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リアクション
「シェヘラちゃんは、この塔の構造についてはどのくらい知ってるの?」
「知らないわ。だって外からしか調査してないもの。加夜は詳しいのかしら?」
シェヘラザードの言葉に、山葉 加夜(やまは・かや)は困ったように笑う。
こういった建造物などを攻略する上では、当然事前情報は重要となる。
むしろ、そういった準備が九割を占めるといってもいい。
確実な下調べが前提であり、余程のスリル好きでもない限りは石橋を叩くかの如く念入りに行っている。
当然シェヘラザードはそういうものを行っていると考えた上での質問だったのだが……どうやら、そうでもないようだ。
困った加夜は、アーシアの方へと視線を向ける。
用意した遮光器で、完全とまでは言えないものの顔の判別くらいは可能だ。
「この塔自体が魔力で構成されたシロモノだからね。外部からの内部調査は不可能だし、オルヒトが関わってるって分かった時点で内部への単独調査は無謀。つまりは、そういうことかな」
ほとんど分かっていない、ということだろう。
つまり、増幅装置の場所も想像で探すしかないのだろうが……。
「大丈夫よ、加夜。あたし達が正義である以上、悪の陰謀は砕かれるべく目の前に現れるのよ」
「その正義大好きっ子、しっかり捕まえといてね。怪我でもされたらかなわないから」
「えーと……了解です」
苦笑しながら、加夜はシェヘラザードの手を握る。
どうやらシェヘラザードが此処に来た理由は、悪の陰謀を感じたから……というフワフワした理由のようだが、あながち外れてもいなかった所が彼女の凄いところなのだろう。
そんなシェヘラザードはプリンセスカルテットと呼ばれる四人の一人であるらしいが……残りの三人もきっと、シェヘラザードに負けず劣らずな性格をしているのだろう。
そう考えると、少し会ってみたいかな……などと加夜は思うのだった。
「けれど、そうなると。どうやって装置を探したら……」
「大丈夫。ヒントはすでに充分なくらいに出ているわ」
自信満々の声で宣言するのは、霧島 春美(きりしま・はるみ)だ。
マジカルホームズを自称する春美は、どうやら何かしらの推理をたてているようだ。
「まず、この塔の広さ。そして眩しすぎるくらいの光。これは遠くを見渡されては困るから、と考える事が出来るの」
「そういえば、ここまで壁がなかったわね」
「いい着眼点よ、ワトス……シェヘラザードさん」
「ワトス?」
「気にしないで」
コホン、と咳払いをすると春美は愛用の天眼鏡をくるりと回す。
この塔の光の乱舞の中では中々使えないが、大事な愛用品だ。
「まず、この塔が魔力で出来ているという前提。そして、乱反射により増幅しているという事実。防衛用のゴーレムとかは、余計な情報に過ぎないわ」
「どういうことよ。あたしにも分かるように説明しなさいよ」
「つまり、この塔に関する要素が派手すぎるのよ。だから、最も肝心で基本的なことが、どうでもいいことの陰にかくれてしまったってこと」
「全然わかんないわよ。あんまりジラすつもりなら、呪うわよ」
満足げに頷くと、春美は一点を指差す。
「つまり、この塔の増幅装置は塔の真ん中にあるのよ。魔力で建造物を構成しているだけならともかく、増幅しているならば当然互いの距離は均等であるはず。ならば、真ん中にあって然るべきなの」
「確かにそうね。中々やるじゃない、探偵みたいよ」
「たいしたことじゃないわ。自分の見るものによく注意するよう修練を積んでいるというだけの話よ」
シェヘラザードの賞賛に、胸を張る春美。
「じゃあ、春美の意見を採用ってことで。ところで、真ん中ってどっちかしら」
「入り口からまっすぐ進んでるはずだから、そろそろ近づくんじゃないかな」
アーシアの言葉と共に、加夜の足元に光弾が突き刺さる。
「本当に近づいてたみたいですね……!」
加夜はシェヘラザードを守るように、離れないように布陣する。
今の光弾の発射された方向から、大体の装置の位置も分かるはずだ。
そう考えた時……光の中を、黒い影が疾走していく。
その黒い影の正体は、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。
ここまで完全に気配を消して潜んでいたようだが……この強烈な光の中で潜んでいる辺り、唯斗の腕がかなりのものであることが分かる。
唯斗はそのままシェヘラザードの横を通り抜けて疾走すると、大人三人分ほどの大きさの制御装置に肉薄する。
壊せる。
そう判断するのと、行動は同時。
唯斗が一撃の元に装置を破壊すると乱反射を繰り返していた光の勢いが弱まり、互いの顔の判別が可能な程度の明るさに下がる。
そのまま再び忍ぼうと考えた時、シェヘラザードが音も無く唯斗に近づいてくる。
「中々やるわね、お前。名前は?」
「……葦原明倫館の紫月唯斗だ」
特に隠す理由もないのでそう答えると、シェヘラザードは興味津々、といった顔で唯斗の忍び装束をペタペタと触っている。
「友人に騎士はいるけど、ニンジャに出会ったのは初めてよ。ここまで気配を消してたのは修行の賜物かしら。それとも才能?」
「シェヘラちゃん?」
加夜がシェヘラザードに声をかけるが、シェヘラザードはふむふむと頷きながら唯斗の周りをくるくる回っている。
その周りをテラーが更にくるくる回っていたりするが、それはさておき。
「えい」
突如、唯斗の股間を何の脈絡もなく蹴り抜くシェヘラザード。
予想だにしない痛みに、唯斗は何とも表現できぬ地獄の悶絶に襲われる。
何とか意地で表情もポーズも変えないものの、一歩も動けはしない。
飛びそうな意識を、必死で抑え込む。
「あれ、おかしいわね。ニンジャって致命的な一撃を受けても、いつの間にか丸太になってダメージを逃がすと聞いたのだけれど」
「聞いたからって無邪気に股間蹴り抜くアホがいるとは思わなかったなぁ……ほらほら、文句言う元気が復活する前に謝っときなさい」
「シェヘラちゃん、今のはちょっと……」
「え、あたしが悪いの? でもニンジャなのに……あー……うー……ごめんね、唯斗。丸太が品切れとは思わなかったのよ」
「丸太はいいから」
申し訳なさそうに謝るシェヘラザードと、溜息をつく加夜達。
アーシアはアーシアで厄介なものしょいこんだなあ、という顔をしているし、春美も困った笑い顔を浮かべている。
「いや……いいんだ。まさか殺気も無しに蹴りがくる……とは……」
いまだ動けない唯斗だが、あと少し休めば元気も出てくるだろう。
いつまでもこうしていても可哀相なものもあるので、アーシアはパン、と手を叩く。
「はい、仕切り直し! 次の階も期待してるわよ、春美!」
「え、ええ。探偵としてみなさんのお役にたてれば嬉しいです」
「いいから離しなさいよ! 呪うわよ!」
春美とアーシア、そして加夜の女性三人がかりでシェヘラザードを階段目指して引きずっていく。
謎と波乱に満ちた太陽の塔一階の探索は、こうしてシェヘラザードの爆弾発言と共に終了する。
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