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【ぷりかる】夜消えた世界

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【ぷりかる】夜消えた世界

リアクション

「ほぉー、アイマスクねえ」
「これを使えば、この状況でも暗さを確保できますわ」
「ハハハ! まあなあ、うちの母ちゃんなんか、暗いほうが眠れるとか言って布団頭まで被ってやがるしなあ!」

 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の渡したアイマスクをつけてみながら、村人の男がそう言って笑う。
 イルミンスールのバックアップの元に調達した品々を、ユーリカ達は村人に配布していた。
 夜が無くなる事による身体への影響を考えた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)の提案によるものだが、中々好評なようだった。
 実際に近遠達が村に来てみると、時刻は夕方だというのに昼間のように明るく。
 しかし、気温は夕方相応という不思議な状況だった。
 この不自然な状況下でも、村の人達は逞しく生きているようだ。

「でもよぉ、どうしてこんなもんをくれるんだい?」
「朝や夕方が無くなれば仕事の開始や終了をはかるタイミングが取り難くなりますし、人だけでなく色々が、成長や休息や、色々の契機が取り難いでしょうから」
「ほぉー」
「……自然と、休息が少なく疲労する人が増えたり、成長に影響が出る子供もいるでしょうから」
「あら、そうよねえ。うちのガキ共ったら、外明るいからー、なんて言って帰ってきやしないもの!」
「なぁに言ってやがんだ。おめぇんとこのチビ共は暗くたって帰ってこねぇだろがよ!」

 女性の台詞を混ぜっ返して笑う村人達。
 近遠が思っていたよりも適応しているようだが、長い目で見ればどうかは分からない。
 身につけたリズムというのは、そう簡単なものではないからだ。
 一日の感覚は、明るさによって判別されているところもある。
 暗いダンジョンや明るい部屋にこもりきりで過ごすとそのあたりの感覚が狂ってしまうこともあるが、それと同じような状況にならないとはいえない。
 その感覚のズレを取り戻すには、やはり相応の時間がかかってしまう。
 そういった意味でも、やはり夜は暗いほうが正しい。
 こうして物品を配るのも良いが、魔法による昼であるならば……と近遠は考える。

「誰か、魔法でも何でも良いから、闇を作れる人はいませんかね〜?」
 
 近遠の言葉に、仲間達は少し考えて各々の答えを返す。

「闇を作る魔法は……知らないですわ。部屋を借りて暗幕などをすれば良いと思いますわよ?」

 ユーリカはそう言って、暗幕を取り出す。
 これもイルミンスールから用意してもらったものだから、品質は普通以上だ。
 普通のカーテンよりも遮光性が高いから、暗闇を作るには充分であるはずだ。
 暗い夜の代わりを演出するには、色合い的にも最適と言えるだろう。

「闇を作る魔法などあるのか? そもそも、魔法など苦手だからな。よく知らんのだよ」

 子供にポニーテールを引っ張られていたイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は、そう答える。
 自分を保護者的な役割であると自負していたイグナだが、どうやら自分が守るまでも無く、この村での戦闘は終結したようだ。
 ならば、村人を安心させてあげるのが自分の役目だと考えていたのだが……。

「馬の尻尾だぜ、馬の尻尾!」
「バカねぇ、これはお洒落な髪型なのよ!」
「うっそでえ、馬の尻尾じゃん!」

 村の男の子と女の子が、イグナを挟んで論争を始めている。
 ポニーテールだから馬の尻尾と呼んでも間違いではないのだが、どうも男の子と女の子でそのあたりの差があるようだ。
 それよりも、論争が過熱してイグナのポニーテールを引っ張り始めているほうが気になる。

「あまり人の髪を引っ張るものでは……」
「こらぁ! 大切なお客様になんてことすんだい!」

 なんとか諌めようとしたイグナの声を上回るおばちゃんのダミ声に、悪ガキ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 こんな異常な状況下でも、子供は元気だ。
 それを確認して、イグナは人知れず笑みを浮かべる。

「アルティアも、闇を作る魔法などは知らないのでございます」

 あまりのダミ声に思わず中断してしまったが、子守唄を歌っていたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の近くには、おとなしそうな子供達が集まっている。

「しかしなぁ……なんで急に夜が明るくなったんだろうなあ」
「それは……」

 村人の言葉にアルティアは言いよどむ。
 村人の誰かが、それを願ったから。
 その事実を伝えるのは簡単だ。
 だが、その後にどうなるかが分からない。
 言いよどむアルティアに、イグナと近遠も首を横に振る。
 下手な事を言うべきではない。その瞳は、そう言っていた。
 だから、アルティアはこう答えるのだ。

「さあ……アルティアには分からないのでございます」
 
 そう答えるしかない。
 太陽の塔が壊れて夜が戻れば、そんな事への興味など消えてなくなるだろうから。