お前こそ」
 そのまますれ違うようにして、女教官はイーグリットに搭乗した。

「景勝さん、こういうのっていわゆる……」
「あー、それ以上言うなニーバー」
 教官達のイコンを見ながら、景勝は呟いた。
「もうこれ以上、誰かを死なせるかよ」

* * *


 出撃要請は、停学処分の生徒にも伝わった。
 一時的な停学解除に伴い、彼らもまたイコンデッキへと向かう。
「要、行くわよ」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が要を呼ぶ。
 一ヶ月間、ずっと考えていた。何のために戦うのかを。
 要は、一歩踏み出した。魔鎧化した機式魔装 雪月花(きしきまそう・せつげっか)を装着し、じっと前を見つめる。
 天沼矛。この海京の象徴を。
「簡単なことだったんだよ。僕が求めるもの、それは味方を、友達を、大切な人を、皆で笑って飯を食うために、死なせないだけの力!! それが俺の願い、欲望――【デザイア】だ!」
 だから戦う。
「行こう」
 その背に迷いはなく、故に覚悟を感じさせた。
 悠美香が彼の横に立ち、要の横顔に視線を送る。
「ならば私は、その願いのために――」
 要の剣となり、共に歩んでいく。
 二人が出した答え、理由。
 それらを胸に抱き、戦場へと赴く。
 
(強くなれ、要。そして、私では成し得なかった「誰かを死なせないだけの力」を得て見せよ)
 要に装着されている雪月花は、二人を見守る。
 迷いを捨て、「理由」を見つけた姿を。

* * *


 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)による最終調整を経た機体に搭乗しようとする。
「とりあえず調整は終了じゃ……じゃが、無理はするなよ」
 ある程度は、一ヶ月間のシミュレーター訓練のデータを元に調整がなされていたため、それほど手間はかからなかったらしい。
 とはいえいくら出撃命令が出たからとはいえ、いきなり実機での、しかも本番の戦闘だ。
「無理を言ってすまない」
「まだ説教は終わっておらんからな。必ず帰ってくるんじゃぞ」
 アレーティアからすれば無茶だ、という思いがあるのだろう。
 それでも二人は護るべきもののために、じっとしていることなど出来ないのだ。
「ああ、必ず――帰る」