空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回) 聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

リアクション


(・白金、あるいは白銀)


「美羽さん……」
 ベアトリーチェからの視線を感じる。
 ナイチンゲールに問われ、美羽は考えた。イコンの力は鏖殺寺院や龍騎士団を擁するエリュシオンと戦うために必要だ。
 シャンバラのために、ナイチンゲールにも力を貸して欲しい。
 ――シャンバラのため?
 自分が守りたいのは、シャンバラという国なのか?
 ロイヤルガードの小鳥遊美羽としてならば、そうかもしれない。しかし、一人の小鳥遊美羽という少女にとっては?
「私は、シャンバラのみんなを守りたい! 誰かを傷つけるためなんかじゃない。だからお願い、力を貸して!」
「お願いします。今の私達には、ナイチンゲールさんの助けが必要なんです」
 二人で、ナイチンゲールに答える。
『貴女方の意思は確認致しました。プログラムに従いアクセス権を付与致します。レベル5まで開示致しますので、お申し付け下さい』
 さすがに最高レベルとはいかないが、これでプラントをさらに知ることが出来る。
「ありがと! でも、アクセス権って最高レベルはいくつ?」
『レベル8ですが、マスター以外ではレベル7が最高となります』
 レベル7、それは『匣』、おそらくはイコンの真の力についてが秘められた部分だ。
 そこには届かないが、女性型イコン【ナイチンゲール】に関することはレベル5の権限で知ることが出来る。
 三人は、機体への方へと歩を進めた。
 そこには、彩羽と彩華も居合わせる。
 白金の【ナイチンゲール】を見上げ、侍女服姿のナイチンゲールは口を開いた。
『私の中にある記録によれば、代理の聖像が造られたのはシャンバラ王国が成立するよりも前のことです』
 イコンは五千年前の技術ではない。彼女はそう告げた。
『聖像が造られた目的は、このパラミタから消えた種族を再現するためです。しかし、マスターはこうも仰っておりました。「これは二つの世界を繋ぐ希望であり、絆だ」と。
 契約(コントラクト)によって結ばれた、異なる世界の人間にとっての共生の証であると』
 ナイチンゲールが自らの名を冠する機体に触れる。
『そうして造られた原初の聖像が、白銀の【ジズ】と白金の【ナイチンゲール】です。それらを元に、新たにいくつもの聖像が生み出されていきました。しかし、大き過ぎる力は人を歪めてしまいます。
 マスターは、聖像を争いの道具に使われることを望みませんでした。そのため、ここで造られたものには本来の力を封印するための、【ジズ】と【ナイチンゲール】には聖像自らが使い手を選ぶためのプログラムを組み込みました。そして私のメモリーにプロテクトもかけました。それはマスターの命令以外では開くことは出来ません』
 【ナイチンゲール】が起動する前提として、イコンが真の力を発揮していなければならないらしい。
 彼女は説明を続ける。
『マスターの仰った言葉や当時のこの地の様子は、一部ではありますが私が開くことの出来るメモリーに残されています。しかし、当時の私がどのようにマスター達と接していたのか、なぜマスターは去っていったのか、それらについては一切の記録を引き出すことがかないません』
 記録はあるが、記憶はないということだろう。
 時折見え隠れする、ナイチンゲールの感情のようなものの秘密はそのプロテクトのかかった領域にあるのかもしれない。
『五千年前シャンバラで争いが起こったとき、マスターがここを訪れ、制限つきでプログラムを解除しました。【ジズ】がここにいないのは、マスターが搭乗したまま帰って来なかったためです。その後、国家神の力が失われたことにより、私はエネルギー消費を抑えるために休止状態に移行せざるを得ませんでした』
「ちょっと待って? マスターって古王国以前の人だよね?」
 美羽が声を上げた。
『はい。それでもマスターはここに帰って来ました。もう一人のマスターはずっと姿を見せませんが……。しかし、マスターは私にこう残しております。「必ず戻ってくるから」と』
 その約束を秘め、何千年も彼女は一人でここを守ってきたのだ。
『そのため、私は待ち続けているのです。またお二人がここを訪れ、新たな命令をお与え下さるまで』
 それが彼女の役目だと言わんばかりに。
 マスターが帰ってくる以外に、彼女が待つのを止めるときは――完全に機能停止するときだろう。

* * *


 別の日。
「お疲れ様です」
 PASDから常駐要員として派遣されているリヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)が、樹月 刀真(きづき・とうま)達を出迎えた。
「久しぶりですリヴァルト。今、制御室は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
 リヴァルトに続いて、制御室へと向かう。
「その様子だと、どうやらナイチンゲールさんに会いに来たようですね」
 道中、リヴァルトが話し掛けてきた。
「きっと、彼女と話すことで感じるものがあるでしょう。特に、ジェネシス・ワーズワースの一連の出来事に関わった君達ならば」
 表舞台では語られることのない、PASD発足のきっかけともなった事件が刀真の脳裏を過ぎる。
 リヴァルトの言葉の意味が分かるのは、ナイチンゲールと話した後のことだ。